そのようにしばらく金塊を眺めた。そして、侍従長からペンダントを受け取った俺は完全なる金塊の主となった。

この秘密の場所が優秀なところは、たとえ他国に領地を奪われたとしても、ペンダントを持つ俺でなければこの空間には入って来られないということ。

侍従たちに金塊を移動させたら場所は公になってしまうが、金塊が隠された場所に入れるのはペンダントを持つ俺だけだ。

俺は快哉を叫びながら、金塊の10分の1を夜通し運搬させた。

その額は約10億ルナン。本来あった領地の資金と合わせると[1,025,000,000 ルナン] こんな数値になる。これで領地を育てれば人口が増えてもっと多くの徴兵が可能になり、それはやがて軍力となる。

本来はエイントリアン家が国王一家だった。そのため、復興のために子孫代々準備してきた軍資金があったのだ。

だから金塊を手にした翌日、俺は領地にあることを公表した。

民心をつかむための政策を!

「ボルド子爵に苦しんできた領民たちよ。今までの悪行はすべてボルド子爵が企てたことで、俺はその証拠を手に入れるために彼に従うふりをしていた。だが、その悪は捕まった。これまでのお詫びとして1年間領地の税金すべてを免除する!」

ボルド子爵にすべての罪をなすりつけて、俺は自分の評価を上げるために動きだした。こんなのは悪徳領主のやることだがまあいいだろう。手にしたものを利用して民心を高めることさえできるのなら。

お金は十分にあるから税金に目が眩むことはなかった。

またとんでもない政策を施行するのだろうかと恐怖に怯えていた領民たちは、俺の話をしばらく理解できずにいた。しかし、歓声が上がるまでそう長くはかからなかった。

1年間の税金免除はそれだけ領民たちの心に一番響く多大なる恩恵だったから。

これまでは農業を営んでも農作物の95%以上を奪われていたが、それを100%すべて自分のものにできるということ。

それは一瞬にして悪徳領主に対する印象を変えるには十分のはずだった。

[民心が70に上昇しました。]

そして、それは実際に目の前で数値に表れていた。

*

ルナン王国の王ツタンカは頭を掻きむしりたい心境だった。貴族たちの視線が集まる中すっかり怖気づいた様子。

「陛下、デラン地方やルオン領地までが……」

軍の総責任者であるローネン公爵が口を開いた。

「敵軍はすぐそこまできている! 君たちは一体いつまでやられてばかりいるつもりだ」

北方から始まったナルヤ王国の侵略に何の備えもなくやられたルナン王国は連戦連敗を重ねていた。もちろん、北方の国境にある領地はむなしく陥落してしまい、現在は首都のすぐ側までナルヤ王国の征討軍が進軍している状況。無能な王ツタンカは自分の安危が最優先だったため、いまにも息絶えんばかりに貴族たちを責め立てた。

「そういえば、エイントリアン領地も侵略されたとか?」

ツタンカはその悪い頭で先日の報告を思い出した。いつもなら1時間前に受けた報告すら忘れてしまう彼にとってこれはとても驚くべきこと。

「左様でございます。ですが、エイントリアンは無事です。2次侵略はなく敵の兵力は北方に集中しています」

「つまり、エイントリアンの領主はナルヤ王国との戦いに勝ったということだな?」

「はい……」

ローネンは眉間にしわを寄せた。エイントリアンの領主であるエルヒンの噂を聞いていたからだ。2年前に爵位を継承したエルヒンという人物は、ただ悪政ばかりを行う無能な領主であるという評判。

「領地で上がってきた報告によると、ナルヤ王国の2万人もの兵力を5千人の領地軍で阻止したとのことですが……。正直、信じられません。戦功を増やしたとしか……」

「だが、阻止したのは事実だろう」

「運がよかったか、多くても偵察隊ほどの規模だったのではないかと」

ローネンのその言葉にツタンカは首を横に振った。今にも首都を侵略されそうなのだ、勝利経験のある領主であればなおさら最前線に立たせなければ。可能性が少しでもあるならすぐに施行すべき時。ツタンカはすぐさまローネンに向かって叫んだ。

「戦場では勝利経験が重要だ。すぐに最前線に送りこんで国を守らせろ!」

「しかし陛下。エルヒンの能力とは別に、辺境の領主たちには国境を守る任務が……」

「首都が危険だというのに国境が何だ! これは命令だ!」

ツタンカは声を荒げた。臣下という立場のローネンは結局首を縦に振ってうなずくしかなかった。命令に背いたら、それは反逆になるから。

「そ、それでしたら、国境の兵士はそのままに領主だけをこちらへ」

「そうだな。国境はその兵力に任せて、領主には最前線で能力を証明させるんだ!」

ツタンカはいかにも善を施すかのようにそう言いながら立ち上がると大殿を後にした。

*