「や、やっと人がはけたー!」

「いやーほんま儲けさせてもらったわ! お兄さんおおきにな!」

「またイベントやる時は声かけてねー」

「次はアドベントで開催だと嬉しいなー」

「店主さんまたねー」

 今の連中は誰だったんだろう? なんかいつの間にか屋台が増えてたような気がするけど……まぁいいや、人が分散してくれたお陰で作業が楽になったし。

「ライお疲れ。モグモグ」

「あー疲れたー! こんなのもうゲームじゃなくて単なる労働だろ。バイト代弾めよなライ!」

「分かってるって。あ、ライトの鎧完成してたんだわ。ほれ」

「うぉ!? いきなり投げんなよ危ねーな……何これめっちゃ強いじゃん!?」

「それで、売上はどれくらいになったのかしら?」

「私達は途中でログアウトして休憩しましたけど、ライリーフさんはずっと料理してたんですよね?」

「かなり儲かったんじゃないっすかー?」

「ちょっと待ってろ。今数える」

 元々の手持ちが10万ちょっとだったからその数字を引くと……だいたい3627000コルか。

 ……んぇ?

 一、十、百、千、万、十万、百万……さ、300万コルだとぉ!?

 ゲームだからみんなの財布の紐がゆるゆるなのを差し引いてもちょっと売れ過ぎなんじゃないか!?

 あっはっは! そりゃ忙しかった筈だわ。途中から接客をライト達がやってくれていたにも関わらず、俺はフル稼働で料理を作ってたしこの売上も妥当か。

「聞いて驚け、なんと360万も稼げたぞ!」

「マジかよ!」

「わっはっは! そりゃスゲーや!」

「わー! わー! お金持ちですね!」

「やっぱり生産職は戦闘職よりコルが稼ぎやすいのね」

 戦闘職はゲームが進めばこの金額をドロップアイテム1つで稼げたりするんだろうけどな。ま、その頃にはPM装備を作れる生産職のプレイヤーが更に荒稼ぎしていることだろう。

「くっ……ライリーフの料理がそんなに売れているのに、何故私の料理は1つも売れなかったのかネ……」

「だから高いんだってば」

 ブレーネさんは頑なに料理の値段を下げなかった。

 その結果、みんながお祭り騒ぎで儲けまくってるのに1人だけ売上0でフィニッシュと言うある意味偉業を成し遂げてしまったのだ! 頑張れ元宮廷料理人!

「それじゃバイト代渡すぞー。1人15万くらいでいいか?」

「さすがに貰い過ぎじゃないかしら?」

「俺ら途中から接客手伝っただけだしな」

「クエスト報酬って考えるなら多くても5、6万って所だろ」

「あたしらもお祭りみたいで楽しめたっすからね! それくらいでいいんじゃないっすか?」

「私は残りの料理を貰えればお金はいらない」

「もー! フィーネったらあんなに食べたのにまだ食べるの!?」

 結局、間をとって10万コルを渡すことになった。

 ライト、フィーネ、ティナ、ルル、リリィ、ウォーヘッドの6人にバイト代を渡して手元に残ったのは310万コル。城の修理代には足りないが、歓楽島行きの船のチケットを買っても余裕で余る額だ。

 そしてカードだが、やはり所持しているプレイヤーは少なかった。

 それでもSR2枚とSSR1枚が手に入ったので良しとしよう。

 夜も遅いこともあってライト達はログアウトしていったのだが、俺はフォル婆達に捕まってしまいログアウトできなかった。

 一番疲れてるのに何故寝れないのか……。

「なー、明日じゃダメなの? 俺眠いんだけど……」

「ダメだね。次にあんたが戻ってきた時には出発出来るようにこれだけは今決めなきゃいけないよ」

「……ん、当然じゃ」

「こんな機会めったにないからねぇ」

「てことでライ坊には公平な審判を頼もうって訳さね」

「えー……何の話?」

「だから誰が歓楽島に行くのかって話だよ。売上足しても二人しか行けないからね。ライ坊は発案者として確定でいいとして、後1人を決める戦いさね」

 こ、この老人共、打ち上げは歓楽島でってのを本気にしてやがったのか!

「……ってちょっと待った! その売り上げってもしかしなくても俺の分も合わせてやがるだろ!」

「「「「当然」」」」

「やっぱりかチクショウ!」

 歓楽島への2人分の往復料金は320万だもんな! 師匠達の屋台はカルメ婆さんの屋台が20万程の売上になった以外は比較的暇そうにしていた。つまり全員の売上を足しても1人分の片道の代金にも届かない。だからってプレイヤーにたかるなよ……。

「ハァ……まぁ最初に言い出したのは俺だからいいけどさ……戦いって何すんの?」

「そりゃ魔導駒対決じゃろ……」

「何言ってんだ、セブンゲートクラックに決まってらぁ」

「ここはシープシープウルフがいいと思うわ」

「やっぱりマジック&シールドがいいんじゃないかねぇ?」

 見事にバラバラだなぁ……。俺には駒対決以外何やるのかわかんねーや。審判とか無理じゃね?

「なぁ、眠いんだからさっさと決めてくれよー」

「むむむ、それじゃじゃんけんで何をやるか決めようじゃないかい」

「おうよ、望むところだぜ」

「……儂、じゃんけんで勝ったことないんじゃが」

「負けないわよぉ?」

 もうじゃんけんで勝った奴が行くでいいじゃんと突っ込みたい。けど話が長くなるから我慢するんだ俺!

「アーッハッハッハ! アタシに勝とうなんざ千年早いんだよ!」

「ぬぐぉお!? 大人気ないぞフォル様!」

「何度でも言いな! これでバカンスはアタシのものだよ!」

「ぐわー!」

 ふあ~ぁ……漸く勝者が決まったか。

 種目はフォル婆の提案したマジック&シールドで、優勝もフォル婆だ。

 ん? どんな競技か気になる? 簡単に言えば叩いて被ってじゃんけんぽんだな。ただし魔法の使用を前提とした鬼仕様だ。下手したら死人が出かねない過激な競技だったとだけ言っておこう。

「さぁライ坊、バカンスに備えてとっとと寝てきな!」

「あんたらが寝かせなかったんだろうが! たく、何が悲しくて婆さんと2人でバカンスなんぞせにゃならねーんだか……」

「おや? アタシとじゃ不満かい? なら誰となら良かったって言うんだい」

「え? そうだな……やっぱりソフィアとかかな?」

「私がどうかしましたか?」

「うぉ!? びっくりしたー」

「よく来たねソフィア。王都の用は済んだのかい?」

「はいフォル様。今はお使いがてら振り替え休日なんです!」

 騎士って振り替え休日貰えるのか。ちょっと驚きだ。

 話を聞くとソフィアのお使いとはブレーネさんを王城に呼ぶことだった。

 なんでも現宮廷料理人たるブレーネさんの弟子が怪我をして料理を暫く作れなくなってしまったので、その代わりを任せたいのだとか。

「おーい、ブレーネさーん。宮廷で仕事してくれってさー」

「……屋台で一食も売れなかったような料理人に宮廷の厨房に立つ資格はないのだネ」

「だからそれは値段が高かったからだってば。城に行けば王様があんたの料理を絶賛してくれるって」

「……陛下。た、確かに私の料理は元々陛下のためにこそ振るわれるもの! たかが庶民に売れなかったくらいで落ち込むことはないのだネ! 待っていてください陛下ーッ!」

 ははは、単純で助かるわー。これでソフィアのお使いは無事終了。

「ところでさっき私の名前が出ていたようですが、何の話だったんですか?」

「そうそれだ! お使いも終わったことだし俺と歓楽島でデートしようぜ!」

「ふぇ!? で、デートですか? それも歓楽島で? ……あの、気持ちは凄く嬉しいし、歓楽島にも行ってみたいんですけど……お休みは3日だけなんです……だから、その、また別の機会に誘ってくれますか?」

 上目遣い可愛すぎかよ!

 実にいいスクショだ。しかしこれでソフィアをデートに誘ったからババアはご遠慮いただきたい大作戦が失敗に終わってしまった。

「ふぇっふぇっふぇライ坊も諦めが悪いねぇ、大人しくアタシとバカンスに行くんだよ!」

「だからさらっと思考読むのやめろよな!」

 俺はどうあってもババアから逃れられないらしい。