例の酒と廃油の混合液空爆練習から十五日ほど経ち、会田さんからやっと連絡が入ったので、夜中なのに急いで向かう事にした。

「お疲れ様です」

「お疲れ様です、早速ですが本題に入ります。ジャスティスは、レルスと共に抜け道の先に在る王家の墓地の墓守の家まで行き、その地下に在った装備で冒険者を装うと、金銭を持ってお供を二人付け、表向きは友好的だった貴族の屋敷まで逃げていました。数日間潜伏しながら、こちらの情報を伺っていたようです。どこまで情報を掴んだかまではわかりませんが」

ここまでは良いか? 的な視線を向けてきたので、

「続けてください」

そう短くつぶやいた。

「その墓守の情報は冒険者と言う所までですが、近隣の頼られた貴族の件は、お付きのメイドが色々我々の情報を探っていたので、少し脅したら話したので、こちらは楽でした」

こちらは……ねぇ。

「その後、フルールさんの鉢を持っている一番近い部隊を第一部隊として向かわせましたが、勇者三人では足りませんでした。一緒にいた兵士はもちろんですが、ジャスティスが地下で手に入れたミスリル製の鎧を全身に身に着け、おまけに何か魔法処理がされていたらしく、魔法も攻撃も届きにくく、ステータスも低いのに、三人相手でも仕留めきる事が出来ず返り討ちです。レルスの方も魔石を数種類所持していたらしく。炎系だけでは無く氷や土などの魔法を使い、周りにいた一般兵を蹴散らし、その日の内に逃げ出しました」

「で、その返り討ちに有った勇者は無事なんですか?」

「死亡の報告は有りませんが、回復までは三ヶ月かかるらしいです」

「んー殺してないのは、まだ良心が有ったのか、ステータスが低かったのかはわかりませんが、主な攻撃方法は?」

「比較的症状が軽い勇者の話ですが、魔法が使えないはずなのに、魔法が使えたとの事です。両手の甲に魔石がはまっていて、それに魔力を通してるだけだと思います」

「レルスみたいに、魔法は封じても魔力はって奴ですか、厄介ですね」

「えぇ、たどり着いた二部隊目が、勇者達の治療を最優先したのが、多少相手に猶予を与えてしまったみたいです。まぁ、あの状況じゃどちらが正しかったのかわかりませんが、同じ日本人を助けてくれた事を感謝したいですね」

「そうですね、数少ない同郷ですからね」

「その後第三部隊が目撃情報を元に、行きそうな場所を割出し。第四第五と村や街に向かわせ、六から十は大小関係無く近隣の港に先に配備し、残りの五部隊も港に向かわせますので、フルールさんの鉢植えをもう少し融通して下さい」

「それは構いませんけど、聞いてる限りかなり凶悪になってますね、最悪ステータス上がっちゃうんじゃないんですか?」

「そうでしょうね、上がると思います、詳しい人の話によればパワーレベリングに似た状態です。これ以上強くさせない為には、勇者を当たらせないか。かなりの人員を割いて、山を張るしかないですね。なにせ相手は少数なので小回りが利きますし、異常に気がついたら逃げるでしょうね。しかも増長してると思われます」

「――最悪ですね」

「えぇ、装備品のせいにしたくは無いですが、各港に最低五名の勇者を配置し、足止めをしつつ、最悪目的の船の破壊を考えています」

「この世界じゃ追うのも一苦労って奴ですか」

「えぇ。と、言う訳でフルールさんの鉢植えをお願いします」

「わかりました、彼女も文句は言わないと思いますが、大切に扱ってあげてくださいね」

「わかってますよ、すねられたら大変ですからね」

その後いろいろな対策を話し合ったが、どの対策にも逃げ道が有り、最悪港で捕縛か、最悪殺すと言う結果になった。

夜も遅いので、今日は帰った

翌日、朝早くから鉢を抱え、なるべく大きく、根強い個体を厳選してもらい、三十鉢分を用意して、一言伝言を頼んでから飛んだら、既に共同住宅地下は、映画で見る作戦室みたいな感じになっており、大きな地図を巨大なテーブルに広げ、なんか赤と青に塗ったT字の駒みたいな物が置いて有り、隅の机には鉢が置いて有り、それぞれの鉢に対してるであろうと思われる勇者が挨拶してきた。

「あ、カームさん、おはようございます」

「お、おはようございます」

俺に挨拶してきた勇者は、なんか物凄く疲れており、ゲッソリとしていた。

「大丈夫ですか?」

「現場にいる鉢から伝言を聞いて、違う鉢に伝えるだけの簡単なお仕事です。ははっ……」

笑顔を向けて来るが、目がギラついてて、目が笑って無い。正直言って怖いよ。一体いつからやってんだよ。最悪昨日俺が帰ってからだぞ?

「三番からの伝言よ、この村に寄った形跡なし、このままの道なりに村に寄りながら港に向かう。だって。あ、また来たわ、七番からね。この村にも形跡無し、しばらく待機し、八番と合流する。だって」

そして、その言葉をメモ取りながら中央の数人の勇者に伝えると、青い駒を動かしている。

「逃走した方角がこの方向だと情報があるが三番と七番が外れか、進行速度的に後一時間弱で八番が七番に合流できそうだな。おい、七番に小休止の伝言出せ!」

「はい!」

思った以上にここも激戦地だったな。なんか陣中見舞い的な物を差し入れしても良いかもしれない。

「あ、鉢はここに置いて置くんで、会田さんによろしく伝えてください」

「うっす!」「りょーかい」「部隊の細分化の計画案立てろ! 急げよ」「この森辺りに潜んでんじゃねぇか? 細分化したら、兵士も補充して、確実に部隊に勇者を最低二人以上入れて向かわせろ」「細分化の計画案は今やってますよ!」「おい、引継ぎ要員連れて来い、三十分前だぞ!」

んー皆慣れない事してるから疲弊してるな、レモンの蜂蜜漬け決定だな。

とある貴族の館の一室

「とりあえずあの黒い肌の魔族の情報は簡単に集まったわ、この屋敷専属の情報を集めてる奴の話だと、人族と魔族の大陸間に有る島を拠点に動いてるらしいわ。なぜか島全体で商業的な事をやっているらしく、最近出回ってる嗜好品や、油や果物なんかを扱っているらしいわ、とある商人を懇意にしているらしいわね」

「すげぇじゃねぇか! そこまで情報ありゃ、もう向かうだけじゃねぇか」

「はぁー、向かえればいいわね、多分あの屑の会田の事だからそこら中の港に、無意味に監視が増やされてると思うわ、そもそもジャスティスの国の人族は会田より頭の回る奴が多すぎるのよ。戦略だって経済だって謀(はかりごと)だって」

「まぁな、俺の国じゃかなりそう言う奴は多かったぜ、ある程度の年齢まで強制的に全員学校行かされるし、更に自分がしたい勉強が有るなら、それ専門の学校もあるぜ? しかもジジイになっても勉強しっぱなしで、なんかすげぇ賞とか貰ってるし、この国の奴じゃ正直話になんねぇぜ?」

「あら? ならジャスティスも頭が良いのかしら?」

「この国のその辺の奴よりは良いんじゃね? 簡単な計算とか出来るし」

まぁ、計算機つかえねぇ分数の掛け算とか怪しいけどな。

「それより船に乗るのが難しいんじゃどうするんだよ、遠回りして向かうか?」

「面倒だわ、魔族の大陸を横断してる商船を乗っ取るか、事前に準備してもらった船にギリギリで飛び乗って撒くかよ」

「商船は駄目じゃね? 俺等の言う事聞かないなら、ぶっ殺しても良いけどよ。人が減って動かねぇんじゃ話になんねぇよ」

「なら二個目の作戦の方が良いわね、ちょっと、船長に話を通しておいてちょうだい、面倒だからコランダムを使うわ」

「かしこまりました」

「コランダムってどこだよ?」

「王都から整備された街道を通って行ける、一番近い大きな港よ」

「おいおい、そしたら警備がすげー厚いんじゃね?」

「まさかそんな大きな港を使うとは、思って無いんじゃないかしら? まぁ居いても人ごみを盾にすれば良いわ。平民なんかうじゃうじゃいるでしょ? あっちは平民が邪魔で魔法が使えないと思うし」

「そうだな。そうしたらこっちはそいつらごと焼き払えば良い、アイツらは一般人を攻撃できねぇ。レルスってすげぇ頭回るじゃねぇか、惚れ直したぜ」

「ありがと。そうね、出航は太陽が真上に登った時の鐘にしましょう。帆を張って、動き出した所を狙って飛び乗れる様にしましょう。聞いてたわね? こっちは多少遅れるかもしれないから、余裕を持って十日目の昼にするから、何とか間に合わせて向かうし、早めに着いたら潜伏してるわ。そのことも伝えてちょうだい」

「かしこまりました」

「取り合えず、船の特徴だけ聞いておこうかしら」

「おい、さっきからずっとこっちを見てる奴がいるぜ? バレバレだろ、バカなんじゃねぇか?」

そう言うと、レルスも窓際に近づき、俺が顎をしゃくって見せた方を見た。

「多分わざとでしょうね。見える位置にいて、監視している事を伝えてるんでしょうね」

「んじゃどうすんだよ?」

「このまま待ってたら、仲間が集まって来て囲まれますね。動くなら早い方が良いでしょう、勇者様はこの間の鎧に着替えてください。レルス様もお手数ですがお願いします」

「おうよ、本格的な戦闘は初めてだけど、あんなすげぇ鎧が有るならぜってぇ負けねぇよ」

「くれぐれも注意して下さいませ。我々は脱出の準備をしますので、準備が出来たら声を掛けさせていただきます。そしてレルス様やジャスティス様がある程度蹴散らしたら馬車で拾いますので。そして、この混乱を利用して、使いの者が単騎でコランダムに向かい、先ほどの話をしておく、これでよろしいですね?」

「えぇ、良いわ」

「んじゃ俺も着替えて、あいつ等ぶっ殺せばいいんだろ? へへっ、テンション上るぜ」

「では私はレルス様の御着替えを手伝いますので、勇者様も準備をお願いします」

「おう」

その後しばらくして、着替え終わったレルスが俺の前にやってきた、

「私が雑魚を相手にするから、ジャスティスは勇者をお願い。良かったじゃない、念願の殺し(・・)を経験出来るわよ! 元の世界じゃ面倒な事になるから出来なかったらしいじゃない」

「お、おう」

この女、ぶっちぎりでイカれた女だぜ……。本当何考えてんだよ。マジでお姫様なのか疑いたくなるわ。レルスが王になってたら確実に暴君だぜ……

「さぁ、準備は整ったからあとは殺(や)るだけよ? それとも私に譲ってくれるの? 流石優しいわね」

そう言うと、窓を開けて魔石を握った拳を前に突き出し、見える位置で俺達を監視してた奴等に向かっていきなり火の玉を放ちやがった。

畜生! 本当にこの女イカれてやがる。本当にお姫様かよサイコーにサイコだぜ、一緒にいればぜってー退屈しねぇな。

「おら! てめぇら、どかねぇと燃やすぞ!」

俺は、両手に魔力を込めて魔石を発動させ、兵士の塊に【火球】を放ち散らせる。

「きゃはははははは! 手前等雑魚には用はねぇんだよ! 勇者連れてこいよ勇者! じゃなきゃ全員死ぬぜ?」

目の前にいる城の兵士を蹴り飛ばし、左腰に有るロングソードを抜いて、手当たり次第に切りつけ、倒れた奴は血を流しぐったりしてやがる。

俺はそいつを、襲いかかってくる奴らに蹴り飛ばし、足に骨が折れる様な感じが響いたが無視した。そしてよろめいた所に【火球】を飛ばし、兵士達を散らせる。

「超くせぇ。死ぬ時も俺に迷惑かけんじゃねぇよ!」

燃えてる奴に兆発したら矢が飛んできて鎧に当たったが、痛くも痒くもねぇな。そんな事を思いつつ、振り向くと、黒髪が三人、剣を持った奴と、弓を持った奴だ。

『あ? てめぇら殺すぞ?』

黒髪達は二手に別れ、俺を挟み撃ちにするみてぇだ。そして遠くから矢が飛んでくる。

『おい、矢ぁ。うぜぇんだよ! てめぇからぶっ殺す』

左手を前に出し【火球】を発動させ、真っ直ぐ弓に向かうが避けられ、剣を持った二人が俺を止めようと切りかかってくるが、正直ウゼェ。攻撃は効かねぇけどよ、剣で殴られてるからガンガン響いて超うぜぇ。

鉄パイプくらいしか振った事ねぇけどよ、適当に剣を振ったら、鉄っぽい鎧なんかそこに無いかのように切れて、そのまま動かなくなり、もう一人を切りつけたら、ガードしてた剣ごと切れて片腕から血が流れ出てる。なんだこれ、俺無敵じゃねぇかよ。

『おいおい、お前一人で勝てるんかよ? あ?』

『勝てるわけねぇだろクズ、でもやんなきゃならねぇ時があんだよ!』

ムカつく言葉を吐かれ、兜の隙間に向かって矢が飛んで来る、怖ぇよクソが。左手を前に出しながら、思い切りダッシュすっけどチョコマカと逃げ回ってウゼェ。

そんな事思ってたらレルスの魔法の援護が入って、やつがこけて超ハイだぜ。

そのまま左手で顔を掴み【火球】を発動させたら、ビクビク痙攣して動かなくなった。気分爽快だぜ!

そんな感傷に浸ってたら、背中が明るくなったと思って振り向いたら、火の槍みたいなのが撃ち込まれてて、怯んだけどなんともねぇ。マジこの鎧サイコーだぜ!

あのムカツク魔導士を魔法で牽制しようとしたら、脇から尖った氷が飛んできて、そいつを突きさしながら吹き飛ばした。多分レルスだな。

「レルス! 感謝するぜ!」

「たいした事無いわ、こっちも雑魚は片付いたわ、急ぎましょう」

「おう!」

そう言われたので、俺は馬車に乗り込んで、名前は忘れたけど、港に向かう事になった。