I Became the Demon Lord and my Territory is an Uninhabited Island
Episode 303: When I did the project Konjac
北川から、榎本さんがシイタケの栽培に成功したと聞いた三日後。俺は第二村に転移し、家に向かうと榎本さんが縁側でシイタケを干していた。
「おう、カームじゃねぇか。どうした?」
「シイタケの栽培に成功したと聞いたので、ちょっと見に来ましたが……。早速干してますねぇ」
そして干している横を見ると、レンガを積んだだけの簡素な竈があり、網が乗っていた。このあとお楽しみする気満々だな。
「あぁ。ビニールみたいな物もねぇし、流通も整ってねぇからな。収穫したらさっさと干さねぇと。で、やっぱ気になるか?」
「そうっすねぇ。採れたて新鮮のを網で。ってのは憧れてましたから」
「だよなぁ! じゃ、早速裏手にある薪置き場から、薪を持って来て、少し細めに割っといてくれ」
「うっす!」
俺は返事をし、薪を持って来て、切った丸太の横にあった鉈で、どんどん細めに切っていき、レンガの中に積んでいき、許可をもらって火を点けておいた。
「ほい。醤油と塩。若いもんはバターとかあった方が良いのか?」
そして榎本さんが、お盆にいつ作ったのかわからない陶器製の醤油差しっぽい物と、皿に塩を持ってやって来た。
「バターっすか。だんだん家畜は増えてますが、バターは島内じゃまだ貴重なので、少し諦めで」
そう言うと、細い鉄の棒を組んだだけの、目の粗い網の上にシイタケを乗せた。
「あ、日本酒忘れた」
そう言ってまた家の中に入って行き、ニヤニヤとしながら日本酒を湯飲みで二杯持ってきた。
「ヤんだろ?」
そしてそのまま渡されたので、笑顔で受け取っておいた。
「お、汗かいて来たな」
そう言って榎本さんが塩をかけ始め、箸でつまんでそのまま口に入れ、数回噛んでから飲み込み、湯飲みの酒を飲んだ。
「あー! たまんねぇなぁおい! ほら、焼け過ぎちまうぞ!」
そう言って箸でシイタケを指し、手首を振る様にして俺に勧めてきた。なんだろう。有名な映画のワンシーンを思い出すわ。
「んじゃいただきます!」
そう言って俺もシイタケを口に運び、肉厚なシイタケのコリコリ感を楽しみながら飲み込み、日本酒を一口飲んで一息つく。
「最高の贅沢って、やっぱり採れたてとかに行きつくもんすねぇ!」
「だよなぁ! あーこの島に竹があったらタケノコでも同じ事すんだけどなぁ……」
「竹はヤバイっすねぇ。あいつら直ぐ増えるんで、他の植物が侵食されちゃいますよ」
「だよなぁ。ってかこっちに来てから一回も見てねぇから、半分諦めてるわ」
そう言いながらも、シイタケを口に運ぶ手は止まらず、日本酒をチビチビとやっていた。
「便利だから、人の手があれば結構見かけるらしいんですけど、この辺に一切ないなら仕方ないっすねぇ」
そう言いながらも、俺もシイタケを口に運び、チビチビとやらせてもらい、湯飲みに半分ほど酒を残す。
「さて第二陣。醤油だ」
そう言って榎本さんは網の上にシイタケを乗せ、行儀は悪いが、箸をパチパチとやって手の中で遊ばせていた。
その気持ちわかりますよー。こういうのは焼けるまでも、美味さの一部ですからねぇ。
「しゃ! 汗かいて来た」
そう言って醤油を垂らすが、わざと外して薪の上にこぼし、醤油の焦げる香りを辺り一面に広がらせた。
「わかってますねぇ。これがないと直火でやった意味がないっすからね」
俺はニヤニヤしながら焦げた醤油の香りを楽しみ、香りだけで日本酒を少しだけ飲み、そのままシイタケを口に入れたい衝動を押さえながら、シイタケに醤油が馴染むのを待つ。
「榎本さん。やる時は俺も呼んでくれって言いましたよね?」
そして織田さんが醤油の香りに反応したのか、乱入してきた。ってか醤油垂らしてから来るまで早かったな。執務室にいたんじゃねぇの?
「ははは、わりぃわりぃ。第二陣で我慢してくれ」
「あ、じゃあ俺も北川呼んできますわ」
そう言って醤油のかかったシイタケを口に運び、日本酒で流し込んでから転移をした。
「おい北川! 榎本さんが直火で採れたてのシイタケ焼いてるぞ! お前も来い!」
「なにぃ! その言葉は箸を置いてから言うべきだったなぁ!」
あ、ヤベ……。持ったまま来ちゃった。
「まぁいい。昼飯用の二枚貝がさっき届いたばかりだから、少し持ってくぞ!」
「お前の村の水生系魔族タイミングよすぎだな!」
そして俺達は共同炊事場に走り、なんか平たい籠に積んである貝を両手で持てるだけ持ち、榎本さんの所に帰った。多分五分かかってないと思う。
「あー。たまんねぇ……。最高の贅沢っすわ。採れたて、醤油、日本酒。最高の組み合わせっすねぇ! 二十過ぎてから、この良さがわかって来たんすよ。若い頃はなんだかんだで肉肉肉でしたからね」
わかる。酒を覚えてから、なんとなく気が付く鮮度の重要性と、塩や醤油の組み合わせ。シンプルなほど美味いんだよなぁ。
「いやー。今年は成功して良かったわ。来年からじゃんじゃん作るぜ」
「お願いします!」
北川は笑顔のまま、空きスペースに二枚貝を乗せている。もうアレだ。気分はオフモードだ。
「お。山の物と海の物。しかも両方物凄く新鮮。本当贅沢だよなぁ。この島だからできる感じが強くて粋だねぇ。日本じゃスーパーとかで簡単に手に入るから、家でもできたけど、なんか違うんだよなぁ。ビニールハウスがないから、季節物のありがたみが強い」
そして織田さんも、チビチビとやりながらシイタケを口に運んでいた。
「あ? そんな事言うと、昨日干したアジも出すぞ?」
「多分歯止めが利かなくなるんで、この貝だけにしておきましょう。噂になってる第三村の住人みたくはなりたくないんで」
おいおい、どんだけ第三村の噂は酷ぇんだよ。
「あ、そうだ。榎本さんは、こっちでこんにゃく芋とか見ました?」
「あ? そういや見てねぇな」
「アレは日本とかアジア系原産だからなぁ。この島じゃない、ジャングルっぽい場所がありそうな場所を見つけて、手あたり次第掘り返すか、品種改良じゃないか?」
そして織田さんが、二枚貝をひっくり返しながら呟く。
「やっぱそうなっちゃいますよねぇ……。可食まで三年かぁ……」
北川はなんかため息をつきながら、二枚貝をひっくり返し、空を見上げた。
「トマトとかカボチャがあんなに大きくなんだから、大きさもいじってもらえばいいだろ。あとアレはサトイモ科だから、似た様な芋探してきて、熱で固まるでんぷんとか糖とかその辺ゴチャゴチャすればいいんじゃないか? ほら、タロイモとか言ってさ、ジャングルとかで生活してる人が、摩り下ろした芋を水にさらして、でんぷんだけ取って、焼いて食ってるだろ。お前も榎本さんみたいに、少し数年くらい情熱注いでみたらどうだ? アストの訓練中に、食える野生の芋採って食ってただろ? あれをベースに、少し育ててみたらどうだ? なんだかんだで食えない芋を無理矢理食えるようにしました。って感じじゃなくても、似たのは作れるんじゃないか?」
俺が日本酒をチビチビやりながら北川に言うと、バシバシと肩をたたいて来た。めっちゃ痛い……。勇者の物理攻撃めっちゃ痛い……。
「ちょっと採ってくる!」
そして焼けて開いたばかりの二枚貝に醤油を垂らして、ハフハフ言いながら噛んで、日本酒を一気に流し込んだら、森の方に向かって走って入って行った。酔いの回りとか酷そう……。
「……あいつどうしたんだ?」
そして織田さんが、なんか病的な人を見る目で北川を追っていたが、こっちを見てそんな事を言った。
「アイツの好物が筑前煮で、なんか無性に食いたいらしく、榎本さんのシイタケ栽培が成功したから、こんにゃくも入れて食べたいって愚痴ってました」
「「あー」」
そして二人が、北川が走って行った方を見て、榎本さんが、フルールさんとパルマさんの鉢植えを、何も言わずにレンガの近くに持って来て貝を食べた。
「採って来た!」
「はや!」
そして三十分もしないうちに、息も切らさずに北川が戻って来た。
「ほい。お前が森の方に行ってる間に、絵を描いておいたぞ」
そして胸ポケットから、木炭で描いた絵を北川に渡した。
「あー。こんにゃくの花って、なんかクソ臭い花が咲く奴と同じなんだな」
「花が咲くまで五年で、大体三年くらいで収穫しちゃうからな。里芋も似た様な花だぞ」
そしてなんか焼く物が少なくなり、少しグダグダし始めた頃に戻って来たので、ちょうど良かった。
「パルマさん。フルールさん。ちょっとこいつの話を聞いてやってください」
俺が鉢植えに話しかけると、二人が人型に変化した。
「なになに?」「なによ」
「この芋をですね。こんな臭い花が咲く――」
そして北川が身振り手振りで、こんにゃく芋の事を伝え、特徴も詳しく話し、俺も補足をしておいた。
「んー。つまり季節が一回巡るくらいで、貴方の顔くらいに大きくなって、粉々に砕いて熱を加えると固まる芋でいいのね?」
「あぁ! まずはそれで頼む!」
なんか必死過ぎて声が大きくなっているが、それを見た榎本さんがニヤニヤしていた。多分榎本さんもシイタケを頼む時は、こんな感じだったんだろうか?
「わかったわ。じゃ、対価として、第四村の花の種をその辺に多く植える事」
「私は芽の出てる実を見かけたら、確実に育つ様にしばらく鉢植えで育ててね」
「あぁ、それくらいだったらお安い御用だ。ダメだったらまた来年頼むからな」
そして契約が成立したのか、北川が持っていた芋が少し光りだし、品種改良が終わったみたいだ。
「じゃ、カーム。私達にお水ね」
「はいはい。多分そうなると思ってましたよ……」
俺は少しため息交じりに言い、【水】を出して鉢植えに与えておいた。
「おい。俺を第四村に戻せ! 今から植えてくる!」
俺はから笑いをしながら榎本さん達の方を見ると、軽くうなずいたので、後片付けを任せて、ご馳走様でしたと言ってから転移をした。
そして第四村に転移したら、早速北川が日当たりの少し悪い場所を掘り始め、植えてから木の杭を打ち込み、縄を張っていた。
「元々鬱蒼とした場所に生えてたからな。この辺りでいいだろ」
そんな事を笑顔で言い、俺に水を出させ、杭の頭をポンポンと叩いていた。
まぁ一言言うなら、里芋ってさ。親芋孫芋って増えてくから、一株だけ植えても、成功してたとしても、あんまり収穫できないぞ? とは言えなかった。笑顔が眩しすぎたし。
榎本さんみたいに、数撃ちゃ当たる作戦にした方が良いと思うんだよね?