姉さんとの決着がつき、クルタさんとパーティを組むようになってから約一週間。

俺たち四人は、依頼達成の報告をするためギルドを訪れていた。

「オーガの奥歯十体分、確かに!」

討伐証明部位を受け取り、優しく微笑む受付嬢さん。

ふぅ、これで何とか無事に仕事が終わったな。

依頼書に記載があった場所には居なくて、森全体を探し回る羽目になったから大変だった。

「オーガの巣の位置が依頼書とは大幅に違っていました。この依頼は、ギルドが定期的に出しているものですよね? 次回から位置を修正したほうがいいと思います」

「え? ニノさん、実際にはどこに居ました?」

「はい。この森の北部ではなく――」

懐から地図を取り出し、実際にオーガがいた場所を指で示すニノさん。

受付嬢さんはすぐさま書類を取り出すと、依頼書の内容を訂正する。

「これでよしと。情報提供、感謝いたします!」

「いえ。ギルドに協力するのも冒険者の義務ですから」

「……にしても、最近こういうの増えてないかい? 前はギルドの情報が間違っていることなんて、ほとんどなかったはずだけど」

クルタさんが、やや不満げな顔をして言う。

ちょうど、姉さんと一区切りついてクルタさんを正式に仲間に加えた頃ぐらいからだろうか。

魔物の生息情報が依頼書に書かれているものと一致しないことが増えてきた。

「あー、そのことですか。ギルドとしても、ラージャ周辺で異変が生じていることは既に認知しています。ですので、近いうちに専門家の方をお呼びする予定ですよ」

「って言うと、研究所のやつらでも呼ぶのか?」

「はい。近いうちに護衛依頼などが出ると思いますよ」

「……マジか」

露骨に嫌そうな顔をするロウガさん。

クルタさんとニノさんも、どことなく渋い顔をした。

その「研究所のやつら」とやらに対して、三人ともあまりいい思い出がないようだ。

「何ですか、その研究所って」

「正式には、冒険者ギルド付属魔物研究所って言うとこでな。魔物マニアの寄り合いだ」

「魔物……マニア……?」

「そう! とにかく魔物に目がない連中で、この護衛がまあ厄介なこと……」

「あの時は、いきなりワイバーンの巣に飛び込んでいこうとしましたよね」

「そうそう! 群れに追いかけられて、あの時はさすがに死ぬかと思った!」

「ボクが依頼を受けた時は、オーガキング相手に上半身裸で会話をしようと試みていたね」

……うーん、なるほど。

みんなの話を聞いていると、何となくヤバそうな人たちだというのは伝わってきた。

護衛依頼が出たとしても、受けるかどうかは慎重に考えないとな。

報酬にもよるけど、今のところはそこまでお金には困っていないし。

「一応フォローしておきますが、彼らが魔物に関してプロ中のプロであることは間違いないですよ。魔物図鑑の作成など、ギルドの業務にも大いに貢献してくださっています。……まあ、変わった方が多いのは事実ですが」

そこは否定しないのか。

まあ、研究者って言うのはいろいろと変わってる人が多いからなぁ。

うちのシエル姉さんとかも、常識人っぽく見えてズレてるところが結構あったし。

一週間連続で徹夜して、そのあと二日間ぐらいまとめて寝るとかしてたことあったなぁ……。

「まあ、よほどのことがない限りあまり触れない方が無難そうですね」

「だな。……さてと、一仕事終わったことだし飯でも食いに行こうぜ!」

「南通りにボク行きつけの美味しい店があるよ。そこへ行かないか?」

「おう、いいねぇ! クルタちゃんのおススメか!」

こうして、クルタさんに連れられてギルドを後にしようとした時だった。

ふと視線を感じた俺が振り返ると、そこにはライザ姉さんが立っていた。

「あ、姉さん!」

「久しぶりだな」

「久しぶりって、昨日も会ったじゃないですか」

「そ、そうだったか? 覚えていないなぁ……」

露骨にすっとぼけて見せる姉さん。

いやそのセリフ、昨日も言ってたぞ?

ライザ姉さんがこっちに引っ越してきてからというもの、いつもこの調子だ。

依頼の報告を終えたぐらいのタイミングで、必ず現れるんだよな。

……まさか、俺たちのこと見張ってたりするのか?

いくら身元は伏せているとはいえ、あんまりギルドに居座るのはどうかと思うのだけど。

剣聖でなくても、姉さんは美人だから注目を集めやすいし。

「皆で食事に行くなら、私もついて行っていいだろうか?」

「俺は構わないぜ。美人なお姉さんは大歓迎だ」

「私もいいですよ。ジークやクルタお姉さまが良ければですが」

「そうだね、俺も断る理由は――」

「ボクは嫌かな」

満場一致で参加かと思っていると、ふくれっ面をしたクルタさんが真っ向から反対をした。

彼女は姉さんの前へと進み出ると、剣聖を相手に退くことなく言う。

「パーティで開くご苦労さん会に、毎回のように部外者が参加するのはどうなのさ? たまにはいいけど、ここ最近ずっとじゃないか」

「別に、迷惑はかけていないだろう?」

「今回の依頼はここが疲れたーとか、そういう話がしづらくなってるのは確かだよ。それに、ライザさんにはみんな気を使っちゃうし」

言われてみれば、ニノさんとかロウガさんはそうだよなぁ。

俺の家族とはいえ、仮にも剣聖である。

さすがに慣れて来ただろうとは言え、気が休まらないというのはあるかもしれない。

「……だ、だったら! 私をパーティに入れればよかろう!」

「いや、それは。いくらなんでも実力の差がありすぎますし。あんまり良くないと思いますよ」

姉さんが仲間に加わったら、ついつい頼ってしまいそうだからなぁ。

自分でも気をつけようとは思うけれど、やはり心のどこかが緩んでしまいそうだ。

だいたい、自立したくてこの街まで来たのに姉さんを仲間にしたら本末転倒だ。

「ぐぬぬ……!」

「それに、そもそもライザさんは冒険者じゃないよね?」

「……よし、わかった。ならばこうしよう」

そう言うと、ライザ姉さんは急に俺の右手を握った。

そしてグイっと、俺の身体を自分の方へと引き寄せる。

「ジークは私と一緒に食事へ行こう。姉弟水入らずでな」

「あ! ずるい!」

「そちらが部外者はいらないというなら、こちらだって部外者はいらないというだけの話だ。ずるくなんてないぞ!」

「そんなの認めないよ! ニノ、手伝って!」

「はい、クルタお姉さま!」

ライザ姉さんに対抗して、クルタさんとニノさんが左手を握った。

三人はそのまま、俺を綱引きよろしく引っ張り始める。

い、痛い! やめて!?

俺はとっさに、助けを求めてロウガさんを見た。

が、しかし。

彼は軽く腕組みをすると、うんうんと妙に満足げな顔をして頷く。

「モテ男はいいねぇ。これぞ青春って感じだな」

「そんなんじゃないですって! 助けてください!」

俺を巡る引っ張り合いは、その後しばらく続いたのだった。