I Became the Demon Lord and my Territory is an Uninhabited Island
Episode 82: Keith's Visit to the Island
翌日の昼食後。
「んじゃ、俺は島に戻るから、何かあったら頼むよ」
「いってらっしゃい」
「はーい、行ってらっしゃーい」
何故かツヤツヤしているラッテは元気に手を振り、同じくツヤツヤしているスズランは小さく手を振って、子供達も見送ってくれる。
俺も笑顔で手を振り、足元に酒の樽を置いて、転移陣を発動させ島に戻った。
「ただいま戻りましたー」
「おう、客が来てるぞ」
そう言って、猫耳のおっさんは、斧を担いで森の方へ向かって行った。
誰が来たか、言ってくれても良いと思うんだが。
「おうカーム、久しぶりだな」
「おー、キースじゃねぇか! どうしたんだよ、こんな島まで」
「お前の噂を聞いて、わざわざ来たんだよ。黒い肌の魔族が魔王になって、島を切り開いてるってな、肌が黒い奴なんかそんなにいねぇからな。魔王がカームで良かったぜ。じゃなきゃ無駄足だった」
「本当かよ、まだ魔王になってからそんなに経ってないぜ? お前、大陸のどの辺にいたんだよ」
「あ? 大陸の中の方まで噂が広まってると思うか? 聞いたのは港町だよ。討伐か護衛の仕事を探してたら、ギルド支部の中で噂を聞いてな。人族の大陸に行く船に乗せてもらって、ココで降ろしてもらったんだよ。島に名前がないから、最近黒い奴が住み付いた島だよ、噂位知ってんだろ? ってな」
確かに。名前なんか教会の誘致の時に、書類に書いただけだな。
「すまんな。まだ交易も本格的じゃないし、必要ないと思ってたんだよ」
「訪ねてくる奴に優しくねぇな、ちゃんと考えておけよ」
「あるにはあるんだけどよ……」
「んだよ、言ってみろよ」
「アクアマリンだよ」
「はん、小洒落た名前だな」
「まぁな、故郷の兄弟みたいな名前を付けたんだぜ」
アクアマリンはベリルに鉄分が混ざって青く発色してるだけだし。この島は、遠浅の島で綺麗な海が広がっているから、俺はピッタリだと思ってる。
「で、わざわざ来ただけか?」
「そのつもりだったが、気が変わった。俺もしばらく住んでみる、良いだろ?」
「構いはしないけど……なんでだ?」
「危険な冒険者暮らしを、少し休んでみようと思っただけだ」
「給金は出ないぞ」
「この島で金が使えるのか?」
「いいや、まだ使えないな」
ハハッと笑いながら、俺の家に招き入れ、コーヒーを淹れてやる。
「今の所、この島にしかない、お茶の代わりになる物だ。人族の港に店を出し、宣伝してるんだぜ。苦いから砂糖を好みで入れてくれ、かき混ぜたら豆が沈むまで待ってくれ」
そう言って、カップをキースの目の前に置いて、俺もコーヒーを啜る。
「ニガッ!」
コーヒーを初めて飲んだ奴は、この反応が返って来るから面白い。
そしてキースは、砂糖を足してかき混ぜる。
「泥水みたいな色だが、嫌な臭いはしないな」
目を瞑り、鼻をスンスンして香りを嗅いでいる。犬系の獣人族だから、嗅覚が良いのか?
「まぁな、豆を挽いている時も結構いい香りがするんだぜ。まぁ、これが町で流行って、売れれば良いんだが」
「そう言う事は全くわからんが、売れないと金に成らん事はわかる」
「そうなんだよ、困るんだよ。これが売れなきゃ、海賊狩りでもして金を稼がないと、島に物を買って来る事が出来ないんだよ。飯は多分だけど、人数がこれ以上増えなければ、問題無く食っていけると思うけど、道具を直す鉄や、生活用品が買えない。森を開拓して、畑を広げ、小麦かジャガイモの収穫量を増やして、売ればお金になるけど、そうするとかなり先の話になるし、森を広げる道具を直す鉄もタダじゃない」
「海賊狩った方が早いだろうが」
「自分から進んで、危険な事をするのが嫌いなんだよ」
「じゃあ、その話に出て来た海賊はどうやって狩ったんだ?」
「島に攻め込まれたから、ついカッとなってやった、後悔はしていない」
「後悔するような事なのか?」
「全然」
「だろうな」
そう言ってコーヒーを飲む。
「あ、そうだ。この酒を少し混ぜると、香りが強くなるし、風味も変わるんだぜ」
そう言って、足元に置いてある樽から、酒を空き瓶に移し、カップにスプーンで二杯ほど足してやる。
「おいおい、そんな事して良いのかよ。俺は昼には飲まない主義だぜ」
「これは強い酒だけど、スプーンで二杯くらいなら問題ないし、熱い物に入れると、酒が飛ぶんだよ」
そう言いながら嗅いでみろと言って、香りを確認させる。
「おぉ、なんかこう。表現し辛いが、いい方向に匂いが変わった」
そう言って、コーヒーに口を付ける。
「口から鼻に抜ける匂いが強くなったな、すげぇな。酒を少し入れただけでこんなに変わるのか!」
「まぁな。この酒も、お金が出来たら島で作ろうと思ってる」
「美味いお茶に酒、売れないって事はないだろ」
「売れるまでわからないけどな。故郷じゃ、大切な収入源になってるぜ」
そう言って両手を軽く広げ、首を傾げて見せる。
「で、俺の仕事だが。狩か弓を使う何かか?」
「狩は間に合ってるな、斧でも持って木を切ってもらった方が良いな。じゃないと、今狩りをしている人族の仕事を取る事になるし、獲物を取りすぎても数が減る。畑が荒らされないように、森の奥に追い込む程度かな。獲物を捕っても、肉が売れれば良いんだけど、ここ島だろ? 保存方法が干し肉にするしかないし、干し肉も余り気味だ」
「おいおい、自慢じゃないがガキの頃から弓持って、獲物を追いかけてたんだぜ? 今更斧って……」
「なら収穫の手伝いかな、土弄りも結構楽しいぞ。それか、このコーヒー豆の収穫だな」
「ひでぇ話だ」
「島に来てくれて嬉しいと思う、けど仕事となると別物だ、家畜の世話もあるけど、まだ数がいないからな、食事を忘れない様に与えれば良いだけだ」
「本当に狩は駄目なのか?」
「駄目じゃないけど、キースの腕前で狩なんかしたら、本当に人族の仕事がなくなる。どうしてもって言うなら話し合いか当番制だなー、弓を教えるのも良いな、弓作りからだけど」
そう言って俺は腕を組んで、少し渋い顔をした。
「わかったわかった、それなら仕方がねぇ、狩は少し諦める」
「そうしてくれ。俺は夕方まで森を切り開いて、この酒をコランダムに届けるから、近くで仕事を見て覚えてくれ」
俺は立ち上がり、カップを片付け森の方に向かった。
魔法で出した【チェーンソーモドキ】で木を切り倒し、切株は地面を隆起させて、掘り起こし、倒れた木の枝を掃い、ぶつ切りにしていく。
「なぁ」
「なんだ?」
「それ、お前にしか出来ねぇから……」
「そうだな、だから斧で木を切り倒し、鋸でぶつ切りにして、割って薪にするか。大工の判断で木材に加工するかだ。その後に地面を掘り、根っ子を切り、切株を起こす、大変な作業だから、なるべく俺はこの開拓を中心に仕事をしている」
「おー、魔王なのにすげぇな」
「魔王になったからって、そんなに変わる訳じゃねぇよ。まぁ前任の魔王の噂は、俺の噂と一緒に聞いただろ? 今度は(・・・)マシな奴(・)だって」
「まぁ、な……」
「こんな感じで開拓して、ある程度広がったら、今度は畑を作って作物を植えて、どんどん食料を増やす、しばらくはコレが仕事だと思ってるよ」
「地味だな」
「けど、やらないと何もできない。木の生えてない開けた場所まで移動して畑を作っても良いけど、ここを日の出と共に出発して、朝飯と昼飯の丁度半分くらいの時間を歩かないと森が切れないからな。
そっちに家を建てるって言っても、全員が入れるだけの家を建てるのにも時間がかかるし、船の出入りはこの湾くらいしかない。だからこの辺りを拠点にして開拓するのが一番早いんだよ」
「そうかよ! 開拓って! 難しいんだな!」
そう言って、キースは鉈で枝を掃い、鋸を持ち、木を切っていく。
「鉈使いは良いけど、鋸はまだまだだな」
「うっせ! 黙ってろよ。一応近寄られた時の為に短剣の練習くらいしたわ! 近寄られた事はねぇけどな!」
「はいはい」
そして夕方まで作業を続けた。
「手に変なマメが出来てやがる」
「持った事のない道具を握ってるからね、近接戦の練習だと思って振れば良いさ」
「さっきも言ったが、近寄らせた事なんかないけどな」
そうニヤニヤしながら、手を洗い、痛そうにマメを見ていた。
「俺はこれから、この酒を店まで届けるから、皆と一緒に休んでてくれ」
「おう」
そうして俺は、店の倉庫に転移した。
「お疲れ様です」
そう言いながらフロアに出ると、もう店を閉めようとしていたのか、客はいなかった。そしてまず目に付いたのが、店の幌の下に置いてあるテーブルを仕舞おうとしていた事だ。
「お疲れ様です」
「外にもテーブルがありますが、もしかして、急にお客様が増えました?」
「はい、物凄く増えました」
「あー。手伝いを増やした方が良いですかね?」
「大丈夫です、なんとかなりましたので。店に入れる人数は決まってますから」
この男は、才能がかなり有ると思う。多分俺なら軽いパニックになってるな。
「そうですか、なら安心です。それと、倉庫の方へ来てください」
そう言って男女を倉庫まで呼び、蒸留酒を見せ説明した。
「俺の故郷で作っている酒です、まず飲んでみて下さい」
そう言って硝子のグラスに少量を注ぎ、隣には水を入れたカップを置く。
「どうぞ、その辺に有る酒より強いですし、俺の故郷周辺にしか出回っていません。あー、竜族の住む山の方でも作ってますが、自分達で作って、自分達で消費しているので、そっちでも多分出回っていませんね。まぁ、どうぞ」
そう言って、酒を進める。
「辛い! なんですかコレ」「からーい」
「果実酒の二から三倍強いです、火も付きます」
「本当に飲み物なんですか? これ」
「はい、酒は温めると水よりも先に湯気になります、それを集めて、樽に移し、季節が数回巡るまで寝かせた物がこれです。コレに水を足して飲みます」
俺は加水し、これくらいかな? と思う量を入れ、まず自分で飲んでから、渡す。
「さっきのとは違い、かなり飲み易いです」
「少し癖が有りますが、飲めなくはないですね」
「これはコレで売れると思うんですが。今日は別な飲み方を提案しに来ました、これをコーヒーにスプーンで一から二杯入れます、フロアの方に行きましょう」
そう言って俺はコーヒーを淹れ、好みの砂糖の量を聞いてから入れて。スプーンで二杯ほど蒸留酒を入れる。
「どうぞ」
二人の目の前にコーヒーを置き、飲ませてみる。
「香りが違う」「香りが……」
「酒って言うのは、温度が高くなると直ぐに湯気になってしまいます、コーヒーの熱さでも、湯気になります。それを利用して、香りを更に強くする方法です。お茶でも同じ事が出来ますが、この酒は香りが強いので、コーヒーの方が合うと思います。張り紙を増やしますね」
・強い酒を少し入れると、香りが強くなります。試したい場合は声をかけて下さい。申し訳ありませんが別料金が発生します。
「こんなもんだろう」
「別料金ってどのくらいですか?」
「銅貨1枚で良いと思います、この牛の乳を入れる小さい容器の半分の半分ですし」
「けど、そのお酒って貴重品で数も少ないんですよね? 店で出して平気なんですか?」
「研修と言う名目で色々な村に技術を教えてますし、良い酒が増えるのは良い事ですと言ってるのが村にいましてね。その方のおかげで、故郷の村の周りや、遠い町の方からも見学に来たり研修に来たりしてますから、どんどん数は増えてると思いますし、多分平気でしょう。まぁ、値段の項目を付け足しましょう」
・料金は銅貨一枚です
「どうですかね?」
「良いと思います」
「そうですか、なら俺はこの酒を売り込みに行ってきます。合鍵は有るので戸締りをして、先にあがってください。俺はニルスさんの所に行って、少し話をしてから、倉庫で転移しますので」
「解りました」
「なら、明日から少量のお酒を、頼まれれば出してください、行ってきます」
そう言って、俺は空き瓶二本に酒を入れ、ニルスの所へ向かった。
「お疲れ様でーす、ニルスさんいます?」
「わざわざ来てくれて申し訳ないが、今は商談に出ている、夜には戻ると思うが、伝言があるなら聞くぞ」
「んー、会えないと面倒なので待たせてもらいます。迷惑なら夜に来ますが」
「いや、平気だ、悪いんだが倉庫にいない時には、誰も入らせるなと言われてるんだ」
「それくらい平気ですよ、適当にその辺の角で時間つぶしてますから」
そう言って倉庫の角に行き、ゴミ捨て場に有った中途半端な長さの紐に魔力を通し、魔法の訓練をして時間を潰していたが、気が付いたら周りに人が集まっていた。
「この間の体に板ぶら下げてた魔族のにーちゃんだよな? コーヒー屋に行ったぜ」
「ありがとうございます」
「あの板ぶら下げて宣伝すんの恥ずかしくなかったのか? 今じゃ皆真似して当たり前のようにやってるけどな」
「一番安くて宣伝効果の有る方法でしょう? 恥ずかしくないですよ、だってコーヒーが売れなきゃ、島の皆に給金出せませんし」
「そっか、あんちゃんあの島の魔族でほぼ島の代表だっけ、なら必死だな」
うん確かに代表だね、魔王だけど。
「お前達、何してるんだ、さっさと仕事に戻れ!」
倉庫に聞き覚えの有る声が響き渡たった。
「どうもニルスさん、職員達を遊ばせて申し訳ありません」
「カームさんですか、なら仕方ないですね。なにせここ最近、板とコーヒーで持ち切りですからね。今日は?」
「儲け話かもしれない話です」
「ほう、物は?」
「酒です」
そう言って、足元に有る瓶を持ち上げ、笑顔で言った。そうしたら周りが騒がしくなる。
「酒だってよ」
「気になるな」
「たしかに、カームさんが持って来た酒なら普通の酒じゃないんだろうな」
酒の話は、ここでもかなり効果的みたいだ。
「なら奥に行って詳しく聞きましょう」
そう言ってニルスは事務所の鍵を開けた。
「で、どの様なお酒なのでしょうか?」
「酒好きの竜族が、本腰を入れて作る酒です」
「ほう……かなり美味いんでしょうね」
「好みが別れますが、取りあえず火が付きます」
「は?」
「火です」
そう言って、適当な皿を借り、少しだけ酒を垂らし、ランプの灯を消してから酒に火をつける。
そうすると青白い火がホワホワと揺れ、辺りに少しだけ良い香りが漂う。
そうして、アルコールが燃え尽き、火が消えたところでランプに火を灯し、会話を再開する。
「えっと・・・火が付く酒って飲めるんですか?」
「はい、飲み慣れると意外に癖になりますよ」
そう言ってカップに少しだけ注ぐ。
「最初は、熱く感じたり、辛かったり痛かったりしますけど、飲み方さえ解れば、気にならなくなります」
「うっ、そう言われると少し躊躇しますね」
そう言って、少し口に含み舌の上で転がし、目を左右に動かしたり目を瞑ったりしている。
「きついですね、どうやって作ってるのか気になりますが、酒好きには需要は有ると思いますよ」
「そうですか、では酒を一、水を一で割ってみましょうか」
そう言って俺は勝手にピッチャーから水を注ぎ、もう一度飲ませる。
「今度はきつい香りが無くなり、随分素直になりましたね、舌触りもですが。それにこの琥珀色をどうやって出すのかがわかりません」
「別に隠すつもりは無いですが、初めて会った時に言ってた、情報を売れるなら、って奴ですよ。故郷の村でこの酒を造ってるんですが、実は村にいる竜族が、世界にこの酒を! とか言って、惜しげも無く情報を提供してるんですよ。その甲斐有って、じわじわと買い付けに来る商人や、技術を学びに来る魔族が増えましてね、この間は人族の商人が来たって言ってましたよ。話は戻しますが、この色は樽に使われてる木材の色です」
「え? じゃあ元の色は?」
「水のように、透明です。透明な酒を樽に詰め、これは季節が巡って二回くらい寝かせた物です、最初に作った酒はもう五回になるので、飲み頃ですね」
「五回ですか……。随分仕込みに時間がかかるのですね」
「えぇ、長ければ長く置いた物ほど、角が取れまろやかになり、深みが増します、竜族に伝えたら、宝物庫に入れ、年越祭百回分寝かせるとかいいだしましてね」
「飲めるんですか?」
「この酒は腐りません、カビも生えません。なので多分可能ですね。いやー、季節を百回超えた酒、飲んでみたいですね。二十回過ぎるとほぼ樽からなくなりますがね。ってな訳で売り込みに来ました。買いませんか? まぁ少し冗談なんですけどね。明日から店でコーヒーに、この酒を銅貨1枚で少しだけ入れられるようになったので、ソレの宣伝です。ぜひ楽しんでください、これはいつもお世話になっているお礼ですので皆で飲んで下さい、本当に俺の故郷付近にしか無い酒なので希少品です。なくなったからといって、直ぐに作っても、直ぐに飲めないので、本当に品薄です。島の経営が軌道に乗ってきたら、島でも作りますので、その時にはお願いします」
「だから、儲け話かもしれないなんですね、わかりました。期待しないで待ってます。好評でしたら、買い付けに行きますので、故郷の場所を教えて下さいね。それと、島で作り始めた時は言って下さい、予約しに行きますよ」
「わかりました」
そう言って席を立ち、店に向かい、戸締りを確認してから、倉庫で転移した。
閑話
コーヒーに酒?
「いらっしゃいませ」
「おはよー、なんか朝の日課になっちゃったわー。あら、強いお酒? 朝からお酒ねぇ……。香りかぁ……、お酒付きで」
「かしこまりました」
「これを全部入れて良いの?」
「はい」
そう言って、服屋のお姉さんは蒸留酒を全部入れ、張り紙に書いてあった通りに香りを嗅いでいる。
「あら、これ良いわね。風味も少し違うし、これくらいなら酔わないし」
「ありがとうございます」
「カームさんが言っていたのはこれか、コーヒーを酒付きで」
「かしこまりました」
「んー本当だ、なんで香りが良くなるんだ」
「コーヒーにお酒? 想像できないんだけど、誰か試してよ」
「冒険者のマナーが悪いって愚痴ってたじゃない、貴女が頼んだら? 嫌な事はさ、お酒で忘れる物よ」
「それは解決になってないよ」
「じゃあ、全員で試しましょう、銅貨一枚増えるだけだし」
「「さんせー」」
「あ、本当だ」
「確かに」
「むー、少し変な苦みが混ざった」
「おい、強い酒だってよ」
「入れる前に少しだけ味見してみるか、……うえ、キッツ! 舌がヒリヒリするぜ、コレ本当に酒か?」
「おい、書いてある通り入れてみろよ、香りが良くなったぞ」
「わかってるよ、けどよ今までに味わった事の無い味だったぜ? なんだこの酒は? 兄ちゃんわかるか?」
「わかりませんが、店を始めた頃にいた、魔族の方の故郷の酒と聞いております」
「なんだ、その魔族の兄ちゃん辞めちまったのか? 根性ねぇな」
「あの方は……店主と言った方が良いですかね。自分は雇われてここで働いてるだけですので」
「ほう。あの魔族の兄ちゃんは偉かったのか、あんな板を体からぶら下げて、ヤケにノリノリだったから、宣伝の時と開店して直ぐの雑務だけ雇われただけかと思ったぜ。わかんねぇもんだなー」