「おお……! 消えた!」

巨大化し、山全体を覆いつくすほどだったグラトニースライム。

それが完全に焼き払われ、欠片も残っていなかった。

さすがは超級魔法、我ながら恐ろしい威力だ。

魔力を消耗した俺は、額に浮いた汗を拭いながらほっと一息つく。

これでひとまず、脅威は去ったといえるだろう。

疲れがどっと出てきて、その場に膝をつきそうになる。

「すごいなぁ……さすがはジーク!」

「大したものです、驚きました」

「やるねえ! いやあ、びっくりしたで!」

「ははは! まったくすげえやつだ!」

口々に俺のことを褒めてくれるクルタさんたち。

こんなに称賛されたら、さすがにちょっと照れ臭いな。

俺が顔を赤くすると、すたすたと姉さんたち二人が近づいてきた。

さて、何と言われるだろうか……。

クルタさんたちと比べて、姉さんたちは厳しいだろうからなぁ。

俺はごくりと唾をのむと、沙汰が下されるのを待つ。

すると――。

「よくやったな、ノア!」

「ライザ姉さん……!」

「術式の構成が、まだちょっと甘いけど……初めてにしては悪くなかったわ。初めてにしては、だけどね」

「シエル姉さんも! ありがとう……!」

「ちょっと! そこまで感謝することじゃ……ないわよ……!」

視線をそらせながら、顔を耳まで赤くするシエル姉さん。

そんなに恥ずかしいこと、言っただろうか?

俺が首を傾げていると、ライザ姉さんがからかうように言う。

「シエルは私たちの中でも一番の照れ屋だからな。それを誤魔化そうとして、いつも攻撃的なことばかり言うが……ノアを認めてないわけではない」

「ライザ! 何を勝手に、人の言いたいこと代弁してんのよ!」

「言いたいこと?」

「い、言いたくない! いえ、言いたいけど違うの!」

何やら混乱した様子を見せるシエル姉さん。

結局、えーっと……どういうことなんだ?

俺までよくわからなくなってきてしまったな。

こうして騒いでいるうちに、シエル姉さんはパンパンと手を叩いて仕切りなおす。

「あー、とにかくよ! 今回は頑張ったわね、ご苦労様!」

「は、はい!」

「……で、改めてだけど。どうしてこんなところにいるの?」

「そりゃ、スライムを倒しにだけど」

俺がそう答えると、シエル姉さんの眼がたちまち吊り上がった。

彼女は俺に近づいてくると、ビシッと人差し指を突き付けてくる。

「そうじゃなくて! なんで家を出てこんなところにいるのかって聞いてるのよ!」

「それは……自立したくなったからだよ。ずっと姉さんたちに頼っていくわけにもいかないし。家を出て一人でやっていこうって、あの時思ったんだ。言っただろ?」

家を飛び出した日のことを思い出しながら、語る。

あの時のシエル姉さんの言葉は、今考えてもキッツイからなぁ……。

自然と口調も強くなる。

すると姉さんは、どことなくばつが悪そうな顔をする。 

「あの時は悪かったわよ……。意地の悪い言い方をしたわ。私はただ、ノアにずーっと家にいてほしかったのよ。危ないこともしてほしくなかった。だから威圧して、押さえつけるような感じになって……」

そこまで言ったところで、姉さんはわずかばかりの間を置いた。

いったい何を言うつもりなんだろう?

なんとなく嫌な予感がした俺は、とっさに姉さんから距離を取った。

こういう時は、逆に開き直ってこっちを攻撃してくることが多いんだよな。

付き合いが長い俺には、なんとなくわかる。

「……ごめんなさい」

「え?」

いきなり深々と頭を下げたシエル姉さん。

これは……完全に予想外の行動だ。

プライドの塊のような姉さんが、こともあろうに俺に頭を下げるなんて。

あまりのことに、少し間の抜けた声を出してしまう。

「ご、ごめんなさいって言ってるの! ノアを追い詰めたことは……謝るわ」

「……わかった! 謝ってくれればいいんだよ、姉さん」

「ありがとう。……だからね、戻ってきて。家出はもう終わりよ」

……おっと、そう来るか!

胸が熱くなったところで、急に現実に戻されてしまった。

そう言われても、今更帰るわけにはいかないぞ……!

俺はすぐさま首を横に振り、確固たる意志を示す。

「何でよ? そんなに実家が嫌なの?」

「そういうわけじゃないけど……」

「だったらいいじゃない。もう十分、冒険はしたはずよ?」

「そういう問題じゃなくて。俺、この先もずっと一人で自立して生活したいんだ」

「ずっと一人ぃ!!??」

とんでもない大声を上げるシエル姉さん。

うう、耳が痛い……!

声が頭に響いて、グワングワンする……!

何も、そこまで驚かなくたっていいのに!

「絶対にダメ! 帰ってきなさい、姉命令よ!」

「そんな命令、従いたくない!」

「ノアのくせに生意気よ! ライザ、あんたも何か言ってやりなさい!」

「私は……残る方に賛成だな」

そう言うと、ライザ姉さんはそっと俺の肩を抱いた。

そして、何やら勝ち誇ったような笑みを浮かべる。

おお、ライザ姉さんは味方に回ってくれるのか。

けどこれは、さすがにシエル姉さんが怒るんじゃ……。

俺が心配していると、案の定、シエル姉さんの顔が赤く染まる。

「ライザ! あんたまさか、私たちがいないのをいいことにノアに何かしてるんじゃないでしょうね!? 一人で抜け駆けなんて許さないわよ!」

「失敬な! 私はまだ何もしていない!」

「まだ? それって、そのうち何かするってことじゃない!」

「そ、それは! 口が滑っただけだ!」

「言い訳になってないわよ! あんたバカ?」

「バカとはなんだ、バカとは!」

ああだこうだと激しい言い合いを始めるライザ姉さんとシエル姉さん。

それはやがて物理的な戦いにまで発展し、魔法と剣の応酬と化した。

おいおいおい、ちょっと勘弁してくれよ!

剣聖と賢者の戦いなんて、シャレになんないから!

俺が何とか止めようとしている間にも喧嘩はひどくなり、山が揺れ始める。

「はいはいはい!! 喧嘩はやめて!!」

大技をぶつけ合うべく、二人が構えを取った時であった。

彼女たちの間に割って入ったクルタさんが、思い切り声を張り上げて言う。

「いい方法があるよ! だから落ち着いて!」

クルタさんの呼びかけに、二人の動きが止まった。

いったい、何を提案するのだろう?

俺たちは彼女の言葉に、黙って耳を傾けるのだった。