I Became the Demon Lord and my Territory is an Uninhabited Island

Episode 143: The Thing When Something Is Asked: Part 2

夜会の開催日の夕方に風呂に入り、いつもの服装になるが、違うところは、綺麗にアイロンをかけたシャツとズボンってところだ。

いつもの服で良いと言われたが、今になって少しだけ後悔してる。本当にこれでいいのか?と。

まぁ、クラヴァッテからは体格的に服は借りられないし、スッパリあきらめて、笑われよう。

「あー精油つけるかな、けど食事も出るからな。持って行って、誰かから香ったら物陰でつけるか」

「それがいーんじゃない? きついのはダメだよー」

「わかってるよ、食事も出るからラベンダーかレモンにするよ」

「まぁ、私はカーム君の、汗の香りがいいんだけどねー」

「それには同感」

「子供達の前で、そういうのは勘弁してくれ、んじゃいってくる」

昨日の夜に、軽く説明してあるから、こんな挨拶だけで済む。

「いってらっしゃい。この間みたいに襲撃はなさそうな話だけど。あったら殺してでも生きて帰って来て」

「いや、もう住んでる場所割れてるから。島の方も」

「なら五人で逃げちゃおっか?」

「そうならない事を祈るよ。んじゃ行ってきます」

俺は玄関先で転移魔法を発動して、上級区前の門番の前に飛ぶ。一応、ごっつい犬耳の門番の事もあるからね。

「こんばんは、こちら手土産のチョコレートですので、食後にお茶と一緒に出していただければ……それと招待状です」

「かしこまりました」

「無理言って申し訳ありません」

「味見をしてから、茶葉を選ばせていただきます。では、こちらへどうぞ」

犬耳メイドさんに、応接室ではなく、五十人程度は余裕で入れる広いホールに案内された。

おっほ、俺だけ場違い。ホールの視線釘付けだ。しかも立食か、隅の方で貝にでもなってるわ。

奥の方では、何か楽器の生演奏が始まってるし、ダンスもあるのか?まぁいいさ。楽器もダンスもできないからな。

「やぁカーム君、本当にいつもの服装なんだね」

ホールに案内されたら、いつもより装飾が多い服を着た、クラヴァッテが挨拶に来てくれた。本当は俺の方から行くのが正しいんじゃねぇの?

「えぇ、クラヴァッテ様が、いつもの服で良いと言っていただいたので。まぁ、アイロンくらいはかけてきましたけどね」

俺は笑顔を作ったが、たぶん目が笑ってないと思う。

「気にしないでくつろいでくれたまえ」

「そんな事言ったら、本当にイスに座ってだらだらしちゃいますよ?」

「面白い事を言うじゃないか、やれるものならやってみたまえ」

「では、お言葉に甘えて隅の方でだらけてますよ」

「相変わらず、変に度胸があるな」

「こういうのは初めてですからね、主催者に言われた事をやってれば、問題ないはずですし」

「まぁ、色々(・・)楽しんでくれたまえ」

「えぇ、色々(・・)ですね」

ここで二人が悪い笑顔を作り、「ほかにも挨拶してくる」と言って、奥の方に行ってしまった。

奥の方にいた、目つきが氷の様に冷たい女性……。奥様がにらんでたけど、俺は悪くないよね?

あらー、あれがお子様?とても利発的な感じの雰囲気じゃないか。目つきが奥さんにそっくりで、少し怖いけど、男の子だからクラヴァッテの将来は安心だな。ってかあの王族みたいに、貴族も第一子が女でも問題ないのか?

とりあえず、ホールの壁際に有ったイスを目指し、途中で食前酒をもらい、あまり迷惑をかけないように気楽に構えつつ、ゆっくりと酒を飲む。

なんか甘みの強い果実酒だな、ポートワインみたいだ。

しばらくボーッと座りつつ、口を湿らせる程度には酒を口に運び、視線だけを動かし、周りを観察する。

んー犬耳が多い。クラヴァッテが犬系だからか?

それにしても、立食になると色々な人柄が見れるな。メイドをナンパしてる貴族風な男。遠巻きにこちらをチラチラ見てる、ご婦人グループ。最近の流行物や流通の流れや、税関の事を話してる、情報交換してる商人グループ。クラヴァッテと話しをしようと、機会を伺いつつ順番待ちしてている奴。そして、壁際で一人寂しく人間観察しながら酒を飲んでる俺。

で、この催しは何なの?

「あ、すみません。同じ物をもう一つ」

食べ物を取りに行かずに、通りかかったメイドに果実酒を頼み、二杯目をちびちびと、半分くらいまで飲み終らせたら、クラヴァッテの演説が始まった。

「今日は、私の息子の三歳の誕生日を祝う席に来て頂き、感謝する!」

んー、島に行きはじめた頃に、最近子供が産まれたっていってたからな。島に来て年越祭二回やってるから、三歳くらいでも問題無いか。

少しだけ考え事をしていたら、演説が終わっていたらしく、クラヴァッテの子供が前に出てきた。

「テフロイト領の、クラヴァッテ=テルノの第一子、コルヴァータ=テルノです。父に負けぬよう、日々努力して行きますのでよろしくお願いいたします」

ホール内から拍手が鳴り響き、恥ずかしそうにしている。本格的な社交界デビューの前に、三歳の誕生日を期に少しずつ、顔を出させるつもりなのか?ってか誕生日の概念あったんだな。年越祭から数えてたのか?俺なんか秋の頃だぞ?大体だぞ?

三歳なのに、背中に鉄板が入ってる様な立ち方をして、丁寧な言葉遣い。多分母親の教育だろうな。俺の子供達は、三歳の頃は何してたっけ?あーのんびり、過ごさせてたわ。しかも激甘な二組の両親が溺愛してたからな。貴族って怖いなー。

その後も、軽く食事をつまみつつ、隅っこの方で酒を飲んでいたら、目の前から、先ほど挨拶したコルヴァータ君がやって来るじゃありませんか。この時点で、嫌な予感しかしないんだよな。

俺に話しかける気満々だったらしく、俺の目を見て近づいて来るので、仕方なく立ち上がり、一歩前に出る。

「カーム様ですね。先ほども紹介しましたが、改めて挨拶させて頂きます。コルヴァータ=テルノと申します。父から話は伺っております。今日、配膳されているベリル酒の開発者であり、故郷の村に多大なる貢献をしたと聞いております。それと魔王になり、無人島を与えられて島を開発し、最近ではアクアマリン商会なる物を立ち上げ、色々な嗜好品を開発したとお聞きしました。これからも我がテルノ家との御付き合いを、よろしくお願いいたします」

故郷のベリル村出身は言ったかもしれないが、酒を開発した事は確か言ってないよな?アクアマリン商会も、最近しぶしぶ立ち上げただけで、チョコやココアは、今日初めてお土産で持ってきたし……。素性でも過去に調べられたか?貴族怖いわー。相手に弱みとか見せずに先手取ってくるわー。

「これはこれはご丁寧にありがとうございます、コルヴァータ=テルノ様」

「まだ爵位を頂いておりませんので、様はいりません。それに、カーム様の方が歳は上です。ですので、まだ何も出来ないこの身より、カーム様の方が偉いので、私には普段通りに接して下さいませ」

三歳の子供にこんな会話させるとか怖いわー。貴族怖いわー。しかもあいさつ回りさせるとか貴族社会本当怖い。魔王は一代だけで済んで良かったわ。

「そうですか、ではコルヴァータ君でいいかな? 年上年下関係無く、丁寧語が多くてね。まぁ、親しくなれば態度が砕けるようになるから、そうなったら、親しくなったと思ってくれていいですよ」

ニッコリと笑い、引かれると思ったが、そんな事は無かった。態度には出さないのか、怖がってないかのどちらかだ。

そんな話しを聞いていたのか、なんか一人の男がこちらをチラチラ見るようになった。例の商人だろうか?なんかかなりイケメンだな。アフガンハウンドみたいだな。シュペックとは大違いだ。

今更だけど、コボルトと、ワーウルフや、ワードッグの違いって何だ?

「まぁ、アレです。島の特産品も手土産として、少しだけ持って来てありますので、食後にでもどうぞ」

「ありがとうございます。もしかして、このような催しはお嫌いでしょうか? 先ほどから、こちらの席で誰とも話しをせず、お酒を飲んでいるようですが」

「そうですね、経験が無いので、どのようにしていいのかわからず、隅の方で貝になっていますね」

「でも多分平気でしょう。カーム様に熱い視線を送っている方も居りますし。では、他の方にも挨拶がありますので、これで失礼します」

コルヴァータ君はそう言うと、次のお偉いさんらしき人の所に行ってしまったが、入れ替わりで商人らしき男がやって来た。わざと聞こえるように話をして、この商人の気を引いたか。気遣いも出来るとか……。絶対母親の教育だろうな。クラヴァッテの教育係もしていたって聞いてるし。

「貴方が、ベリル村から来てくれた代表の方ですか? 自分はとある町で、しがない商人をやっている者なのですが、この町の宿屋で出されたベリル酒を物凄く気に入り、クラヴァッテ様に無理を言って相談させて頂いたんです。そうしたら心当たりがあると、便宜をはかっていただきまして」

しがない商人ねぇ……。謙遜を使うし腰も低い、油断できないな。

「そうでしたか、故郷の酒を気に入っていただきありがとうございます。熱を上げている者が聞いたら、大喜びする事でしょう。ですが、在庫の関係上、どうしても一樽しか都合することが出来ず、申し訳ありませんでした」

「いやいや、これは売るものでは無く、個人用(・・・)ですので」

「そうでしたか。かなりいける口で?」

右手でクイクイとカップを動かす仕草をして、にやけてみせる。

「お恥ずかしながら……。ベリル酒は色々な場所の物を飲みましたが、本場の物となると、ひと味もふた味も違いますし、香りも違いますね」

「竜族が指揮をしてますし、その者の故郷の方々と技術交流や、意見交換もしておりますので、お互いに技術を高めあっております」

「そうでしたか。そう言われれば、この味は納得できますね」

商人は、手に持っていたグラスをクルクルと回し香りを楽しんでいる。薄いグラスに入れて、手のひらで暖めながら嗅がないのは、嗅覚が鋭いからだろうか?

「ありがとうございます。実は、もう一樽ほど用意してありますが、こちらは自分達が立ち上げた、アクアマリン商会のサトウキビで作ったベリル酒になってますので、別な味が楽しめると思います

「おぉ。それは楽しみです」

「若くても、数回季節が巡ってもおいしいので、変わっていく味をお楽しみ下さい。気に入っていただけたら、取引も可能ですし、勉強させていただくつもりですので。そしてこれが、より美味しく飲むためのコツみたいな物を書いた紙です」

そう言って、カクテルのレシピと、ある程度の卸値や、どのくらいまでなら値引きできるかを書いた紙を渡し、商人は軽く目を通している。

「……そうですか、このような飲み方もあるんですね。商談の話は、後日酒が入ってない時にでも、クラヴァッテ様を通して……」

「ははは。まずは、味を楽しんでからにした方が良いですよ?」

「そうでしたね」

会場の隅で、少しだけ大きな笑い声が響くが、別に周りの注目を集めるほどではなかった。

まぁ、これで連絡がこなかったら別にいいや。

その後は、誰かに話しかける必要も無かったし、話しかけてくるお偉いさんもいなかった。

手持無沙汰になったので、適当に近くのテーブルから、本格的にサンドイッチや肉類を取り、観察に戻ることにする。

やたら熱心に、メイドさんに話しかけてた貴族風の男は、ものすごい笑顔だし、ご婦人方も商人達も、情報交換はとっくに終わっているらしい。

メイドと貴族……ねぇ……。こんな会場にいるんなら、玉の輿か?良かったんじゃね?

ご婦人グループもなぜか、チョコが出てきてからジロジロこっちを見てくるようになったし。

商人達もなぜか、俺を見るようになった。あのアフガンハウンドっぽい商人が、話かけてきてからだな。

そう思ってたら、一人の商人が、何かを覚悟したかのようにこちらにやってきた。

「あの、少々おたずねしたいのですが」

「えぇ、構いませんよ」

俺は立ち上がり、食事の手を止める。

「クラヴァッテ様とは、どのようなご関係で? それに、希少品と言われてる、チョコレートが入ってる箱のエンブレムは、アクアマリン商会の物ですよね? これは、貴方様がお持ちいただいたとホール内で噂になっております。アクアマリン商会と、どのようなご関係なんでしょうか?」

絶対関係者か何かと思われてるね。驚かせるか、無難に回避するか。まぁ、面倒だけど島の為だ、あえて面倒な事をするか。

「そうですねぇ。たまに相談したり、呼び出される程度の間柄ですね。アクアマリン商会に関しては、創立者兼代表ですが? ついでにベリル村でベリル酒を作りだし、寒村に名産品を生み出した張本人です」

そう言った瞬間に、遠巻きに見ていた商人達が俺の周りに一斉に駆け足で集まりだし、自己紹介を我先にと始めてきた。めんどくせぇ。超めんどくせぇ!

おいクラヴァッテ、笑ってんじゃねぇよ!助けろ!覚えらんない!こんなに名前覚えられないから!

ってか、クラヴァッテが絶対に噂流しやがったな!畜生!

クラヴァッテの挨拶で夜会が終わり、なぜかメイドに呼ばれ、応接室に連れて行かれる。

そしてしばらくしたら、先ほどの服より、かなりラフな格好をしたクラヴァッテが入ってきた。

「いやー、終盤は楽しかったぞ! 感謝する」

「いや、あんた笑ってただろ。絶対に俺がアクアマリン商会の代表って噂流しただろう!」

「手土産に、菓子を持ってきたのが悪い。アレは、商品の売り込みって意味で持ってきたんだろう?」

「純粋に、利益とか関係なく『うわークラヴァッテ様すごーい、希少品のチョコレートをこんなに入手してくるなんてすごーい。欲しくても手には入らないのにすごーい』的な、心遣いで持ってきたんだよ!」

「おぉ、そうだったのか。すまんな」

今度は堂々と、メイドがトレイで持ってきた酒を受け取って、酒を飲んでニヤニヤしている。上機嫌だなーおい。

「で、酒に関しては感謝する。これで恩を売れたぞ、鉱山付近の入荷ルートが出来たから、鉄の価格を下げられる」

「へーへー、そうですか……」

ん?鉱山?銅とか安く手に入れられる可能性が出てきたな。少し便宜でも図るか。

「そっちだって、商人にモテモテだっただろう。これで新たな出荷ルート開拓だ」

「いや、急にやると生産おいつかねぇっすから!」

「カーム君ならやれるって」

「何を根拠に、そんな事を言いやがりますか。この酔っぱらいが」

「根拠はない、なんとなくだ!」

俺はメイドさんの方を見て、どうにかしてくれとアイコンタクトを送るが、目を反らされてしまった。主人には何もいえないよな。奥さん、来てくれ!

「それに、息子はあんな感じだが、年相応でな。チョコレートをうれしがっていたぞ」

「それはどうもです」

「けどな、嫁は良い顔をしなかったがな」

あの時睨んでたのはこれかよ。昭和の高度成長期のお母さんかよ!

「まぁ、上手く使ってご褒美にすればいいんじゃないですか? 飴と鞭ですよ」

「そうか、あいつの嫌いな、歴史に使えばいいんだな」

「歴史なんか、俺には必要ないですがね」

「貴族には必要だぞ? 何代前の頭首の開拓したーとか。戦場で活躍し、そこから成り上がった家系の一族とか」

「あー、俺がもっとも生きるのに必要のない知識だわー」

金閣寺建てたのって、宮大工だろ?ってレベルだし。

「そのうち、カーム君が死んだら語り継がれるから、安心して死んでくれ」

「生きてる者が歴史を作るから、関係ないっすよ。勝手に作って下さいって感じです。俺が生きてるうちに、そういう伝記とか書き出す奴が出ないことを祈りますよ」

「お、それ面白そうだな。僕とは違って、ずいぶん分厚い伝記が出来そうだ」

「冗談は止めて下さいよ、暇つぶしに本当に派遣してきそうなんで……ってか冗談も本気に聞こえるんで」

「まぁ、そのうち誰かが書くだろ。あ、酒を頼む、手酌するからそのままで良いぞ」

「いや、平気ですから! 結構ですから!」

メイドに酒を催促し、更に二杯目を飲み始める。

「なんだぁ? 僕の酒が飲めないのか? それとも僕の前では酔いたくないのか?」

めんどくせぇ!すごくめんどくせぇ!

「はいはい、んじゃ一杯だけ」

「よーし、これで一杯は一杯だ!」

そう言って、グラスの表面張力を利用して、なみなみと注いできた。今から、この酒の中に硬貨でも入れるのかい?

「はっはっは。中々お茶目ですねー」

「こんな言葉を聞いた事がある、杯からこぼれるくらい注がなければ、注いだ内に入らぬ。とな」

「ぜってー、竜族かドワーフ族ですねそれ」

そう言ってから、一口分の酒を水球の応用で浮かせ、そのまま口の中に入れ、グラスを持ち上げてから、クラヴァッテのグラスに、コンッとぶつけ、「乾杯」と言う。

「おー、なんだそれ、すげぇ便利そう」

「便利ですよー、こぼすのももったいないんで、余興みたいなものだと思って下さいよ」

「前から思ってたが魔法使い系は、色々と頭がおかしいんじゃないのか?しかも魔法系魔王は特に」

「否定できないのが悔しい……」

「ほら、そんな事よりさっさと飲んで、僕に追いつけ」

そう言われても、無理なんだよなー。

「いやー、俺って酒に強いんですよ? うわばみですよ? 良いんですかそんな事言って?」

「さすがに、竜族には勝てないだろー」

「あいつ等は、どうやって入れてるのかわかんねぇですけど、大樽半分くらい平気で飲みますからねー」

「本当かよそれ!」

そんな意味のない会話が一時間くらい続き、クラヴァッテがつぶれ始めてきた。

「いやー、今日はつまらない夜会だったが、そんな事はなかったぞ。カーム君のおかげだな、あんなに慌てるような奴だとは思ってもいなかった。なんだかんだで、気を許せる相手って結構少ないからな、ドイツもコイツも粗探しや、弱みを握ろうと必死だ。商人だって、物を売りこもうとする。貴族社会に生きるって、こんなもんだ。まあ、カーム君は縁を伝って、冗談で前々から人材を、せがんできたけど、まさか本当になるとは思わなかったよ」

「そうですねー。けど、人材の話題は四回目だから、そろそろ酒を止めましょうか」

「僕は酔ってないぞー?」

「いや、酔ってますし。少し前に奥様が入ってきて、ものすごく睨んでるんで、今日はもうお開きにしましょうか? ね?」

もう俺達の事を、汚物を見るかの様な目で見てくるし、本当勘弁してくれよ。こんな気まずい酒は勘弁だぜ。

「あん? そうか……気がつかなかったよ。すまないな」

「いえ……。あなたが、このように気を許せる相手と、お酒を飲み交わすのは悪い事とは思ってませんが、酔いすぎてご友人にまで失態を晒すのは許せません。飲むなとは言いませんが、仮にでも頭首ですので、限度という物をですね」

「……そうだな。カーム君、見苦しいところを見せてすまなかった」

「いえいえ、俺は全然気にしていませんので、酔いを醒ましてからお休み下さい」

失態をばらすなって、目で訴えてただけか、すごく怖くて、言う気にもなれないわ。

「ん、良い気晴らしになった。門まで見送りたいが、思っていた以上に足に来てるみたいだ。すまないが、ここで失礼させてもらう。悪いが見送ってあげてくれ」

「かしこまりました。では、門までお送りいたします」

「ありがとうございます。では、今日はお誘いありがとうございました」

当たり障りのない挨拶をして、犬耳メイドの後ろをついて歩くが、玄関から門までの間に、

「これは独り言なのですが、クラヴァッテ様が、あのように楽しそうにしているのを見たのは久しぶりです。どうか、今の関係を壊さないようお願いします」

と言われ、「もちろんです」と返し、上級区の門を出てから家に帰った。

「いやー、すまなかった。思ってた以上に話が弾んでしまってな」

「いえ、問題ありません。数少ない気を許せる相手で、頼みごとをしても、見返りが『口を利いてくれ』ってだけなのは、欲がなさ過ぎです。本当に裏がないのか疑いたくなります」

「あいつはそんな奴じゃないさ。やってるなら、もう少し早く欲を出してる。今回は、僕が借りは作りたくないって言ったから、今まで冗談で言っていた事を、本格的にお願いしてきただけだ。次男か三男、次女か三女がいる商人に話を持ちかけ、それなりに経営関係に知識があって、数字に強い子を募集しよう。発展途上のアクアマリン商会の経理だ、便が悪いだけで、それなりの好条件だな」

「確かに。そう言われればそのような気もしますが、実際のところどうなんでしょうか? 視察して、状況を把握してからではないと、大切な子供を出して頂いた商人に申し訳が立ちませんよ?」

「……それもそうだな。声をかけつつ、一度自分で行ってみるべきだな。さて、これは本当に酔いを醒ましてからじゃないと、二日酔いになるな、夜風にでもあたりたいが、今日はそんな気分じゃない」

「そう言いながら、お尻を撫でないで下さい。誘うなら、もう少しわかりやすくお願いします」

「そいつは失礼。でも、今日はかなり酔っている。このままだとベッドでは本能のままに、獣になってしまいそうなんだが?」

「趣向としては悪くありません、たまになら悪くないと思います」

「そうか、なら今晩どうだい?」

「そういえば、コルヴァが妹が欲しいと、言ってましたね……」

「そいつは、作ってみないとわからんな」

僕は、笑いながら、キスだけは優しくした。