I want to protect you in this hand.

Arsh, 13, 2 years old, in the Moon King's Capital.

最近毎日、夕食にはダンの家にみんなが集まってくる。カレンさんがいるのだから、当然ギルド長も来る。クリフも夕食は間に合わなくても、来れる時は必ず来てくれていた。今日の騒ぎをソフィーは知っている。心配そうに時々セロを見ていた。

「で、ギルド総長の話は何だった」

ギルド長が口火を切った。セロは答えた。

「人が悪いですよ、あらかじめ言ってくれればよかったのに」

「悪い、けど不確実な事は言えなくてな」

不思議そうなみんなに、どうやら自分は宰相家の身内であることと、その経緯を話した。私は聞いた。

「セロとおんなじ色なの?」

「そうらしい」

ソフィーが言った。

「今日中央ギルドで2人並んでるのを見たら、親子かと思うほど似ていたわ。そして見ていたみんなもそう思ったみたい」

「あー、セロ、やられたな」

「オレもその時初めてやられたと思いました」

ギルド長とセロがそう言うと、クリフが、

「でも親がわかっただけでなく、それが貴族で、しかも一族として認めるって言ってるんだろ?何も問題ないと思うんだが。むしろよかったというか」

と言った。みんなうなずいた。

「でも、なんか、なんかつらいんだよ」

セロは苦しそうに言った。私はセロの隣に寄り添って言った。

「うーん。誰が悪いということでもなかったのに、なんでつらい子ども時代を送らなければならなかったのかって考えちゃった?誰かがもっと早く宰相家の色と気づいてくれていたら。今さら歓迎されてもとか、考える時間もくれずに勝手に既成事実を作られるし」

当たりかな。セロは私をまた抱きしめ、頭にあごをのせた。ぬいぐるみか。

「親は親で、勝手に逃げて、勝手に結婚して、勝手に子どもを産んで、生活のめども立てず先にさっさと死んでしまったし」

しん、とした。みんな自分の親のことを考えたのに違いない。

「親に怒ってもいいんだよ、セロ」

「アーシュ」

「私は怒ってるもん」

「アーシュ、お前」

ギルド長が思わず声を上げた。いい子なだけじゃなかったんだよ、私だって。

「セロ、セシリアさんが親になったのっていくつだと思う?」

「ただ、年頃としか」

「もし16歳くらいなら?今のセロと同じだよ?私のおかあちゃんだって、15だよ?確かに成人は14歳って決まってる。事情だってあったんでしょ。でも、生活のことも、先のことも何も考えてなかったと思う」

私ははっきりと言った。

「親が悪い!」

みんなあっけにとられた。そして次々に言い始めた。

「そうだよな、子どもを捨てるなんて」

「自分の事しか考えてないんだから」

「怒ったっていいよな」

ひとしきりみんなで言いつのった後、私は言った。

「でも、愛してくれていたよ。きっと苦しくなる前は、みんな愛してくれてた」

またしん、とした。

「もう少しで父ちゃんと母ちゃんが結婚した年になる。私、考えるんだ。記憶の中の父ちゃんと母ちゃんなんて、もう、友だちだなって」

「友だち?」

「うん、友だちだなって考えたら、失敗もするし、バカなこともするし、暴走もするでしょ。友だちなら仕方ないなって許せるもん」

「そうか、隣のセシリアが暴走して馬鹿なことをした、か」

「なんでって考えても仕方ないよ、だって若いってそういうことでしょ」

「親も子どもだったってことか。今のオレと同じ、なんでかわからないけどつらくて、思いつめて、逃げたのか」

「そんな感じ」

「それだけか」

「それだけ」

ギルド長がため息をついて言った。

「アーシュ、お前そんな事考えてたのか」

「ときどき。だって、やっぱりつらかったよ」

「そうか」

「だからね、セロ」

「ん?」

「せっかくできた縁を、大切にしない?」

「外堀から埋めるようなやつだぜ?」

「おもしろい人だよね」

ブランが笑った。

「アーシュは変なやつが好きだからな」

私はちょっとブランをにらんだ。もう。

「今さら家族が出てきても、私たちは変わらないよ。単なる足し算だと思えばいいよ。私にとってのリカルドとディーエのようにね」

「……それはイヤだな」

セロは心底嫌そうに言った。みんなの笑い声が弾けた。

それから、この際だからとウィルとマルもお父さんの話をした。ギルド長もカレンさんも驚いていた。

また、子羊商会の話もまとまった。ダンのおばさんの奮闘で服も最低限そろい、帝国に持っていく魔道具や食品も集め終わった。

そしてセロは宰相家に顔出しした。

後で聞いたら、それはもう銀髪だらけで、悩んでいた自分は何だったのかと思ったそうだ。おじいさんに当たる元宰相にも会えて、無事を喜ばれ、優秀な冒険者である事を誇りに思うと言われたという。また、いとこもいた。新しい親戚に大喜びで、メリダに戻ってくるのを楽しみにしていると言うことだ。

そして、3の月の初め、私たちは中央ギルド長室に呼ばれた。そして中央ギルド長が脇に控える中、ギルド総長からの辞令を受けたのだった。私はギルド総長を見て、セロと同じ色で驚きを隠せなかった。

「セロとおんなじ色だ、と思っているな、黒髪の子よ。口があいておるぞ」

あわててぽかんと開いていた口を閉じた。ちょっと意地悪だ。セロを見ると、

「オレは意地悪じゃない、そんなところ似てないぞ」

と言った。そんなやりとりをしていると、ギルド総長がふっとやさしく笑った。

「素直なよい仲間を持ったな、セロ」

「はい」

セロは力強くうなずいた。中央ギルド長が口を開いた。

「そしてうちから、調整役としてテッドを出す。優秀な魔法師でもある」

「よろしく!」

軽っ。今までいなかったタイプだ。

「これであと一つで、ギルド長室制覇だな?黒髪よ」

「は、はい?」

中央ギルド長がニヤッと笑った。みんな意地悪だ。ギルド総長が改めて言った。

「要は依頼のあったギルドのみに行き、機能のチェックと修理をすれば済む話だ。しかし、必要だからと理由をつけて、なるべくあちこちのダンジョンとギルドを見てきてほしい。正直、帝国との関わりなどなくてもよいのだ。しかし、ギルドの不具合がこちらに影響してきても困る。グレッグ、頼んだぞ」

「わかりました」

「3組の冒険者諸君、いつもより多いとはいえたった3組だ。何かを成そうとせずともよいが、なるべくグレッグの助けとなってくれ。留学生組は学業もな」

「「「はい」」」

こうしてグレッグさんと技師のテッドさんとカレンさん一行、ノアのパーティ、子羊組は、2の月の終わりに王都を旅立った。