I Become a Staff Officer in the Demon Army, but I Can Only Do Office Work!

Rationality is not the main element of a person

「兵站局の人員が少ないのは、勿論軍内部で後方要員が少ないと言うこともありますが、単純に人事局の仕事が遅いというのもあるのです」

「あぁ、わからなくもないな。この前は俸給の支給が滞ってたし」

つまみを注文し、兵站局の新人や他部署の悪口を肴に、ソフィアさんはその後も度数の高そうな酒を水のように飲む。

それで顔が少し赤くなるだけなのだから、彼女のアルコール耐性は凄まじいものがある。

もしかしてソフィアさん、魔術師としても才能抜群……? なんで事務仕事してるんだこのハイスペックさんは。

「俸給の遅れは死活問題ですから……陛下に頼んで、エリさんあたりを経理担当者にして、人事局から経理部門を切り離すべきでしょうね」

「いいと思います。人事局は配置転換や採用、昇進、降格、勲章授与等の人事管理だけでも相当な仕事をしなければなりませんし」

店に入ってからだいぶ経つが、話すことは個人的なことではなく仕事のことばかり。

長く一緒にいたのに互いの事を知らない。

それしか話すことがないと言うのもあるのだが。

「しかしそうなるとまた新しく後方担当事務官の募集をかけないと……」

「幹部候補はだいぶ集まりましたし、今度からは要求水準を下げてみるのも手かと。最悪、読み書きと計算だけが出来ればいいですから。あとは採用後に教育です」

「ですね。あぁでも、これからも兵站局麾下の部署は増えるでしょうから、幹部候補と一般職員の二種類に分けて採用しましょうか」

「しかしそれをするのも人事局の仕事ですよ」

「……必要経費というものが世の中にはありまして」

兵站局が管理下に置き始めた輸送隊倉庫に「不要不急予備品」として大事に保管している物を方々に配って、まぁその、なんだ、便宜を図ってもらう。

いつまでも陛下に頼るのはアレだしね。

「それは『賄賂』と言うのでは?」

「『必要経費』です」

「……御前会議の席で堂々と他部署の不正や賄賂を告発していた人の台詞に聞こえませんが」

「あれは物事を進めるための手段として利用しただけで、私自身が不正を全て許さない完璧主義者であるという意味ではありませんよ」

それに不正の告発なんて本来は憲兵隊の仕事ですよ。

「…………騙されました」

「騙されたって……私、そんなに高潔な人間に見えました?」

「人間は全て狡猾なものだと思っていましたので……。少し見損ないましたよ」

「それはどうもすみません」

そう謝ってみたものの、ソフィアさんは別に怒ってる風でもない。むしろ満足そうに笑みを浮かべているのだからわからないものである。

「そんなことをするのなら、最初からそうすればよかったじゃないですか?」

「と言うと?」

「つまり、不正という弱みにつけ込んで根回しした方が効率が良かったのではないか、という話です」

あぁ、なるほど。

確かにそれは効率がいい。弱みを握ったとはいえ味方が増えるし、変に怯えられなくて済む。俺もそうしようかと迷ったけど、2つの理由でやめた。

「2つ?」

「えぇ。ひとつは、魔王陛下を裏切りたくなかったことですね」

「……はい?」

まぁ、単純な話だ。

陛下はあぁ言うお人だ。これで大抵通じてしまうけど、あんな人だ。大きな不正があれば認めないような人である。

そんな陛下に不正を報告せず、不正を見逃して仲間を集める勇気が俺にはなかった。

「それに私の兵站改革は、魔王軍の改革でもある。遅かれ早かれ、不正の糾弾は必要だったんです」

「……なるほど。まぁ、あまり頭のいい考えとは思えませんが」

ほっとけ。

「で、2つ目の理由は?」

「あぁ、そっちはもっと単純な理由ですよ」

「というと?」

「……私が他人の弱みを握ってるなんて状況、後ろから刺されそうで怖いじゃないですか」

少年探偵マンガでよく読んだ展開である。弱みにつけ込んで色々しようとした人は大抵殺されるのだ。同じことはないと言いきれないじゃないか!

「…………」

ソフィアさんの冷めた視線が凄く痛い。

「あの……アキラ様」

「はい」

「それ、2つ目の理由が大半ですよね?」

「なんで俺の心が読めるんですか?」

「なんで心が読まれないと思ったのですか?」

うむ。確かにそうだ。ソフィアさんは読心術の使い手なのだから不思議ではない。

さっさと話題を変えよう。墓穴が浅いうちに脱出しないと深みにはまって抜け出せなくなる。

「そう言えば、なんでソフィアさん魔王軍なんかにいるんです?」

「……魔王軍〝なんかに〟?」

怖い怖い目が怖い。

「あ、いえ、そういう意味じゃなくてですね」

単純な疑問で深い意味はない。

ソフィアさんは、ご覧の通りスペックの高い人である。

軍隊よりも報酬的に旨味がある職業なんてざらにあるし、実際魔都の商会やギルドなどにも高給取りのエリートはいっぱいいる。

故に事務員に関してはかなり給与を高めに設定しているし、それでも足りない場合は「魔王陛下の傍で働き魔王陛下の為に働ける!」という忠義心を煽って募集を掛けている。

それでも集まるかは微妙なくらい、優秀な事務員は貴重なのだ。

「つまり、普通に魔都で就活した方がいいと思ったんですよ。軍隊って色々制限多いでしょ?」

「まぁ、そうですね。確かに魔都で働いた方がいいと思います」

「じゃあなんでです? 陛下に対する忠誠ですか?」

「……それが一番近いかもしれませんね」

彼女はその言葉の後、アルコールの摂取量が増えた。

いくら蟒蛇と言っても限界はあるだろうと思ったが、ソフィアさんは何も言わず飲み続け、ついにはノックアウト。

すやぁ、という寝息を立てて、彼女は爆睡した。

「……まぁ、人外でも人間でも、事情は一緒ということなのかな」