I Aim to Be an Adventurer with the Jobclass of “Jobless”
Exchange with competitors ①
「マルス……くん。
ちょっと……いい?」
授業が終わって直ぐに、イーリナが声を掛けてきた。
今はしっかりと、彼女の姿が俺の目に映っている。
「どうかしたのか?」
「……委員会に……お邪魔しても……いいかしら?」
「ああ、構わないぞ。
元々、放課後は委員会に向かう予定だったからな」
「そう……。
では……みんなで……向かわせて……もらうわね」
(……ん? みんなで?)
疑問に思ったのだが。
長い前髪に隠れている為、イーリナの表情を窺うことはできない。
だが、その声音はどこか弾んでいた気がした。
「マルス、僕たちはもう行くぞ」
「また明日、訓練頑張ろうね!」
去り際、ツェルミンとノノノが声を掛けてくれた。
「ああ、また――」
「二人とも、少し時間をもらえないか?」
背を向けたツェルミンたちに、ミストレアが声を掛けていた。
まるで最初からそう決めていたみたいに。
ツェルミンとノノノは顔を見合わせた後。
「どうしたのですか?」
ミストレアに顔を向けたツェルミンが尋ねた。
「もし用事がないなら、放課後少し話をしたいと思ってな」
「それは構いませんが、競技について議論でもするのでしょうか?」
「そんなお固く考えなくていいさ。
急ぎの用事があるようなら後日でも構わないが、時間が取れるならで構わない」
無理強いされたわけではないが、二人はミストレアの頼みに首肯し。
「話を受けてくれて嬉しいよ。
では今からマルス君の委員会に向かおう」
爽やかな笑みを見せるミストレアに対し、
再びツェルミンとノノノは意外そうな顔で、お互いに顔を見合わせたのだった。
※
委員会部屋(コミュニティールーム)の前に到着し、俺が扉を開くと。
「マルスさん、お帰りなさいです! お待ちしてました!」
ラフィが満面の笑みで出迎えてくれた。
軽く部屋を見回したが、他のメンバーはまだ来ていないようだ。
「お疲れ様です! 本日はいかがいたしま――って、ツェルミンにノノノさん……と……?」
俺の背後からぞろぞろと人が入って来るのを見て、ラフィは兎耳をペタンと下げた。
「お邪魔するっす! ここがマルス君の委員会っすか」
コルニスが物珍しそうに室内を見回した。
「ま、マルスさん、こちらの方々は?」
「鬼喰(デモンイーター)の代表選手一同だ。
何か話があるらしくてな」
「……そうですか」
先程の満面の笑みに影が差し、ラフィは唇を尖らせていた。
「折角……マ……さんと……二人きりに……」
小声で何かを呟くラフィに、とことことイーリナが近付き。
「……ふふっ……かわいい……」
「ひゃ!? ――な、何するんですか!」
ラフィの頭をなでなでと撫でた。
「……嫉妬……しているのね……。
……大好き……なのね……彼が……。
……取られ……たくない……誰にも……」
「――っ!? きゅ、急になんなんです!?」
ビクッと身体を震わせて驚愕し、ラフィは後ろに飛び跳ねた。
「……ごめん……なさい……。
……なれなれ……しかった……かしら……?」
イーリナは声音を沈ませて、深々と頭を下げた。
長い黒髪がサラサラと揺れている。
「……」
ラフィは警戒するような厳しい顔付きでイーリナを見ていると。
「突然押しかけて来てしまって、お邪魔だったかな?」
イーリナをフォローするように、ミストレアが困り気味の微笑をラフィに向けた。
「……はい。
特に綺麗な女性の方は、出来る限り訪れてほしくないですね」
「では大丈夫だな。
ここに君より可憐で美しい女性はいない」
「え……」
正直なラフィの発言に対して、怯むことなく微笑を向けるミストレア。
その真摯な眼差しをみれば、今の発言が冗談でないことがわかった。
「そ、そこまで真剣な面持ちで言われると、事実とはいえなんだか照れますね……」
ラフィはほんのりと頬を染めた。
既に警戒は解かれ、嬉しそうに頬が緩んでいる。
どうやらラフィよりも、ミストレアが一枚上手だったようだ。
「ごめん……ね……少し……話したら……帰るから……」
「……それならいいのですが……あの、先輩。
一つ質問をしても宜しいですか?」
「……? ……なに……?」
「失礼ですが、その……髪で顔が隠れていますよね?」
「……問題……ある……?」
「いえ、問題と言うか、見えてます?
髪が邪魔して視界が悪いのでは? と思ったのですが」
ラフィが言ったことは、この場にいる全員が思っていることだろう。
正直、切った方が間違いなく視界は確保できると思うのだが。
「……ばっちり……視界……良好……」
「そ、そうなのですか。
ならいいのですが……」
イーリナの返答に、少々ラフィは困惑しているようだった。
「取り敢えず、話すのなら座らないか?」
その提案を全員が肯定し、俺たちは机を囲むように椅子に座った。
「それで先輩、話というのはなんなのだ?」
「ああ、このように話をする機会を持ったことには当然理由がある」
「それは?」
ツェルミンやノノノが尋ねると。
「ワタシたちは競技を共に戦う仲間だ。
そして、試合に勝つ為にはまず、味方を知ることから始めるべきだと私は思っている。
だからこそ、ここにいる者たちの能力を把握しておきたい。
使える魔術や技能――勿論、話せないこともあると思う。
それは構わない。
話せる範囲で、教えてくれないだろうか?
試合に勝つ為にも」
ミストレアの勝ちたいという強い想いが、はっきりと伝わってきた。