ファースからアドベントまでの道中に出現するモンスターの処理なんて始めたばかりの初心者でもなければてこずる事も無い。そう、普通はその筈なのだが――

「ノォォォォォオオ!?」

「やっべ、そろそろ追い付かれそうだな」

「ゴリゴリウッホホ!」

 はぐれ者のネームドゴリラに遭遇した俺達は必死になって逃げ回っていた。

ボンバーヘッドのキューティー Lv75

アフロヘアーに変化したキューティクルコング

ヘッドバットによる攻撃は爆発が起きるほど強力

 この通り、賢者の森から流れてきたみたいでレベルもめっちゃ高い。

 時間を掛ければ倒せるとは思うのだが、今は約束があるのでスルー……と言うのは実は立て前でウォーヘッドが使い物にならないので逃げている。

「もうゴリラは嫌だぁぁぁあ!!!」

「頼むから戦ってくれよ……」

「ウホウホホゥ!」

 どうやらライトと一緒に行った秘湯探しのクエストで受けた心の傷がまだ癒えていないらしい。

「ゴリウッホ!」

「危ね!? これ以上逃げるのは無理だ! 戦うぞウォーヘッド!」

「だ、ダメだライリーフ。ムキムキの筋肉と剛毛の毛深い体を見ると手が震えて狙いがつけられねぇ……! ゴリラが群れでムレムレに、うぐぅ……」

「落ち着けウォーヘッド! 相手は一匹だ、ムレムレゴリラパーティーは開催されてなんかいない! その悪夢から脱却するためにも戦わなくちゃだろ!」

 何よりウォーヘッドが戦ってくれないとそろそろキツい。

 このアフロ野郎打撃系の攻撃だけでなく掴み技まで使ってくるせいで下手に攻撃を受けられない。【ウォーキング・デッド】の効果が発動しても掴まれた状態で連続攻撃を食らっては反撃する暇もなくやられてしまうからだ。

「チッ、こんなことならストレージにバナナでも常備しておくんだったぜ!」

「ウホーッホゥ!」

「のわ! バナナと聞いて更に荒ぶりやがった!?」

「ライリーフ! くそ、やっぱり手が震えて弾が掠りもしねぇ……!」

 流れ弾が俺にしっかり命中してるけどな。パーティ組んでるおかげでダメージはないけどいきなり背後から衝撃が襲ってきて少し驚いたぞ。

「ウホウホゴーリッ!」

「しまっ、へぶぁ!?」

 ゴリラは俺が銃弾の衝撃に気をとられた隙を見逃さず、ヘッドバットによる強烈な攻撃をぶちこんできた。どう言う原理か知らないが鑑定で見たモンスターの説明にもあった通り爆発までするヘッドバットだ。

「ゲホッゲホッ、この野郎……よくもやりやがったな!」

 ヘッドバットと爆発でヒットの判定が別れていたせいで【ウォーキング・デッド】の効果を2回も使わされてしまったじゃねーか!

「ら、ライリーフ……ぷふ、あ、頭が」

「あ?」

 ウォーヘッドが笑いを堪えながらそんなことを言ってくる。

 いったい俺の頭がどうしたって言うん……モシャモシャする。すっごくモシャモシャしてる!?

「な、なんじゃこりゃー!?」

 状態異常ボンバーヘッド!? 強制的にアフロになる状態異常だとぉ!?

「ウホウホウホ!」

「笑うな! てかゴリラ、お前も同じヘアスタイルだろうが!」

「フッ」

 は、鼻で笑いやがった……。こいつマジで許さん!

「おいウォーヘッド、良いこと教えてやる。俺のホームには温泉を作る計画がある」

「温泉だと?」

「そうだ。しかも混浴! 太古に失われし幻の文化をこのゲームにて復活させるのさ!」

「ゴクリ……だがどれだけ装備を外してもインナーより薄着にはなれないんじゃ?」

「バスタオル装備を作って見えそうで見えないエロスを再現する。それでパラダイスは出来上がる!」

「そ、そんな手が……! しかし何故それを今の状況で語り始めたんだ?」

「決まってんだろ? 温泉が完成した時にあんたがゴリラの幻影に囚われないで済むようにだ!」

「!?」

「たかが1匹のゴリラ相手にビビってるあんたのことだ、きっと温泉を見てもゴリラパーティーを思い出すに決まってる」

「そ、それは……」

「だから今なんだ! 目の前にいるあのゴリラ野郎をブッ飛ばしてゴリラに打ち勝てる強い精神を手にいれろ! 夢の混浴温泉の為に!」

「ライリーフ……ありがとよ、おかげでゴリラと戦う勇気がわいてきたぜ!」

 姉さんとの待ち合わせに遅れようとも構わない。俺は、俺達はこのゴリラを倒して先に進むんだ!

「いくぞゴリラ野郎、さっきまでの俺達と同じだと思うなよ?」

「震えが止まった……今ならどんな小さな的にだって弾丸をぶちこめる気がするぜ」

「ウホ!?」

 ウォーヘッドの放った弾丸がゴリラの両目を撃ち抜く。俺はその隙に使えるスキルを全て解放した。アフロヘアーがちと重たいが、普段の倍以上のステータスの前には些細な問題だ。

「奴の視力が戻る前に畳み込め!」

「応よ!」

 このゴリラはステータスが高いので装備は幻影水晶の剣の二刀流で攻める! ステータスの暴力を思いしれ!

「遅い! どこで油売ってたのよ?」

「ごめんなさい……」

 どれだけステータスが上がっても、相手は高レベルのネームドモンスター。そう簡単に倒せる訳もなく、ゴリラとの死闘は長引き当然のように待ち合わせには遅刻してしまった。

「にしても姉さん髪色以外殆ど見た目変えてないんだね。すぐ分かったよ」

「悠二だってそんなに変えてないじゃない。頭以外……」

「はぁ? めっちゃかっこよくカスタムしてあるんですけど? 姉さんの目は節穴か何かか?」

 頭はさっきの戦闘のせいでアフロのままだけどさ。

「あとここではライリーフでよろしく。ライリーフ・エイルターナーね」

「ああ、そう言えばそんな事言ってたっけ? 私はレヴィアね」

「レヴィア?」

「お祖父ちゃんが付けようとしてた名前から付けてみたの」

 たしか麗美亜淡と書いてレヴィアタンだったっけ。父さんに明明星(ルシフェル)なんて付けるだけあってとんでもない人だ。ちなみに俺にはベルフェゴールだったらしい。字は忘れた。

「で、そっちが姉さん……じゃなくてレヴィアの友達?」

「は、初めまして……アケノです……」

「よろしくっす」

 綺麗な人だが、何故か目が死んでる。

「レヴィア、俺らが来るまでに何かあったの?」

「別に? ちょっと声かけてくる人数が多くて鬱陶しかったくらいよ」

「ああ……」

 二人とも美人だもんな。このゲームも当然男性プレイヤーの方が数が多いので、女性プレイヤーと言うだけで声は掛けられるものだ。ましてや新人プレイヤーならその数も増えるだろう。

「なあライリーフ? この人リアルと容姿変わんないって言ってたけどマジでお前の姉ちゃんなのか?」

「え? うん、だいたいこのままだよ」

 余所行きモードでだらけてないのを除けばな。

「その人は?」

「俺のフレンドのウォーヘッドだよ」

「初めまして! ウォーヘッドです!」

「ん。よろしく」

「……」

 おや? ウォーヘッドが姉さんに話し掛けたらアケノさんの目付きが若干険しくなったぞ?

 ははーん、さては百合の者か。弟の俺が姉さんと話すのは良くても他の男とは話させたくない、と。

「うっ……」

 アケノさんは俺と目が合った瞬間、表情が少しひきつり顔をそらした。姉さんの弟の俺相手にこの反応、待ち時間はさぞ地獄であったことだろう。

「レヴィアさんレヴィアさん、俺勝手にフレンド連れて来ちゃったけどアケノさん平気なのか? なんなら今すぐ帰らせるけど」

「何の話?」

「何って、男性不信か何かなんでしょアケノさん?」

「えっ? ふ、ふふふ……違うから安心していいよ。ね? アケノちゃん」

「うぐぅ……! そ、そうよ……別になんでもないの……気にしないで……」

「んん??」

 姉さんと話してもダメージを受けているだと? いったいどんな人なんだこの人は?

「とりあえずギルドにクエスト受けに行きましょうか!」

「そうね。移動しましょう」

 ウォーヘッドの一言で俺達はギルドに向かうことにした。アケノさんのことはいまいち分からないままだが、クエスト受けてる内にどんな人か分かるだろう。