I Became the Demon Lord and my Territory is an Uninhabited Island
Episode 139: When You Walked
島について三日目、ある程度魔族と人族もお互いに慣れてきた頃に事件は起きた。喧嘩だ。
犬耳のおっさんに呼ばれ、駆けつけると、人族の若い男と、トローさんが殴り合っていたらしく、少し離れた場所でお互いにらみ合っていた。人族の男、タフだな。
原因は軽い冗談だったらしい。
「トローさん、船で散々言いましたよね? 喧嘩はするなって。規則は、今のところほぼ無いですが、皆さん仲良く過ごせてましたし、悪いこともしてません。ゆくゆくはこの島の人口も多くなり、村や町として機能し始めます。その代表になる方々が何をしてるんですか。取り合えず今回は、二人に軽い罰を与えます。ゆくゆくは法律も、牢屋も作りますので、皆さんも覚悟しておいてください」
騒ぎを聞きつけたのか、作業をしていたイセリアさんも来てオロオロしていた。
「お、おい。俺は悪くねぇよ。こいつがイセリアの事をだな」
「少しからかっただけだろ! あんなに良い雰囲気なのに、何で一緒の家に住んでねぇんだよ」
原因が幼稚すぎる。そしてイセリアさんは頬を赤らめないでくれ。
「はいはい、それ以上続けると、罰を増やしますよー」
手をポンポンとたたきながら間に入って言うと、お互いが黙った。
「と言っても、まだ決めてないんだよね、法律。どうすっかなー」
頭をかきながら、何が一番良いかと思い、留置所もないから、二人を離して、反省させる事……んー。
「よし。二人に与える罰は、海岸に生えてる椰子の木の数を、数えてきてもらいます」
「「はぁ?」」
「取り合えず、一日かな? 牢屋に一日ぶち込まれたと思って、数えてきてください」
「おいおいおい、牢屋の方が何倍もマシだぜ?」
「本当ですよ」
「牢屋がないから、仕方がないのであきらめて下さい」
笑顔で判決を言い渡す。
俺は食料四食分と、ナイフと。紙と木炭を二人に渡した。
「じゃぁ、お互いここから、右手側と左手側に歩いていき、海岸に生えてる、椰子の木の数を数えてきて下さい。コレは四食分の食料です、今日の昼から明日の昼までを想定してます。喉が乾いたら、木に話しかければ、椰子の実を落としてくれますので、このナイフで切って中身を飲んで下さい。コレはメモ帳です。何に使っても良いです。夜になって寝たら、帰ってきて下さい。そうすれば明日の昼には戻ってこれます。ちなみにですが、この椰子の木は全部パルマさんの眷属みたいなものですので、サボらないように」
「サボったら、カームに報告するからねー」
新規で入ってきた魔族達は驚いている。
「この木全部がそうなのか?」
「そうよー。落ちて、小さな芽が出るのも私よ。あ、それは数えなくていいわよ」
「はい、行ってらっしゃい」
「待って下さい。この罰になんの意味が!?」
「意味なんか何もないですよ。数えて戻ってきて、報告して下さい、誤差は十本まで許します。喉が乾いたら。直ぐに椰子の実をもらって下さいね」
「私も数えておくから、間違えないでね」
「お、おい。冗談だよな?」
「帰りに、その辺に生えてる、無数にある赤い花を数えてきても良いんですよ?」
口だけ笑い、目が笑って無い状態を作り、簡単に脅しを入れる。
「いや、木の数だけでいい……」
「コレは罰です、意味のない作業を続けてやらされるのが、一番心が疲れるので、一周してこいって言われないだけマシだと思って下さい。はい、どうぞ行ってきて下さい」
そう言うと、二人は別方向に歩き出して行った。
「カームさん、普通罰って言ったら、鞭打ちとかが普通ではないんですか?」
「それだと痛いだけで、反抗心か忍耐力があれば耐えられます。けど心を折るような行動の方が効く場合があります。あー、牢屋作らないとなー。石材切り出さないと」
「あの、それって本気で言ってます?」
「自分の腰くらいまで埋まる穴を掘って、それを埋めてを繰り返し三十日くらいやってみます?」
「え? それに何の意味が?」
「意味は無いですよ、身体的疲労と、精神的疲労が目的です。食事は三食パンと塩水かなー。根を上げるまで体験してみます?」
軽く横目で見て、ニヤついてみる。
「いや、いいです……」
「ですよね。取り合えず簡単な牢屋を作って、犯罪者が増えて入りきらなくなったら考えよう。はい、皆さんは作業に戻って……いや、もう少しで休憩時間ですね、早いですけど。休んじゃいますか」
そして、湾にある休憩所で、このまま休むことにした。
一口だけ、麦茶を飲んでから、目の前にいたイセリアさんに声をかける。
「イセリアさん、そろそろ作業には慣れましたか?」
「はい、イスに座って出来ますし、実を剥いて、種を取り出すだけですし、実は少しだったら食べても良いって、考えられないくらい、良い仕事です」
「この豆は、あの苦いコーヒーって奴になって、この島の重要な収入源ですからね。大口の注文が入ったら、皆他の作業を止めて、全員で剥きますからね、専属で少しづつやってくれる方がいれば、こちらとしても、在庫が増えて助かりますし」
「この島は、本当に良い島ですね。毎日湯浴みか、水浴びが出来て、ご飯もおいしいし。孤児院の兄弟姉妹を全員連れてきたいくらいです」
「なら、区切りが良い時に帰るか、手紙でも書きますか? こちらとしては、増えてくれた方が大助かりなんですけどね」
「孤児院ごと持ってきたいですよ」
まだ、アクアマリンに来て三日だけど、笑顔が増えたなー。
「けど、悪い事をしちゃいましたね。罰でも、見える場所でやらせるべきだったでしょうか?」
「いえ、罰は罰ですので……。孤児院で悪さをした時も、母さん達に怒られてましたし」
「どんな罰だったんですか? 港で会った時に結構怯えてましたが」
「笑顔で、尻尾を最大限に使った鞭の様な打撃でした」
「そりゃいてぇ……」
「でしょうね、思い切り吹き飛んでましたし、壁の板が折れてました」
昔を懐かしむような表情で、お茶を飲んでいる。
「ああ見えて、結構優しいし、仲間意識が強いんですよね。家族や仲間が馬鹿にされたり、暴力を振るわれたら、自分の事の様に怒ってやり返しに行きますし」
「道理で……、悪い事しちゃったな」
酒場で、こいつ等の事は何とも思っちゃいねぇとか言ってたけど、恥ずかしかっただけか。
「カームさんは悪くねぇっすよ! カームさんは俺達に仕事をくれたっす! イスで殴られた場所はまだいてぇっすけど」
うん。聞かれてた。そして「俺もまだいてえぞ」「わたしも」と続き、笑いが起こる。
「カームさんイスで殴ったんすか!? そいつはひでぇや」
「俺……、カームさんは、普通の奴には、暴力は振るわないって思ってたのに」
「いやいやいや! こいつ等、ナイフやダガーもって一気に襲いかかってきたんですよ? イスくらい使いますよ!」
魔族に指を指して弁解する。
「ならしゃあねぇわ」
そして、辺りが笑いで包まれる。うん、今のところはいい感じだな。このまま人口が増えても、こんな雰囲気なら良いんだけどな
◇
翌日の昼になり、トローさんが戻って来た。
「おい、数えて来たぞ! ほらメモに本数を数えてきたから間違いねぇはずだ!」
「あ、はいお疲れ様です」
そう言って俺は、メモに軽く目を通し、鉢植えのパルマさんに、数の確認をして、ピッタリ合ってた事を確認し、目の前でメモを破り、ポケットにしまう。意外にマメだったな。
「おい! 何してんだよ!」
「え? 木の数が合ってたので、メモを破りました。お疲れ様です」
「本当に意味がねぇのかよ!」
「最初に言ったじゃないですか。意味の無い事をやらせると……。いいですか? これは罰なんです。俺は暴力が嫌いなんで鞭打ちとかしません、何か問題を起こしたら、今後も意味の無い事を淡々とやらせますからね? 嫌なら軽口程度で喧嘩しないで下さい」
「納得いかねぇ! あいつが最初に言ってきたんだぞ!」
「なら我慢して下さい。今度は穴を掘って埋める作業をしますか? 木を数える作業と穴を掘る作業。どちらでも構いませんよ? はっきり言いますけどね、俺は島の治安を、常に良い状態に保ちたいんですよ。最悪の場合、イセリアさんには悪いですが、島から追い出しますよ?」
「うっ……なんでイセリアの名前が出るんだよ」
「彼女が貴方の事を慕ってるからですよ。いや、アレは恋する乙女のソレに近いですが……。まぁ喧嘩するなとは言いませんが、あの程度では喧嘩しない方が良いと思いますよ。この島は安全ですので、ピリピリせず余裕を見せて下さい」
「……わかった。面白くねぇが、一応心にとどめておく」
「お願いします。俺もイセリアさんに恨まれたくないので、なるべく大人しくお願いします」
そう言って、俺も開墾作業に戻る。牢屋はまだ先でいいや。
開墾中に、近くのフルールさんが「会田って奴が呼んでるよ」と言ってきたので、軽く汗を拭いてから、王都の地下室に向かう事にする。
「あ、お疲れ様です」
「どうも、会田さんに呼ばれたんですけど」
「まだ来てませんね、今こっちに向かってるんじゃないんですか? あ、お茶どうぞ、ティーポットに入れっぱなしの、冷めた奴で申し訳ありませんけど」
「ありがとうございます」
一応、一人の見張りが付いてると言っても、簡単な休息用の物は、少しだけあるみたいだ。
この前まで、イスとテーブルだけだったのに。
名前は知らないが、良く顔を見る勇者と、軽く雑談をしていたら、奥の通路から、小走りで、ティーポットを持った会田さんが走って来た。
「お疲れ様です、悪いけど席を外してくれ」
そう言って、人払いをさせる。やばい情報なのか?
「お久しぶりです。悪いんですが、早速本題に入ります」
そう言いながら、暖かいお茶を注いでくれる。
「はい、面倒事じゃなければ大歓迎です」
「面倒ではないですが……、何に部類されるんでしょうか。けど人によっては頭痛薬が必要かもしれません」
「面白い事言いますね、確かに前回の騒動は頭痛薬や胃薬が必要そうでしたけど」
「はは、そうですね。では本題に……。第三王女が妊娠しました」
「はぁ!?」
持っていたカップをその場で止め、大口を開け、かなり驚いた。
「牢屋で監禁中に食欲がなくなり、嘔吐をするようになり、最初は王族だけを診てる医者を呼び、診てもらったのですが、異常は無く、ストレスかと思い、ジャスティス君にケアを任せようと思ったのですが、それでもよくならなかったのですよ」
「ふむー。島に来る途中で、船の中でかなり盛(さか)ってたって話ですけど。時期的にはそれですかね?」
「そうかもしれませんね。世話係のメイドの話では、月の物も最近全然無いという事で、産婦人科的な事をしている医者を呼び、診てもらったところ、『ご懐妊です』という訳です。我々もさすがに妊婦を石作りの牢に入れる訳にも行かず。過去に幽閉場所として使われていた場所に移しましたが。妊娠を知ってから、良く考えてみれば、性格がガラッと変わりましたね。なにか付き物が落ちた様な。ジャスティス君がカームさんと会って、ガラッと変わったかのように……。女性の体と心の繋がりはよくわかりませんが……。あと喜怒哀楽も極端に激しくなったりして、ジャスティス君にもあたる様になりました」
「多分ですが、女性ホルモンの分泌とかバランスの問題じゃないですかね? うちの嫁も多少ありましたし。そこは旦那のフォローでカバーじゃないですか?」
「そうですね、そっち系に詳しい方に聞いたんですが、同じような意見でした。まぁ、産まれてくる子に罪はありませんし、現王夫妻や姉夫婦も喜んでるので、妊娠出産を機に、変わってくれれば良いんですが」
「すげぇ変わりましたよ。一人はなんとなく優しくなったり、一人はなんとなく落ち着いたり」
「なんとなくじゃないですか。もう少し具体的に」
「まぁ冗談ですが、産後は今までの九割の力しか出せなくなった感じですかね? 今まで、食事に気を使って、丁寧に食べる様になったり。まぶしい太陽の様な笑顔が、ポカポカ陽気の様な笑顔だったりで」
「ふむ。コレが母親になるって事ですかね?」
「女性では無いので良くわかりませんが、多分子供でしょうね。日向で椅子に座りながら、お腹を擦ってましたし」
「ただののろけですか。まぁ、変わってくれることを祈りましょう」
「ですね。あ、出産祝いどうしよう」
「まだ日本人してますねー。王族が受け取りますかねー、しかも殺そうとしてた相手の」
「ジャスティス君にやるんすよ。王女にはやらねぇっすよ!」
「あいつからあんなものを貰って! とか騒ぎだして、離婚とか……。まさか狙ってませんよね?」
「祝い品一つで、そこまでなると思ってるんですか?」
「あのままの性格なら、考えられますが……。まぁ、変わる事を祈りましょう」
「そうですね」
そんな感じで会田さんと別れ、島に戻った。
「アレが親ねぇ、周りのサポートとか万全だから平気だと思うけど、子供の性格歪まなきゃいいけど。成長したら、子供が俺の討伐に来ねぇよな?」
そんな小さな不安を抱えながら寝た。