Hisshou Dungeon Unei Houhou
223 Digging: Internal Reporting and Conferencing
身内報告と会議
side:ユキ
「今日は忙しいところ、集まってもらって申し訳ない。新大陸のジルバ帝国とエナーリア聖国の争いに、ひとまず停戦が入りそうなんで、一旦俺たちで会議しようと思う」
俺はいつもの宴会場で、役に立っていないようで役に立っている、亜人族の村のダンジョンを守っているモーブや、ジルバ帝国で結局魔術指南もすることになったザーギスなど、いい加減忘れそうなメンバーも集めて会議をすることにした。
「とりあえず、お互い現状報告をしよう。新大陸での次の行動をしっかり考える為にも」
俺がそう言うと全員が頷く。
「よし、なら、まずはウィードの方だな。自分たちの家が無事か確認しておこう」
俺がそう言うと、居残り組が資料を回してくる。
前もって報告会はするって言ってたし、こういう準備をしてるところはすっかりウィード風っていうか地球風になっちゃったね。
見やすくて、分かりやすいから問題ないんだけど。
「座ったままで申し訳ないですが、私から、始めたいと思います」
エリスは大きなおなかを撫でながらそう言う。
仕方ないよね妊婦さんだし、俺の嫁さんだし、負担を掛ける理由はまったくない。
「ウィードの方は、人口は増えて現在3万人に届こうとしています。そろそろ用意していた居住区が一杯になるので、それに伴い、居住階層の余っているスペースを予定通り、今あるマンションを参考に、土木建築の職種の方たちを集めて自力で建設にあたっています。税収に関してはその分上がっていますが、住人も増えれば戸籍も増えますし、手続きで庁舎に来る人の数も多くなって、庁舎は人手が足らなくなってきてます。ま、これは庁舎の代表たちで雇用枠の拡大ということで対処していこうと思っています。あとは……」
エリスの報告を聞き、資料を見る限り、特にウィードの状態は問題なく、人の流れも活発になって、これからどんどん賑やかになっていくんだろうなーって感じだな。
治安が多少悪くなっている感じもあるが、それは冒険者ギルドがある階層で他は概ね良好。
多少悪いと報告があっても、よその国から比べれば格段に治安はいい。
ケンカが多いとかそのぐらいだ。
武器を抜くことや振るう事は、ウィードの街中ではできないように措置してあるし、冒険者ギルドは子供も出入りするからな。
アスリンとフィーリアの話だと、ヴィリアやヒイロも最近は積極的に子供用ダンジョンに出入りして、お金を溜めているようだ。
「さて、じゃ私とシェーラとセラリアから外交関連ですかね」
「はい。といっても、ラッツさんに任せきりなのですが……」
「仕方ないですよ、シェーラはお兄さんと一緒に新大陸探索ですからね。無論、シェーラやセラリアがいるから外国のお偉いさんとの交渉も楽なんですが」
「でも、ラッツに交易品関連は任せきりだからありがたいわよ。私なんて、お偉いさんとの話ばかりだから」
「セラリアも凄いですよ。私はもっぱら書類仕事ですけど、お兄さんの子供をお腹に入れたまま、信頼のおけない人と話す気にはなれませんよ」
「私もそれは心配だったけど、私が妊娠しているって周知させるのにも使えるし、護衛も完璧にしてたから」
そう言って、3人は笑い合う。
厳密には外交はルルアとか色々他の人もからんでいるのだが、メインはこの3人だ。
妊娠していて、ミリーの助けがあっても、色々面倒なことはあっただろうな。
「と、積もる話はここまでにして、外交関連は安定してますね。ダンジョンのゲート設置要望も殆ど設置が終わりました。お兄さんの予定通り、お互いにらみを利かせて、戦争を吹っかけるようなことはないですね。物価も最近では一定の範囲で収まるようになってきています。問題があるとすれば、経済的に余裕のない国は傾きかけているってところですかね」
「無論、傾きかけているからといいましても、他国から武力で落とされるようなことはないので民草にはそういった関連で負担はないです。が、資金援助を他国からしてもらっている状況が続けば、その国に吸収合併と言った形になりそうな国が多少あります」
「聞こえは悪い話かもしれないけど、全体的に見れば戦争なく、人が無為に死なないようになっているのだからましね。普通なら既に戦争始めている所が殆どよ。今回のゲート開通で、同盟国が作った魔物討伐隊を上手く使って、どの国も居住区や作物を育てる場所を広げていっているわ。
戦争も起こしようがないから、余っている兵士をその広げている場所へ派遣したりしてね。全体的には人が住める場所が増えて、収穫量も上がっている。どの国も戦争している時よりは安定しているはずよ」
こっちも予定通りって感じだな。
そりゃ、多少頭が回れば戦争を吹っかければ滅びるしな。
大人しくなるしかない。
経済的に傾きかけている国に関しては、俺たちが口を出す理由もないしな。
ウィードに経済支援を要請してきても、それを決めるのは代表たちだしな、俺は基本ノータッチ。
「でも、安定してきたとはいえ、今まで戦争をしてきた将軍たちとかは、現在の状態を良く思っていないって話ね」
「そりゃ、活躍の場がなくなったしな。で、そいつらが旗上げでもしようとしているか?」
「いいえ、流石に既にウィードと3大国を中心に大小合わせて18の国が同盟に参加している。表だってケンカを吹っかけるようなことはしないでしょうね」
「ああ、裏で色々する可能性があるか……」
「そういうこと。で、その裏で色々するにはウィードが色々な意味で便利なのよね」
「ゲートで他国に飛びほうだい、交易の中心、なにをやるにもウィードが便利だよな」
「だからといって、これ以上警戒を引き上げても意味はないし、耳に入れておくぐらいにして」
俺とセラリアがそういうと全員頷く。
どこでもある不穏分子ってやつだよな。
だけど、この大規模な同盟を崩すのは簡単じゃないし、ウィードを使っての交易もその戦争派の将軍たちも恩恵にあずかっている。
セラリアの言う通り、聞き耳を立てて個人で警戒するぐらいだろうな。
「じゃ、次は私からいきますねー。鍛冶の方はユキさんからの莫大な知識を得て、火薬の開発、火薬代わりに魔力を代用した銃の開発に成功しています。でも、これが表にでるのは、まだまだ先の話ね。安定しているのに、わざわざ馬鹿に武器を持たせて平和を乱す理由にはならないもの。予定通り、当分この火器は表に出さず、普通に武具を作っていく方針になっているわ。無論、ユキさんたちには無償で渡します。というか、私個人での開発だから、情報が漏れる心配はないわ」
うん、相変わらずナールジアさんはスゲーよ。
鍛冶とかそういった方向での技術力は群を抜いている。
そして、その危険性もしっかり理解している。
と、これで、小銃系はDPから高い額を支払って仕入れる理由がなくなったわけだ。
材料費関連をあとで詳しく聞いておく必要があるな。
「ウィード最後は私ね。冒険者ギルドの方は、軒並み落ち着いています。グランドマスターもいますし、ウィードにあるダンジョンも普通に機能しています。といっても、最初の報告にあったように、冒険者の出入りが激しいので、他所から来た冒険者が多少問題を起こすことがあります。酷いのは、子供相手にお金を巻き上げている馬鹿がいまして、そいつらは出入り禁止になりました。あ、無論その被害にあった子供はちゃんと保護してその後のケアもしています。というか、そのことを教えてくれたのがヴィリアちゃんとヒイロちゃんで、その悪質な冒険者を叩きのめしてたんですよ」
「へーって、そんなに強いのか!?」
「そりゃ、ヴィリアちゃん、ヒイロちゃんって学校では一番というか、普通のダンジョンに出入りもしていますよ? 無論、一番安全なところですけど」
「は!? ちょ、ちょっと、2人のところに行ってくる」
おっそろしい報告をきいて、ヴィリアとヒイロのところに行こうとしたのだが、セラリアから押さえつけられる。
「はいはい、落ち着きなさい。あの子たちが自分で望んでやってるのよ。口を出さないように」
「で、でも、普通のダンジョンだと、命の危険がな……」
「大丈夫よ。私もOK出した1人なんだから、ヴィリアなんて剣の腕前凄いわよ。と、万が一死んでも自己責任よ。それがダンジョンに出入りしている人の覚悟よ。ヴィリアもヒイロも理解しているわ」
「……覚悟って、そんな危ない事しなくても、安全に稼げることがあるだろうに、俺はあの子供用ダンジョンは魔物の危険を忘れないように……」
「あなたの言っていることはわかるわ。でも、そこまで過保護にしなくてもいいの。あの子たちだって自分で考えて動いている。人の生きる道を邪魔するのはあなたらしくないわよ」
んー、そうだが、子供だしってのも、俺の勝手な意見だもんな。
「あなたの気持ちも分からなくはないけどね。自分の子供ができた今、子供が危険なことをするのは反対って気持ちはある。でもね、それをしてもあの子たちは真剣だったのよ」
「……わかったよ」
とりあえず、セラリアとかミリーがOKしているし、大丈夫なんだろう。
今度学校行ったときそれとなく聞いてみるか。
「すまん、少し取り乱した。で、ウィードの報告は終わりだ。次は新大陸メンバー、モーブから頼むわ」
「あいよ」
モーブたち、亜人の村の報告が始まる。
ベータンに拠点を移したから、モーブたちに任せっきりなんだよな。
特に緊急の報告は受けてないから、大した問題はないんだろうが、新大陸では人族と亜人族の対立が酷い。
あえて、モーブに任せているが、その関連の報告もあるだろうな。
「そうだなー、資料には書いてあるが、亜人はジルバ帝国を退けたことを利用して、各地の亜人を集めている。詳しいことはわからんが、集まってくる数は未だ増えているところを見ると、森が亜人の道って感じだな」
「やっぱり、亜人は森の中に住んでいるって感じか?」
「だな、俺たちがいる亜人の村はジルバとエナーリアに挟まれている。地理的に荒野を渡ってくるってのはないだろう。人に襲われやすいし、行動を悟られる。だから、ジルバ、エナーリアの北部に広がる山岳森林地帯から集まっているんだろうな。で、人数的には5千近く集まってるな。これが多いかどうか知らないが、とりあえず、村、つーかもう人数的に町だが、住める場所を必死に広げているところだな。戦準備をしているようだが、今回の停戦で亜人から仕掛けない限り、安全だろうよ」
「そうか。モーブたちへの行動はどうだ?」
「んー、やっぱり視線はキツイな。特に、ジルバ戦を見ていない後から来たやつはケンカを吹っかけてくることも多い。でも、こっちが軽くぶっ飛ばして、村長や村人たちにこってり絞られてるからな。今のところは安定してるな。まあ、ウィードから物資供給もしているから、そう言った意味でも強くでれないな」
「爆弾ってのも相変わらずだな。そっちもなんとか交渉しておかないといけないな。ジルバには軽く話は通したが、エナーリアにも話さないといけないし、亜人5千はちょっとした軍隊より脅威だし、黙っておくのは問題か」
今のところは問題ないが、先送りしていいことでもないな。ジルバとエナーリアの停戦に合わせてこっちも話を進めないと足を引っ張られる可能性が高い。
「さて、次は私ですね。ジルバ帝国の王都、書庫の調べ物ですが、およそ半分は済んでいます。あと3か月ぐらいで全部終わりますね。今のところは、魔力枯渇や、聖剣、魔剣の類の足掛かりになるような情報はないですね」
「そうか、やっぱり簡単じゃないか」
「ですね。と、報告はいっているかもしれませんが、なぜか私が魔術指南をすることになったのですが、それで多少気になることが」
「どんな事だ?」
「そうですね。新大陸ではおよそ20倍の魔力がいると言うのは知っていると思います。ですが、その状況にも関わらず魔術を発動できる人物が私の指南で増えているということですね。そもそも、新大陸でのレベル帯では20倍も魔力があるわけないのですが……」
「んー、つまり、現地で住んでいて魔術を使える人は魔力消費が抑えられているってことか?」
「恐らくは……、環境に適応したと言うべきか、私が軽く教えて魔術使えるぐらいなら、既に魔術が使えていると思うのですよ」
「なるほどな……。ジェシカはどうだ?」
このメンバーの中で唯一の新大陸出身のジェシカに聞いてみる。
無論この場に置いてもリーアと一緒に俺の両脇を固めているのだが。
……普通に座れよ。
「いえ、私は剣ばかりでしたので、魔術はぜんぜん、もともと魔術の才能がなかったので」
「あー、そうか話を聞く以前の問題か。なら、今度から覚えてみてくれ、無論体に異変があるなら即座にやめるけどな」
「しかし、なにをどうすれば覚えられるのか……、リリーシュ様からいただいた回復魔術じゃダメなのですか?」
「それもあったな」
「いえ、それはダメでしょう。神の加護で覚えた魔術を同じにするのは、データとしては使えないと思いますよ」
「ザーギスの言う通りだな。じゃ、俺が教えるってことで。フォローもできるし、いつも一緒だしな」
俺がジェシカにそう言うが、……反応がない。
あれ?
「……ユキと一緒に2人で訓練。きっと手とり足とり」
「はーい、ジェシカ。会議中だからね」
「はっ、リーア!? ち、違いますよ!! きっとキツイのだろうなーと」
「はいはい、私も付き合うから大丈夫ですよ」
そう言って、2人の間に火花が散るように見える。
「さて、じゃ俺で最後な。ベータンとエナーリア軍の戦闘報告だ。ベータンはウィードの技術を自力で再現できる範囲で提供している。DPでしか出せないものなんて、使えないからな。それでも、かなりにぎわっているな。おかげで敵だった俺たちも軒並み受け入れられている。さらにエナーリア軍の撃退成功?で盛り上がっているな」
「久々に暴れたからすっきりしたわ」
「ええ、旦那様のお役に立ててうれしい限りです」
セラリアとルルアが笑顔でそう言うが、ストレス解消で吹き飛ばされた敵は災難だったな。
「戦闘報告だが、これと言ってだな、援軍の8万が分散したところをセラリアとルルアが言ったように、嫁さんたちが暴れて壊滅。本隊はスティーブが援軍大将を倒して士気がダダ下がり、ミノちゃんの崩落部隊が敵救出軍と交渉して、ダンジョンの魔剣使い1人を捕虜にしたってところだな」
「……さらっと言ってますが、馬鹿みたいな戦果ですからね」
ザーギスが一応ツッコミを入れる。
が、俺の報告は終わっていないので返事は後回しまわしだ。
「と、ダンジョンにいた12万のエナーリア軍だが、ここ一か月観察したが、それほどジルバと大差はない。突出しているのは魔剣使いだが、これも普通にスティーブでどうにかなるな」
「いや、なんでおいらが基準っすか!? おいらが抑えろとか言うんじゃないっすよね!?」
「なに言ってるんだよ。建前上、ミノちゃん軍は俺たちとは無関係だ。交渉役として大将のミノちゃんが行くわけにいかんだろう? だから、お前がエナーリアに交渉代表として行くんだよ。都合がいい事に、捕虜の魔剣使いの世話はお前だろう」
「ひぃぃぃぃ、おいらが変態ってエナーリアに伝わるっすよ!? 大将みたいに見境無しにみられるっす!!」
「おいこら!! 俺が見境無しみたいにいってるんじゃねーよ!!」
「見境無しっしょ!! 自分の嫁さんたちを見てみるといいっす!! 選り取り見取り、おっぱいも大きいのから小さいのまで!! このリア充爆発しろ!!」
「ぐっ……、だが、愛があるからいいんだよ!!」
「あー、開き直ったっすね!! やーい、このエロゲ、ラノベハーレム野郎が!!」
「血の涙流しながら言ってんじゃねーよ!!」
「うっさいっす!! これは心のあせっす!!」
くそ、スティーブのやつストレスかなり溜まってるな。
ここまで噛みついてくることなかったのに。
しかし、なんとかスティーブが、外でこんな発言することが無いように止めないといけない。
俺がハーレム野郎とか、周りの評価がダダ下がりだ。
「はいはい、2人とも落ち着きなさい。スティーブもおっぱいわしづかみにしたんだからいいでしょ?」
「うぐっ!?」
「あと、あなたはいい加減、ハーレムって自覚しなさい。別に悪い意味ではないのだから」
「……日本人としての矜持がな……」
「もう、分からず屋。今日は空いてる皆で、その矜持吹き飛ばしてあげるわ」
笑顔でそんなことをセラリアはいう。
他の嫁さんも目つきが鋭くなっている。
……俺も明日普通に仕事なんだけどな。
「やっぱり、リア充じゃねーっすか!! 爆発しろぉ!!」
その後、少し休憩を入れて、細かいところを話し合っていくのだった。