I Became the Demon Lord and my Territory is an Uninhabited Island
Episode 276-The Time I Went to Report
俺がカルツァの屋敷の前に転移し終えると、見張りには話が通っているらしく、俺が見えたら門を開けだしたので、軽く挨拶をしてからメイドさんに案内されて、いつもの部屋に入った。
「余計な挨拶はなしにしましょう。早速話を聞こうじゃない」
カルツァがそんな事を言ったので、既にお茶が用意されていたソファーに座り、先ほど尋問した内容のメモを一回目から順に並べて出した。
「これが尋問した全ての内容です」
そう言うと早速メモを手に取り、目だけを動かして内容を読み、二枚目読み始めて一瞬目を見開いた。
「一回目と二回目の間に何があったかは後で聞くとして、これは本当の事なのかしら?」
そしてカルツァは顔を上げながら睨みつけて来た。
「おー怖い怖い、おしっこ漏れちゃいそうだ。えぇそうですよ。こちらの質問内容と、本人の口からの言葉を、そっくりそのままですからね」
「これ、預かっててもいいかしら?」
そして物凄くいい笑顔で言った。多分相手貴族の弱みとか、知りたい情報満載なんだろう。少しだけサービスしてもいいかな。
「お断りします。が、カルツァ様本人が複写するなら認めます」
そう言ったら、即紙とペンを持って来て書き写しているので、俺はゆっくりとお茶を飲ましてもらう事にした。
「で、この一枚目と二枚目の間に何があったのよ?」
メモを写し終えたカルツァが、お茶を飲みながらそんな事を聞いてきた。
「簡単です。薬ですよ薬。使っちゃいけないって法もないですし、とある方達の協力で、絶妙な配合量の物ができあがり、強すぎて色々駄目にならない程度の素晴らしい物です。どんな薬かは教えられませんがね。他の方で実験をしていないのに、一発で望んだ物を作り上げる腕には素直に尊敬します」
「部下に恵まれてるのね。羨ましいわ」
「部下じゃないです。皆が目を向けずに、埋もれていた方を勧誘しただけなので、ただの島民ですよ。なのでわざわざこちらから出向いて、商会として依頼を頼んだだけです」
俺の部下? 株式会社アクアマリンの事務とか接客やってくれてる三人って認識しかないわ。他は島民かパートナーだし。もしくは島民全員下請け的な? 社員? よくわかりません。
あー、けど三人のおっさんはどうなるんだろう? なんかもういい加減恩とかなしにして、普通に生きて欲しいんだよなぁ……。あの時ベリルに残ってくれてても良かったと思ってるし。
「能力が高い者は抱え込むのではなく、自由にさせつつ、他に行かない様に気を配る。これだけですよ。まぁ、去る者は引き止めません。こちらのやり方が気に食わないで、出て行ったんだって事で次に活かすだけです」
「……そういうのもありなのね。少し目を付けて真面目に投資でもしてみようかしら?」
前にも似たような事を言ってた様な気もしなくはないが、気のせいかもしれない。
「その場合はお金だけ出して、好きにさせた方が良いですよ。投資したんだから結果出せ! とか圧力をかけると、逃げたり自殺する可能性もありますので。まぁ、地下室に幽閉して開発させて、成功しても出さずに、秘密を守り続けた酷い人もいますけどね。かなりの財になったんじゃないんでしょうか?」
一応お茶を飲みながら忠告っぽい事は言っておく。白磁じゃないけど、なんかカルツァならやりかねないし。まぁ、こっちも離島だから、何か言われたら何も言えないけどね。
「ま、これで奴の弱みは握ったし、強く出られるわ。貴方に感謝しないと」
「そういう貴族の政争みたいなやり取りは嫌い……というより苦手なので、お好きにどうぞ。こっちは実績を積むだけで満足です。色々巻き込まれたら、力でどうにかするしかないのが現状なので、多少カルツァ様に恩を売っておいて、もしもの時に取り計らってもらうと」
「なら今度こちらで似たようなのを捕まえたら、足を運んでくれないかしら? 多分他の貴族の密偵もいると思うのよね。全員所属すら吐かないのよ」
「多分訓練されてるんじゃないんですか? 拷問とかの。痛みに強いとか、精神が強いとか。それか家族が人質になっているとか。上手く使わないと、一族処刑とかありそうで怖いですよねぇ」
まぁそんな事一切聞いてないけどね。本当、偉い人達の怒りはどこまで飛ぶかわかったもんじゃない。
「とりあえずその件は考えておきます。呼ばれない事を祈りつつ、あまりにも多いなら成功報酬って事でなにかしら請求しますし、薬代にかかった費用は別途で請求します。では、捕らえている奴の処理もあるので失礼します」
値段わからないけどね。なんか希少性の高い素材とか与えれば、満足しそうな気もするけど、最悪金じゃ買えない可能性も高いかもしれない。けどそういうので、喜びそうな気もしないんだよなぁ。あの人。
「うーっすただいまー。フィーは気が付いた?」
一応メモの複写とかあったし、一時間は経っているので、そろそろ気が付いたかな? って程度で聞いてみた。
「まだだ。とりあえず祭りの片付けしてたわ。で、そっちはどうなった?」
「複写させて、とりあえず任せた。貴族の政争的な物に巻き込まれるのは勘弁だしな。悪いが恩を売って防波堤になってもらう」
「んー。今のところはそれが最善なのか? 餅は餅屋って言うしなー。会田さんとか忙しいだろうし、俺達は俺達で何とかするしかないか」
転移をしたら北川がいたので、とりあえず話しながらフィーを拘束している部屋に向かった。
「なんで四肢が脚に縛り付けてあるんだよ……。特殊性癖の店かよ……。普通に縛って寝かせておけよ……」
フィーはベッドに大の字というより、バツの字状に縄で拘束されていた。なんでこうなってんだよ……。
「暴れられるよりはいいだろ? あと俺の指示だ」
そう言って北川が笑顔で親指を上げたので、無視しておいた。ってか俺もラッテにやられたから、何とも言えない。力業とか刃物じゃないと拘束が解けないし。まぁ、俺の場合タオルだったけどさ。
「転がられて、暴れられるよりはマシだな。うん……。さて起こすか」
俺は小指の爪くらいの【水球】を出して、フィーの鼻の中に入れると、盛大に咳き込みだして目を覚ました。
「あの。なんで俺は拘束されているんでしょうか?」
「少し副作用が出てんじゃねぇか! 何が出ないだよ!」
「後遺症は出てねぇだろ! 少しの期間だけ記憶失ってるだけだよ!」
「一体何があったんですか!」
俺達が怒鳴り合っていたら、フィーがツッコミを入れてきた。もっともな意見だ。
「あー。……そ、そうだ。尋問しようとおもったけど、なんか吐かなそうだから止めようぜってなったんだよ。な?」
「あ、あぁ。そうだな。とりあえず拘束だけで済ませてるけど、このまま帰らせてもいいかなーって思っていたところなんだよ」
いきなり北川が変な事を言ったので、とりあえず合わせたけどどうしよう。偽の情報刷り込んで、転移でセレナイトに放り出すか?
そんな事を思っていたら、フィーが変な顔になったので、なんか物凄く疑われてそうだ。
「ところで、どこから記憶がない?」
一応心配だったので聞いてみた。どの程度からないのかで、色々不味いと思うし。
「……昨日の夜に、誰かに首を絞められて抵抗したまでは覚えてる」
「あー、はいはい。一応捕まってる自覚はあるのね。大丈夫、俺達は優しいから、疑わしきは罰せずで。二度とこの島に顔を見せないって言うなら、セレナイトまで送るよ? だって商人さんと船は出ちゃったし」
俺は超笑顔で言うと、さらに疑いの目を向けられた。
「海の上で放り出すって事はないさ。俺が転移魔法で直ぐにセレナイトの門の外に送るんだから。何も心配はいらない。な?」
「お、おう。こいつは一応約束は守る奴だからな。その後は知らないけど。ちなみに保護してもいいけど、信用も信頼もないから、嗅ぎまわられた後にしばらくして逃げられたり、手紙とか送られたら困るし、本音としてはお前をさっさと島から追い出したいんだよ」
言っててなんだけど、相手側の気持ちで自分達を見たら、凄く胡散臭いだろうとは思う。アト、偽の情報を渡す前に放り出し決定だわ。
「ってか面倒だからもう送るわ。拘束を解くけど、暴れても多分勝てないから、大人しくしててくれ」
碌な情報を持っていないと思うので、問題はないはず……。
俺はナイフを取り出し、手首側から切って縄を外し、上体を起こしてから背面で手を縛り、足の方を外してやる。
「んじゃ、転移するから外に出てくれ。あ、発動中に動くと、体の一部が島に残るかもしれないから、動かないでくれよ?」
一応説明だけはして、外に連れ出し転移魔法を展開させる。
「この外に出たら身の保証は一切しない。いいな? わかったなら入れ」
そう言って指をクイクイとやると、恐る恐る入ってきたので、セレナイトの門の外に転移をした。
「さて、見覚えのある風景だと思うが、一応セレナイトの防壁だ。このままどこかに消えるもよし、中に入って仲間に報告しに行くも良し。どうするかは任せる。ほら、船長からどんな理由で乗り込んだかは聞いてるから、町に入る大銅貨五枚だけは出してやる」
俺はフィーの縄を切りながら言う。なんかあまり抵抗がないし、楽っちゃ楽だな。
「なんで俺を殺さない。殺した方が良いだろうに……」
「死体は情報を持ち帰らない。お前はまだ製造の核心にたどり着いていない。だからどんな事をされたかとか色々喋ってもらわないと。仲間に報告しに行くか行かないかはお前の自由だ。その結果がどうなろうと俺の知った事じゃない。逆に侵入者が増えるかもしれない。それでもまぁいいさ。その時はその時だ。背中を向けた途端に刺すとかはないが、お前を安心させる為に俺はもう帰るぞ」
「捕まったが何もされなかった。ちょろい島で入りたい放題だ。とか言ったらどうするんだ?」
「それもそれでありだ。あの島はヤバイからやめておけ。が、死体の山で作られるか、なぜかそっちの情報がかなり洩れる、で作られるか……だ。なんでお前が祭り中の真夜中で人気のない場所で首を絞められて、拘束されたかを考えろ。こっちはそれなりに、防衛っぽい事は既にしているんだよ」
個人的にはどんどん来てくれた方が、情報が増えて助かるんだけどね。まぁ、どのみちこいつは、意識がない時に情報を喋ったって事を知らないし、多分上に処理されるのは決定だと思うから、大銅貨五枚で逃げないと生きられないのは確かだな。
「んじゃ、二度と来るんじゃねぇぞ」
俺はそれだけを言い、転移で島に戻った。