I Became the Demon Lord and my Territory is an Uninhabited Island
Episode 247-When Children Learn Group Behavior
「子供達に集団行動を学ばせる為に、少し粗野な場所か、面倒見の良い場所の候補を二つ考えたんだけど、どっちがいいかな?」
俺は子供達がいない時を見計らい、いきなりスズランとラッテに聞いてみた。
ちなみに島に戻り、フルールさんの鉢は村長宅に預けてあるし、ハニービー達には、ワラワラ集まって暖を取っていた場所に向かって叫んでおいた。
「どっちでも良いと思う。けど具体的に言って欲しい」
「うんうん。じゃないと相談にも乗れないよ?」
スズランはお茶の入っていたカップを置き、いつも以上に真面目な顔で言い、ラッテも腕を組んで少しだけ眉を寄せて聞いてきた。
「あー……そうだな。粗野なのは、元最前線戦場跡地にキャンプを作ってる、この村にいたグラナーデがいる、魔王様のコミュニティーだ。乗りと勢いと流れで生活してる傭兵集団だと思えばいい。なんだかんだで新人には優しそうな雰囲気はあったし。面倒見のいい方は、俺が前に住んでたクリノクロアだ。そこでフォリさんやフレーシュさんと組んで、初心者冒険者の手引きを頼む。ユニークな同居人も沢山だし。けど問題は部屋が空いてるかだけど」
俺が説明をすると、スズランは右上の方を見ている。何かを思い出しているのだろう。そしてラッテは少しだけ固まっている。
「も、もしかしなくてもセレッソさんがいるよね?」
「あぁ、勇者をスイートメモリーに案内した時に、まだ住んでるとか聞いたな。フォリさん達に」
「あ゛ー。まだいるんだ……。お金あるんだからもう少し良い所に住めばいいのに……」
「信用できる人が多いならそれはそれでいい。親子二代でお世話になるのも縁だと思う。私はエジリンの集合住宅で良いと思うけど。子供達の意見も聞かないと」
ラッテは片手で頭を押さえ、最初に何か出しちゃいけない声を出していた。確かかなりお世話になってそうな雰囲気だったのに、なんでそんな声が出るんだ?
「ラッテ、なんか不都合でもあるの?」
「んーないけどさー。なんか夢魔族の何たるかを説明しちゃいそうで……。美味しく頂かれるって事は絶対にないけど、必要な事を百だとするとあの人は百三十くらいまで教えそうで……」
「ラッテはセレッソさんに教わったの?」
「あー、うん。主に夜の方を」
なんかスズランが興味を持ったのか、ラッテに聞いている。
「知り合いが多すぎるのも問題ありか……。まぁ、迎えに行ったら子供達にでも聞いてみるさ」
今日は北川に預けているので、泥だらけだろう。迎えに行って風呂から出たら聞いてみるか。
「で、町に行くって言ったら家賃とかどうするのー?」
「ん? 個人的に三十日分払って、春までいたければ自分達で稼いだお金でどうにかしろ。かな? 部屋が二つ空いてたら二部屋かなー」
「あの部屋に二人は狭いよね……うんうん」
「私は狭い方が都合が良かった。けど姉弟だし、多少は配慮しないと」
だよね。もう二人とも子供作れるし、いくら異母姉弟って言っても……いや間違いがないとは言切れない。前世でもたまに話で聞いてたし。
「まぁ、子供達に聞いてから部屋が空いてるかちょっと行ってくるさ」
「ってな訳でどっちがいい?」
俺は子供達に聞いてみるが、二人とも町の共同住宅と答えたので俺は通行証を取り出し、一回一人で転移をして町に向かう。
「別に懐かしいって訳じゃねぇんだけどな……。この間デートしたし」
俺はこの間のダウンジャケットを着て門に並び、大銅貨五枚を払って町の中に入る。そして通いなれた、違える事のない道を通りクリノクロアに向かった。
「お久しぶりです。どなたかいますか?」
玄関に入り、多分大家さんはいると思うが来訪者らしく声をかける。
「あら……。久しいわね。魔王になったんだって? あの時無理やりにでも関係を作っておくべきだったわ」
大家さんは俺の顔を見るなり、開口一番でそんな恐ろしい事を声にした。俺は密かに狙われていた!?
「随分重い方の冗談が言えるんですね。本題に入っていいですか?」
「ここじゃなんだし、キッチンの方に行きましょうか」
大家さんは顎でキッチンの方を指し、背中を向けてずかずかと歩いていった。
「で、本題ってのはなに?」
「部屋が二つ空いてるか。フォリさんとフレーシュさんはまだここに住んでいるか。です」
「えぇ。二人とも仲良く住んでるわ。それと偶然二部屋空いてるわよ。貴方の住んでた二号室とトレーネが住んでた七号室が。それがどうかしたのかしら?」
「子供が冒険者になりたいと常日頃言っていまして、春に旅立ちます。それまでに集団生活と俺の知っている先輩冒険者の指導が欲しく、知っているのはここくらいしかなく当てにさせていただきました」
「……良いわよ」
俺はそう言うと、大家さんは少しだけ目を細め、三秒ほど間を置いて了承した。
「で、いつから入るの?」
「なるべく早くですかね? 年越祭はここで過ごさせてもいいくらいです」
「どのくらいの期間?」
「三十日分は俺が金を払います。その後は子供達次第……。そして一応期限が切れる三十日後の午後に伺わせていただきます」
「……それ以降は子供達の意志で払わせると言う事で良い訳ね?」
「はい。春に一度故郷に戻り、卒業してから旅立つかどうかなので、基礎を学んだら出て行くか、少し残るかも子供達次第で」
「……予約って事で部屋を取っておくわ。なるべく早い方が良いわね」
大家さんはそう言うと、立ち上がってお茶を淹れようとしているのか、薪を竈に突っ込もうとしたので俺はそれを止め、【熱湯】を浮かしてティーポットに落とした。
「便利ね。まさか親子二代で来るとは思わなかったわ」
「俺もです。故郷でのんびりやっていたかったんですけどね……。なんでこうなっちゃったかな……」
大家さんがお茶を注いでくれ、俺はそれをゆっくりと啜る。
「噂は聞いてたけど、それが原因じゃない? 馬鹿みたいな魔法使えるって有名だったし」
「ははは、ですかねぇ……」
その後は特に会話もなく、お茶を飲んで帰らせてもらった。
「空いてたぞー。知り合いには会えなかったけど、その辺は追々。昔のツテだけど、多分平気だろう。今なら即戦力になるかはわからないけど、戦闘面では多分平気だろうな。連携は何とも言えないけど、それを学ぶ為の共同住宅での生活だ。色々ルールもあるからそう言うのも教えてくれるだろうしな。よし、ミエル。プリンとシフォンケーキの作り方を今から教える!」
俺は説明を軽く終わらせ、いきなりお菓子の話題を持ち込んだ。
「えぇ……なんでプリンとケーキなの?」
「あそこの住人は甘い物好きなのが多いんだ……。よく俺が作っていたお菓子を期待され、しかも余ったら奪い合いにまで発展していた……」
「えぇ……。それって人としてどうなの?」
ミエルは凄く引いていた。実際俺も少し引いたからその反応は正しい。
「その辺のお菓子屋で買うよりも美味かったらしい。だからよく作らされてたし、期待されてた。しかも材料費と手間賃出すから作ってくれってのまであったなー」
俺は腕を組み、呆れた顔でため息を吐いた。本当に最前線に行く前とか大量に作らされたし。
「エルフもいるし、ティラさんみたいに甘党だぞ? だから絶対に覚えておいた方が心証は良くなる。んじゃキッチンに来い。リリーは二人分の引っ越しの準備だ。頼んだぞ」
「ちょっと、何を用意していいかわからないわよ? お父さん急すぎるよ!」
「数枚の下着と日用品、武器防具。布団類は現地で買う。お気に入りの食器があれば持っていけ。後はお金だな……。これは銀貨で渡すから好きにしていい。稽古ばかりでろくに知り合いと買い物とかもしてないんだろ? 纏まった小遣いだ。流石にミエルの下着類は自分でやらせとけよ」
それだけを言い、ミエルをキッチンに立たせ、隣で指導しながらプリンを作る。
「意外に簡単なんだね」
「簡単だからこそ誤魔化しがきかない。オーブンの温度が高いとスってのが入る。そうすると口当たりが悪くもなる」
そしてシフォンケーキに入る。
「この卵白の泡立てと、ザックリ混ぜる時に泡を潰さないようにだな――」
「フワフワって卵の白身だったのか……。今度色々やってみよう」
「砂糖入れて泡立てて、焼くだけでメレンゲクッキーな。卵白だけ余ったら作ると良い。あそこのキッチンに置いておくと気が付いたらなくなってる。甘い物は多めに作って、近所付き合い的な意味合いで置いておくと直ぐになくなるからなぁ……」
「へー。卒業したてなのに凄くしっかりしてたんだね。僕も見習わないと」
ミエルは手を動かしながら何か頷いている。日本の常識的な感覚でやってて申し訳ありません……。
「なにか私にはないの? できる事とか」
ミエルにお菓子作りの事を教えていたら、リリーが横から顔を出し、何かできないかを聞いてきた。
「んー。パンチとキックの練習かな」
「遠慮せずに殴りなさい」「あー……。確かに必要だね」
今の嫁二人にも聞こえてたのか、そんな声が後ろから聞こえた。
「え? え? なんで?」
「人族とユニコーンのハーフ的な馬がいるんだよ。で、物語にもあるように、ユニコーンって経験のない女性が好きだから、そいつも当然好きな訳だ。つまり軟派な男だ」
「なんでそんな珍しい魔族? がそんな共同住宅にいるのよ! ってかエルフもいるんでしょ? なんか凄い場所ねそこ……」
「……否定できない。そこに魔王になった俺が入る。確か変態の巣窟呼ばわりされてた気がするなぁ……」
「リリー。とりあえず馬は、性的嫌がらせをしてきたら死なない程度に殴りなさい」
「下半身は馬だから頑丈だし多分平気かなー? けど関節を狙うと折れちゃうから前足とか後ろ脚の付け根とかがねらい目だね」
「大家さんとか、小さい妖精族が何回か殴ろうとしてたのは知ってる」
「なんだかんだで大家さんってまだ乙女だったんだよねー」
嫁達がなんか生々しい事を言っているが、大家さんに言い寄ってる時点で確かに乙女だとは思ったけどさ……。
◇
翌日、スズランとラッテに挨拶をしてからエジリン前に飛び、門の前で並ぶがいきなり声をかけられた。
「コンじゃねぇか!」
「おやかたじゃないですか。お久しぶりです」
「おうよ! なんだ買い物か? お前の村からは歩きで半日かかるって聞いてたが、朝一で馬か何かで来たのか?」
「え、えぇまぁ、そんなもんです」
「で、そっちは息子と娘か。あんときの角生えた嬢ちゃんと白髪の嬢ちゃんそっくりだな! まぁ親子仲良くな!」
おやかたは俺の肩をバンバンと叩き、笑いながら防壁沿いを歩いていった。
「親方って事は、お父さんは前に働いてたの?」
「ん? あぁ。ギルドの日雇いの仕事でな、ランク1でできる長期の仕事だ。休みたい時に休めるしな」
この時代の雇用とか休みとか結構わからなかったし。けど十日に一回は休みにしちゃったんだよなぁ……。
「次ぃ!」
呼ばれたので前に出て書類を出して大銅貨を十五枚払うと、横の詰め所みたいな所からいつもの門番が出てきた。
ニヤニヤと笑いながら、指を四本曲げてこっちに来いとやっている。
「おいおいなんだよ。この間は奥さんと来たくせに、こんな美人さん二人連れて来やがってよ。言いつけちゃうぜ?」
「馬鹿、よく見ろ。白髪の方は男だ。ってか俺の子供だよ」
「……あぁ、確かに嫁さんは角があるし、白髪だな。……うん白髪に胸はなし、よく見ると凛々しい長髪。性別……年齢……。あーうん。遠かったからな。悪かった」
門番はそう言いながら背中を叩き、町の中に俺を入れた。
「二人とも顔は覚えたから、見かけたら俺が受け持つぜ? 少しだけ早いぞ?」
「職権濫用だぜ? いいからきっちり仕事しろ馬鹿が、んじゃまたな」
「おう、適当に顔見せろよな」
門番は軽く手を振って、また詰め所みたいな場所に戻っていった。
「ねぇ父さん。あの人はなんなの?」
「あぁ、俺が町にいた時に、毎日顔を合わせてた馬鹿だ。防壁修理だからあいつの場所を通って外に出るからな。肌の色が珍しいから目立つんだろ……。リリーの角、ミエルの白髪。これも目立つから気をつけろ? 絡まれるぞ?」
俺はそのまま歩きだし、クリノクロアへの道を案内する。
「ここの肉屋は店主の見た目が怖いけど新鮮だ。そしてここの露店のおばちゃんは結構おまけしてくれる。ここは品数が多い雑貨屋だけど、商品の入れ替わりが激しいから定期的に来ると暇つぶしになる」
そんな説明をしているうちにクリノクロアについた。
「ここだ。ランクは下級区と中級区のあいだくらい。道の清掃もされてて綺麗だし、近くに銭湯もある。まぁ、入るか。おはようございまーす。短期入居者を連れてきました」
俺が入り口を開け、挨拶をすると大家さんが出てきた。
「いらっしゃい。相変わらず行動が早いわね。軽く説明するから二人とも付いてきなさい」
「あ、はい」「はい」
子供達はなんの脈絡もなく呼ばれ、少しだけ慌てて大家さんに付いていった。
「聞いてはいたけど、本当に来たのね」
「お久しぶりですセレッソさん。卒業まで時間がないですからね。少しでも長く、先輩達に色々教えてもらえればと思いましてね」
「で、あわよくば俺達に託そうと……」
そして肩を叩かれ、ヌーっとフォリさんの顔が横から出てきた。マジで泣きそうになるからやめて下さい。
「えぇ、賄賂用にプリンとかシフォンケーキを教えてきましたので、もしかしたら作ってくれるかもしれませんね」
「卑劣な……」
「んー。トレーネも残念ねぇ。今いい人を見つけて出て行っちゃったのよ」
「えぇ、前回うかがった時に聞きました。できれば同じ種族が望ましいですね。夜の営み的に」
そう言った瞬間、フォリさんに頭を叩かれた。
「馬鹿、なーに考えてんだお前は」
「おや、騒がしいと思ったら懐かしい顔が」
「あぁ、お久しぶりです。娘に手を出したら引き千切って豚の餌にしてやるからな……覚悟しておけよ……」
「ははは、娘さんが入居ですか。これはこれは。向こうが良いって言ったらどうするんです?」
この馬むかつくわー。
「まぁ、子供の意見を尊重ですね」
「リリーです。少しの間ですがよろしくお願いします」
「ミエルです。親子二代でお世話になりますが、よろしくお願いします」
昔を思い出しながら雑談をしていると、大家さんと子供達が戻って来て、丁寧に挨拶をした。
その後はキッチンにいた全員が自己紹介をし、馬が早速リリーに粉をかけたので、ハイキックが馬部分の前足の付け根に当たっていい音がした。
「母から言われました。馬には暴力でわからせろと……」
リリーが物凄く冷たい目でヘングストさんを見て、拳を握っている。うちの娘怖すぎ……。
「あー、リリーは確実に母親の血を引いてるわね。ミエルっていったっけ? 確かにラッテを男にしたらこんな感じって雰囲気はあるわね。はいはい、もうその辺にしないと買い物もできないでしょ。案内はいるかしら? ラッテの家族って事で案内するわよ? そしてヘングストは部屋で休んでなさい」
セレッソさんは馬を追い出し、リリーとミエルの肩に手を置いた。そうすると二人がこちらに助けを求めるような目で見ている。
「いい機会だ、連れて行ってもらえ。どのみちここに住む以上は関わる事になる。ほら、銀貨十枚だ。俺の時は一人で銀貨五枚で足りた」
俺はミエル(・・・)に袋を渡し、軽く腕を叩いた。
「先にリリーに計算させて、ミエルが答え合わせしろ。んじゃセレッソさんお願いします」
「えぇ、お子様はしっかりと預かるわね」
セレッソさんは口角を上げて笑い、二人の肩を叩いて外に連れ出した。
「さて、戻ってくるまで雑談でもしますか」
俺はニコニコとしながらイスに座ったが、居残り組にニコニコとしながら肩を叩かれた。
「何か甘い物を作ってくれ」
「……はい」
俺のここでの扱いってこんなもんだよなぁ……。
魔王扱いしてくれないからいいけどさ……。