I Became the Demon Lord and my Territory is an Uninhabited Island

Episode 301: Listening to Keith's Souvenir Story

大魔王様に魔法を教えてから二十日。かなり日差しが強く感じられる様になってきた頃、三日に一度の定期船でキース達が帰って来たらしく、家族全員で交易所に寄り、その足で家に顔を出してくれた。

で、キースはパトロナちゃんを預かり、ルッシュさんは俺の家で女性同士の話し合いに行ってしまった。

「おかえり。少し痩せたな」

「ただいま。あぁ、家族が中々返してくれなくてな。どっちも」

キースが苦笑いをしながら、少し成長したパトロナちゃんを抱いて、背中をポンポンと叩きながらあやしていた。

「どういうルートだったんだ?」

パーラーさんがいないので、俺が【熱湯】を出してお茶を淹れ、二人に配る。

「あー……。まず俺の実家だな。船で港についたら、そのまま大陸沿いを進む貨客船で渡って、最寄りの港から馬車を探して五日くらい。帰ったら帰ったでまず門番に俺が帰って来たとか騒がれ、ねーちゃんがすっ飛んできて、そのままの勢いでルッシュと一緒に家に連れ込まれ、それを見ていた奴が、狩りをしてたとーちゃんを呼びに行って、そこでまた大騒ぎよ」

「なんとなく想像できるな」

「えぇ。物凄く簡単ですね」

俺とウルレさんは、軽く頭を縦に振っている。

なんかキースの若い頃とか、微妙に想像してしまった。なんかヤンチャしてて、故郷を飛び出して、冒険者で弓を使い、俺と会ったって感じだろうか?

「で、かーちゃんが山ほど飯を用意して、家族で今まで何やってたの。隣にいる綺麗な女性は嫁か。んじゃそれは孫だな! ってな」

「まぁ、そんなもんだろ。ずっと故郷にいた俺の両親も、孫が産まれて、初めて見た時もそんなもんだったし。二人目にも甘々だったぞ」

「そんなもんなのか……」

「親なんかそんなもんだ。孫の顔を見て喜ばない人なんかいないはず……だと思う」

多分だけど……。少なくとも、前世でも親戚とかの集まる時なんかそんなんだったはず。

「ま、その後は島で覚えた畑仕事を手伝ったり、狩りなんか手伝ったら変な目で見られた」

「若い頃はよっぽどヤンチャしてたんだな。その反応だけでなんとなくわかるわ」

「ですねぇ……」

「お前等……酷くねぇか?」

二人でなんとなく頷いていたら、キースがジト目でそんな事を言った。

「だってなぁ……」

「えぇ。容易に想像できます。なんか若いころは尖ってたっぽいですし。島に来てルッシュさんと結婚してから、かなり丸くなってます。自分でも気が付いてますよね?」

「まぁ、そうだけどよ。それからカームの事とか島の事を話したらよ、とーちゃんが笑顔でベリル酒とアクアマリンの酒を出してきたんだ」

「そっちの方まで行ってるのか。有名になったもんだ」

大陸に着いてから船で移動して、馬車で五日だからな。あってもおかしくはないけど。

「で、狼に禁輸品の葉っぱの事とかの訓練の事を話したら、早速故郷でもやってみようって事で、二人が捕まった」

「駄目じゃん。ってか良く故郷にあったな」

「村のバーさんが鎮痛剤作るのに、村長が十人分くらいを厳重に管理してたんだよ。そこらへんにホイホイあるようなもんでもねぇだろ」

「ですねぇ。あっても困りますけどね」

村で漢方薬とか作れる感じの、知恵袋的な人なんだろうか? 俺の故郷にも医者は一人いたから、その辺は納得できるけど。

「そしてルッシュが少し村の財政に口出しして、別に赤字じゃないって事になって、村長の息子に滅茶苦茶厳しく、家庭教師としてしばらくついてたな。その時は俺も狩りに行ってたし、じーちゃんばーちゃんがパトロナの事面倒見てたから、助かったわ」

「祖父母も孫が抱けて幸せなんだろ」

「ねーちゃんに子供がいるぞ? もう孫はいるんだぞ?」

「多分身内の孫は全員別だから……」

「で、戦場で戦った奴が島の魔王になってたって言ったら、全員口開けてたわ。俺の噂も故郷に届いてたみたいで、小恥ずかしかったけどな」

「そっちは気になりますね。どんな噂ですか?」

そしてウルレさんが突っ込んでいった。そういうのってあまり触れられたくないんじゃない?

「あー。飛竜の目を射貫いたから、昔は目貫きのキースなんて呼ばれてたけどな」

そしてキースは恥ずかしそうに、頬を人差し指で掻きながら、右上の方に視線を逸らしている。

自分で二つ名とか言うのは、恥ずかしいんだろうな。

「だから飛竜の食べ方とか詳しかったんだな。納得が行ったわ」

「まぁな。お前ん所じゃ出なかったのか?」

「平地で小川が流れてて、近くに森があったから、ゴブリン程度だ。たまに大量発生して駆り出された程度で、主に生産物は小麦にベリル酒だったから、そういうのはねぇよ」

「けど、巨大な壁を作って、人族の兵士を一瞬で壊滅させた噂は広がってましたけどね」

そしてウルレさんが、突っ込む様にお茶を一口飲んでからぼそりと言った。

「え、何それ。俺知らないんだけど……」

「結構有名な話ですよ?」

「あぁ。お前と別れた後に、散々聞いたぞ?」

「えー……。クソ恥ずかしいんだけど」

「それから俺達は、一回も戦場に戻ってないから、俺達は死んだって噂が流れてるぞ」

そしてその一言で、俺はむせてお茶を噴きだした。

「ま、まぁ。その方が好都合かな? 若い時は無茶しちゃったし? ははははは……」

俺はキースから目線を外しつつ、テーブルに広がったお茶をぎこちなく拭いた。

まさかそんな噂まで流れてたとか知らなかったわ。けどクラヴァッテからは、散々手紙届いてたけどな。キースの場合は放浪してたっぽいし、捕まらなかったんだろう。

「紺色の奇跡って言われてたぞ。人族に捕まった魔族側の捕虜の後ろに巨大な壁を作って、敵兵だけをぶっ殺したからな」

「待って……。その話は止めて。あまり思い出したくないし、二つ名的な物は恥ずかしいから聞きたくない」

個人的には死にたくなかったし、仲間も助けたかったって事で、必死だったし。

「おいおい。俺だけ恥ずかしい思いをさせんじゃねぇよ」

そしてキースが黒い笑顔になり、ウルレさんが俺の噂をどんどん話して、俺は恥ずかしさでプルプルと震えるしかなかった。

「で、ルッシュさんの実家はどうだったんだ? もちろん行ったんだろう?」

俺は少しだけ気になったので、その後に少しキースの実家の事を聞いてから、ルッシュさんの実家の事も聞いてみた。

「そうだな……。一言で言うならデカい。だな」

「大店の娘さんでしたっけ? 自分と同じで家が継げないので、クラヴァッテ様の口利きでアクアマリンに来たと聞いてますが」

「あぁ、そうだな。実家はテフロイトの隣町だ。そろそろ都市って言っても良いくらいでかい場所だったな。上級区に家があって驚いたぜ」

「ほー。あまり身の上の事は聞かない様にしてるから、少し気になるな。まぁ、スラム近くの裏路地にいる、野良犬から話を聞いてたとかってのは聞いたけど」

あれを聞いた時は、本当に良い所のお嬢様? とか思ったくらいだ。

「その話は本当っぽいぞ。向こうのとーちゃんやかーちゃんから聞いた。子供の頃はお転婆で、変に行動力があった子って言ってたなぁ」

「まぁ、今でも行動力はありますけどね」「あぁ、確かに変に行動力はあるな……」

俺は、ルッシュさんがアピスさんに頼んで精力剤と興奮剤を作ってもらい、キースの食事に混ぜた事を知ってるし。

その後は、キースがなんか胃が痛いとか言いながら、お湯で戻したパンを食ってたのを思い出した。

「でよ。実家を継いでるにーちゃんが、あっちの方もやり手でな。奥さんが三人もいて、子供が多くて驚いた。それぞれ二人の子供がいて賑やかだったぜー。おかげで暇しないで済んだけどな」

「ほー。変に行動力があるのは、兄弟姉妹ってところか。親の血かな? で、どんな感じで暇しなかったんだ?」

家が商家だし、なんか色々と気になったので聞いてみた。

「ヤンチャな息子達は、冒険者やってた頃の話をしてくれって言うし、娘達は自衛の為に弓を教えてってな」

「うわ。後継ぎがいなくなったらキースのせいだな」

「あー。なんかそう言われると、悪い事したって考えになってくるから止めてくれ。で、冒険者時代に何を重視してたかとか、ナイフとかの戦闘時以外の道具類の選び方をとーちゃんに詳しく聞かれて、翌日には冒険者用の店を出す算段してたぞ」

「売る物を広げすぎだろ……。大丈夫か? 家とか傾かねぇか?」

俺は島がだんだん多角化しているが、ついついそんな事を言ってしまった。

「ま、試しに出してみて、客足が鈍かったら潰すって言ったし、平気だろ。最初は貸店舗で出すって言ってたぞ」

「絶対に父親譲りの行動力だな」

「ですね。ルッシュさんは絶対父親似ですね」

俺とウルレさんは、何かを納得しながら軽くうなずいた。

「はいはーいー。お茶菓子が焼けたので、皆で食べちゃいましょー。今日はエレーナちゃんが焼いたんですよ」

そしてパーラーさんとエレーナさんが、お菓子を持って嫁組がゾロゾロと入って来た。

「ははは、なんか一気に大所帯になったな」

「キース。パトロナの面倒を見ててくれてありがとう」

「おう、そっちはそっちで色々話せたか」

「えぇ、おかげさまで。にしても……。コルキス君大きくない? もうパトロナと同じくらいになってない?」

そしてスズランに抱かれているコルキスを撫でながら、ルッシュさんは少し首をかしげて俺の方を見た。

「だよね……。なんかお爺ちゃんに似たらしく、お爺ちゃんも子供の頃大きかったとか言ってたし」

俺がそう説明すると、スズランとラッテが頭を縦に振り、間違っていないと肯定している。

「リリーちゃんは普通だったわよね? スズランよりも少し小さいくらいで」

「私の一族は、男は大きいらしい。女は他の種族や、人族とさほど変わらない。多分女を守る為だと思う」

「動物とかでもオスかメス。どちらか片方が大きい場合があるものね」

「そうだねー。けどさ、リコリスさんもスズランちゃんもリリーちゃんも強いよね」

そして応接室にいた全員が、スズランの事を見ながら首を縦に振り、無言でお菓子を口に運んでいた。大半がリコリスさんの事を知らないと思うけど……。

俺もリコリスさんの事はあまり知らないけど、なんとなく雰囲気でわかるわー。あのイチイさんがタジタジになる時があるし。俺が島に単身赴任している時に、何かあったのかな?

まぁ昆虫なんかはメスの方が大きいけどね。とは言えない雰囲気だけど、まぁ、黙っていよう。

「けどキースさんの話で、ルッシュさんは父親似ってのはわかりました」

「あー。そうだね。キースの冒険者時代の話を聞いて、速攻で冒険者用の店を出そうって考えるのは凄いと思う」

「こっちもルッシュの話で、キースも父親似って言うのはわかった」

「だねー。若い頃なんか、今のキース君と同じ様な感じだったって言ってたし」

「「似てないから」」

そして二人で否定しているが、多分似ているんだろう。

さてさて、コルキスとメルはどっちに似るかな?

そんな事を思いながら、俺は笑顔でお茶で焼き菓子を流し込んだ。