I Became the Demon Lord and my Territory is an Uninhabited Island
Episode 208: When the Warehouse Is Completed
ウルレさんに適度に仕事を教えつつ、最近はルッシュさんのお腹に目が良く行くようになった。まだ下腹部が少し出てきたかな? って程度だが、確実にお腹の子は元気みたいだ。
一番倉庫:所有者ニルス・本店:コランダム・荷物:生鮮食品、武器防具以外・直接の売買:可能・大きさ――
俺はある程度白紙の紙を綴ってある『波打ち際倉庫及び店舗』と書いた書類を、そろそろ作っておかないと管理が面倒になるので、ニルスさんに頼まれた倉庫の詳細を書き、残りはサインとスタンプだけって言う状態にしておく。
ってか、西暦みたいな概念がないから、いつに契約して――って書けない。基準を島に来てからか、アクアマリン創立かで迷うが、勝手に決めていいのだろうか? けど、大きく見るならば、入島日と取引開始日は近いし、アクアマリンとして取引したことにもなる。
あの時、小麦やジャガイモを買った書類も残ってるし。
「ん~」
「何を悩んでるんですか?」
唸っていたら、ウルレさんが手を止めてこちらを見てきた。
「いやね、倉庫を建てた時期とか、契約した時期を明確にしたいんだけど、どこを基準にするかで悩んでるんだ。そうすれば建ててからどのくらい経ってるか、契約してどのくらいかがわかりやすいからね。だって今日の午後には点検して完成なんだから」
そういいつつ、どうした方がいいかを聞いてみる。
「父の場合は、商会を立ち上げてからでしたよ」
「……一応ルッシュさんにも聞いてみましょうか」
二例しかないが、一応聞いてみよう。
「街の創立日からでしたね。結構古い歴史がありましたので、街として機能を始めてからいつ頃の契約という形を取っていました。滅多に使いませんでしたが」
そういわれ俺は頭を抱える。どうしよう……。
「いいや。俺が初めて取引した日が、アクアマリン商会の創立日だ!」
俺は吹っ切れ、四回目の春の終わりに建築と書き足した。
「え? まだ四回なんですか!?」
「驚きました……」
二人はかなり驚いてる、普通に考えれば、離島が四年でここまで大きくはならないよな……。
「春に魔王になってここに来て、六日目に初めて商船が島に寄ってくれて、そのあとしばらくして勇者に乗り込まれて追い返してからキースが来て、コーヒーショップ経営して、榎本さん達が来て年越祭。二回目の夏にヴァンさんが島に来て、秋の頃にルッシュさん達が来て、年越祭にキースが告白。三回目の春か夏にテーラーさんやアピスさんが来て、秋にレンガ作りやら色々やって、四回目の春にセレナイトに蒸留所を作る。ほら、今は四回目の春の終わりだ」
自分でも確認するように、指を一本ずつ出しながら、思い出が強いイベントを上げていく。
「まぁ、最初にニルスさんが寄ってくれたのも縁ですねー。後は色々な人の協力で、島に人が増えたりしてます。感慨深いですね。って事で、コレを機に、暇を見て村の創立とか色々まとめておくか」
俺は執務室に戻り、『島の歩み1』と書いた表紙に、一回目の春と書く、業務中なのでとりあえずおおざっぱに一年目の事を書く。
なんか自分で書くと日記みたいだな……。まぁ、日記と言いつつ、毎日の献立だけ書いてたアホの子もいたからな。ゲームキャラだったけど。
◇
翌日になり、俺はコランダムに向かう。
朝食後に伺うと昨日の昼食前に、コーヒーショップのマスターにフルールさんを通して伝言を頼んで、返事も来たから多分問題はないと思う。
出かけてなければ、昼食後にコーヒーを飲みに来るのが日課だし。
俺はマスターにコーヒーを頼み、砂糖を三杯とミルクを入れ、船乗りや鎧を着た兵士、冒険者の話に耳を傾けつつ、ゆっくりと飲んでからニルスさんの倉庫に向かう。
税金が下がってたり、街道整備をやってたり、下級層向けの仕事もできて、治安も回復傾向にあるらしい。
しかも国の援助で孤児院ができたり、アドレアさんのいた教会にも、定期的な補助金も出ているみたいだ。たまには、こうして噂話を聞くのもいいな。
「おはようございます」
「「おはようございます!」」
「ニルスさんに用があるので失礼しますね」
忙しそうにしていたので、挨拶だけ済ませ奥の執務室まで勝手におじゃまする。
「「おはようございます」」
挨拶が被るが、早速本題に入るとする。
「倉庫が完成しました。もしよろしければ、一度見に来ますか? 図面だけしか見てませんよね?」
「そう……ですね。多少転移という物が怖いですが、一度見てみます。一回経験すれば馴れるでしょう」
ニルスさんがそう言ったので、俺はイスに座る事なく、ニルスさんをつれて島に転移した。
「うぅ……うぷ――」
転移が終わった瞬間、ニルスさんは口を押さえ、うずくまってしまった。
ふわっとくる系に弱い人だったか……。
「す、みません……。なにぶん初め……ての感覚だったので……」
今度は両手を付いて、いかにも辛そうな声を出している。
「正直転移がうらやましいと思いましたが、人生での転移は、復路の後一回だけで十分ですね……」
「あの……水、飲みます? それかスッキリするミントティー」
俺は心配になり、声をかけた。そして、ウルレさんも心配そうに見ている。
「いえ、飲んだら帰った時に、多分朝食と一緒に出るので、このままで平気です。けど少し休ませて下さい」
執務室にベッドはないので、イスに座らせてから急いでテーラーさんからタオルをもらって来て、濡れタオルにしてから渡した。
「あ゛ー、船に乗ってる時に、初めて嵐に遭った時の事を思い出しました」
上を向き、濡れタオルで目の辺りを冷やしながらぐったりとしている。こんなニルスさんを見るのは初めてだ。
体感で五分後、ぐったりとしていたニルスさんが立ち上がり、タオルを返してきたが、もの凄く目が据わっている。いつもニコニコしてるのにすごい眼力だ。それに一瞬で顔だけ十歳は老けたな。
「案内して下さい、幾ばくかマシになりました」
「あ、はい……」
そう言われてしまったので、もう少し休んでてもらうこともできずに、倉庫に案内することにした。
「ここです」
頼まれた通りの倉庫を作ったが、一つだけ違うとすれば、入り口の上に大きく共通語で『1』と書いてあるくらいだろうか。
ペンキはないので、木炭で丁寧に擦って書いただけだけど。
有機溶剤とかまだないし、顔料になる物も高そうだし、なんだかんだで今はコレが一番安い。
「今後の管理を楽にするのに、申し訳ありませんが番号をつけさせてもらいました。それと桟橋です。これは防犯上壊すこともありますので、事前に了承下さい」
そして砂浜の上を歩きやすいように、土になってるところまで板を敷いてあるくらいだ。
「えぇ、問題はないです。ちゃんとした港ではないので、このくらいは仕方ないですね」
そして俺は倉庫の扉を、横にずらして開け中を見せる。
「図面にあった完成予想図通りですね。換気もしやすそうですし問題はなさそうです」
窓は木製で観音開き、まぁ一般的なものだ。角にある掃除用具はオマケだ。
「では、社員寮も案内します」
そう言って、村はずれに作った二階建ての、個室の多い家に案内する。
「一応談話室というか、キッチンも兼用になってますが、少し大きめにしてあります。個室の方は、この大きさでよろしいでしょうか?」
俺はドアを開け、部屋の方も見せる。何というか、共同住宅に住んでいた時と同じ大きさだ。一人暮らしなら、問題ない大きさだったし。もちろん家具一式も揃えてあるし、風呂もある。後は寝具くらいだ。なんだかんだで、島内初の二階建てだし。
「十分すぎですね、家賃を取っても良いくらいですよ」
「共同住宅をイメージして作ってもらいましたので、管理人がいれば家賃を取れますよ。倉庫の脇に建てようと思ったのですが、村近くじゃないと不便かと思いまして。ただ、共同住宅として家賃をもらうのには、まだまだ店が少なすぎます」
最悪倉庫の裏の森を開拓して、ちょこちょこ空き家と空き倉庫とか増やしておけば、急な入島者にも対応できる。問題は水だけどな。分岐を沢山作って、何本も疎水を作るのは面倒だ。
あとは、ジャイアントモスも群生地付近は、絶対に建物を建てないようにしないと密猟が増えそう……。柵でも打って、ヴォルフ達に見張りを頼むかな。
そう思いつつも、キッチンで転移をしようとする。
「覚悟は良いですか?」
「……少しだけ待って下さい」
ニルスさんは深呼吸を数回し、拳を握って気合いを入れている。
「――はい!」
やけに大きな声で合図を送ってきた。すげぇ覚悟だな。
ニルスさんの執務室に転移すると、フラフラと歩きだし、商談するイスに座ってグッタリとしてしまった。声をかけるのは止めておこう。
しばらく待ち、睨むような目つきでこちらを見てきた。吐くのは耐えたようだ。
「もうしばらくお待ち下さい。お腹の中が回っています」
「わかりました」
またしばらく待つが、深い深呼吸を繰り返すようになり、最後にフーと息を吐くと顔を上げた。
「話すくらいは問題ないです。進めましょう」
硬い作り笑いをしてきて、口角がひきつっているが、本人が言うんだからまぁいいだろう。
「サインを書いて、スタンプを押すだけにしてあります、契約内容に問題がなければ、島に来た時に記入をお願いします」
そう言って、倉庫の契約内容を見てもらう。
「えぇ、問題ありません。では、準備が整ったらそちらに行きますので、よろしくお願いします」
「わかりました、よろしくお願いします」
確認も済んだので、転移の許可をもらって島まで帰った。
これで少しずつ、島もにぎわってくるな。