まず、そもそもの切っ掛けになった話をしよう。

「あ、あなたは、冒険者なの?」

魔物(モンスター)に襲われていた妙齢の女を助けると、いきなり冒険者なのかと聞かれた。

「無職だが?」

俺は魔物(モンスター)の毛皮を剥ぎながら、彼女の問いに答えた。

「無職……って、そういう事を聞いているんじゃないわよ。

随分と戦い慣れてるみたいだけど、どこかギルドに入ってるの?」

「いや」

そもそも冒険者ギルドに入っていれば無職ではない。と思ったのだが、面倒なので何も言い返さなかった。

「仕事は?」

「してない。無職だって言ったろ?

強いて言うなら、魔物(モンスター)を倒して日銭を稼いでるくらいだ」

「日銭を稼ぐって……あなた、見たところまだ十代よね?

キメラを倒した事を考えれば、確かに実力はあるみたいだけど……あなた親御さんは?」

「いない。親代わりはいたけど、一年前に他界した」

「……ごめんなさい。悪いことを聞いたわね」

「気にすることはない。じゃあ、俺はもう行くから」

毛皮を剥ぎ取り終えて、その場を離れようとすると、

「――待って!」

女は俺を呼び止めて、

「あなた、身寄りはないのよね?」

「ああ。今は一人で暮らしているが、それがどうかしたのか?」

俺の言葉に女は少し考えるような素振りを見せた。

しかし直ぐに答えは出たようで、

「なら、提案があるの! あなた――冒険者を目指してみる気はないかしら?」

この一言が、全ての始まり。

あの時、この女を助けなければ、きっと俺は生涯、魔物(モンスター)を狩って日銭を稼ぐだけの生活をして一生を終えていただろう。

この出会いを切っ掛けに、職業無職の俺が、冒険者候補生として冒険者育成機関――王立ユーピテル学院に通うことになるのだった。