「君がジークくんかい?」

翌日。

特別試験を受けるべくギルドへ向かうと、すぐに少女が声をかけてきた。

腰に短剣を二本差し、革の鎧をまとった軽装の剣士である。

「えっと、あなたは?」

「僕はクルタ。ギルドから君の試験を担当するように頼まれた、試験官さ」

「そうですか……」

試験官を任されるということは、相当の実力者であるはずだ。

だが見たところ、クルタさんは俺と同じか少し年下。

この感じはちょっと予想していなかったな……。

「むぅ、何だいその顔は? 僕の実力を疑ってるのかい?」

「……そういうわけじゃないですけど、ずいぶんと若い方だなって」

「クルタさんは、このラージャ支部でも希少なAランク冒険者さんですよ! まだお若いですが、実力については折り紙付きです!」

すかさずフォローをした受付嬢さん。

彼女の紹介に、クルタさんはふふんッと胸を反らせる。

この自信満々な感じ、ちょっぴりだけどシエル姉さんに似てるな。

そう言えば姉さんたち、今ごろどうしているんだろうか?

俺のことを探しているのかな?

「何だか上の空だね?」

「あ、すいません」

「僕からしてみたら、君の方がいろいろ疑わしいね。どこか自信がなさそうで、強者特有の覇気があまり感じられない」

覇気ねぇ……。

まあ、本当に強いのか自分でもまだ半信半疑だしな。

剣術の修行を始めてから約三年、ほぼ毎日のように無能と言われてきたのだから。

そんなにすぐには自分の実力を信じられるはずがない。

「試験はギルド地下の訓練場で行います。私が立ち会いますので、ついて来てください」

受付嬢さんに案内され、俺とクルタさんは階段を下って訓練場へと向かった。

へえ、地下だというのに明るくて立派だな。

闘技場のような造りの訓練場は、ドラゴンでも入れそうなほど大きかった。

「ではお二人とも、模擬戦用の武器を」

訓練場の端に、木製の武器が何種類かおかれていた。

その中から俺は剣を、クルタさんは短剣を手にする。

どうやら彼女は二刀流の使いてらしく、両手に武器を持っている。

「よし、じゃあ始めようか」

「ええ!」

「では……特別試験、始め!」

受付嬢さんの合図に合わせ、互いに武器を構える俺とクルタさん。

ふむ……なかなか隙のない構えだな。

しかし、ライザ姉さんと比べてしまうと隙だらけもいいところだ。

Aランクと聞いて警戒していたけれど、この程度なのだろうか?

「はっ!」

姿勢を低くし、前方に向かって一気に飛び出す。

一閃。

剣の切っ先が大気を裂き、真空の刃が生まれた。

クルタさんはそれを見て、たちまち目を丸くする。

「うっそぉ!?」

飛び退いて距離を取り、かろうじて斬撃を避けたクルタさん。

あれ、これって珍しい技なのか?

ライザ姉さんは「剣士の基本技だ」って言ってたけど。

心底意外そうな顔をしたクルタさんに、こちらまで驚いてしまう。

「飛撃か……剣聖の奥義じゃないか。君、どこでこんなものを習ったんだい?」

「ええっと、街の道場で」

「そんなところで教えられる技じゃないはずだけどね。まあいい、こうなったからには僕もちょっと本気を出そうか」

そう言うと、クルタさんはあろうことか短剣を地面に置いた。

これは……もしかして無刀流というやつか?

よくよく目を凝らしてみると、クルタさんの手に魔力が集中しているのがわかる。

物理的な刃ではなく、魔力の刃で戦うつもりのようだ。

「木の短剣じゃ、魔力の通りが悪いからね。ない方がむしろ都合がいいんだよ」

「あわわ……クルタさん、それはやりすぎですよ! 特別試験はあくまでも力を見るためのもの、本気で戦うわけじゃないんですよ!?」

「大丈夫、ケガはさせない」

そういうや否や、クルタさんは舞うような動きでこちらへ飛び込んできた。

身体の柔らかさを生かした不規則な動き。

素早い上にかなり読みにくかった。

クルタさんはどうやら、対人戦を得意とするタイプのようだ。

けれど、ライザ姉さんと比べるとやはり数段劣る。

あの人の攻撃は、基本的に動きが全く見えないからな。

剣を抜いたと認識した瞬間には、既に刃が届いている。

それに対応するよう求められてきた俺にとって、眼に見える時点で脅威ではない。

「ふっ!」

「なっ!」

交互に迫る腕に剣を当て、軌道を逸らせる。

クルタさんの体勢が崩れたところで、身体を半回転させた。

そのまま彼女の背中に向かって一発。

エビぞりになったクルタさんは「かはっ!」と苦し気に息を吐く。

そして――。

「……参った。僕の負けだ」

倒れそうになり、膝をついたクルタさん。

彼女はどこか悔しげで、それでいてさっぱりしたような口調で宣言した。

途端に審判役の受付嬢さんがぎょっとした顔をする。

「か、勝った!? 新入りさんがAランクに勝った!? ど、どうしましょうこんなこと前代未聞ですよ! え、ええっと!?」

「落ち着いて落ち着いて!」

「はっ! とにかく、マスターを呼んできますね!」

俺たちが止める間もなく、受付嬢さんはアベルトさんを呼びにすっ飛んで行ってしまった。

取り残されてしまった俺とクルタさんは、互いに顔を見合わせる。

「やれやれ、彼女の落ち着きのなさにも困ったものだ」

「いつもああなんですか?」

「まあね。それよりも問題は……」

そう言うと、ぐいぐいっと距離を詰めてくるクルタさん。

な、なんだろう?

先ほどまでとはどこか違う彼女の気配に、俺は少し気圧されてしまう。

「ええっと……! 俺が何者かとかそういうことだったら、答えられませんよ?」

「そんな野暮なことじゃないさ。ただね」

もったいぶるクルタさんに、俺はたまらず唾をのんだ。

何だろうこの雰囲気、前にも姉さんたちから感じたことがある!

俺が警戒していると、クルタさんはいたずらっぽく笑いながら言う。

「僕とパーティを組まない?」

「え?」

予想だにせぬ言葉に、俺はたまらず聞き返すのだった。