How to keep distance from a beautiful girl

062 Shagging with a beautiful girl

「来たぜ! ゲーセン!!」

「ゲーセンかよ……」

カラフルで眩しい電飾、派手な筐体、やかましい電子音。

おまけに休日だけあって、人間が多い。

「遊びといえばゲーセンだろ!」

「そうよ! 定番よ!」

「そりゃそうかもしれないが……」

俺のような日陰者には、この環境はつらい。

というか、普通にうるさい。

クレーンゲームやらプリクラやらには当然興味もない。

見ると、橘もジト目で耳を塞いでいた。

「冴月、私がゲームセンターが苦手なの、知っているでしょう」

「あ、あれー? そうだっけ?」

「まあまあ、今日くらいはいいじゃんか!」

何かを誤魔化すかのような声を上げるアホなカップル二人。

こいつら、もしかして何か企んでるんじゃ……。

「よーっし! じゃあ最初はみんなであれやろーぜ!」

「いいわね! そうしましょー!」

慌てて駆けていく二人をゆっくり追いかけながら、俺と橘は顔を見合わせた。

どうやら橘の方でも、俺と同じようなことを感じているらしい。

両手を広げて首を傾げる仕草をして見せると、橘はコクンと頷いた。

とりあえず付き合ってみるか、ということで、どうやら一致したらしい。

二人に合流して、俺たちは四人でゲーセンを回った。

二人対二人のエアホッケーに始まり、リズムゲームやレースゲーム、シューティングゲームまで。

こうしていると各人の特徴というか、得意分野がはっきりわかって、少しだけ興味深かった。

例えば雛田はレース以外がやたら上手く、恭弥は全部満遍なく上手い。

俺はひたすらにリズム感がなくて、橘はシューティングが妙に上手かった。

「もうちょい右だって! 絶対!」

「いや、こっちから見ろよ。ちょうど真ん中だぞ」

「ど真ん中じゃない方がいいんじゃないの? ずらした方が掴めそうだけど」

「掴まずに、アームを足に引っ掛けた方がいいのではないですか?」

「あーもう、何でもいいから指示を統一してくれ」

「あ、楠葉さん、時間が」

「えっ」

四人で筐体の前にひしめき合って、クレーンが降下していくのをかじり付くように眺めた。

開いた二本のアームは毛むくじゃらのぬいぐるみの身体をスルスルと滑る。

ぬいぐるみは特に微動だにすることもなくその場に鎮座しており、クレーンはなんの成果も上げずに元の位置へ戻った。

「あぁーーー」

「うるせぇな……」

「もう一回やりましょ、もう一回」

「次はしっかり作戦を練ってからお金を入れましょう」

「そもそも取れるのか、これ……」

クセのある顔をした、犬のぬいぐるみ。

こいつを橘が物欲しそうに眺めていたのがきっかけでこうなったが、苦手なんだよなぁ、クレーンゲーム……。

「廉よ、俺が先輩に聞いた必勝法を授けてやろう」

「いや、そんなのあるなら先に言えよ」

「ふっふっふ、いつ言っても一緒なんだよ、これは」

得意げに人差し指をピンっと立てる恭弥。

意味がわからんな……それに、クレーンゲームの必勝法って、技術ありきの話なんじゃないのか?

「『取れるまでやめない』、だ」

「……いや、まあそりゃ、そうだけど」

「ってことで、頑張れよ! 橘さんのために!」

「私たちは他のもの取ってるからー!」

「お、おい!」

恭弥と雛田は嵐のように駆け出すと、並んだ筐体の角を曲がって見えなくなってしまった。

勝手な奴らめ……。

「楠葉さん……」

「ん?」

「……もう、いいですよ。何度やっても取れないかもしれませんし」

橘が遠慮深そうに言った。

もともとこういうゲーム自体好きじゃなさそうだったし、まあ当然のセリフかもしれない。

でも、せっかくなら取ってやりたい。

橘にいいところを見せたい、という気持ちもないとは言えない。

けれど俺は、橘が今日、来てよかったと思えるような形あるものを、一つでも残したかったのだ。

「いや、取るまでやる。話によれば、それが必勝法らしいからな」

「そ、そんな……いいですよ」

「今やめたら、さっき入れた100円も無駄になるだろ? それに、なんか、取れる気がするし」

「……楠葉さんがそう言うなら」

「おう。サポートしてくれ」

乗り気になってくれた橘と並んで、真剣にぬいぐるみを観察する。

ちらりと見えた橘の横顔は、興奮気味で、楽しそうだった。

よかった。

これでぬいぐるみが取れれば、文句なしなんだが。

「アームが開いた時に、ここに引っ掛ければいいのではないですか?」

「それだけで持ち上がるか? まずはちょっとずつ、こっちに近づけた方がいいんじゃないか?」

「近づけても掴みやすくなるわけじゃありませんから、一気に狙ってしまった方がいいと思います」

「まあ、それはたしかに。じゃあ橘の作戦で、まず100円」

「は、はい……!」

「……ここか?」

「……もう少し、右かと」

「もうちょっと手前かな?」

「そうですね。あ、行き過ぎた」

「微調整がやたら難しいんだが」

「ちょんってレバーを押してください、ちょんって」

「あ、行き過ぎた」

「もうっ、ここだけ私がやります!」

「お願いします」

「……あ、行き過ぎました」

「ほらな! 難しいって言ったろ! ほら!」

「す、すみません……」

あーだこーだ。

あーでもない、こーでもない。

はしゃいで、盛り上がって、笑って。

俺たちは、いや、少なくとも俺は、楽しかった。

橘はどうだろう。

楽しんでくれているだろうか。

心から笑ってくれているだろうか。

そんなことを考えてしまうあたり、やっぱり、俺は。

「取れた!! 取れました!! 楠葉さん!!」

「おぉぉ!! マジで取れた!! すげぇ!!」

景品取り出し口から救出したぬいぐるみを橘に渡してやると、橘はぎゅっと抱きしめるようにそれを受け取った。

ちょっとだけ、涙目になっているようにも見えた。

「……ありがとうございます、楠葉さん」

「……うん、いいよ。いつも、世話になってるから……」

「それは……お互い様です。だから、ありがとうございます」

「お、おう……」

お互い様。

そう思ってくれていることが嬉しくて、でも恥ずかしくて、俺は橘から目をそらしてしまう。

「あー、そういえば、あの二人は?」

「……言われてみれば、姿が見えませんね」

「……まさか」

慌ててスマホを確認する。

案の定、恭弥からのメッセージが入っていた。

『俺と冴月は映画見て帰るから、あとは二人でごゆっくり!』

……あのやろう。

ああもう、これだから、リア充は嫌いなんだ。