I Became the Demon Lord and my Territory is an Uninhabited Island

Episode 165: Attempting to Reach Out to the Fiber System

リリーに付けられた傷がかなり薄くなり始めた頃、俺は製糸関係の話を詰める為に織田さんを連れて、テーラーさんのところに向かった。

「便利だな」

「便利っちゃ便利ですが、制約が多いですよ」

「体一(からだひとつ)と手荷物程度で飛ぶだけなら十分だ。案内してくれ」

そうして俺達はセレナイトの門を潜った。

「ここか」

「えぇ、裁縫や服飾は……ですね。姉妹がいて、そちらで製糸してるような事を言ってたので、詳しくはそちらでしょうね」

「建築が間に合えば良い」

そう言いながら店内に入ってた。

「お久しぶりです、カームですが」

やっぱりカウンターにいないので、大声で呼ぶと奥からやっぱりハサミをジョキジョキさせてやってきた。

「あらー、お久しぶりですね」

「えぇ、新しい店舗と工場を建てる為に、棚や機材の寸法を測りに来ました」

「悪いが勝手にやらせてもらう。少し世間話をしててくれ」

織田さんは、特に気にする事なく自分の作業を始めてしまった。本当に業者みたいだな。

持って来た紙に簡単に図面を引き、持って来た麻紐で長さを計って切って、紙を括り付けて番号を振っている。

メジャーがないからああいうので測っているんだろうか? ってか長さの基準の概念がないからな。本当に困る。

「あの、あの方は?」

「あぁ、すみません。うちの細々した事を担当してくれてる技術者です」

「人族……しかも髪が黒いですが……」

「一応勇者なんですよ。なぜか島に住んでくれてましてね。大変助かっております」

「そ、そうですか」

テーラーさんは何故か焦っているようだが、こんな表情を見るのは初めてだ。やっぱり魔族と勇者の関係だからだろうか?

「棚の大きさはこれと同じで良いのか?」

「は、はぃ!」

おー、焦ってる。

「要望があるなら言ってくれ、じゃないとこれで作るぞ」

「なら……」

少しだけオドオドしながら要望を伝え、織田さんがそれに答えるようにどんどんメモをして、わからない事は何度も聞いている。

「大体の全体図はこうなるな」

下敷きにしていた板から紙を外し、カウンターの上にのせ、丁寧に説明を始めた。

「布の横幅が人族と魔族で特に変わらないらしいから、棚の幅は一緒にして、染料での色の違い順、そして高い糸を使った布には、こんな感じで少し薄い引き出しを何個も重ねたような感じで、埃や日焼けを防ぐようにしてみた。そして店内は広めにして、デザインした服や、流行物の服を飾っておける、木の人形を配置しようと思ってるがどうだろうか?」

どうだろうかって……。結構強引に進めるな。

「えぇ、埃や日焼けに関しては賛成ね。今までは奥の薄暗いところに布をかぶせておいたから」

「居住スペース……住む場所はどうする? 店と一緒にするか? 別にするか?」

「そうねぇ。布に料理の匂いが移るのは避けたいから別で」

「わかった。販売店はこれでいいとして製糸所だ。案内を頼む」

「わかったわ。カームさん、店番お願いね」

「うぇえ!?」

「妹の店はこちらです」

適当に話を聞きながら、店番頼まれた。なんでこうなった?

カウンターに座り、客が来ない事を祈りながらドキドキしてたら本当に来なくて助かったが、島に誘致して良かったかもしれない。こんな状態でどう生活してたか不明だが、今よりはマシになるかもしれない。

ってかオーダーメイドが多いから、一着でどうにかなるのかも? 俺のはその辺で売ってた、安物の出来合い物だけどな。

同じ服を何着も持ってると便利だからな。それしか持ってないの? って疑われるが、タンスに黒のロングTシャツとか五枚入ってたし。まぁ無難だし! 後は季節でインナーとか、上着を変えればいいだけだし!

そんな事を思い出してたら、二人が帰ってきた。

「今お茶を淹れますねー」

なんか上機嫌だ。俺とルッシュさんの時は一切出す素振りすら見せなかったのに。

テーラーさんが奥に行ったので、なにがあったかを聞いてみた。

「何かあったんですか? もの凄く上機嫌でしたけど」

「壊れてた機織り機の修理と、整備点検を無償でして、点検する際の注意点や、油の注し方を教えただけだ」

「だからですか……」

昔はイケイケだったんだろうか?

「ああいうのを見ると、どうしても直したくなってね。つい口と手が出た」

「工場や店舗を作るまでは十分でしょうね」

「直すついでに分解したが、分解組立に問題はなかった。搬入して半日もあれば稼働できる」

「お待たせしましたー」

話の途中でお茶が運ばれてきたので、ソレを頂いてから島に帰ろうとしたが。

「コーヒーの香りだ」

大通りで織田さんがそう呟き、そちらに場所を移動することにした。

一回入ったな、ここ。

俺は砂糖たっぷり、織田さんは無糖で飲み始め、

「どこまで話したか……そうだ、搬入までだったな。需要があるらしいから、最初から大きめに作り、更に拡張しやすい作りにしようと思ってるが」

「思ってるが、と言われましても……。必用なら作るしかないでしょうね。話しに聞けば結構希少価値の高い布になるみたいですので、工場を大きく建てても数年で利益が出始めるでしょうね。どんどんやっちゃって下さい。ルッシュさんにも言われてますからね」

「まぁ、そういうと思ってたが……。問題は稼働と生産だ。人手が足りない。いつの時代からこっちに来たかは興味ないが、その時代と……戦前と言ってもいいな。それと一緒には出来ない。布は手間だからな。テレビや昔話で見た様な機織り機だ、なら数で攻めないと間に合わないぞ?」

「……そうですね、とりあえず両方の大陸から工場ができあがる少し前に募集でしょうか。糸を紡ぐ、布を織る。工場の規模と機織り機の数でとりあえず募集でしょうね」

そんな事を話していたら、織田さんがコーヒーを飲み干した。

「羊はどうする、アレも一応布関係の為に買ったんだろう? コーヒーおかわり」

「本当に試験的ですよ、本格的に始めるなら数がいります。綿花があればいいんですが、まだありませんからね。しばらくは麻でしょうね」

「補足しておくが、亜麻(あま)だ。まぁ、麻でもいいが……少し焦りすぎたか?」

「すみません。まぁ、遅すぎても駄目ですよ。物事には時期があります。ソレを逃したら次はいつになるか……。渡りに船だと思いましょう」

「ソレもそうだな。まぁ俺は技術者で、経営に手を出すつもりはないが、地盤が整ってないとキツいんじゃないのか?」

「えぇ、幸い第三村から西側に歩いたところが開いてますし、開墾して牧場やら綿花や麻の栽培が出来ればいいなと思ってます。最初は小さくてもいいし、実績作るまで材料を輸入でもいいんじゃないんですか?」

「ソレもそうだな。けど、流石に羊と綿花は間に合わないだろう」

「そうですね。まずは開墾して第四村でも作らないと……。主に酪農や繊維関係重視で更に人か……大量の移民。絶対に領主から睨まれるよなぁー」

「都合のいいように解釈すれば、貧民を救ってやって治安も良くなってると騒ぐのも手だと思うぞ? コーヒーおかわり」

まだ飲むか!

「いや、流石にソレは……一応魔族領で貴族が管理してる島っぽいんですけど、言い過ぎたからか、口出ししてこないんですよね、アレから」

「あぁ、その話は聞いてる。税金で七割……七公三民だったか? 江戸時代とかだったら暴動だな。六公でも生活がぎりぎりだったらしいのに」

「その貴族の名前すら覚えてませんね。最悪話し付けて、島流しに使おうとしてた収容させてる軽犯罪者でも引き取りたいくらいですよ、軽犯罪者以外はお断りですけどね」

「前々から思ってたが、ネーミングセンスなさ過ぎじゃないか?」

「いえ、一応仮ですので……」

「せめて目を見ながら言え」

織田さんはコーヒーを飲み干した。

「まぁ、恨まれたくないなら菓子折りもって頭を下げるか、勝手に動くかだな。一応義理を通すなら、嫌でも行っておけ」

「あぁ、胃が痛い。あんだけ啖呵切っておきながら、今さらっすか……」

「無駄に頭下げても、元々ないプライドは減り様がないぞ?」

「結構酷い事言いますね」

「下げなくて良い頭を下げるのも仕事だったからな。まぁ、そのくらいの苦労は、島の代表みたいなカームがしても罰は当たらない。島の事を考えるならな」

「すげぇ胃が痛いんですけど」

「そこまでは知らん。まぁ、ここのコーヒーは多少酸味と苦みが強かったがまぁまぁだったな。帰るぞ、一応図面を正式に書かないとな」

「わかりました。では帰りましょうか」

俺は織田さんを第二村に届け、執務室に戻った。

「んーー」

腕を組んで唸っていたら、ドアがノックされたので返事をしたらルッシュさんが入って来た。

「何をそんなに悩んでるんですか? それと今日の分の書類です」

「あぁ、ありがとうございます。それがですね」

今日あった事を話し、どうするか悩んでいる事を相談した。

「スラムに住んでいた者の更生も出来てますし、恥を忍んで行くか、全く関係無い場所で募集するかですね。まぁ、大手を広げて勧誘し過ぎると批判を買いますので、頭を下げに行くのが比較的よいかと思います」

「やっぱりそうですよね……。はぁ……」

盛大にため息をつき、頬杖を突きながら意味もなく机をトントンと指で叩き色々考える。

「前回の春から冬までの収益と利益の出てる書類をお願いします。それから今回の利益見込みを出します。それと名産品リストと、それぞれの売り上げの書類、それに今後出るであろう新商品の目録と、年越祭明けに作る製糸や裁縫関係の書類もお願いします」

腹をくくろう。

「わかりました」

今日は少し寝るのが遅れるな。

目標は魔族側の大陸から、軽犯罪者。人族側の大陸から戦災孤児か寒村丸々買い取るかだな。

で、あの夢魔族の派手な貴族の名前なんだっけ……。

それから俺は去年一年間の収益と利益を書き、今年の利益の見込みと、味噌醤油、日本酒、ジャイアントモスや製糸関係が増えた時の来年の見込みを出して紙に書き、就任してからの過去三年分の三割の収益と利益、今年と来年の収益見込みを出す。

そして事業の成功と、現状維持、失敗の三パターンを出して、取りあえず三年分もついでに出して、最悪利益が減る事もあるかもしれない事を纏める。そしてそれをルッシュさんに翌日に見せた。

「これはなんでしょうか?」

「今までの季節が一巡するまでの利益と、次と次の利益の見込みです。ついでに今やろうとしてる調味料や酒、製糸関係の成功した時と失敗した時の季節が三巡した時の集積を毎回五分ほど掛けてみました」

「それは見ればわかりますが、まさかここまで用意するとは思いませんでした。思っていた以上に優秀なんですね。でもなぜこのような物をいきなり用意したのですか?」

「昨日も言いましたが、ルッシュさんを連れてきた貴族のところに行って、ちょいと相談を持ちかけてきます。腹くくりました」

ルッシュさんは怪訝な顔をした。当たり前だよな、あんなにお互い言い争いしてたんだから。

「一応聞きますが、本当に行くんですか?」

「織田さんと話し合いまして、多少大きめに製糸工場を作り、布の生産量を上げる為と、放牧地や畑を作って、羊や綿花や亜麻でも育てて、繊維も生産しようかなーと。だから本当に人手が欲しんですよ」

「あれだけ言い争ってて、よく行く気になれますね」

「一回顔合わせちゃってますからね、セレナイトから一気に五十人とか百人連れてくるわけにも行かないでしょう。それこそあの貴族に声かけないで連れてったら誘拐扱いで、攻め込まれるかもしれませんよ? まぁあの言い争いがなければやってましたけどね」

「では、スラムに住んでた方々は?」

「戸籍とか怪しそうな宙ぶらりんな、いなくなっても問題ない方々?」

「疑問系で言われましても……」

「最悪第三村で、スラムに住んでた軽犯罪者の方々の更正に成功してますし、職にあぶれてる方を雇う方向で考えてます。元々島流しに使う予定だったっぽいですしね」

少しだけ悪い顔で笑ってみせる。

「では、この収益表は?」

「最終手段で、利益の三割まで交渉に使います」

「まぁ、かまいませんが……」

「最初は、街で募集かけさせてもらう許可もらうのに大銀貨二枚ですかね。それから酒場とかで募集の張り紙で。それが駄目なら軽犯罪者を、刑が軽い方から銀貨五枚で引き取りますよーって感じで」

「犯罪者を安いお金で引き取るって、限りなく奴隷商人に近いんですが……」

「領地から領地に移動だから、問題ないって事で?」

俺は目を反らしながら説明をした。

「はぁ、わかりました。とりあえず次の春までに、受け入れ準備を整える感じで良いですね?」

「そうですね。で、あのクソ貴族の名前何でしたっけ? それと住んでる場所の名前も教えてくれればありがたいのですが」

そんな事を言ったら軽く睨まれた。仕方ないじゃん、まさか今後挨拶とは思ってもなかったし。セレナイトから隣街とかに行くことなかったし。

「カルツァ様ですね。住んでいるのはセレナイトから馬車で一日ほど離れたイルバイトと言う街です」

そう言った後に、盛大にため息を吐かれた。

「ありがとうございます、では明日にでも行ってきますね。ってか戦争やってたのに、馬車で一日のところに住んでるってすごいですね」

「元々五日くらい離れてる場所に住んでましたが、停戦後に別荘のあるイルバイトまで来たみたいです。まあ、新鮮な魚が食べたい様な事も馬車の中で言ってましたし」

「ほー。色々情報ありがとうございました」

「近隣の事に疎すぎです。せめてそのくらいは知っててください」

「覚える必要すらなかったですからね。島ですし……」

そんな事を言ったら。更に盛大なため息を吐かれた。

酷くね?