Hisshou Dungeon Unei Houhou

Pit 92 Moat: Summer Wreckage

夏の残骸

※時系列的には未だ1月末ぐらいですが、今回は現実の時期、5月に合わせたネタになっていますのでご了承ください。

side:ユキ

本日は晴天也。

すでに季節は、桜の季節は過ぎて、木々は生い茂り、もうすぐ梅雨かという季節。

それに伴い、服装は徐々に長袖の冬物から、ちょっと薄手の春物、そして半袖の夏物に移行しつつある時期である。

この季節の変わり目という時期は非常に服装に困る。

日中は暑く、長袖など着ていられないぐらい陽が照らす部分は暑いが、かといって日陰に入れば肌寒く、夜ともなれば、本格的に寒い。

どういう服装がベストなのかとても悩む時期だ。

しかも、毎日そういう気候ならともかく、極端に暑い日があったり、寒い日があったりと、本当に面倒な時期なのだ。

暑い日は夜でもひどく暑く、窓を開けてギリギリという日もある。

そして、今日は夜も暑い日だなと、窓を開けても一向に涼しくならない部屋を体感しながらそう思う。

「今日の夜はきっと暑いなー」

「そうねー。今の部屋が、えーっと、31度だから、夜もそこまで下がりはしないでしょうね」

俺の言葉にラビリスがテーブルの上にあるエアコンのリモコンについている温度計を見ていう。

聞いてもっと暑くなってきた。

なんで5月末に30度越えるかねー。

ウィードも温暖化が進んでいるのか?

「というか、一番今暑い原因は、ラビリスが乗ってるからだろ」

そう。

現在、暑い状況でさらに熱く感じているのは、ラビリスがいつものように俺の上に座っているからだ。

「最近は子供たちの相手とか、普通に仕事で忙しくてご無沙汰だからいいのよ」

「まあ、そこはいいけど。ラビリスも俺と変わらないぐらい熱いだろう?」

「私は気にならないわ。ユキと密着して汗を流すなんて珍しくもないから」

「それは今の状況とはちょっと違うようだが」

「今からその状況にしてもいいのよ? 私はスカートだし、簡単にできるわよ?」

相変わらずの、ロリ爆乳のラビリスである。

こういうノリでそのままなだれ込むと、大変なことになるからやめておく。

「ま、それは夜にでも……」

何かピンときた。

「そうね。流石に休みだとは言え、昼からイチャイチャしていると、他のみんなが混ざってきて大変よね。子供たちを放置するのもあれだし、夜がいいわね」

ラビリスのいうこともわかるが、俺がピンと来たのはそのことではない。

そうじゃない。

何か、夜にだ……。

「ん? そっち方面じゃないみたいね。でも、何かおぼろげね。思考がはっきりしていないわ」

ラビリスとは密着しているから思考は読まれているはずだが、俺の思考がはっきりしないせいか、正確に俺の考えを読めていないようだ。

いや、俺がわかっていないから当然だけど。

暑い、夜、うーん花火にはまだ早いしな。

いや、落ち着け。

元は暑いのをどうにかしたいってことだ。

でも、季節的に半袖になるのも気が早いということで、なにかこう別のことで涼しくなるための、納涼を……。

納涼?

ああ、夜の納涼といえば一つじゃないか!!

と、俺が答えにたどり着いたとたん、ラビリスは俺の膝から降りた。

「ちょっとユキ!? もう、肝試しはしないわよ!! 怖いんだもの!!」

ラビリスはお化け苦手だからな。

俺の思考をダイレクトに読んで、お化けってイメージが他の人より明確なのがここまで怖がるの原因かもしれん。

「いや、無理に参加はしなくていいからな」

「肝試しは嫌いだけど、仲間外れも嫌なのよ!!」

ぷーっと頬を膨らませるラビリス。

可愛いと思う。

しかし、ラビリスのいう通り、デリーユとか、怖がりのメンバーは参加できないし、あんまり好んでやることでもないか。

呪いとかそこらへんは信じないが、しょっちゅう墓の周りでうるさくされたら静かに永眠(ねむ)れんだろうしなそりゃ、なんとかして排除したくなるだろう。

「じゃ、冬の映画でもみるか?」

「そういうのがいいわね」

「しかし、納涼になるか?」

「怖いものよりはましよ。というか、前に作った肝試し場所はどうなっているの?」

不意に思い出したのか、前に作った肝試し場所のことを聞いてきた。

あそこは、意図的に作り上げた環境で、魔力もスキルも使用不可で、歴史的な背景もなく、墓場もない。

文字通り、廃墟みたいなものをただ置いただけの、環境だけをそれっぽくしただけで、何も幽霊などが出る下地はないのだ。

そこを使って、肝試しをしたのだが、馬鹿な女神のせいで本物の幽霊が出たという騒ぎになり、徹夜の挙句、駄女神の仕業だと分かって、まさに骨折り損のくたびれ儲けといった結果だった。

「そういえば、あれ以降、放っておいたな」

「放っておいたの?」

「あれ以降、それなりに忙しかったからな」

「そういえばそうだったわね」

「思い出したついでだし、ちょっと見てくる。ついてくるか?」

「そうね。別にあそこはルナのいたずらってわかったし、私も怖くはないわ。一緒にいく」

ということで、ジェシカとクリーナを護衛として連れて、久々に肝試し場所に行ってみた。

「久々にきましたね」

「ん。というか、すっかり忘れてた」

ジェシカとクリーナも俺と同じ感想を持っているようだ。

「しかし、ラビリスは平気なのですか?」

「ん。ラビリスは怖がり」

「ここは平気よ。ルナがいたずらしてただけってわかったから」

テレビの特集でもガクガクブルブルなラビリスがそういっても説得力はないが、本人が頑張っているのに水を差すことはないか。

脅かして、俺の上でおもらししてもらっても困るし。

「しないわよ」

ラビリスはそういって、俺の耳を引っ張る。

いつものように肩車して、今は落ち着いているようだ。

これなら大丈夫か? まあ、無理はするなよ?

「わかってるわ」

「よし。じゃ、行ってみよう。足元には気をつけろよ」

「はい」

「ん。気を付ける」

あれから随分ほったらかしなので、草木は生い茂っている。

いや、木はそんなちょっとじゃどうにもならんから、草が生い茂っている。

山道をイメージして作ったので、人が通らなくなってすぐに草に浸食されたようだ。

幸い、歩けないほど生い茂っているわけでもないので、そのまますたすたと歩いていくと、小さい観測所の方にたどり着いた。

「おー、ここで肝試しの説明とかしたよな」

「しましたね」

「ん。あとは録画とか監視とかも」

そうそう。

ルナのイタズラで人形が動き、それを調べるために徹夜したのだ。

「中の機材もほったらかしだったな。あーもったいない」

「回収しますか?」

「とりあえず、中を見て見よう」

そういって、観測所の中に入る。

「思ったよりも綺麗ね」

「ん。ずいぶん放置してたのに、あまり変わっていない。というかほぼ新品」

「まあ、使ったのは肝試しの時ぐらい。というか、そのために作った場所だしな」

部屋の電気は点くし、窓を開けて換気をしながら、機材に積もった埃を軽く落とす。

そこまで時間も経っていないので、埃自体もそこまで溜まっていないのだ。

「これがモニターね。こんなにたくさんあるってことは、かなり設置したのね」

ラビリスは不参加だったから、ここに来るのは初めてだったか。

「ああ。道中危険がないかとか、記録を取るためでもあったからな」

「全部の回収は骨が折れそうね」

「今日中にやれって話じゃないし、今回はただ確認にきただけだからな。と、モニターの方も、カメラの方も普通に生きてるな」

監視カメラの方はケーブルでつながっているので、こちらで遠隔操作可能。

総合管理モニター画面では、全部の監視カメラはオンラインになっているから、いつでも起動可能なわけだ。

思ったより長持ちするな。

そんな感想を抱きつつ、起動すると、一斉にモニターが映る。

カメラの撮影機能も特に問題なしと……。

「ふーん。ユキたちは旅館をモチーフにしたとか言ってたけど、学校がベースなのね」

不意にそんなことをラビリスが言う。

学校をベース? そんな場所作ったっけ? そう思いつつ、モニターを確認している間に、それを聞いたジェシカやクリーナが首を傾げて口を開く。

「いえ、旅館ですよ」

「ん。旅館。学校の面影とかはない」

「え? でも、ほらここ」

そういってラビリスが指さす先のモニターには、たしかに学校の教室みたいな空間が広がっていた。

「ってちょっと待て、屋内に設置したカメラの映像がほとんどおかしいぞこれ!?」

俺もモニターを確認して気が付いた。

旅館までの道中の監視カメラの映像は、森の中の映像なので前と変わりないが、旅館を映した監視カメラからおかしい映像が届いていた。

「これって、やっぱり学校よね? 旅館じゃなかったの?」

「いえ、肝試しの時は確かに、旅館でしたけど」

「ん。間違いなく旅館だった」

「でも、ラビリスのいう通り学校に見えるな。なんでだ? いや、それは愚問か。ルナがまた変なイタズラしてやがったな」

「「「ああ」」」

俺の答えに嫁さんたちは納得の声をあげる。

こんなことができるのは、ルナぐらいしかいない。

タイキ君や、タイゾウさんがやった可能性も否定できないが、そんなことをする暇も意味もないしな。

「どうするの? ルナを問い詰める?」

「いや、先に中には入らないけど現物を確認しよう。映像だけってこともあり得る」

「ありそうねルナなら」

この映像だけだと、あとでもとに戻して、私はそんなことしてないわよーってしらばっくれられたらおしまいだ。

「一応、このモニターも記録を撮っておこう。余ってるカメラがこっちに……これだな。クリーナ、これを撮影してくれ」

俺はカメラをクリーナに預けて撮影を任せる。

「ん。バッチリ記録した」

クリーナは機械系は得意みたいで簡単に操作を覚える。

カメラとかはもちろん、パソコンも最近では自由に使って遊んでいるぐらいだ。

と、そこはいい。

「じゃ、今から旅館の所に行ってみよう。そこで学校があれば記録して、一旦戻ってルナを問い詰める。言い逃れができないように、俺たち4人が証人にもなるから、しっかり憶えておいてくれ」

「わかったわ」

「わかりました」

「ん。撮影は任せて」

そういうことで、観測所を出て、旅館への道のりを歩いていくとそこには……立派な学校がそびえていた。

「学校ね。まぎれもなく」

「そう、ですね」

「ん。学校。旅館は消えてなくなっている」

どうやら、残念ながら俺の幻覚ではないらしく、しっかりと学校が存在しているようだ。

しかも、旅館と同じように、放置されてから随分経ったような感じにしてあるので、気合いが入っているのがわかる。

こんな無駄な努力をするのは、俺たち以外にはルナしかない。

「よし、確認して証拠は撮った。うかつに中に入ると、出られなくなりそうだから、一旦退却。ルナを探して尋問する」

「そうね。勝手に土地をいじるのはダメよね」

「では、連絡を入れておきましょう」

「ん。カメラはしっかりとれているからOK」

さて、ルナの奴はなにが目的でこんなことをしたんだろうなー。

というか、俺たちが頑張って作った廃旅館がなくなった。

……悲しい。