I Aim to Be an Adventurer with the Jobclass of “Jobless”
Invitation to Student Union
――コンコン。
扉をノックする音が聞こえ、
「失礼します」
声が聞こえた。
それは女性の声だ。
この宿舎の女性ということは、多分ネルファ?
もしくはエリシャが忘れ物でも取りにきたのだろうか?
俺は身体を起こし、ベッドの上から下を見ると、
「おはようございます。マルスさん」
「……ああ、おはよう」
なぜここに来たのかはわからないが、訪問者はやはりネルファだった。
時間は既に早朝のようだ。
「まだ、鐘の音は鳴ってないよな?」
「はい」
なら、寝よう。
せめて鐘が鳴るまでは寝よう。
俺は再び眠ろうと身体をベッドに沈めたのだが、
「起きてくださいマルスさん。
わたしはエリシャさんに頼まれているんです。遅刻しないように起こしてあげてと」
……そういうことか。
ネルファがこの部屋にきたのは、エリーが頼んだからか。
自分がいなくなった時、俺が時間通り起きれず遅刻するかもと心配したようだ。
真面目なエリーらしい。
「もしマルスさんがご迷惑なようなら、今後このような行為は控えますが……」
エリーの予想通り、俺が遅刻する可能性は高い。
もしも起こしてくれるというなら、それはありがたいことだった。
「いや、ネルファが面倒でないなら、頼んでもいいか?」
俺が頼むと、
「いえ! 皆様のお世話をするのは、わたしの務めですので」
面倒事だというのに、嬉しそうにネルファは頷いた。
ネルファにはここでの生活で世話になりっぱなしだ。
いつか、どこかで恩を返さねば。
だが、これでこれから遅刻する可能性はかなり低くなった。
俺一人ではだらけそうだからな。
「それでは、わたしは朝食の準備に戻りますので」
一礼して、ネルファは部屋を出て行った。
さて、鐘が鳴る前に着替えだけは済ませておこう。
*
朝食を食べ終えた俺は、学院に向かった。
いつもよりも遥かに早い時間のせいか、学院に向かう生徒はまだそれほど多くない。
もしかしたら、今日は教室に一番乗りかもしれない。
学院の正面玄関を通った辺りでそんなことを思っていたら、
「あら? マルス君?」
誰かに話しかけられた。
声の方に顔を向けると、
「ああ、アリシア先輩」
委員会(コミュニティ)――生徒会の会長であるアリシアがそこにいた。
「早いですね。
まだ鐘が鳴るまで時間があると思いますが?」
俺がこんな早く来ているのを意外に思われたのかもしれない。
「いや、たまた――」
たまたまだ。と言おうとしたのだが、この生真面目な会長のことだ、また敬語がどうこうと突っ込まれるに違いない。
「たまたまです。先輩は、いつもこのくらいの時間に?」
「ええ。生徒会には学院内の最低限の治安維持を任されていますから、見回りも兼ねてね」
ふぅ……どうやら口調に関しては突っ込まれずに済んだ。
「会長」
俺とアリシアが話しているところに、
「一階と二階の見回りは終わりました。現行、特に問題はありません」
生徒会のメンバーだろうか?
人間(ヒューマン)の少女がアリシアにそんな報告をしていた。
「ご苦労様。では、他のメンバーの見回りが終わるまで待機していてください」
「はい。あの……会長、こちらの方は?」
少女は俺に目を向けた。
会長と話していた俺が気になったようだ。
「こちらは二年のマルス・ルイーナ君。この間話した編入生よ」
「……この人が」
目を見開き、少女の顔に関心の色が浮かんだ。
(というか……なんで俺の話を?)
そんな疑問が浮かんだのだが、
「初めまして。セリカ・リラントと言います」
セリカと名乗った少女は、背筋をピンと伸ばし俺に会釈した。
会釈もビシッと決まっており、だらしなさの欠片も感じさせない。
「セリカはまだ一年だけど、今年の入学者の中でトップの成績だったこともあって、教官方からの推薦で生徒会のメンバーになったの」
アリシアがそんな説明を付け足した。
「まだまだ未熟者ではありますが、日々目標に邁進しています」
そう言って表情を引き締めたセリカ。
彼女もアリシアと並び、かなり真面目な生徒なのかもしれない。
少しキツい印象はあるが、キリッとして凛々しい目。
明るい橙色の髪を、目にかからず耳が隠れる程度に切りそろえている。
身長も女子生徒としては高く、スラッとした体系もあって活発な印象を受けた。
「さっき先輩に紹介してらもったが、マルス・ルイーナだ。
この間編入してきたばかりで、学院のことはわからないことも多いが宜しく頼む」
一言挨拶した。
セリカはそれに答え軽く会釈した。
「それじゃ、俺はそろそろ教室に行きますんで」
それだけ言って教室に向かおうとした時だった。
「ねぇ、マルス君。
あなた今日の放課後、生徒会の委員会室(コミュニティールーム)にこられないかしら?」
アリシアがそんなことを言ってきたのだ。
委員会室(コミュニティールーム)?
確か、一昨日にも興味があったらいつでも来いみたいなことを言われたが……。
「忙しいのかしら?」
「いや、特に予定は」
確かに興味はある。
この学院の上位生徒で運営される生徒会。
「前に話してた、先輩よりも強いって生徒は生徒会にいるのか?」
以前聞けずに終わってしまったこと。
もしその生徒がいるのなら、会ってみるのも悪くない。
「ええ。彼も生徒会の一員です」
アリシアは淡々と答えた。
彼ということは男か。
ってこと、ウチの宿舎にいる先輩か?
なら、折角だ。
この機会に会っておくのも悪くない。
そう思い、
「わかった。放課後生徒会室に行かせてもらうよ」
俺は自分の意思を伝えたのだった。