I’m the White Pig Nobleman, but With the Memories of My Previous Life, I’ll Raise My Little Brother
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今回の事件、この処置だけだと、大局的な意味ではなんの解決にもなってないわけで。
ギルドには菊乃井の領主代理として、彼らを詐欺にかけた連中を全大陸レベルで指名手配して貰った。
というか、大発生の引き金になるような生物の卵を持ち歩いている時点で悪質な冒険者と判断した帝都のギルドが、全大陸にギルドとして賞金首に指定してくれたと言うか。
三人組が罰を受けるなら、彼らを詐欺にかけた連中もまた裁かれなければいけない。
天網恢恢疎にして漏らさず。
この件に関しては、神様にお頼みしてでも許しはしない。
それはそれとして、三人は治安維持要員として家で雇ったことにして、三ヶ月みっちり先生方に剣や槍、弓やらの戦闘技術や、初級魔術、更に読み書き計算の一般教養を学ばせることに。
菊乃井エルフィンブートキャンプってやつだけど、誤算は「言い出しっぺが何にもしないってダメだと思うよ?」っていう、ラーラさんの鶴の一声によって私やレグルスくん、奏くんもブートキャンプに参加することになったこと。なんでやねん。
まあ、子供向けと大人向けでカリキュラムは違うんだけど、結構辛い。
これに加えてローランさんと「初心者冒険者に贈る冒険の書」というものの制作に取りかかっちゃったから、まあしんどい。
三人組の事件は、ようは初心者がきちんとした訓練や知識もなく冒険者になったから泣かず飛ばずで騙されたという側面がある。
知識も用意もなく危ない職種に就かないのが一番なんだけど、経済事情がそれを許さない。
なら、ギルドに登録しに来た時に教育を施してしまえっていう。
ギルドに冒険者として登録しに来た時に、一定の研修をして、その後希望者にはいくつかの条件付きで格安の冒険者の衣服セットを販売するのだ。
衣服セットは勿論Effet(エフェ)・Papillon(パピヨン)で用意する。
シャツ・クロース・グローブ・ボクサーパンツ・ズボン・胸当て・膝当て・靴。
どれもこれも付与魔術をきっちり付けて、命を最優先して守れるようにして。
ただし、これらを渡す前に過不足なく自分の実力を把握して貰うために、実習にも出てもらう。
それが条件の一つで、後は菊乃井の治安維持に協力してもらうとか、その辺が妥当だろうか。
あーん、やることが多い。
会社もボチボチ売り物の利益が出始めてるし、少しずつなら奏くんが計算してくれるけど、これが大量になったら経理に誰かを回さなきゃいけなくなる。
一番有能なロッテンマイヤーさんをそっちに回すと、屋敷の運営が回らなくなっちゃうし。
あれだよ、家政って言うか家庭は営む、つまり経営するもんなんだよ。ロッテンマイヤーさんの経営能力が無くなっちゃったら菊乃井屋敷がヤバい。
人手不足辛すぎる。
ぷすぷすと頭から煙が出そうなくらい、色々考えて行動してるんだけど追い付かないんだよねー……。
首を左右に振るとコキコキと骨が鳴る。肩凝りが悪化した気がするけど、気のせいかしら。
私の一日は朝起きたら身支度して朝ご飯、終わったら歌いながら散歩、動物の世話をしてからエルフィンブートキャンプに参加してお昼ご飯。午後からはローランさんとの打ち合わせ含めてEffet・Papillonの仕事。その合間にレグルスくんと本を読んだり字の練習をしたりして。
そういえば最近レグルスくんには趣味が芽生えたようで、私が用意したシマエナガとひよこの駒で、奏くんとよく陣取りゲームで遊んでる。
奏くんもお昼からレグルスくんと勉強したり、私の仕事を手伝ってくれたりで大活躍だ。
で、遊びも勉強も終わった辺りで夕食。週に二回はマナーを学ぶっていう名目で、屋敷で仕事をしている人と全員で食事をとることにしてる。
それも終わればお風呂で、湯上がりにはラーラさんのエステとマッサージ。
後は寝るまで私の趣味の時間で、この時間帯に私は氷輪様と手芸や演劇の話をして、一時間後には就寝。
タラちゃんはお昼はサンルームにいて、夜になると私の部屋に戻ってきて糸で天蓋を毎日作ってくれる。その天蓋も次の日には素材として再利用するんだけど。
そんな忙しい毎日にも、一週間に一度はお休みを取るようにしてる。
これは屋敷の人たちみんなにもそうしてるんだけど、働き詰めはよくない。疲労は作業効率を下げる。
なので私やレグルスくんや奏くんも一週間に一日はお休みで、遊びに行くことにしてた。
三人組を拾ってから二度目のお休み。
私とレグルスくんと奏くんはヴィクトルさんに連れられて、三人組を伴い街へと来ていた。
二週間、ちゃんと栄養のあるものを一日三食に加えておやつを食べた成果で、ロミオさん・ティボルトさん・マキューシオさんは皮膚にはり艶が出てきていて、「オッサンが兄ちゃんになった」と奏くんは笑う。
最初の一週間、三人は物凄くぎこちなかったけど、二週間目となれば少しは馴れてきたみたい。
「こっちだよ」と言われて歩くのは、街の冒険者向け歓楽街の大通り。
夜は賑やかだけど、昼日中はそうでもなくてやや静か。それでもリストランテなんかは結構な賑わいだ。
そこも通り過ぎると、立て看板が立てられて、花が飾られた酒場のような建物が見えて。
立て看板までくると「あ」と奏くんが声をあげた。
「ここって、合唱団のお姉ちゃんたちがいるカフェだ!」
「合唱団のお姉さん?」
「おねーしゃんいるの?」
そう言えば、会いに行ける地下アイドル系の専用劇場を作ったって言ってたっけ。
ってことは、今日はコンサートでも聞かせてくれるんだろうか。
ちょっとワクワクしながらカフェの扉を潜ると、中には小さな舞台とピアノがあって、ピアノの椅子には誰かが腰かけていた。
ヴィクトルさんに手招きされて、舞台がよく見える真ん中の席に陣取ると、舞台端から女の子が五人、センターへと駆けてくる。
栗毛のボブでエクボが可愛い女の子に、波打つ金髪を背中まで伸ばしたおっとりした雰囲気の女の子、それから銀髪を腰まで伸ばしてて泣きぼくろが何だかドキッとする女の子、鳶色の髪をポニーテールにした大きな目の女の子、眼鏡をかけて黒髪お下げの女の子、年の頃は皆宇都宮さんと同じくらいの十二、三か。
「栗毛の子が凛花ちゃん、金髪の子がシュネーちゃん、銀髪の子がリュンヌちゃん、ポニーテールの子がステラちゃん、黒髪お下げの子が美空ちゃん」
「初めまして、よろしくお願いします!」と五人一斉にペコリと頭を下げられたので、「よろしく」とレグルスくんと奏くんと一緒に頭を下げる。
一緒に来ていたロミオさんやティボルトさん、マキューシオさんも、つられて頭を下げた。
「今日はこの子たちのグループ名をあーたんに付けて欲しいのと、この子たちとロミたんたちに凄く重大な話があって。あーたんにも聞いといて欲しかったんだよね」
「なんです、重大な話って……?」
「三ヶ月後、彼女たちにもロミたんたちにも、力試しに帝都で開催される大会に出てもらう」
なんじゃ、そりゃ?
ぽろんっと誰かが鳴らしたピアノの音が、しんとしたカフェの中で大きく響いた。