I kept being called incompetent at home, but it seemed super competent globally
Seven Stories Cleaning Ultimate
「へぇ……結構大きいな」
町はずれに佇む教会。
重厚な石造建築で、高い屋根の上には大きな十字架を掲げている。
聖十字教団。
ファム姉さんが聖女を務める、大陸最大の宗教組織だ。
さすがに規模が大きいだけあって、信仰の寄る辺となる教会も立派なものである。
「こんにちは。もしかして、お掃除に来られた方ですか?」
礼拝堂の中に入ると、すぐに修道服姿の女性が声をかけてきた。
聖職者らしく落ち着いた物腰だが、肌にはツヤがありかなり若く見える。
まだ、二十歳前と言ったところではなかろうか。
「はい。俺はジーク、墓地の清掃依頼を受けてきました」
「そうですか、よろしくお願いします。お墓は教会の裏にありますので、どうぞこちらへ」
シスターさんに連れられて、礼拝堂の奥から教会の裏へと出る。
するとそこは、かなり大規模な墓地となっていた。
街の外壁に沿うようにして、数えきれないほどの墓石が立ち並んでいる。
「おお……広いですね」
「この街は冒険者の方が数多くいますからね。どうしても、命を落とされる方も多いのです」
冒険者の聖地として知られるラージャ。
夢を掴み英雄と呼ばれる者たちがいる一方で、命を落とす者もまた多い。
俺は冒険者の街が抱える負の側面を、少しだけ垣間見たような気がした。
「普段は私や他のシスターで掃除をしているのですが、さすがにこれだけ広いと手が回らなくて。定期的に冒険者の方へ依頼を出しているんです」
「なるほど。これだけ広かったら、そうもなりますよね」
ざっと見ただけでも、数百はお墓があるからね。
とてもシスターさんたちだけで管理しきれるとは思えない。
「掃除道具はそこの小屋に入っていますので、好きにお使いください」
「わかりました」
「それから、墓石を掃除する前には祈りを捧げるのがマナーとなっています。やり方はご存知ですか?」
「ええ、もちろん」
そのあたりのことについては、ファム姉さんから叩き込まれている。
いつもおっとりしていた姉さんだけど、礼儀作法と祈りに関しては厳しかった。
おかげで、そのあたりについてはまず間違いないだろう。
「では、私は礼拝堂で祈りを捧げております。教会の鐘が鳴りましたら、作業を終えて戻ってきてください」
軽くお辞儀をすると、戻っていくシスターさん。
さーて、気合を入れて仕事しないとな!
教会の鐘が鳴るのは、日没の少し前。
それまでにこの広さの墓地を掃除するのは、かなり骨が折れるだろう。
「手作業だとさすがに時間がかかりすぎるな。魔法で浄化するか」
右手で三角と十字を切ると、即座に光魔法を発動する。
白い光が降り注ぎ、たちまちのうちに墓石の汚れが消失した。
光属性魔法「ブランシェ」。
本来はアンデッドモンスターの浄化に使うものだが、実はこういう使い方もできる。
ファム姉さんが教えてくれた生活の知恵だ。
「ふぅ……! 何とか終わったな」
ひたすら墓石の浄化を続けること数時間。
すっかり日も傾き、空が茜色になってきたところで、墓地のお掃除が終わった。
どうにか鐘がなる前に全部を綺麗にできたな。
一切の汚れが消失し、光り輝く墓石の群れ。
ある種幻想的ですらあるそれらを見て、俺は満足げにうなずく。
いやぁ、やっぱり綺麗にすると気持ちがいいよね!
早くシスターさんにも見てもらわないと。
俺はすぐさま、裏口からシスターさんのいる礼拝堂へと入る。
「シスターさん、お掃除終わりました!」
「へ? まだ鐘はなっていないはずですが……」
俺が声をかけると、シスターさんは怪訝な顔をした。
そして壁に掛けられていた大時計を見やると、たしなめるように言う。
「あと三十分ほど時間が残っているではありませんか。ちゃんと最後までお願いしますよ」
「いえ、最後まで終わったから報告に来たんです」
「はい?」
うーん、どうも話がかみ合わないな。
ここは実際に見てもらった方が早いか。
俺は渋るシスターさんをちょっぴり強引に墓地まで連れていく。
「……え、ええ!?」
夕日に輝く墓石の群れ。
それが見えた途端、シスターさんの顔が一変した。
彼女は現実を疑うように目を何度もこすると、心底驚いた様子で口を開く。
「これは、どういうことでしょう……!?」
「ですから、全部掃除したんですよ」
「全部!? このお墓をですか……?」
「ええ。そういう依頼でしたし」
俺がそう言うと、シスターさんは首をふるふると横に振った。
「いえ、私が頼んだのは教会の鐘が鳴るまでお掃除をしてほしいということですよ? それまでにせいぜい、墓地全体の五分の一も終わればいい方だと思っていたのですが」
「え!? 鐘が鳴るまでに全部掃除してってことじゃなかったんですか?」
「違います! これほど広いお墓、普通は一日で全部掃除するなど不可能です! 一週間ほどかけて綺麗にしていただくつもりだったんですよ」
ありゃりゃ、完全にこちらの勘違いだったってわけか。
道理で話がかみ合わなかったわけだ。
「しかし、よくここまできれいにできましたね。顔が映るほどツルツルになっています」
「ええ、魔法を使いましたから」
「水魔法で洗い流しても、これほど綺麗にはならないのでは?」
「水魔法じゃなくて、光魔法で浄化したんですよ。ブランシェの応用です」
「ブランシェ!?」
急に大声を出すシスターさん。
彼女は改めて墓地全体を見渡すと、声を震わせて言う。
「あ、あのブランシェをこの墓地の墓石全部にかけたんですか?」
「ええ、まぁ」
「信じられない!! ありがとうございます、ありがとうございます!」
俺の手を取ると、すさまじい勢いで感謝の念を伝えてくるシスターさん。
あ、あれ……変だな……?
ブランシェは聖職者ならば誰でも使える基本中の基本の魔法って聞いてたんだけど。
姉さんの知識が、またも間違っていたのだろうか?
「ど、どうも。お礼の気持ちは十分伝わりましたよ。ええ……!」
必死に頭を下げるシスターさんに、顔を上げるように促す。
よくはわからないが、俺は相当に凄いことをしたようだった。