I Became the Demon Lord and my Territory is an Uninhabited Island
Episode 141: When My Sister Was Afraid
予定通り、皆は二日後の朝に、船の前に集まって来た。
「あれ? 多くね?」
酒場にいたのが五十人くらいだろ?なんで八十人もいるんですかねぇ?
まぁ、答えは直ぐに出た。妻子持ちだった。あそこにいたのが五十人だけど、二十人は妻と子供がいたのだ。まぁ子供は十人だったが、このくらいなら、俺が子供の頃の、クラスメイトの数と変わらない。だったら、後は学のある人に、教師役をやって貰えれば問題無い。イセリアさんは孤児院出身だし、臨時でやらせても良いかもしれない。面倒見がいいし。
人族の子供達も、たまには魔族の誰かに教わるのもいいだろう。
けどまずいな、五十人分の食糧しか用意して無い。どこかでさっさと買って来ないと。
「船長! 三十人分の食糧追加できますかね?」
「……客室が少し狭くなりますが、そこに小麦を置けばどうにか」
「わかりました。誰かにその辺で、買ってきてもらってください」
「少しだけ、トラブルがありましたが、問題ありません、我々アクアマリンの住人は、皆さまを歓迎いたします」
少しザワついているが、まぁ、悪口的な物は聞こえないから平気だろう。
「事前に、旦那様から聞いていると思いますが、仕事は簡単な物から、力仕事もあります。既に共同住宅もありますし、今持っている荷物だけ置けば、問題無く生活できます。あ、特殊技能をお持ちの方は事前に申し出て下さいね。今ここで言えないなら、甲板で良く釣りをしているので、その時にでも言ってくださいね。奴隷商人で、島民を奴隷狩りの手引きをしたら、取りあえず『殺してくれ』って泣き叫ぶまで酷い事をしますので」
笑顔で言ったら、やっぱり引かれるんだよな。俺の笑顔ってそんなに怖いか?まぁいいか。
「食料の補充も済みましたので、出航します」
「はい、よろしく願いします」
そうして、八十人を追加した船は、ゆっくりと島に向かって出航した。
「あー釣りはいいねぇ。針が付いて無くても、餌が付いて無くても竿を垂らしてるだけでも、十分だわー。すいへーせんさいこー」
「いや、魚釣ってくださいよ。飯が増えるんですから。しかもカームさんの飯に皆期待してるんですよ?」
「ちゃんと針も餌も付いてるから……ほら!」
竿にあたりが来たので、バラさないように、あわせてから竿を引き、糸をたぐり寄せる。
「大物ですねー。よく糸が切れませんね」
「んー? 魔力通してるし」
そう言って、糸を持って、ウネウネと動かす。
「魔族卑怯だわー」
「竿からって結構面倒なんですよ?」
右手で竿を持ってから、そのまま針先だけを動かして、左手に乗せる。
「で、さっきから隣にいる、猫耳の女性は誰ですか?」
「なんか好かれちゃってさ、いくら断っても諦めてくれない、スラムの酒場で働いてたウェイトレスさん。あー元か」
「丁寧な説明ありがとうございます」
「強い男が好きで、妻子持ちって言っても、諦めてくれないんですよ」
「んふふー」
「いやいや、抱きついてこないで下さいよ」
背中に当たる幸せが二つあるが、我慢する。無心無心……。
「海の男も強いっすよ? 俺なんかどうっすか?」
別の船乗りが右腕を曲げ、力こぶを作ってみせる。俺にはあまり無い筋肉だけど、遅筋多めだから別つにいいや。
「んー、強くても人族はちょっとねぇー」
「あらら、残念」
「カームに勝ったら、人族でも考えてあげるわ」
「ははは、絶対に無理だなぁ」
「意気地無し」
「俺の娘みたいな事を、言わないで下さい」
「一回、何も出来ずにやられましたからねー、あんな思いは二度としたくないなー」
「いやいや、これ以上俺の株を上げないで下さいよ」
「カームさんは謙虚すぎなんですよ、もう少し雑で威張っていても良いんですよ?」
「努力します」
冷や冷やした、もしかしたら魔王って言われるのかと思ったわ。
釣果はまぁまぁだったので、 全員に行き渡るように、スープにした。
◇
なんとか自分の自制心を、二つの幸せの固まりから守りきって、船は島の北側に停泊し、小舟で浜まで移動した。
この人は本当にどうやったら諦めてくれるんだ?
「ようこそアクアマリンへ、我々島民は、皆様を歓迎します。まぁ、太陽のでる方向と、島の反対側にもとりあえず島民はいますが、皆さんはここを、ベースにしてもらいますね。先に来ていたラズライトの方もいますので、顔見知りの方もいるのかもしれませんね。とりあえず代表はトローさんという事になっていますが、スラムのボスをやっていた頃に比べ、比較的おとなしくなっていますので、問題はありませんよ」
そう言うと、皆が物凄く嫌な顔をしていた。まぁ、スラムの暴れん坊をしてたからな、そのうち多少大人しくなったってわかるさ。
「では、取りあえずまとめ役のトローさんに一言お願いしましょうか」
「あ゛!? 俺ぇ?」
「えぇ、取りあえず様子見て、ゆくゆくは村長を任せても良いと思ってますので」
「……それは本気で言ってるのか?」
「えぇ、どうぞ?」
「あ、あー……。知っての通りセレナイトのスラムで、少しヤンチャしてたトローだ。自分でも、生活環境が変わっただけで、驚くほどおとなしくなったのを実感できてる。ここはのんびりとした島だ、人口も少ないからその分敵がいない。むしろ、手を取り合って協力しないと、スラムに比べたらかなりマシだが、中級区みたいに、満足に生活できない環境だ。だからなるべく喧嘩しない様に生きていこうぜ。ちなみにだが、隣にいるカームは、こんな感じで優しい奴だが、中々腹黒いから、怒らせない事を進める、以上だ。これは経験談だからな、本当だからな!」
随分と酷い言われようだな、まぁ、歩かせて、持ってきたメモを破いて、心を折ったけどさ。
「はい、挨拶ありがとうございました。別に腹黒い自覚は無いですが、まぁ、そう言われるならそうなんでしょうね。ちなみにですが、騒ぎを起こしたので、罰を与えないと示しがつかなかったので、罰を与えただけです。一応見なかった事にしましたが、ここで働いた給金で食べ物を買って、卒業した孤児院に持って行くという、心の余裕を見せてくれたトローさんですので、何の根拠も無しに、村長を任せると言ったわけではありません。本人は否定していますが、どう考えても面倒見のいい方ですので、何かあった場合は頼ってください。では施設の使用方法も、仕事の手順も、先に来ていた皆さんが教えてあげて下さい。では自分は失礼しますね。あ、野草さん、ある程度の仕事の仕方とか、教えてくれました?」
「えぇ、ばっちりです! 私がいなくても、明日から、収穫とか熟成とか任せられます。カカオ豆の製粉とかはまだですが、取りあえずはまだで良いでしょう」
「そうですね、もう少ししてからでも問題無いですね。それとトローさん。いきなり振られて、それだけ言えれば十分すごいですよ。じゃぁ湾の所に帰りますから、あ、パルマさんとフルールさんの事教えました?」
「はい、ばっちりです」
「なら平気ですね、帰りましょうか」
俺は、転移陣を発動させ、湾の所まで戻ってきた。
「あ、夕食作ってやるの忘れた」
「第二村でも、作ってあげてましたからねー」
「酒でも持って、もう一度行ってきますよ。あー、サハギンさんに、魚も適当に持ってきてもらうか」
絶対ノリの良い、顔だけ魚のあれが来ると思うけどな。あとクラーテルの姐さん。
「ちゃーっす、歓迎会用の酒持って来ましたー。いやー、新しい村を作って、大人数を迎え入れた時は、歓迎パーティーやってるのすっかり忘れてましたよー」
「よし、とりあえず部屋の割り振りは済んだな。そしたら男と女に別れて湯浴みの準備だ、ここじゃ汚いのは嫌われるからな」
砕けた雰囲気で転移したら、トローさんが色々指揮してるところだったが、俺と目があった瞬間に、顔を赤くして気まずそうにしていた。
「いやー、村長になる前には、やっぱりリーダーですよね。良いですねー、そのまま続けて下さい。俺は歓迎会の準備しますんで」
ニヤニヤしながら酒樽を転がし、共同住宅の外にある竈に向かった。
「お、おい、すぐ戻ってくるなんて聞いてねぇぞ!」
「本当に、うっかりで忘れてたので」
ニヤケながら言ったら、恥ずかしそうに、共同住宅に入って行ってしまった。かわいいな。
よし、準備に取りかかるかー。
下準備を、女性達にも手伝ってもらったが、アジョットタイプがこないな。魚が届かないと、スープが出来ないじゃないか。まぁ、パンでもこねてるか。
それにしても八十人か、共同住宅三棟作ってて正解だったな。それと、この寸胴鍋で一つで足りるか?もう一個借りてくるか迷ってたら、アジョットさんが魚を大量に持ってきてくれた。
「多いって聞いていたから、多めに捕ってきたぞ」
多分ドヤ顔なんだと思うが、顔が魚だから表情がわからない、そして名前もわからない。
「ありがとうございます」
「いや、お礼にちょろっと、酒をもらえれば問題ないぞ」
そして、肺呼吸なのか、エラ呼吸なのかもわからん。綺麗なバタフライ泳法をしてるのも、なんかムカつくが、顔が人寄りなら、なんかものすごくイケメンな気がする。
「飲んで泳いで平気なんですか?」
「ん? この間の年越祭で、岩礁にぶつかったが、かなり痛かったな」
時速四十キロメートルで電柱にぶつかるのと変わらないか、よく生きてたな。
「程々にして下さいよ」
「いや、あれは姐さんが悪い。薄めてない酒を注いできたからなぁー。美人に注がれたら、飲み干さなきゃ、男としてまずいだろ?」
「そんなクソ安いプライドなんか、海底に沈めて下さい」
「そんな事できるわけがないじゃないか! 姐さんだぞ姐さん。あの大きな胸、ほんわかした雰囲気、男を見せて株を上げなきゃだめだ!」
「いや、酒じゃ勝てねぇっすから……」
絶対、酒以外も俺より強いから……。竜族って魔王になれない決め事でもあるの?
「一回でも抱きつかれてぇなぁ!」
「多分背骨が折れますよ?」
「抱きつかれたことあるのか?」
「一度だけ。飲みやすい酒を考えてたら、いきなり現れて、褒められて、抱きつかれた時に背骨が軋みましたし……。胸の柔らかさなんかより、背骨の事で頭がいっぱいでした」
「うらやましいですね、俺も酒に関わる何かを考えた方が良いのか?」
「死にたくなければ、一緒に酒飲んでる事を進めますよ。そしてラッキースケベでも狙って下さい」
「なんだそれは?」
「んー、偶然胸が当たっちゃったとか、姐さんがつまづいた先に立ってて、抱きつかれたとか?」
海草酒とかあまり考えたくもない。せめてフルーツでも漬けててくれ。
とりあえず俺は、話しながらでも作業ができる人間です!
アジョットと話しながらでも魚をさばき、近くにいた女性に渡して、焼き魚を作ってもらったりしてもらった。前回同様、アラは寸胴にぶち込み、汁物にする。
今回は子供もいるからな……チョコを練り込んだパンでも焼くか。あとプリンも追加で。
「うぉ! 誰だおまえ!」
建物から、トローさんが出てきて、アジョットを見て驚いている。
「ん? あぁ俺はガウリだ。この島の周りで魚を捕ったり、小舟を引いたりしている。見かけたらよろしく頼む」
初めて知ったけど、響きがかっこよすぎるだろ……。
「お、俺はトローだ。この村を仕切ろうとしてる。よろしく頼む」
「あぁ、よろしく頼む」
性格良し、体格良し、首から上が残念だけど、総合的には良い奴なんんだよな……頭で、ものすごく台無しだけど。
食事作りが終わり、大量の料理をテーブルに運び、軽い挨拶と乾杯の音頭をトローさんに任せようと思ったら、嫌でも目に付く、明るめのワインレッドの髪の姐さんを見かけた。いつ来たんだよ、しかも、もう酒のカップ持ってるし。
トローさんが、恥ずかしそうに挨拶をして、乾杯をすると、盛大に宴が始まる。
子供達にも、色々な果実のジュースを用意してやり、少し多めに唐揚げも用意してやった。
どれだけ肉に飢えていたのかわからないが、全員が魚より肉を重点的に食べている。まぁ、港町のスラムの食事時情は、やっぱり魚の方が多かったか。
ある程度酒が入り始め、とある男がよった勢いで姐さんに抱きつき、胸に顔を埋めた馬鹿がいた。周りは盛り上がっているが、俺とガウリさんは、顔が真っ青になった。
「あらあらー、おいたは駄目ですよー」
酒をもっていない右手で、胸にある頭の後頭部付近の髪を鷲掴みにして、笑顔のまま無理矢理引きはがし、髪を放して、髪を掴んでいた右手がブレたと思ったら、腕を真横に伸ばしているのが見えた。
その後に、白い半円の膜みたいなのが見え、すごい音と衝撃派が飛んできて、海が一瞬だけ二十メートルくらい割れた。
腕を真横に突き出しただけで、ソニックブームが出るとか、魔王も放置で、触らぬ神に祟り無しって感じか。姐さんが魔王じゃない理由も、これかもしれない。
「アガァツ!?」
「悪い事をしたら、なんていうんだったかなー? お姉さんに教えて欲しいなぁー?」
物凄い笑顔で、相手を威圧している様にしか見えない。ってか見てる俺も怖い。あんなパンチが当ったら、頭が血の霧になるぞ。
「申し訳ありませんでしたー!」
そう言って、地面に寝転がり、腰の辺りに両手を乗せている。どこかの国の特殊部隊が、突入して来た時に、無抵抗を表すような方法だった気がする。
土下座の文化が無いから、コレが一番最も最上位に位置する謝罪方法なのかな?後頭部見せてるし、首を落されても文句は言わないって感じだろうか?
「次は無いですからねー、顔は覚えましたよー」
「はい! 温情に感謝します!」
スラムに住んでた、ガラの悪いと男が、あそこまでいうとかすごいな。
ってか姐さん怖いな。逆鱗に触れない様に気を付けよう。竜族なだけに!