「それじゃとっとと案内してもらおうか」

(ふん、確かに私達は敗れた。だが貴様に屈した訳ではない)

「ほほう? まだ元気そうだし、後2羽とも死闘を演じてみるか?」

(なっ……この御方の他に2羽も従えていると言うのか!?)

「ルクスとラクスって言うんだけどな、ノクティス程じゃないがこいつらも強いぞー?」

(くっ、弱いくせに何故そうも強力な配下を揃えられるのだ……)

 素直に飯で釣った、なんて言っても信じないだろうなぁ。てか釣れちゃう方がおかしいもん。

 それはさておき、鳥ガーハッピーが複数存在することを知った父帝闘は、漸く素直に道案内を始めた。それでもやはりダンジョンの支配を諦めきれないようで、渋い顔をしている。

 そんな父帝闘とは対照的に、首領・フライドの方は特に何か文句を言ってくる訳でもなく、俺達がポテトをダンジョンから追い出さないと分かったからなのかとてもリラックスしている。しかもノクティスと狙撃の話題で割と盛り上ってるし。

(首領・フライド……)

(そう呆れたような目ぇ向けんなや皇帝陛下。考えようによっちゃあ俺達は神鳥に連なる御方の庇護下に入る訳だぜ? それも同時に複数のだ! 皇帝陛下が無理して気張るよか楽に繁栄出来るだろうよ)

(しかし……)

(いいじゃねーか。レベルも下がっちまったんだしよ、この機会に皇帝辞めんのも手だろう)

(それは……いいえ兄者、それだけは出来ませぬ。例えダンジョンマスターの傀儡に成り果てる定めだとしても、あの日の誓いに賭けて、私は最後の時まで皇帝としてあらねばならない)

(へっ、そうかよ)

「……」

 このポテト達にどんなバックボーンがあるのかは分かりかねるけど、それでもポテトに主人公力で負けてる気がするのは気のせいだろうか?

 個人的に色々と聞いてみたくもあるが、そうすると本格的に主人公力で大敗を喫する未来が確定してしまう予感がする。

 あー、でも今更ではあるか。そもそもゲームの中なんだから、例えモンスターであろうとも強キャラであればあるほど主人公力が高まるのは道理だろう。

 ソフィアとかが良い例だ。聞いた話じゃあいつってば10年位前に剣術の指南役を完封したって言うし、俺のような凡人が逆立ちしたって太刀打ちできない主人公力してやがる。

 あとはシリウス君もだな。こっちはフードの男が本当にシリウス君ならって前提になるけれど、幼い頃に悪神に拐われながらもその力をはね除け、今現在も悪神の復活を阻みながら決着をつける為に放浪している……って書くとスゲー主人公っぽい。

 他にもほぼハーレムパーティなライトとか、少し前に深層のボスをソロで攻略したとかメールで自慢してきたアルバスとか、身近な所にも俺より主人公力高い奴は多い。

 あ、そうか。それなのにどうして今回ばかりはスルー出来なかったのか分かったぞ。さすがに芋に主人公力で負けるのは、人としてのプライドが許さなかったんだな。よし、ポテトの過去なんか絶対に聞かねぇぜ!

(時にあんたら、どうしてそこまでこのダンジョンに固執してるんで? 昔何かあったんですかい?)

「ノクティーーースッ!!」

 お前コラ、いつにも増してフラグ回収が迅速過ぎるだろ!

(いきなり大声出してなんなんです旦那? 旦那だって気になるでしょう?)

「そりゃちょっとは気になるけどさ!」

(……ノクティス様、かつて我等ポテトに何があったか、それを話す気にはなりませぬが、このダンジョンに固執する理由ならばすぐに理解される筈です。あれを目にすれば)

(そりゃまたいったいどんな物なんで?)

(ま、百聞は一見にしかずって事ですよ。あ、ところで皇帝陛下よぉ、今回の事はあいつにも相談してあるんだよな?)

(……)

(おいおいマジかよ? 俺は一緒に説教されんのは御免だからな)

(兄者、いや首領・フライドよ、私達は共犯者である。説教も二人で受けようぞ)

(ははッ、俺はお前の命令に従っただけだぞ? 一人で叱られるんだな)

(私はダンジョンを支配するための提案をしただけで、ダンジョンマスターへの攻撃は首領・フライドが自主的に行っていたと記憶しているが?)

(あの状況見て陛下を止めようとするのはそれこそあいつくらいだろうが)

 ポテトの歴史が語られなかったのはいいんだけど、そろそろ先に進んでもらいたい。

「あのさー、喧嘩すんのはいいけど目的地についてからにしてくれよ」

(ふん、それならもう目の前だ)

「目の前って言われても、通路と行き止まりしかないんだが?」

(その行き止まりこそが目的地であり、我等ポテトの国への入り口だ)

「……なるほど、隠し部屋って訳か。しっかし随分なスペース持っていったもんだな」

 このダンジョン、上を見れば綺麗な青空が広がっている。しかし地下に存在している為、当然のようにダンジョンの端は土の壁がぐるりと囲んでいるのが現状だ。

 未だに手を加えてはいないこともあって、ダンジョンの全体図は正方形の形になっている。俺が手を出せない領域はその中心に位置していて、そうだな……ちょうど漢字の『回』の中の四角を丸くすれば、それが件の領域の大きさになる。

「んー、確かに不自然っちゃ不自然な作りではあるか……?」

 ダンジョンマスターの権限で表示していた全体マップ、それを挑戦者用の自分の周囲のみが表示される物へと切り替えれば、ゲーム的に見て何かありそうな作りにはなっている。

 補足情報として、この『スプルド』と言うゲームには大きく分けて二通りの攻略法がある。一つはこのゲームを異世界として扱い、NPCやモンスターとの間に友好な関係を築くことでレアなクエストを受ける方法。たぶん俺が無意識にやってるのはこっちだし、限りなく生に近い反応を返してくるNPC達を相手にしていれば自然とこうするプレイヤーは多い。

 そしてもう1つの方はと言うと、その反対。ゲームを徹底的にゲームとして捉える事で隠されたアイテムを入手する方法だ。不自然な亀裂を調べたり、草に囲まれた岩を調べてみたり……と、旧式のゲームで話しかけてみればアイテムが貰えそうな場所、行動、その全てを試すのだ。攻略法と言うかレアアイテムのゲットの方法と言った方が正しい気もするが、実際モンスターとの戦闘にレアアイテムは役立つし攻略法でいいよな。

 んでもって今回の通路の行き止まり、これは後者の方法を試したくなる作りをしている。となればこの先に進む為の方法も、きっとゲーム的な物になっている筈だ。

「どうやって進むんだ?」

(地属性の魔法を使う。そこから先は自分で考えることだな)

 げっ、魔法必要なのかよ。生活魔法の中には地属性っぽいのはなかったし、どうするかな。最悪こいつらに開けさせてもいいけど、毎回同伴してもらうのも面倒だし、何より協力してくれない気がする。父帝闘の開けられるもんなら開けてみろって顔がその証拠だ。

(短時間に5回当てると開くぜ)

(首領・フライド! 何故教える!)

(さっきも言ったが巻き添えで説教はごめんだからな。ささ、今俺が開けますんでちょーっと下がっててくださいな)

「いや、ちょっと試したいことがあるから」

 予想に反して首領の方が答えを教えてくれて、しかも開けてくれようとしているが、答えを聞いたお陰で俺でも開けられそうな方法が浮かんだのでそっちを優先してみる。これが成功すれば自由に俺だけでの行き来が出来るし、やってみて損はない。

「よっ、一、二、三、四、五っと……おっし開いた!」

 俺がストレージから取り出だしたるはウォーヘッドにも売った魔導小銃・クインティア……の劣化の劣化の更にもう一段くらい劣化させた粗悪品、魔導小銃・デュオニス。威力が低く、弾数も少なく、フルオート射撃も出来ない。しかしながらクインティア同様のマガジンに対応している優れもの!

 当然今使ったのは地属性のマガジンだ。隠し部屋の入り口が開いてくれてよかった。威力は初心者のナイフ並みなので使う機会はないと思っていたが、ここの鍵として有効活用できそうだ。魔法覚えても使ってやるからな。

(くっ、自力で開けられるか)

「はっはっは、残念だったな父帝闘。それから首領、叱られそうになったら庇うことを約束しよう」

(ははッ、話が分かるダンジョンマスターで良かったぜ)

(ぐぬぬぅ……!)

 首領は父帝闘の恨めしげな視線を完全に無視して楽しげだ。

 仲いいなこいつら、なんて思っていたらノクティスが話し掛けてきた。

(旦那、旦那! なんかこの中から懐かしい匂いがしやすぜ!)

「懐かしい? あー、そうだろうな。俺の予想が当たってればこの中にあるのは――」

 そう言いながら隠し部屋の中へと入る。

「――世界樹だからな。ってデカ!?」

 そこには天を衝かんばかりに聳え立つ立派な大樹が!

 成長期か? 成長期なのか!? 生えてるとは思ったけど、樹齢一週間くらいでこれはさすがにおかしいだろ!