I Don’t Care, So Let Me Go Home!
Chapter 5
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ふてくされる私にサラは詳しい説明をしようとはしなかった。いつもだったら、しょうがないわねと話してくれるのに。
・・・これ、やばい話なのか?そうなの?サラ様?
「・・・・ねぇ、アイリーン様?悪いけど、彼を、『名も無き影』さんを呼んでくれないかしら?」
「へ?」
思わず、といった風に、アイリーン様がテーブルから顔を出す。
誰ソレ???『名も無き影』とかちょっと恥ずかしいな、その二つ名。・・・ぁぁ・・わたしはもう二つ名を笑えなくなったんだった・・・。
「大丈夫。貴方は只『許可』を出してくれればいいのよ?」
サラの表情は変わっていない。例の嗤うダークドラゴンのままだ。だからか、アイリーン様はガタガタと震えながら、すごい勢いで何度も頷いた。
「きょ、きょかします!しますぅぅ!!」
そうアイリーン様がいった瞬間、サラの後ろに黒い男が現れて、首元に、ナイフがぁぁぁ!!!
あ、あぶないよ!!サラ!うしろうしろぉおお!!
・・・・・ぁっ・・・しかしなんか・・何処かで見たような構図だな・・・。
「初めまして、と言ってあげた(・・・)方がいいかしら?名もなき影(嗤)さん?」
なんだかわからないけど、サラの挑発たっぷりの言葉に、霧のように曖昧だった黒い男が、怒りの篭った殺意をバラ撒き始めた。
・・・・・サラさん、これから戦争でも始めるの??
そして、アイリーン様は無事なのだろうか。机の下に居るようだ。なら平気、でもないか。
「ふふっ、私に公爵家を丸裸にされた後に、貴方の、大事な、大切な、主人の前へ、引きずり出された気分は如何かしら?」
「っ!!!」
明らかに動揺する黒男。サラさーん、愉しそうなのは理解るけど、首元にナイフがあるの忘れないでね?
そう合図すると、サラは私に向かって笑いかけた。・・・うん、古の邪悪なるダークドラゴンが噛みごたえのある獲物を前にしたような笑みだね!
「大丈夫よ、リーア。首を刎ねられる可能性はあるけれど、アイリーン様が大事なら、彼はそんなことしないわ」
ね?と嗤いかけるサラ。えーそうは言っても、その、サラの背後の黒男の殺気が一段と跳ね上がったぞ?
まぁ、サラ楽しそうだしなぁ・・・。
「うーん、ならいいけど・・・。あんまり無茶はしてほしくないなぁ」
そう言いつつ、テーブルの上のお茶お菓子一式をお盆の上に乗せて、アイリーン様の隣に座る。
・・・やっぱり、この雰囲気に飲まれて息をするのも苦しそうだ。
「アイリーン様、大丈夫ですよ。これからサラが話をするだけで、危害を加えたりしませんよ。はい飲んで」
少しぬるくなったお茶を渡す。まだまだ顔は強張っているけど、お茶は飲めるようだ。よしよし。
ものすごくサクサクするクッキーを頬張りながら、紅茶を飲む。はぁ、和むわー。
そんな私達の上で、殺気が飛び交うサラたちの話し合い・・・は続く。
「まぁ、じゃれ合いはここまでにして。今のアイリーン様の話を、他言しないと誓約するわ」
沈黙する黒男。ソレに構わず、首元のナイフにも構わず、サラは続ける。
「対価として、先程ルルリーアが言った言葉、一字一句全て、他言することも何かに記録することもしないと誓約してちょうだい」
あーー、サラさんや・・・誓約って魔法で交わすから、破れば死を与えられる、んだよね。
えっ!そんな重要だったの?あの天眼竜様の言葉。
よかったぁぁぁ!!サラが居る時に言って、ほんとよかったぁぁぁ!!!
んーー、しかし一つ頂けないなサラさん。それは駄目だな、全然駄目だよサラさんや。
「貴方も理解しているでしょう?今の話の重要性、そして危険性も」
「サラ。駄目だよ」
サラと黒男の会話を途中で遮る。・・いや黒男は喋ってないけど。
「その誓約するのは、私でしょ?だからサラは駄目」
はぁ、お茶が美味い。のんきにお茶を飲んでると、サラが凄い顔で睨んできた。そうまるで古の邪悪なるダークドラゴンが卵を傷つけた不届き者を睨むような顔だ。
こ、こわぁぁぁ!!!怖いからその顔!!アイリーン様、お茶も飲めなくなっちゃったから!!
・・・・・でもここは譲らないよ?
「私がホイホイ喋ったんだから、その始末をつけるのも私。でしょ?」
サラに尻拭いさせるなんて冗談じゃない。
その意を込めて、サラを見つめる。悪いけど、譲らないよ?
「・・・・まったく、素直に守られてなさいよ・・・この頑固者」
よし降参したな!サラ!って顔ぉぉぉ!ごめんあやまるからぁぁ!!その顔だけもうちょっと優しい感じに戻してぇぇぇ!!
そんなやり取りを見ていた黒男が、すっとナイフを下げた。
・・・彼の存在をちょっと忘れてたのは内緒だ。だって殺気が無いと、気配があんまりないんだもん。
「誓約の必要はない。主にかけて誓おう」
「じゃあ私はリーアにかけて誓うわ」
そう言葉を交わすなり、黒男は姿を消した。
・・・え?誓約、要らない?ナイフ出して血判の準備、してたんだけど??
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「それにしても豪勢なことね、リーア」
「別に私はそんなつもり、ないんだけどなぁ」
呆れたように言うサラ。むむ!?自分なんてついさっき自分の命を駒にしてたくせに、こいつぅ・・・。
床から立ち上がってサラの方へ近づく。
嫌がらせを兼ねて、油でギトギトの指でサラの頬を抓ろうとした。ら、微かにだが嫌そうな顔をするサラ。
そうなのだ。サラは、楽しそうにダークドラゴンの笑みを浮かべたり、退屈そうな顔をしたりはよくするが、嫌そうな顔はあまりしないのだ。希少なんだぞ??
くっくっくっ!!伊達に小さい頃から一緒にいるリーアさんじゃないぞ?サラが綺麗好きなのは承知の上だ!
手をワキワキさせながら更に近づくと、扇子でデコをぴしりと叩かれた。いたい。
「いいなぁ・・・ともだち・・・・」
テーブルの下からひょっこりと顔を表したアイリーン様。お、復活したか。
羨望の顔で私達を見つめてくる彼女を見て、サラと顔を見合わせる。
いやいやいや。
「アイリーン様はまず、周りの殿方たちをどうにかしないと・・・」
「そうね、今のままだと千年経っても信奉者以外の友人は出来ないでしょうね」
千年って、アイリーン様死んでるよ?サラさんやソレは流石に・・・ありそうだな。
「ふぁっ!??え、そんなっ!え??あいつらはただのともだちでっ!??」
あいつら、それはソラン君入ってるのかな??
憐れソラン君。きみ、友達だってさ・・・。うぷぷ、かわいそー。
「自覚するところから始めたほうがよさそうですね」
「あら、先は長そうね」
そう、サラと重ねて言うと、呻き声を上げはじめたよ。
・・・・そしてテーブルに倒れ伏しているアイリーン様。ほんと残念な人だな。
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なんだか大変なことがあったような、そうでもないような、そんな帰り道、馬車の中。
いつも通りにくだらない話をして、いつも通り楽しい時間を過ごして。
・・・・・・はぁ、いつも通り(・・・・・)、ね。
「サラ、もう言っちゃいなよ」
「なんの、こと?」
白々しく惚けるサラ。はいはい、もうわかってるんだよ?言ったほうが楽になるよ?
「ほら、サラが言い淀むなんて。私に危険が迫るような何かが起きてるの、隠してるでしょ」
そうきっぱり言うと、サラははぁと溜息をつく。
やっぱり黙って守られないわね、なんてボヤいてるけど、はいはいいいから言っちゃいな。
「・・・わかったわ。でもまだ、推論の域を出ないのよ。・・・ドラゴンの行動範囲が理解ればいいのだけれど」
「・・・あっ」
「・・・・・・・・またなの?リーア」
サラから疑惑の目で見られる私。てへへと笑う。そのとおりでございますサラ様。
でも私は無実、だよ??
「えっと、半年以内にドラゴンの最新情報と、ついでに賢王様の、しかも初版の伝記読めるや」
「・・・・・・・」
無言でぐいっと私の頬をつねるサラ。い、いひゃいっ!!
「リーアは面白くはあるけど、こうも重なると、ねぇ・・」
「いひゃいれす、さらさま」
まったく、と言いながらも頬を離してくれないサラ。頬がっ!の、伸びちゃうゥゥゥ!!
「いい?それ、一字一句・・とまでは言わないけど、要点はきちんと把握してきてね」
「えぇええ・・・」
覚えられるかなぁ・・・自信ないなぁ・・・、なんて思ってたらサラのお顔がぁぁぁぁ!!
まるで古の邪悪なるダークドラゴンが出来の悪い子供を叱りつけるが如く、厳しいお顔だ。
・・・・あれ?サラ様私と同い年だよね?
「は・あ・く、してきてね?」
「ひゃい!がんばりまひゅ!」
・・・あれ?私もサラの子分みたいだぞ??アイリーン様を笑えないぞ?
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