Aランクの昇格試験が終わり、しばしの審議が始まる。

私が棄権した後、エルフのラフィリアが他の冒険者たちとの勝ち残り戦を続けた。

1番と2番の冒険者は戦闘続行が不可能の中、ラフィリアは、一度手の内を晒した冒険者相手に善戦して7人抜きを達成する。

その後、他の冒険者の戦いは続くが大抵はテトに妨げられて連戦が止まり、気付けば一日で昇格試験が終わってしまった。

既にセレネは、帰ってしまったが、ギルドにいる騎士が結果を後で伝えてくれるかも知れない。

そして、夕暮れ頃になり、結果が発表される。

「今年の昇格試験のAランク昇格者は――チセ、テト。」

勝ち残り戦の勝利数から言えば、妥当なところだろう。

そして、最後にもう一人。

「――そして、ラフィリア」

「えっ、嘘っ! だって私、テトに負けたし、チセには勝ちを譲って貰ったのよ!」

確かに、テトには負け、私との勝負は、必殺の攻撃を防いだが、魔力量の残量が減ったために私が棄権した。

「ここ数年での能力の伸び幅を確認している。そして、最後のチセ殿に対しても挑む気概と瞬間的な能力は、Aランクでもやっていけると判断できる。良き仲間を揃えることができれば、どんな困難にも打ち勝てるだろう」

「……はい。チセやテトの様に、精進します」

深々と頭を下げたラフィリアさんは、Aランクの昇格を受けるが、それは通過点らしい。

目指すのは、Aランクでも通じる強さのようだ。

だが、あの精霊魔法を付与した矢の速射は、以前戦ったAランクにも匹敵する五つ首のヒドラ相手でも十分に通用する威力だと思う。

「さて、それじゃあ、帰りましょうか」

「はいなのです」

私とテトもギルドカードの更新をしてもらい、買い物をしてから転移門で【虚無の荒野】に帰れば、先にセレネが待っていた。

「お母さん、テトお姉ちゃん、Aランク昇格おめでとう!」

「セレネ、ただいま。頑張ったわ」

「ただいまなのです~」

先に帰ってきたセレネから昇格を祝われ、そして家には他にもお客陣が来ていた。

「国王? それに宰相さんと騎士団長さんも」

「お父様たちが、お母さんにお話があるんだって……」

「そう……」

何の話だろうか、と思いながら、椅子を勧めて、向かい合う。

「まずは、Aランク昇格の祝いの言葉を贈ろう。我が国でも50人は越えない貴重な人材だ」

「それは、多いと見ればいいのか、少ないと見ればいいのか悩むわね」

各ギルドに配置されるギルドマスターでもAランク冒険者の人がいるが、50人と言っても実際に冒険者として活動しているのは、その半数くらいだ。

残りは、引退してギルドの役職に就くか、国にスカウトされて騎士になったり、色々らしい。

他にも実力はAランク相当というのが一つの強さの目安らしい。

「ここのローランドもイスチェア王国が誇る騎士団長を務め、Aランク冒険者に匹敵する強さである。他にも騎士や宮廷魔術師の中の一握りもAランク冒険者と同等な強さだ」

そう考えると、国家最大の戦力が集中する王城でも十人から二十人くらいだろう。

「それで、そんなAランクになったばかりの私たちに用件は?」

「単刀直入に言おう。我に仕える気はないか?」

Aランク冒険者は、準貴族並の待遇をされるので、国家がスカウトするのも分からないでもない。

「断らせてもらうわ。私は、王族に対する忠誠心とかそう言うのはないのよ」

ずけずけと遠慮のない私の言葉に、宰相も騎士団長さんも困ったような表情を作る。

だが、そうしたさっぱりした私の返事が気に入っているのか、国王は笑う。

「あははっ、やはりそうか。ヴァイエル、ローランド。賭けはお前達の負けだな」

「はい。陛下の言う通りでございます」

どうやら宰相と騎士団長と賭けをしていたようだ。

私たちが王家に仕えるか、どうか。

まぁ結果は、国王の勝ちらしい。

「そんなことで来たの?」

「国としては、良さそうな人材を確保するために一度は交渉せねばな。本題は別で、セレネのお披露目の社交界を開く予定が決まった。お前たちにも来て欲しい」

その言葉に私は、驚き、目を見開く。

「それは、どういう理由で?」

「10年前に孤児救済のための製薬と製紙事業を教会に授けた冒険者の帰還だ。それもAランク冒険者ならば、参加する資格は十分にある」

「確かに、セレネの晴れ姿は見たいけど、物珍しい見世物にされるのは嫌よ」

きっぱりと断る私に、国王が困ったように眉を下げて本題に入る。

「実は、悪魔教団の残党の動きがあるらしいのだ」

「……それってセレネのお母さんを襲った」

悪魔を体に憑依させて能力を強化する外法を使う邪教集団らしい。

「以前、教団の壊滅を指示したのだが、一部が地下に潜り、再びセレネを狙おうとしている。それに奴らは、大悪魔召喚と合わせて、国王である私への復讐を狙っているはずだ」

その際に、王族の多くが集まるセレネのお披露目の社交界には、できる限りのセレネを守れる護衛を配置したいようだ。

「……わかったわ。それなら引き受けるわ。それで秘密の護衛としての報酬は?」

一応Aランク冒険者を秘密裏に雇うのだ。

引き受けるが、タダ働きという訳にはいかない。

「お主らに払う報酬としては、大金貨10枚だ」

一日の護衛依頼としては、妥当な額だろう。

それに、無事にセレネのお披露目が終われば、【虚無の荒野】の土地の所有も認めてくれる。

そうして、国王からのセレネ護衛の要請が終わり、三人が帰る中、家に残るセレネは、私がパーティーに参加するのを嬉しそうにする。

「お母さんとテトお姉ちゃんのドレス姿、楽しみにしてるね!」

「あー、そうね……ドレス、考えておかないと……」

セレネのお披露目の社交界に参加するための準備を色々としなければいけないことに気付いた。

まず、社交界には、いつもの三角帽子と黒いマントや杖は持ち込めない。

そうなると、社交界に相応しい服装を用意しなければならない。

「どうしよう……」

「魔女様は、何を着ても可愛いのです~」

「私だけじゃなくて、テトも着るのよ」

普段革鎧を着ているテトだが、社交界向けのドレスを新調しないと行けないし、そもそもマナーも最低限覚えなければならない。

「とりあえず、教会の枢機卿に相談するかなぁ」

王城に通う前に滞在した教会のシスターたちの中には、貴族向けのマナーをしっかり学んだ人も居たために、付け焼き刃でもいいから教えてもらうにはちょうど良い。

更にドレスの用意なども頼もう。

「それに、昇格試験の反省点も生かさないと」

10万の魔力を持って、不老だと言っても瞬間的な火力で結界を貫かれて負傷する可能性もあるし、予備の魔力も必要になる。

「大容量の【魔晶石】のアクセサリーと杖の代わりの魔法発動の媒体を用意しないと。それと社交界にでても不自然じゃないデザイン」

その辺もシスターたちに相談しなければ、と思う。

そうして、翌日に教会のシスターたちにマナーとドレスの相談などをしに行く。

そして、できたデザインの物を服飾屋に相談し、作って貰い、試着した。

「魔女様、可愛いです」

「テトも、綺麗よ」

私は、薄緑色の落ち着いたデザインのドレスだ。

長い黒髪に合わせてアクセサリーは、銀で統一している。

対するテトは、褐色の肌に合う紺色のドレスだ。

童顔でどこか子どもっぽいテトにしては、大人っぽい色合いとノースリーブなデザインが目を引く。

テトの色合いに合わせて金のアクセサリーも用意して貰って購入した。

「それじゃあ、行くわよ。――《エンチャント》!」

購入したドレスとアクセサリーのデザインを参考に、【付与魔法】で様々な魔法効果を付与したものを作り上げる。

私がドレスに防御性能を付与し、アクセサリーの宝石部分を大容量な【魔結石】に作り替えて、他のアクセサリーは、杖代わりの魔法発動体と状態異常耐性の装備にする。

テトのドレスは、防刃効果を付与し、用意したアクセサリーは、小型のアイテムバッグ化して、いつでも魔剣と盾を取り出せるようにしてある。

二人分の社交界用の衣装に付与魔法を掛けるのに、魔力で換算すると50万ほど消費した。

今までの装備がどれだけ性能が低かったのか、と思うほどに効果を盛り込んだ。

そして、セレネが私たちの社交界での衣装を見たがるが、当日までのお楽しみとした。

また、11歳になったセレネの身長は、既に私を追い越して、成長している。

今までは姉妹のように見えたが、そろそろ外見年齢が逆転しそうなことに寂しさを覚える。