Hisshou Dungeon Unei Houhou

ゴブリンたち動き出す

Side：スティーブ

はぁ、ニートになりたい。

いや、流石にそれじゃ生活できないから、特に苦労もない平社員でいいっす。

日本と違って、こっちはノルマとかないですし、普通に商店を回していれば、お給料もらえるっすから、それがベスト！！

「転職……。考えようかなー」

そりゃ、おいら、大将には感謝しているっすよ？

ゴブリンとかいう、魔物でも数だよりの、半裸の腰ミノ野郎どもに知恵くれて、普通に上手い飯と良い寝床くれるっすから。

でも、なんでゴブリンが……

「スティーブ殿、こちらの書類にも目を通していただけませんか？」

バサッ……。

羊皮紙が１０枚近く追加で置かれる。

「なんで、ゴブリンが書類仕事してるっすか……」

しかも、他国の。

世の中間違ってね？

ジルバの連中、もうゴブリンとか気にしてないっすよね？

いや、これはおいらを殺しにかかってるっすね？

なるほど、これは陰謀っすね！！

ジルバがおいらに対して、謀殺と忙殺を狙っているに違いないっす！！

……ちょっと上手いと思ったから、後で大将に言ってみよう。

なんとなく、座布団が貰えそうな気がするっす。

「ういー、大隊長。呼びだされて来たけどなんですかー？」

「どうせ、また書類処理手伝えって話だろ？」

「えー、また？　兵舎で寝てていいですか？」

「というか、俺は非番なんで、もう帰っていいですか？」

……さっきの大将の話で、とりあえず、情報を再確認する為に、部下を呼び集めたはいいっすけど。

「やる気ないっすねー。お前等」

見事にやる気メーターが底辺だ。

こりゃー、大将が心配するわけだ。

ジョンの部下たちみたいに、畑耕して屯田兵ってわけでもないし、ジルバで待機命令のゴブリンばかりっすからね。

いや、細々した仕事をしている奴はいるっすけど、ウィードの警備とか、そこら辺っすからね。

最近では副業で、冒険者ギルドに登録しているアホもいるとか、ミリーの姐さんから聞いたっす。

流石にダンジョンアタックは認められないから、ウィードの雑務を斡旋しているらしいっすけど……。

普通のおいらたちの仕事とかわらねーじゃん。なんでわざわざ冒険者になったし。

なんて聞けば、免許とるのが趣味みたいなやつで、商売許可とかも取ってて驚いたっす。

近いうちに、ゴブリンの商店とかできそうっすね。

いやー、フリーダムっすね。我が種族ながら。

おいらもこういうところで転職考えてみようかなー。

ま、いいや。今はお仕事、お仕事。

これで死ぬならこいつらが悪いっす。

おいらはいつも口を酸っぱく、気を引き締めろと言っているっすから。

「さて、集まってもらったのは他でもないっす。ようやくおいらたちに、大将からの命令がきたっす」

「へー」

「また、腰ミノ１つでの調査とかじゃないでしょうねー？」

「あ、それは俺の隊はパス。不満続出だったし」

「同じくー。だって、あれ出撃前に部隊の照合の為に、出撃装備で記録を撮るのが腰ミノだからなー。なんで変態姿を記録されにゃならん」

「……で、どんな命令ですか？」

ぐっ、命令の１つでもあるし、不満も心から理解できるから言いづらいっす。

でも、真面目な話だし、そろそろお前等も真剣モードになってもらうっす。

「まず状況の説明するっす。大将からエクス王都の周辺の遺跡が稼働中の可能性ありの報告が入ったっす」

「「「……」」」

おいらがそう言うと、だらけた連中が一気にビシッとなったっす。

これができなけりゃ、流石においらも大将もクビにしてるっす。

命に係わるっすからね。

ま、だらけているのは普段は見逃しているっす。

やる気ありすぎるゴブリンもそれはそれで問題だから。

親しみやすい、国民に愛される、ゴブリンさんを目指しているっす。

「さらに、ウィードと同じように、中に人を入れ、DPを回収しているらしいっす。さて、これを聞けばわかると思うっすけど、これは由々しき事態っす。早急に、敵の稼働中の遺跡を見つけ出し、中の規模の確認をすることが急務であり、今回の命令となるっす。できれば機能不全に追い込みたいっすけど、それは大将との協議の結果になるっすから、今はやめておくっす」

そう言って、おいらはエクス王都周辺の地図を広げる。

おいらたちがジルバに常駐するにあたって、近隣の調査はやっていたっす。

無論、隣のエクス王国もっす。

こういう地道な積み重ねが世の中大事ということっすね。

「現在、腰ミノ１つ、野生のゴブリンにしか見えないぜ偵察作戦により、エクス王都近くの遺跡は４か所確認できているっす。この４か所には深く探索できるように部隊を派遣することになると思うっす。よって潜入装備を優先で単独行動、及び生還能力、ダンジョンアタック能力の高い者を選出しておくように。あと、この４か所以外にも未発見遺跡が無いかをもう一度徹底的に洗うっす。で、今から、この話を大将に持っていこうと思うっすけど、追加の情報などは届いていないっすか？」

ま、そこら辺は上手くいかないというか、新しい、これだという遺跡が見つかったという報告はなかったっす。

ということで、おいらの代わりを部下に任せてウィードに戻ってきて大将に報告と書類を渡したっす。

「新しい情報はなしか……。ま、当然だな」

「そうっすね。そう簡単にいけば苦労はしないっすから」

「あ、そうだ。潜入部隊には魔力遮断の装備配るから」

「いや、それ窒息死するっす。おいらたちちゃんと呼吸するっすから」

「分かってるって。小型の魔力型の酸素ボンベ用意してるから。４時間は大丈夫だろう。予備も持たせるし、何とかなるだろ」

「それなら、まあ、いけるっすね」

「流石に、ダンジョンの監視に引っかかること前提は避けたいしな。潜入したら、連絡を厳にしとけよ」

「マニュアル通りに５分毎でいいっすか？」

「そうだな。それぐらいでいいだろう」

そんな感じで、遺跡への潜入捜査のことを細かく詰めていく。

大将だけじゃなく、ジェシカ姐さんとか、クリーナ嬢ちゃんとか、色々な人からの意見もあったりします。

素人な意見も大事っすからね。

案外気が付かなかったこともあったりするんすよ？

「ま、こんなところか」

「そうっすねー」

大将とおいらが一息ついている横で……

「相変わらず、とんでもないですね……」

「……ジェシカさん。理解できましたの？　私は半分近く言葉の意味が分かりませんでしたわ」

「……恐らく、専門用語。でも、それを普通に話せるスティーブが異常」

失礼な。

日々研鑽という名のソリッドシリーズプレイのおかげっす。

いや、普通に潜入訓練もしてたっすよ？

やだなー、ゲームだけで必要なスキルが身に付くわけないじゃないっすか。

でも、結構参考にはなるっすよ？

いやー、今時のゲームはすごいっすね。

もうすぐVRゲームも出るみたいだし、おいらファンタジー世界で……は地雷っすね。

おいら、普通にギャルゲーでいいっす。

「で、スティーブ。他に何かあるか？」

「そうっすねー。１つだけ、この情報の提供はどこからっす？　信憑性はどんなもんなんすか？」

「んー。１人だけからだな。でも、この話は信憑性云々より、調べるのが大事だと思ってな。エクス王都の監視もザルなのは確認できたし、先行して行ってもらおうと思った」

「なるほどっすね。そっちでも情報を更新して随時連携をって感じっすか」

「そうそう。で、そろそろその情報提供者がくるから、スティーブも一緒に聞いてくれ。指揮官としては、情報提供者の話は直に聞きたいだろ？」

「そりゃ、当然っすね」

おいらと大将がそんなことを話していると、霧華が会議室にやってきたっす。

「ドレッサ姫、無事にお連れしました」

「お疲れさん。まだ寝てるか？」

「はい。ですが、そろそろ目を覚まします。モーブさんたちには、既にドッペルから戻ってもらって、ドレッサ姫への説明の為に同じ部屋で待機しています」

「そういえば、部屋の用意は間に合ったのか？」

「はい。完全に同じとはいきませんが、モーブさんたちが泊まっていた宿の一室に似せてありますので、そこまで混乱はないと思います」

あー、いきなり目が覚めて部屋が様変わりしていたら大混乱するっすね。

ま、おいらたちがいきなり行くわけにはいかないので、とりあえず、大将と現状の話を聞いて時間を潰しておくっす。

「……話や報告書の限りじゃ、本当に敵さんザルっすね」

「まあ、ここまで技術格差があると思わなかったんだろう。あ、油断は禁物だからな。局所的にはこっちを上回る戦力が存在しても不思議じゃないからな」

「そりゃー、わかるっすけど。それも、モーブのおっさんたち、ヒフィーさんたち、おいらたち、霧華たち、とまあ、今でも王都にはこれだけ別ルートで潜入、潜入予定があるっす。これをどうやって局所戦力で打開するっすか？　もう詰んでるし、さっさと攻めた方がよくないっすか？」

「じゃ、お前が何か問題が起きた時、責任とれよ」

「嫌っす」

「なら、事後処理も含めて、楽するためにちゃんと準備はするぞ。というか、一番のネックは遺跡、ダンジョンの人だよなー。迂闊に刺激すれば、その人たちが生贄にされて一気にDP回収して、第二のグラド、怪獣王の出現を考えないといけないんだよな。スティーブたちの情報収集が結構重要だからな」

「ういっす。ダンボールとか、常備させるっす」

「いや、ネタに走らなくていいから。せめて、こっちの世界に合わせて樽とか、木箱にしろ」

で、そんな感じで話が雑談に切り替わってきたところで、モーブのおっさんたちが一応、説明を終えたらしく、おいらたちが出向くことになったっす。

「え？　なに、本当にゴブリンが服着てる！？」

ドレッサのお姫さんからの第一声はそれでした。

いや、分かっていたっすけどね？

大丈夫っすよ？　ジルバとかでも、これが普通の反応でしたし、おいら全然平気。

……本当に平気っすよ？

今度、近辺の野生の腰ミノゴブリン共に服着せて回ってやるわ。

「よ、来たな。ユキにスティーブ」

「おう。お疲れさん」

「ういーっす。お疲れさんです」

「きゃぁ！？　ほ、本当に喋った！？」

そう叫んで、モーブの後ろに回り込むドレッサ姫さん。

うん、喋ってごめんね。

でもさ、お仕事上喋らないわけにはいかないっすよ。

「キャァァァ！！　シャベッタァァァ！！　っていうネタの原型かね？」

「いや、ある意味間違ってないでしょうけど。あっちは素っすから」

「言葉は分かるけど、あの男とゴブリンが……なんの話してるのかさっぱりわからないわ」

「いや、あいつらの共通の会話ってやつだ。俺もさっぱりわからん」

「あれだろ。喋るはずのない者が喋って驚いたっていうネタの話だろう？」

「ですね。借りてた漫画とかでよくあるネタですね」

「あー、そうだっけ？」

「お前は毎回記憶がリセットされるからな」

「同じ映画を何度見ても新鮮でいられるから羨ましい限りですね」

「お前等、それ褒めてないだろう」

「いや、戦闘とかはしっかりだからなー」

「半々ですね」

だめっすねー。モーブ、もうしっかりおっさんっすね。

新しいことが頭にはいらないっすね。

で、気が付けば、ドレッサ姫さんがプルプル震えていて……

「もう！！　私をのけものにしないでよ！！　私の話じゃなかったの！？」

あ、そうそう。そうだったっす。

とりあえず、雑談をやめて、ドレッサ姫さんに向き直るっす。

「どうも、どこまで話を聞いたのかしらないけど。俺が一応モーブたちの上司みたいなものになる、ユキだ」

「うぃっす。おいらがゴブリン、及び魔物軍の統括をしているスティーブっす」

「そう。そっちもモーブから聞いているとおもうけど、ナッサ王国の第一王女のドレッサよ。って言っても、もう元が付くけどね」

ふーん、錯乱してたって聞いたっすけど。

普通に無くなった自国の事、言えてるみたいっすね。

なんか禁句があるんすかね？

「で、モーブに言われたんだけど。あなた……たち？に協力すれば、アーネを助けてもらえるのね？」

たち？ってところでおいらを見たっす！！

いや、分かるっすけど、おいらのガラスのハートは今や、ブロークン！！

「それは約束できない。アーネって人物が今も生きているかもわからないからな」

大将は無理な約束などはしない。

この返答も当然、希望を持たせてどん底に突き落とすようなことはしない。

常に最悪を考えて動くタイプなんっすよねー、大将って。

「生きてるわ！！」

でも、その大将の言葉にドレッサ姫さんは叫んだ。

その目はしっかりしていたっす。

多分、おいらは今の段階では、この姫さんの話は信じていいなーと思っているっす。

いや、まだ早急すぎるっすけどね。

まずは、話を聞いてからっす。

「そうか。その話を信じるためにも、理由や、今までの経緯を聞かせてもらうけどいいか？」

「いいわ……」

ま、話を聞き出すのは大将に任せるっす。

どうみても、おいらは奇天烈生き物としか見られてないっすから。

今後、ゴブリン権団体とか作るべきっすかね？