I Was a Sword When I Reincarnated (WN)
825 Additional reinforcements
俺たちが戦っている場所から100メートルほど離れた低い丘に、1000人からなるドワーフの軍勢が突如出現していた。
先頭にいるのは、馬鹿でかいハルバードを肩に担ぐように構えた、女王オーファルヴだ。
彼女はこちらを一瞥すると、そのまま大音声を上げた。
「ドワーフの勇士たちよ! いつも通りだ! いつも通り歩を進め、いつも通り武威を示し、いつも通り敵を粉砕せよ!」
「「「おう!」」」
全ドワーフが一歩踏み出す。しかし、俺たちに聞こえたのはザッという大きな音が1回だけだった。
つまり、あれだけの数のドワーフたちの動きが、完全に一致していたということだ。
そして、全く同じ動作で武器を構える。そんなドワーフたちを振り返ることもなく、オーファルブがスキルを発動した。
ドワーフの戦士団を最強足らしめる、エクストラスキルだ。
「勇往邁進! 我に続け!」
「「「おう!」」」
オーファルヴを先頭に、ドワーフたちが一糸乱れぬ動きで行進を開始した。
最も前にいるのは女王。あとは、500人が横一列に並んだ横陣を2列。それは、以前見た陣形と同じであった。
それが、ドワーフにとって最強の陣形なのだろう。
抗魔たちは、突然出現したドワーフの軍勢を脅威とみなしたらしい。もしくは、勇往邁進によって強化されたドワーフたちの魔力が、抗魔にとっては御馳走に見えるのかもしれない。
俺たちの周囲にいた抗魔の半数ほどが、向こうへと標的を変えるのが分かった。
最高の援護である。
「ドワーフたちと合流するわ! みんな! 私の周りに集まりなさい!」
ヒルトがそう叫ぶと、百人隊の面々が一斉に動き出す。俺たちがナディアを助けに行っている間に、ヒルトがリーダーとして完全に認められたのだろう。
「フラン、いいわね?」
「ん」
多少回復したとはいえ、俺たちだけでナディアを助けに行くことはできない。今は、ドワーフたちの力を借りねばならなかった。
抗魔からの圧力が多少減ったとはいえ、まだ敵の数は多いのだ。ヒルトはまだ戦える人間で外を固め、皆で一気に突破するつもりであるらしかった。
「ソフィ、だいじょぶ?」
「なんとか……」
俺たちを癒してくれた先程の曲は、想像以上に彼女を消耗させたらしい。走るのも億劫そうだ。
まあ、フランよりは動けてるけど。
「黒雷姫さん。俺が担いでいきやしょうか?」
「へいき。ディギンズも疲れてる」
「はっはっは! これくらいどうってことないでさぁ!」
主力メンバーは最前線で戦い続けたせいで、消耗が激しかった。ディギンズ、ヤーギルエールだけではない。
「コルベルト!」
「ちぃ!」
ヒルトの悲鳴に振り返ると、コルベルトが剣士型に斬りつけられ、血飛沫を上げたところであった。
ヒルトが助けに入り事なきを得たが、みんな疲労困憊で注意力が低下しているのだろう。似たような光景が各所で繰り広げられている。
周りを見回したヒルトが、表情を変えるのが分かった。覚悟を決めた顔だ。
「私が道を切り拓くわ」
ヒルトだって消耗している。身に纏う魔力が目に見えて弱まっているのだ。それでも、仲間のために前に出ようとしている。
「はぁぁぁ! 迦楼羅ぁぁぁ!」
ヒルトの体が一気に加速し、突き出した拳が抗魔たちを吹き飛ばす。
だが、明らかに精彩がなかった。迦楼羅の制御が甘くなっているのだろう。本気の時と比べれば、半分くらいの実力しか発揮できていなかった。
しかし、ヒルトは止まらない。前に進みながら、目の前の抗魔を粉砕していった。
その拳は血まみれだ。
拳を覆う魔力が減少し、抗魔の装甲の硬さに負け始めているのだろう。それでも、ヒルトはただひたすらに拳を繰り出し続けた。
どうしてここまで戦うんだ? ヒルトはこの戦いに対して、フランほどに思い入れはないはずだ。
ナディアの事も知らないし、カステルに関係がある訳でもない。
それなのに、ヒルトは決死の覚悟を感じさせる顔で、全力を絞り出そうとしていた。
「誰も、死なせない!」
ヒルトの微かな呟き。
フランには聞こえていないだろう。俺だから聞き取ることができたほどの、本当に微かな呟きの声だ。
「ここで誰かが死んだら……フランが気に病む! あんな小さな子が――これ以上泣くなんて許さないわ!」
フランのためだったのか……。それなら、ちょっと分かる。フランだって、きっとヒルトのためになら命を懸けられるだろう。
友人とも、仲間ともちょっと違う。殺し合いをして、一緒に戦って――戦友という呼び方が一番近いだろう。
彼女たちは、戦友のためだったら笑って死地に突っ込む生き物だ。俺には理解しきれない、不思議な絆で繋がっていることは理解できた。
しかし、ヒルトの覚悟を嘲笑うかのように、抗魔の波は止まらない。
進軍速度が鈍ってきたのが分かった。
『このままだと、まずいか? 魔力を使い切る覚悟で俺が出れば……』
《否。このまま進んだ場合、部隊に被害が出る可能性、3%》
は? なんでだ? 3%って、どういうことだ?
俺が聞き返そうとした、その時だった。
俺たちを白い光が包み込む。ぬるま湯に浸かっているかのような、暖かな光だ。この感覚には覚えがあった。治癒魔術の光だ。
『広範囲回復魔術だと? 誰が?』
周囲を見回す。すると、先程のドワーフたちと同じように、新たな軍勢がいきなり出現していた。
今回も気付かなかったぞ!
『回復してくれたってことは、味方なんだよな?』
ドワーフたちと違うのは、その軍勢に見覚えがないという点だ。先頭に立っているのは、病的に白い肌に、山羊のような角を備えた、魔術師風の女性である。
多分、魔族なのだろう。
「放て!」
女性が号令を下した。すると、新たな軍勢から無数の魔術が放たれる。300発近いだろう。
それらが抗魔の群れに着弾し、凄まじい戦果を上げるのが見えた。間違いなく、味方であるらしい。
『アナウンスさんは、あれに気付いてたんだな?』
《是》
『でも、どうやって? 俺は全く察知することができなかったんだが』
《以前、同質のスキルを経験したことがあります。そのため、微かな違和感を検知することに成功しました》
『同質のスキルって、ドワーフが気付かれずにここまでやってきたアレか?』
《否。ドワーフたちが使用していたのは、魔道具と思われます。あの魔族が使用しているスキルは、気配完全遮断。それを、自らの配下にまで及ぼすことが可能と思われます》
『気配完全遮断って、もしかして……』
《個体名・ジャン・ドゥービーの所持スキルです》