I Became the Demon Lord and my Territory is an Uninhabited Island
Episode 259: When the Island's Defense Forces Will Be Worry
アレから五日後、ラッテから月の物が遅れている、もしかしたら妊娠しているかも。と、ベッドで報告を受ける。うん、ごめん知ってた。
「そうか……。遅れてるだけかもしれないから、もう少し様子を見つつ頑張ろうか」
「え、じゃあ――」
「ごめん、今日はもう無理」
俺は物凄い笑顔でそう言って、疲労と眠さで落ちる様に寝た。
◇
翌日、物凄いだるい中目を覚ますと、隣にはラッテが気持ちよさそうに俺に抱き着いて寝ていた。幸せそうに寝てるなー。まぁ、今日も最低三回戦なんだろうけど、知ってる身としてはもういいんじゃない? って気にもなる。
けどこの世界じゃ、検査薬的な物もないし、遅れてるって事で判断してるみたいだし、当たる日の前後三日だけは本当色々ヤバイ。
朝食を食べ終わらせ、クリーム作りの生産体制の草案を纏めていると、珍しくパルマさんから連絡が入った。
「キタガワって人が、ゴゴはフル装備で来いって言ってたわよ」
「わかりました。とお伝えください」
何かあったんだろうか? また魔物の大量発生? ケーキ作りながらお茶しつつ話をしたけど、ティラさんがサボっている様子はなかったしな。それにそれっぽい所が増えてる報告も受けていない。
俺は昼食を食べる前に、いつもの黒系装備に着替えてから、スズランの用意してくれたニンニクの効いた肉料理を食べる。少し重すぎる気もする……。
気を使ってくれてるのはありがたいが、本当に重い……。ってか夜の為なのか昼間の疲労回復なのかわからないけどな。大根おろしとポン酢で和風おろしが食べたい……。ポン酢のポンって柑橘類の酸っぱさって意味だった気がする。
あまり辛くない品種が市場になかったら、畑で作るのもありだな。ってかカブもあるんだし、榎本さん辺りが畑で大根やってそうな気もする。帰りに第二村にでも寄ろう。
「んじゃ、第四村の北川って勇者が呼んでるから行ってくるよ」
「そういえばまだ会ってないわよね? 子供達もお世話になったし、機会があったら挨拶がしたいから連れて行って」
「そうだねー。一応妻としては旦那の知り合いには挨拶はしたいねー」
スズランは良いとしてラッテだよな……。カルツァの件もあるし、なんかひと悶着ありそうなんだが……。
「あぁ、機会があったらな。んじゃフル装備だし、多分危ない事だから今日は無理って事で。んじゃ行ってきます」
「気をつけて」「いってらっしゃーい」
俺は妻二人に見送られながら、第四村の定位置に転移するが北川がいつも開墾作業している森の方にいない。
俺は首を傾げつつ少し辺りを見回すと、海岸沿いでなんかワチャワチャと動いていた。
「何やってんだ?」
少し目を細めて見てみると、海岸でクロスボウを持って訓練をしていた。
「おー。フル装備って聞いたから来てみれば……。緊急事態じゃないのか?」
「まぁ緊急ではないが、ちょっとした雰囲気作りだ。今日は開墾はなしな。ちょっと本格的にこいつらに訓練させてるからよ」
「……おう」
そう言って北川は、波打ち際から海の方に浮かべたブイっぽいのに、人の形をした板を乗せている物に矢を射らせていた。
「なんで動いてない五十を当てられるのに、少し動いてる四十が当てられねぇんだ! そこの魔王に笑われるぞ!」
いやー北川さん。なんでそんな事言うんですかね? 俺だってそんな事言われたら自信なくなりますよ? 極限状態や極度のプレッシャー下での訓練じゃあるまいし。
「ってな訳で遠距離が得意な魔王、教えてやってくれ」
「マジっすか……」
「なんだ、お前でも動いてるのは無理か?」
北川は腕を組んで首を傾げながら言って来た。なんで俺が遠距離専門になってんだよ。
「わかんねぇ。クロスボウってあまり撃った事ねぇからな。んじゃ知ってる奴もいると思うが、まずは座学からだな」
俺はその辺の木の棒を持って湿ってる砂地に絵を描き始める。
「例えばだ。見えてる目標との距離がある場合は、弓なりに飛ばして距離を稼ぐ。これは当たり前だな。なのに今回は四十だ。まっすぐ射っても当たるはずだ。けど当たらない事の方が多い、これは周りに比較対象がないからだ。実は人ってのは、周りにある物で大体の大きさで距離を測ってる。つまり実はあの人の形をした板が一回り小さいか大きいか、縄が長くて距離が四十じゃないかもしれない。その事を考慮してるか? そこにいる教官の情報だけを鵜吞みにしてないか? 俺が見てる限り矢は手前に落ちている。本当に四十だと思ってるのか? 先入観と偽の情報程怖い物はないぞ?」
俺は一回海の方を見て、波に揺られている人の形の板を見る。そして近くにいた奴からクロスボウを借りて、ほぼ水平に構えて射出し、水平で四十五メートル程度という、クロスボウとしてはかなりの弱さを思い出しながら撃つと、矢は手前に落ちる。
「距離は四十じゃないな。しかも四十に見える様に一回り大きく作ってあるだろ?」
俺は北川を見ながらテコの部分を起こして弦を張り、矢をつがえて、倍率のないスコープっぽい線二本分上を狙って、射出するとちゃんと当たった。
「聞いた情報だけを鵜吞みにして、現場で距離修正もできないなら最初からやり直しさせた方が良いな。このクロスボウでまっすぐ射った場合の距離を体に叩き込め。それと北川。お前もやる事えげつねぇな」
俺はクロスボウを借りた人に、射出する方を下に向けて誰にも向かない様にして返した。
「多少頭があればコイツの様に情報に騙されずに自分で考える。フルールさんがいるから情報伝達や指示を簡単に聞けるが、最悪自分の判断で決断しないといけない時がある。その事を踏まえ、言われた事と情報だけを鵜吞みにすんな」
俺は北川が喋っている間に、杭に結んであったロープを引っ張り浜に上げた。
「どう見ても俺より三周りくらい大きいな」
そしてそのまま持って横移動し、帰る時に歩数を数える。
「六十五歩。これを仕込んだ教官の地味な努力や、苦労も考えろよー。ってか情報は生き物で直ぐに代わるから、言ってる事が全部正しいとは言えないって事を教えたかったのか?」
「あ? そんな事はない。ただ何となくでやった。けどこいつらは見事に騙された。まぁ、まだまだだな。で、お前を呼んだ本当の理由なんだけどな?」
北川はいきなり話を切り替え、俺の方を見て来た。
「ちょっとハンドシグナルを教えてやってくれ。少し明るいだろ?」
「……サバゲを少々な。作戦練った軍事顧問いるだろうが。そいつはどうなった」
「いやー。フルールさんを使って聞いてみたけど、軍事インストラクターとして同盟国に出払ってるらしいんだわ」
俺は頭を押さえて盛大にため息を吐いた。なんで半端な知識で教えなきゃいけないんだよ……。
「各国で独自の物を持ってるからいいか……。まずは簡単な物だ。指だ。指を立てて数を教える事だ。ゼロから十までを片手で教える事ができる」
俺は左手で小指を一本立てて順番に指を開いていき最後に親指を伸ばした。
「これで一から五。そして親指を折って小指を折ると六。親指を折って薬指を折ると七、こうやって親指を折って順番に各指を折っていき、このままだと三と被るので九は親指だけを横に出し、そして最後に輪っかを作ってゼロだ。そして一回全ての指を閉じてもう一回開けば次の数字だ」
俺は人差し指を一本出し、一旦グーを作ってから指を五本立てる。
「これで十五。理屈は簡単だな。一気に覚えると忘れるから、まず簡単な物から行くぞ? 指で誰かを指す。これは貴方。そして自分を指す。私」
俺は北川を指してから自分を指し、口頭で説明を続ける。
「手を大きく手前にやる様にすれば来い。つまり、貴方、私、来いになるから、指された奴は来いって事だな。後は結構わかりやすい。耳に手を当てて聞いている。日差しを遮るようにすれば見ている。制するように手を出せば止まれ、指を全部閉じてれば動くな。指二本で目を指せば見ろ。つまり指を向けた方向を見ればいい訳だ」
俺は聞いていた奴の一番端にいた人を指さし、手を大きく手前に動かし自分の目を二本指で指しながら北川の方を指さした。
そしたら少しだけ遅れて反応し、俺の方に来て北川の方を見ている。
「まぁ、ある程度わかりやすく単純にできてる。複雑にしてもわかりにくいからな。さて、ここまでは普通だとしよう。これは声が出せない作戦中に使う事が多い。つまりそのクロスボウを持って隊列を組んでいる事が前提だ。つまり斥候の背中しか見えない。ちょっと貸してくれ」
俺はこっちに来た人からクロスボウを借り、右手で持って皆に背中を向ける。
「俺が先頭に立つ斥候だとすると本来はこうだな。そして敵だ。ナイフで近接系、矢で弓兵。そしてあそこで畑を耕してる人達が敵だとしよう。鍬を持ってるから近接系の兵だな」
俺は適当に皆の横を歩き、制するように手を出しながら止まり、まだ教えていない手の平を下に向けて上下に動かしてしゃがみ、ナイフを取り出して見せ、指を三本出してしばらくしてから一本、五本、ゼロ本と形を作る。
「さて、わかりやすく単純にできてると言ったな。教えてないのを混ぜてみたが……。そこのお前、意味はわかったか?」
「はい! とまれ、しゃがめ、近接系の敵が三人、距離百五十歩。です!」
まぁ簡単だったが、こっちもある程度適当にやってても伝わるものだな……。
「素晴らしい。君を隊長に格上げだ。安心しろ、こういう小規模部隊の隊長って物は危険が多いから、精神的な疲労が結構ある。つまり交代制が多い。一つの組でローテーションだ。ちなみに一番前を歩く斥候もだ。これは訓練だから十日で交代でいいな。各員への連絡や指揮官への報告は取りあえず隊長の仕事だ。返事は?」
「はい! わかりました!」
俺は少しだけ黒い笑顔で言うと、呼んだ人は直ぐに返事をした。
「俺の事を指揮官と言ったが、こいつは総司令官だ。一番偉い奴な。実際この島で魔王やってて商会の一番偉い奴だ。当たり前だよなぁ?」
「え゛――。あ、あぁ、そうだな」
北川から口を出され、変に返事をしてしまった。なんでこうなったんだろうか? これからどんどん大きくなっていくだろうから、管理が超めんどい。仕事が増えるのか……。
そんな事を考えながら、とりあえずクロスボウだけは返しておいた。
「で、実際はどんな運用方法を考えてるんだ?」
北川が訓練を再開させ、こっちに歩いて隣に立ったので聞いてみた。
「何にでもできるだろ。治安維持だって特殊作戦だって」
特殊作戦系の国家保安的な部隊かな? 保安機動隊かもしれない。けどティラさんの訓練は俺の一言で半分SAS的な物になっちゃったしな。この人達は特殊部隊系として、自警団がGIGNかGSG-9に近くなるのかも? けどそれだとやりすぎなんだよなぁ……。
「どこまでやるかも問題だろ? 軍隊ってのは生産性がなく、食料や金を消費する組織だ。かといって全くないと他国からの侵略が怖いから最低限必要だ。まぁ、午後だけ訓練って感じで正規とは別な運用でもいいかもしれないな。あいつらは正規だとして」
「ここと同じで、各村最低十人はいないとまずいだろ。そして訓練だけして、治安維持ができる奴の育成は犯罪歴のない奴から選べばいい」
「正規の部隊は犯罪歴があって多少荒くても良いって考えか。今後の訓練はどんなのを考えているんだ?」
俺は本当にどうしたいのか聞いてみた。
「嵐の翌日に船が難破して海岸に打ち上げられたと、パルマさんから報告があり、とりあえず森の中から偵察して、排除するか保護するかの判断だ」
北川は不慮の事故からの、船が海岸に流れ着いたのを想定しているらしい。まぁ、パルマさんから連絡があって駆け付けるのも必要だな。難破船なのか海賊なのか、それとも侵略してきた国なのか、商人の私兵なのか……。
「まぁ、アレだ。最悪俺と北川が出る事になるだろうから、難破して警戒してる奴か、明確な敵かの判断はしっかりとな」
「あぁ、わかってる」
「で、もう一度聞くが……。なんで俺はフル装備なんだ?」
「この後森の中での訓練があるから、特別講師として呼んだ」
その言葉を聞いた瞬間、俺は軽く北川の二の腕に突っ込みを入れておいた。
「クソ疲れたー」
あの後本当に森の中での訓練があり、俺は森に逃げ込んだ敵って設定で実戦形式で付き合わされた。まぁ、使ったのは水球だけど。
「どうしたの? 急に昼近くになったら戦闘用の服装なんか持ち出して」
「いやー。第四村で自警団を教育中なんだけど。子供達にやってた訓練を大人数人相手にやらされた」
「やらされたって事は、誰かが指揮してるの? 第四村に誰かいたっけ?」
「喧嘩祭りで大声出してた黒髪黒目の若い男。アイツ勇者でさ、島の防衛関係任せたら自警団をその辺の兵隊以上の訓練させて、全員を凄く強い奴にしようとしてるらしくて何考えてるかわからない。ってか自警団は別に用意するとか言ってる。エルフのティラさんにも、森の歩き方を教えてもらう様に口利きしてくれってさ。あ゛~」
俺は溜息を吐きながらイスの背もたれに寄りかかり、口を半開きのまま上を向いた。
「んふふふふー。じゃあ今日は一回で許してあげる」
ラッテは俺の膝の上に乗り、抱き着いて耳元で囁いた。
「休ませてくれるって選択はないんですかねぇ?」
「ないない。ないよー。少し遅れてるだけで、まだ妊娠してるって確信はないからねー」
俺は神様のせいで、ラッテが妊娠している事を知っているのでなんとか回避したいが、ラッテはその事を知らないのでニコニコとしながら体を密着させてきた。
そしてスズランが向かいの席で、獲物を狩るような目付きでニコニコとしていたので今夜も(・)休めないだろう。
マジで休ませてくれ……。ってか妊娠初期って激しいのは平気なんだっけ? 前世で結婚して子供がいなかったからわかんねぇ……。