ブラウニーさんてばどんだけハッスルしちゃったのよ? 昨日までようやく骨組みが組み終わるかどうかって所だったのに、今では立派な大型ショッピングモール風の建造物が完成している。
それだけじゃない。その奥には俺のプライベートホームまで作ってあるし、大雑把だが牧場用の柵まで完成している。ブラウニーさん、マジで有能過ぎるぜ!
「感動してる所悪いんだけど伝言伝えるよ」
「伝言? 誰からの?」
「レーレンからさね。明日はボクも行くからよろしくね、だとさ」
「oh……」
そうだった。忘れてたけど明日はバルムンク争奪杯じゃん。そりゃ遊びの神が見逃す筈がないよな。
「てかフォル婆、正体バレてんのになんで頑なにその姿のままなのさ?」
「こっちの方が気が楽だからね。ライ坊だってフォル婆呼びのままじゃないかい」
だって実際はこの姿よりよっぽど年食ってる訳じゃん? 姿変えてくれるならともかく、この姿のままだとフォル婆が定着しちゃってるし今更別の呼び方に変える必要性を感じない。
「せめて温泉入る時だけでも元の姿になって頂きたい」
「そう言う事は温泉を堀当ててから言うんだね」
「なら美女との混浴目指して頑張ってみますか」
来週か再来週辺りにね!
何より今はバルムンク争奪杯の準備が先だ。参加者が何人になるかは分からないけど、一応それなりの数の机を作っておかないとな。
「よおライ……遅かったじゃねぇか」
「ずいぶん萎びてるけどどうしたんだライト?」
「昨日美女達が中々寝かせてくれなくてな……」
「ああ、例のクエストか! やっぱり俺もついて行くんだったなぁ」
「ハハ……凄かったぜぇ? お前も必ず受けるといい」
なんだろう、ライトの瞳から闇が漏れだしている気がする。楽しい思いをした顔にはまるで見えないのは何故だ?
「そのクエスト、受けちゃダメっすよライ」
「ルル?」
「受けたが最後、スケベ野郎は大量のゴリラに包囲されて嬲り物にされるっす」
えっ、それの何処が紳士的なクエストなんだ? ゴリラ……この辺で見かけるゴリラ……まさかキューティクルゴングか? アレに囲まれたとなるとライトとウォーヘッドの受けた精神ダメージは計り知れないだろう。
無駄に綺麗な長髪、仄かに香る甘酸っぱい香り、そしてその2つの要素をマイナスに振り切って余りあるゴリラ100%のビジュアル! 思い出しただけでも虫酸が走るぜ……。
「ルル! 何故バラした! と言うか何故このクエストのことを!?」
「シャラップっすスケベ!」
「うぐ、おのれルル……ライにも同じ地獄を味わって貰う予定だったのに!」
なるほどな。クエスト名と説明文で釣られた犠牲者達が、内容を伏せることで新たな犠牲者を呼び込む負のスパイラルを形成していたのか。とりあえず俺を嵌めようとしたライトは許さん。
「しかし結局どっち選んでも結局酷い目に遭ってたか」
「んだよライ。ゴリラから熱烈な歓迎受けるより酷い目に遭ったってのか?」
「今日のログインが遅かった原因っすか?」
「ああ。帰りがけにPK3人組に襲われてな。さっさとログアウトして寝ようと思ったのに大変だったぜ」
「PKって、大丈夫だったのかよ?」
「乱入者とかもあったおかげでなんとか勝てたよ」
あのタイミングで神父様、もとい回復する悪役(ヒーリングヒール)さんが現れてなかったらヤバかったな。対応を間違えたら俺も標的になっていただろうけど、一応今度会うことがあったらお礼しよう。
「凄いっすねライ! 一人で3人も倒すなんて!」
「そいつらなんかいいアイテム持ってたか?」
「いや、別に俺一人で戦った訳じゃ……ってアイテム? 何の話だ?」
「知らねーの? PK倒すとそいつの持ってるアイテムと所持金全部ゲットできるんだぜ」
「お情けで初心者装備一式は残るみたいっすけどね」
「うわ、結構エグい設定してるんだな」
興味本意で詳しく訊いてみると更に重い罰則の存在まで明らかになった。
PK行為等を行ったレッドネームのプレイヤーは倒されると初心者装備以外の全てを失った状態で更正施設にリスポーンし、そこで奉仕活動や道徳の授業やテスト等を延々と受けさせられるのだ。アイテム全ロスには耐えられるプレイヤーもこれには辟易して二度と犯罪行為を行わなくなるんだとか。
うん、PKとかしてイキってる連中にとってはそれこそ地獄の苦しみだろうな。ちょっとカイン達に同情するぜ。
んで、肝心のアイテムはっと……。
「んー、あいつらそんなに良いアイテムは持ってなかったみたいだな。一個PM装備があるけど性能自体は微妙だし」
「普通ならPM装備ってだけでかなり喜んでいい筈なんだけどなぁ……」
「自作できるとこうも無感動になるんすね……」
だってショボいんだからしょうがないじゃんね?
PM装備はカインの使っていたナイフで、性能はこんな感じだ。
トゥルースペイン PM
ATK110 耐久値250/250
悪意の具現
黒く黒く何処までも黒く
悪意に濡れた刃は血と悲鳴を求める
仮初めと侮るなかれ、その痛みは真実足りうる
悪意の具現の効果はカルマ値によって威力が上昇することと、本来設定してある痛覚設定の数値を無視して100%にした時と同じ衝撃を与えると言う悪趣味な物だった。
後者の効果はともかく、前者だけを見るならカルマ値測定器として使えなくもないな。
たぶんカインが持っていた時みたいにナイフがオーラを纏って、そのオーラが大きい程カルマ値が高いって事になるのかな?
「どれ、ちょっと測ってみるか」
「ぬわ!? なんだそのナイフ! 見るからにヤバいオーラしてるんだけど!?」
「こ、これが微妙ってマジっすかライ?」
「あ、あれぇ……?」
おかしい。ナイフから吹き出すオーラが尋常じゃない禍々しさだ。てかカインが持ってた時より酷くないかこれ?
「俺、悪いことしてないのに……実はオレンジネームだったりするのか!? どうなんだライト!?」
「とりあえず怖いからそれこっちに向けんなし!」
「ライのネームは白いまんまだから落ち着くっす!」
「そうなのか? ふぅ、焦ったぜ」
「焦ったのはこっちだっての!」
にしてもカルマ値は犯罪行為以外でも上昇するのか。カルマ値自体はマスクデータだし、これが関係するクエストとかジョブとかありそうだな。