泣きつかれてやっと落ち着いた私を

「アーシュ、バカね、本当にバカね」

と、今度はマリアが抱きしめてくれる。

「でも、ありがとう、ありがとうね」

「まあ、試合までは仕方ないかと思うが、冒険者じゃない、しかも子どもに剣を、まあ魔法だが、向けたことはやはりまずい。あいつらには厳重注意だ。アリスもその点同じだ」

「グレアムさん、すみませんでした」

「ザッシュ、謝る人が違うだろう」

「アーシュ、ごめんな」

「それも違う」

「マリア、すまなかった」

ザッシュたち4人は、悔しそうに、苦しそうに言った。

「君たちは……」

グレアムさんがため息をつく。

「オレ達がもっと強ければ守れたのにとでも思っているんだろう」

「実際、勝てていれば!」

「守れたのに?そもそも、マリアには関係さえなかったことなのを、忘れていないか。彼女は、君たちの意地に巻きこまれただけだろう。ランク差はそう簡単には縮まらない。冒険者には、気の荒いものも、理不尽なものもいる。そのたびに、自分が強ければと言い訳して、誰かを巻き込んでいくのか」

「……」

「マリアもソフィーも、アーシュもマルもギルドの依頼で来ている。仕事をしているんだ。君たちのおもりに来ているんじゃない。ザッシュ、クリフ、学院のおまけのお遊びに巻き込むな。ニコ、ブラン、何のためにマリアについて来たか思い出せ」

「「「「はい」」」」

「アーシュ」

「はい」

「君のお父さんは、素晴らしい人だった。わかるね」

「はい。弱かったけど、大事なものを見落としたりしなかった」

「琥珀の姫を連れての逃げっぷりは、語りぐさだよ。それで2人は、不幸だったかい」

「いつでも笑っていました」

「君には強い力がある。それを使う頭もある。けれど、まだとても小さい。何が最善かは難しいことだけれど、自分のことは大切にしておくれ」

「はい」

「ごめんな、痛かったろ」

セロが頬を包む。

「本当だよ、ひどいよセロ、アーシュ女の子なのに」

「ダメなやつだな」

「な、マル、ウィル、お前らだって慌ててたくせに!」

「「でも叩かなかったもーん」」

「う、アーシュ、ホントにごめん」

「じゃあ、今度おいしいもの買ってくれたら許してあげる」

ホントは、パニックになっていたのを戻してくれたのはセロだったんだけど。

「いくらでも!オレ稼いでるし!今度でかけよう!」

「あのー」

ダンだ。

「お疲れのところ、ちょっといいかな」

「ダン君、どうしたね」

「もともとアーシュに今日相談があって、みんなにも聞いてほしくて」

「さすがに今はつらいだろう」

「ええ、グレアムさん、ただ、今セロが出かける計画を立てていたのでついでに、と思って」

「そのこととお願いが関係あるの?」

「大ありなんだよ、アーシュ」

少し気まずいみんなは、話題に飛びついた。

「王都に来て、休みの日は街を歩き回って、ちょっと考えたことがあるんだ」

「商売のこと?」

「で、みんなには、できれば何人かに別れて、街で1日過ごして、食事を取ったり遊んだりしてきてほしいんだ」

「それはデートってこと?」

「「デートっ」」

セロと顔を合わせ、慌てて反対を向く。セロは上を見ている。

「ソフィー、デートとは限らないけどね、カップルでもいいし、友達同士でもいいから、1日楽しく過ごしてきて、街の感想をきかせてほしいんだ」

「それだけ?」

「うん、それで話を聞かせてほしい」

「急ぐの?」

「5の月のうちには」

「すぐ行こうぜ」

「ザッシュ、体は?」

「この位平気だ」

「あ、オレ、マルと2人で行くから」

「兄妹でお出かけする!」

「え、4人じゃないの?」

「セロはアーシュと二人で行って来い」

「マル、いいの?」

「うん、お兄ちゃん冒険者だから。いっぱいおごってもらう」

「なりたてだからな、ホドホドにな、肉を食おうぜ」

「おー」

「じゃあ、アーシュ、オレたちも二人で行こうか」

「行く!私はね、甘いものが食べたい!」

「オレは肉だな、なに、え?痛っ、わかったよ、甘いもの探そうな」

「うん!」

ザッシュたちは仲直りをかねて、6人で行くことになった。

「そうとなったら、今日は早く休もうぜ」

「グレアムさん、ご迷惑をおかけしました」

「気をつけて帰れよ」

「お休みなさーい」

「やれやれ、グレッグの苦労がしのばれる。何もなければいいが」