I Came Back but the World is Still a Fantasy!?

03-09 What does a moon-night rabbit look like and jump? (meaning deep)

1-Dの生徒達の中で指導を続けながらも小さく溜息を吐く女教師。

このクラスは入学こそできる能力はあるが成長の望みが薄い子が集められている。

入学したばかりであるのでこれから先伸びる可能性は残されてはいるが

現時点における1-Dの生徒達の動きはひどく雑でありいい所が見つからない。

ステータスの高低という以前に何かが決定的に足りていない。

そしてフリーレはそれが何かを明確に示すことができない。

分からないわけではないのだ。

彼女自身は優れた戦士であり経験はどの教員より多い。

何せこの学園で元・軍人の経歴があるのは彼女だけである。

しかし戦いのプロが必ずしも教育のプロになれるわけではない。

生徒達の不出来の意味を言葉にして教えろといわれると難しい。

どうしても自分の教師としての力量の無さを悔やむ彼女である。

元々教職についた理由にある負い目を持つフリーレは

その分仕事には誠実且つ真面目に臨んでいたが現実はこれだ。

一番成績が悪くどう教えていいかも解らない生徒達の副担任。

それで腐って手を抜くような彼女ではなかったがうまくいかない。

学園内での評価はきっと受け持っている生徒達と大差はない。

ついそんな考えに至ってしまうほど、どうしていいか解らない。

そんなクラスに今日入ってきた新たな問題児。

凡庸そうでいて強烈に常識がズレている掴みどころのない転入生。

少し話をしただけで1-Dの子らとは違った意味で厄介な予感が止まらない。

果たして、どこで興味を持たれたのか特別科のクラス委員をもう呼び寄せた。

これまで家柄とステータスを誇るだけの外見だけのお嬢様だった彼女も、

最近はおとなしくなって他に目を向けるようになっていたことで、

一人の教師として、同じ金の瞳を持つ貴族として安心していたというのに。

そちらの授業の方はどうなっているのか。

気になって、ちらりと視線だけを彼女は隅のフィールドに向けた。

運良くなのか。運悪くなのか。

それはアリステルが転入生の少年に銃口を向けた瞬間のそれ。

的を撃ち抜いた姿勢の少年。それを見ていた白衣の教師。

二人の斜め後ろに立っていた少女は無防備な少年に銃口を向けていた。

視界に入った瞬間状況を理解したが、声をあげるより早く光弾は放たれる。

フリーレは咄嗟に少年に危険が迫っていることを伝えようとした。

フォスタのバリアがあるおかげで致命的なダメージにいたらずとも、

不意の一撃というものは存外に大きな衝撃とダメージをもたらす。

ましてや相手は耐久Dの少年だ。強力な一撃の余波だけで命にかかわる。

───伏せろ、ナカムラ!

そんな言葉を叫ぶより前に少年の反応の方が速かった。

シューターをソードに切り替えながら振り返り刃の腹で光弾を受け止める。

そして勢いを殺さず炸裂もさせない繊細な動きで刃の角度を変えながら跳ね返す。

それも撃ったアリステル本人に向けて。まるで狙ったかのように。

そんなことを刹那の動作でやってのけた。

フリーレの驚きはしかしそこで止まらない。

自ら撃った弾丸が跳ね返されて驚愕の表情を浮かべた少女だったが、

そこは敏捷A-ランクの反応速度を持つ特別科のクラス委員である。

自分に向けて跳ね返された時点で彼女は大きく横に跳んで避けた。

「っ!?」

それは果たして誰の驚きか。

フリーレ自身が自分のなのかアリステルのなのかが分からなかった。

何せ跳び避けたはずの彼女の眼前に光の刃が突きつけられていたのだから───

その驚きは観測者であったフリーレより当事者だった彼女の方が上だった。

彼女がこんな行動に出たのはひとえに確信があったから。

目の前の少年は強い。この程度の攻撃など意味をなさないぐらいには。

しかし、ならばなぜ彼のステータスは貧弱なのか。

その矛盾の答えを知るには実力行使が一番だと思ったのだ。

それも不意打ちでの咄嗟の対応が何より真実を語ると。

例え何もかもが自分の思い違いであったとしてもバリアがある。

自分が放ったそれの前には軽くボールが当たった程度の衝撃だ。

だから、まるで流れるような動作での跳ね返しには驚いた。

こちらを一度も見ることもなく振り返って光弾を刃で受け止める。

そして炸裂する間も与えずに正確にこちらを狙って跳ね返す。

それは彼女が想像すらしていなかった行動で一瞬動きが止まる。

されどアリステルの敏捷はそこから復帰しての回避を可能とした。

強く地面を蹴って大きく右に跳んだ直後に先程までいた場所に着弾音。

空中にいる僅かな間に放った威力を思えば避ける必要などなかったのに

咄嗟に避けてしまった事を自分でも訝しみつつ着地した。

「っ!?」

そして誰の驚きの声が分からない声がした。

目の前にあったのは見慣れているはずのフォトンの刃。

フォスタの基本装備。特別科生徒からすれば予備の予備の武装。

しかもそれは通常の半分程度の短い刃渡りしかない短剣。

それを突きつけられただけだというのに彼女の体は動かない。

「…………」

何の感情も孕んでいない静かで無機的な視線が、重い。

激情もなければ冷めてもいないそれは機械的で質量を感じてしまう。

ソードではバリアを破れないという知識がまるで役に立たない。

それ以上の圧力という絶対的な脅威を前に本能が呼吸さえ忘れた。

「……ん、おっと悪い…………って大丈夫か?」

「い、いえ、こちらこそ申し訳ありません………た、立てません」

ただそれさえも一瞬で少年は無表情ながら瞳に色を宿して刃を下した。

圧力から解放されたアリステルに待っていたのは脱力による腰砕け。

ぺたんと臀部から落ちて、地面に座りこんでしまう。

「手、貸そうか?」

「お、お願いします」

差し出された手を掴むと思ったよりも硬い手の感触。

けれど優しくも力強い引き揚げによって楽々と立ち上がらされた。

驚くほど容易にされた事で手慣れていると彼女に感じさせた。

「しかし、いきなり背後から撃たれるとはな。

そこまで縦ロール呼びが頭に来ていたとは思わなかった」

「ち、違います!

い、いえ確かにその呼ばれ方は不本意ですけど!

そういうことではなくて、えっとその!」

そしてからかうような微笑を浮かべた彼はやれやれと首を振る。

彼女は反射的に否定したが呼び方への不満はあるのでこんがらがってしまう。

正直にいうべきか誤魔化すべきか決めていたはずの対応すら出てこない。

「アリちゃんはたぶんイッチーの実力を測りたかったんじゃないかな?

さっきもシューターに照準補正がある、なんて嘘ついたし」

「きゃあぁっ!!?? ル、ルオーナさん!?」

そこへ突然自分の背後から狐っ娘が出てくれば誰であれ驚く。

不思議とシンイチだけは平然と彼女の言葉を聞いていたが。

「へー、そうだったのか」

「……イッチー、少しは驚いてくれないとボク物足りないんだけど」

計算通り驚いてくれたアリステルの態度には満足したが、

表情がピクリとも動かなかったシンイチには不満顔を向ける狐っ娘。

「だったらもっとうまく隠れろ、丸見えだ」

「う……うっそぉん……」

自慢の気配遮断を一言で斬り捨てられて、落ち込むように崩れ落ちる。

おいおいと袖で目元を覆っている姿はあまりにも嘘っぽいので無視され、

彼は問い詰めるような雰囲気でアリステルに詰め寄る。

無表情を一転させて人の良さそうな笑顔を浮かべて。

「つまり俺はハメられたのか、やられたなぁ。

けど、ひどいな。こっちが知らないのをいいことに騙すなんて」

それが悪魔の微笑みにしか見えなかった彼女は思わず後退る。が。

逃げる隙を与えず彼は懐まで踏み込むと笑ってない瞳で見詰める。

そして唇を耳元に近づけると冷めた声色で怪しげに囁いた。

「次は無い…………月夜ばかりと、思うなよ」

典型的な脅し文句。

月のない暗い夜道でなにが起こっても知らないぞというそれ。

目立って注目などされたくもなければこれ以上詮索や試されるのも厄介。

だからシンイチは力量差を感じていそうな彼女になら脅しが通じると考えた。

「──────────ッッッ!!??」

のだが。

緊張と怯えが混ざっていた表情を一気に赤で染め上げた彼女は

声にならない悲鳴をあげて脱兎の勢いで壁際まで逃げてしまう。

「……え?」

予想外のそれに作っていた表情が崩れ、困惑の顔を見せて戸惑うシンイチ。

視線の先にいる彼女は壁を背にしてそれ以上逃げられずにいるが、

自らをかき抱くようにして縮こまって顔を真っ赤にしていた。

「どゆこと?」

かなり近距離まで近づいてはいたが触れてはいないしやったのは脅し。

いったいどこに顔を赤くする要素があったのか彼は解らなかった。

「ああ、うん……やっちゃったねイッチー」

シンイチの困惑とアリステルの態度。どちらの意味もわかるのか。

ミューヒは微妙な笑みを浮かべながらも彼の疑問に答えた。

「まずはさ、ガレストに月はないんだよ。

昼夜はあるし空もあるけど宇宙がないから天体がないの。

天体がないから夜に自然の明かりはなくて暗いのは当たり前。

もちろん街には人工の明りがあるから実際は暗い夜って珍しいけど」

「で?」

そういえば、と前の授業でそんなことをいわれていたと思い出す。

しかしながらそれがこの態度とどう結びつくのか解らないシンイチだ。

「うん、だから月って単語がガレスト語にはないんだ。

今の言葉はたぶんこういう意味で翻訳されちゃったと思う。

『次やったら、暗い夜には気を付けろ』っていう意味のガレスト語に」

「ん、概ね合っている気がするが?」

それどころか彼が使った言葉より直接的な表現になっている。

彼がいいたかったことは正確に伝わっているはずだ。

「額面通りに受け取るならね。

でもガレスト人にとって『暗い夜』って言葉は実は────」

「ん────ああ、なるほど」

ミューヒは背伸びして何事かを耳元で囁くと納得したという顔で彼は頷く。

そして次の瞬間、にやりと唇だけを吊り上げるようにした笑みを見せた。

「わあ、悪い顔だぁ」

若干顔をひきつらせながら笑うミューヒを尻目にアリステルに迫る。

逃げようとする彼女だが後ろにしか下がろうとしないため位置が変わらない。

左右のどちらかに行けばいいのだがその考えさえ浮かばないほど動揺していた。

「随分と慌てて、何を想像したのかなこの子兎は?」

それをさらに追い込むように彼女の背の壁を力強く片手で叩いた。

「っ!?」

逃げられず、詰め寄られた彼女はもう微動だにできない。

ただ朱色に染まった顔で、間近に迫るシンイチを僅かに見上げるだけ。

「あ、わ、わわ、わたくしは……」

「そんなに恥ずかしかったのか。俺に襲われる(・・・・)妄想は?」

「────ッッ!?」

直接的で、図星な指摘に羞恥で顔がより赤く染まっていく。

ガレストでは人が住む場所は夜でもこちらの街以上に明るい。

天体の明かりがないのと輝獣が現れても闇夜に隠れられないようにするために。

そのため『暗い夜』はごく限られた時間とスペースにしか存在しない。

時間は当然夜であり、そのさい明るくては困る場所。つまりは寝室。

ガレストにおいて『暗い夜』とは夜のベッドを示唆する言葉だった。

彼の言い方は偶然にも男が女をベッドに誘う常套句。

それも夜這いの予告として受け取られるものだった。

『次何かしたら、夜のベッドでどんな目に合うか解らないぞ』

シンイチの発言はガレストの一般的な女性にはそう受け取られる。

いってしまえば文化の違いと翻訳上の仕方がない誤解なのだが、

そこで釈明でなく悪乗りしてしまう辺りに彼の本性が垣間見える。

本当に襲われてしまう所を妄想して真っ赤になった彼女も彼女だが、

いくら高度な教育を受けていても純粋培養なお嬢様には刺激が強すぎたのだ。

「助平な女め、なんなら───」

「あっ、んっ!?」

壁を叩いた手とは逆の手が優しく顎を掴んで顔を上げさせる。

「───本当に、今夜お前のベッドに忍び込んでやろうか?」

意地悪く笑う顔と存外に真剣で真っ直ぐな瞳に見詰められ、

哀れ縦ロールお嬢様のハートは限界を迎えてしまう。

「っっ、へじょぎにゃうにょっ!?」

もはや茹蛸と同格の赤さにまで茹で上がった彼女は翻訳できない言葉を吐いて

手で遮られていない方向に一目散に飛び出して、競技場出入り口まで逃げ出した。

その速さに感心しながら見送るシンイチの顔は実に楽しそうに笑っている。

気付いたのか。はたまたこのまま逃げては矜持に関わると思ったのか。

アリステルは出入り口の前で一度止まって振り返ると真っ赤ながらに叫ぶ。

「お、お、覚えてなさいナカムラ・シンイチ!!

つ、次はこうはにゃりませんことよ!! っ!?」

捨て台詞としては定番ながらも、どもり具合は動揺のあらわれ。

途中噛んでしまったことも合わさって今度は本当に脱兎の如く彼女は逃げた。

「あははははっ! 

いやはや、なかなか弄りがいが、もとい、からかいがいのある娘だな」

「それ言い換える意味ないよね。

………まだ転入初日だから当然なんだろうけど、

ボク、イッチーのことがよくわからないよ……」

おかしそうに、それでいて玩具を見つけた子供のように笑うシンイチ。

これまで見せてきた態度とまるで違うように感じるそれに心底戸惑う。

「……お前がいうな、お前が」

未だに底が見えない彼女がいっても説得力は皆無。

笑みを引っ込めて呆れた表情を浮かべて狐っ娘を半眼で睨む。

「だいいち出会って数時間で俺を理解されてもこま、っ……いたっ!」

言葉途中で脳天に突き刺さるような衝撃を受けてその場に蹲る少年。

その“雷”を振り下ろしたのは白髪の女教師フリーレ(般若顔)である。

力いっぱいに握りしめた拳はそれだけでその脅威を訴えていた。

「授業中になにをやっているナカムラ!!

補佐役を辱めて追い返すなどっ、前代未聞だぞ!?」

「あはは……いやぁ反応が面白くて、つい」

「つい、で女心を弄ぶんじゃない! まったく、お前本当に15歳か?」

殴られた頭を押さえながら彼女を見上げて苦笑する。

それでもそんなことをいうのだから反省の意思は皆無である。

その態度やアリステルに見せたあの顔はとてもそんな年齢の子供には見えなかった。

とはいえ。

「じつは3015歳ぐらい、だったり?」

そんな冗談を軽く流せるほどフリーレは軽い教師ではない。

「…………どうやらもう一発欲しいようだな」

思わず鬼教官と呼ばれる彼女は本領発揮とばかりに拳を握りしめて脅すが、

軽快に笑いながら「本気なんですけどねぇ」とシンイチはとぼけるだけ。

これは何をいってもやっても無駄と判断した彼女は矛先を変えた。

「にっ、フランク先生も呆けていないで止めてください!」

「え……あ、いや、その……すまない。

あまりに想定外の光景に思考が停止していた」

ステータス最下位で今日転入したばかりの15歳の子供が

ただの翻訳上の誤解に乗っかって、相手が逃げるほど強気に迫る。

そんな展開が予測できるわけもなく彼はかなりの時間固まっていた。

「何もできずに補佐役を帰らせてしまうとは。すみませんでしたフリーレ先生」

さすがに自分の失態だと感じて恐縮した態度で謝罪するフランクに、

それを想定していなかったせいかうまく受け答えのできない彼女はあたふたする。

「あ……その、いえ……にいさ、いえっ先生に謝ってほしいわけでは……」

そこには何か兄妹とは思えぬ妙な距離感と遠慮も紛れていて、

シンイチはそれを少し痛ましいものでも見るかのように見詰めていた。

「……ところで、授業ってこのあとどうなるの?」

けれど表情に浮かんだ感情をすぐに消して、真剣な顔で周囲にそれを問いかけた。

内容的には空気が読めないのかあえて読んでいないのか判断に困る発言だが。

「もっともな台詞だけど、アリちゃん追い詰めた人の台詞じゃないよ?」

その辺り分かっているのかと言外に責めているがシンイチは素知らぬ顔だ。

「…………はぁ、フランク先生あとは何が残ってるんですか?」

「…………そうですね、あとはもうスキルの試用だけです」

だからといって授業をこれ以上止めるわけにもいかないのは確か。

教師の顔になって進行状況を確認するとフリーレは彼女に目を向けた。

「ならルオーナ、特別科生徒への要請としてここから先の授業補佐を。

わたしはもうあいつらの所に戻らなくては……」

何が起こったのかよくわかっていない1-Dの生徒たちに視線を送る。

ただ視線には不機嫌さが滲み出ていることからシンイチが原因で、

授業を止めたこと、憧れのアリステルが帰ってしまったことは察していた。

彼女が戻って意識を授業に戻す必要があった。しかし。

「ひどいフドゥネ先生! ボクにイッチーに襲われろと!?」

こちらの狐っ娘は先程の行為を引き合いにして身を守るように自らを抱く。

また始まったとフリーレが呆れるより早く当の本人からの否定が入る。

「安心しろ、あっちもお前も襲う気はゼロだから……むしろマイナス?」

「それはそれで女の子としてなんか屈辱的だよ!?」

「………子って歳かよ」

「何かいったイッチー!?」

「いいから、スキルについて教えろよ。授業時間残り少ねえんだから」

「扱いが一気にぞんざいに!?」

そして漫才のようなやり取りをし続ける今日が初対面のはずのふたりは

なんだかんだ言いあいながらスキルに関する授業へと移っていった。

それを見ながらもフリーレはすぐには動かず握りしめた拳を見下ろす。

「どうか、しましたかフリーレ先生?」

「にっ、フランク先生は先程私がゲンコツを落とした時、

ナカムラの動きに妙なところがあったと思いますか?」

「え?」

問われた彼はしかし、ふざけた生徒が殴られた程度の認識しかなかった。

ゆえに“同僚”からの質問にただただ不思議な顔をしただけだった。

「あいつ、反射的に避けようとしたのを無理矢理止めたような気がするんです」

「まさか! なんでそんな面倒なことを……」

「そうしないと……折角パデュエールをからかって有耶無耶にした事が無駄になる」

「あっ!?」

いわれて、初めてフランクはその事実を失念していたことに気付く。

その後の予想外の行動がその前の衝撃的な光景を打ち消していた。

「……お前、何者だ?」

おとなしく狐っ娘の授業を受けている少年を見据える。

それはもう手のかかる問題児を見る目ではない。何か別の者を見る目。

まだ転入したばかりで顔を合わせてからまだ数時間程度。

彼のいう通りそれだけで相手の全てが解るわけではない。

されどあまりに無さ過ぎる向上心。目立ちたくないという言葉。

いくら交流公表前の人物とはいえ低いステータスへの劣等感が皆無。

そして反射的に眼前に刃を突きつける程肉体に染み込んだ動き。

危険な地域に2年いた程度ではとうてい納得できない何かがそこにあった───