カランド王国の出来事から三ヵ月後のこと。

 フィールはパーティーに出席していた。

 デーマンから二国ほど離れた国でパーティーには、その国の貴族や王族たちだけでなく、他国の王子たちまでもが賓客としてきている。

 その理由はフィールが来るからだった。

 フィールのまわりにはたくさんの客たちが集まっている。

 フィールは話しかけられたら応対し、それ以外は彼らが自由に雑談するのに任せて相槌をうつだけにしていた。

 そんなフィールの視線がパーティー会場にいる数多の人たちの中で、銀髪の青年の姿を捉えた。

(あっ……トマシュさまだ……)

 どうやらこのパーティーに参加していたらしいトマシュ王子は、あのときのエプロン姿とは違い、きちんとした正装の王子らしい格好をしている。そういう服装も当たり前だけどちゃんと似合っていた。

 遠目でフィールはトマシュの姿をしばらく見つめる。

 その視線の先で、トマシュ王子はパーティーの参加者と楽しそうに話していた。

(やっぱり人気があるんだ……)

 フィールはその姿を見て思う。

 フィールは常にパーティーの中心に居て、まわりには人が群がってくる人気もののポジションにいた。

 けどその実態は、集まる女性も男性も、癒しの巫女というネームバリューから利益を得ようとしている人たちか、そんな風にフィールのまわりに集まってる人たちから利益を得ようとしている人たちしかいなかった。

 癒しの巫女を妻にしたい、権力のある人間たちと知り合いになりたい、パーティーの中心にいたい、そんな思惑をみんな抱えながら、それを隠して笑顔をはりつけて会話する。

 でも、トマシュ王子のは違うのだ。

 彼はいわゆるパーティーの壁の花という位置に立っている。

 そこで小さなグループの人数の人達と話してるだけだ。

 なのに人が途切れないのだ。

 誰かと楽しそうに話してしばらくして分かれると、すぐに自然と誰かがトマシュ王子に話しかけてくる。

 みんな生き生きした顔で、トマシュ王子と楽しそうに話していく。

 本当にみんなに好かれてるから、あんな風に振舞えるんだ。

 フィールはトマシュ王子のまわりをうらやましそうに眺めた。

 トマシュ王子はパーティーでひとりさびしそうな人がいると、積極的に話しかけにいく。

 最初はトマシュ王子に話しかけられた人は戸惑うけど、やがて話してるうちに楽しそうな笑顔になっていき、そこにトマシュ王子の知り合いも入ってきたりして、いつの間にかパーティーの輪に溶け込んでいく。

(いいなぁ……)

 話しかけられた人をじっと見つめてしまったフィールは。

「フィールさま、そのドレスとても素敵ですわ。その純白の布は……フィールさま……?」

 話しかけられていたことにようやく気づき、慌てて笑顔をつくり相手の名前を思い出しながら返答した。

「ありがとうございます。マルシェーファ夫人。あなたのドレスも鮮やかな青色が、あなたの瞳と合っていてとても素敵です」

「まぁ、フィールさまのようなお美しい方にそんなこといわれたら嬉しくなっちゃいますわ」

 何か見ていたと気取られることはなかったようだ。

 フィールはなぜかそれにほっとした。

 マルシェーファ夫人はホスト国の国王さまの親戚だ。きちんと応対しなければならない。

 フィールはしばらく意識をトマシュ王子から無理やり離して夫人と歓談した。

 そしてマルシェーファ夫人との会話も終わり、視線をトマシュ王子のほうに戻した瞬間、フィールは心臓が止まりそうになった。

 トマシュ王子は女性と楽しそうに話していた。

 しかも、フィールも知っているような女性だ。

 美しく長い黒髪に、艶やかな紅の唇と、夜のように深い藍色の瞳。

 この地方一帯で浮名を流すレネーザ令嬢。

 フィールから三歳上の女性であり、いろんな国の王子や貴族と付き合ったという噂があり、一時期は五人の男性と同時に付き合っていたという話まである。

 そのレネーザはトマシュとなにやら楽しそうに話している。

(こ、恋人同士なの……?)

 フィールはまわりに悟られないようにしながらも、視線を離せなくなってしまった。