I Was a Sword When I Reincarnated (WN)
258 Next to Next
スアレスから聞き出した隠し部屋の周辺にやって来た。一見何もない倉庫だが、この部屋の隠し扉から魔導装置の置かれた部屋に入ることが出来るらしい。
スアレスから聞き出した隠し扉のある壁を調べてみると、確かに向こう側に広い空間があるな。開ける方法を色々聞いたが、面倒なので力技で行くことにした。
「ふん」
フランが俺で壁を数度斬りつける。そして軽く前蹴りを叩き込むと、壁が向こう側に崩れ落ちた。
部屋に踏み込むと、魔導装置の全貌が明らかになる。それは魔導と機械の融合した、この世界ではかなり奇抜な姿の装置だった。
大きな水晶のような物と、それを支える精緻な彫刻の施された台座。多分、何かの骨だろう。これだけ見ると、完全にファンタジーだ。
そして、その台座や水晶をさらに取り囲む様に、武骨な金属のパーツが大量に取り付けられていた。俺がパッと思いついたのは、スポーツカーのエンジンだろうか。幾つか飛び出した金属のパイプなんか、マフラーにしか見えん。
DQよりは、FFに登場しそうな外見だね。船の推進装置を見た時も思ったが、巨大な魔導装置は一見すると機械にしか見えない。まあ、動いている原理や、内部の作りはファンタジーなんだけど。
「む」
『すげえ魔力だな』
どうやら魔力を遮断するような処理が部屋に施されているらしい。そのせいで外からは感じ取れなかったが、ここまでくるとその魔力の強大さが理解できた。
これ、貰えないかな? 破壊するのは勿体なさすぎる。次元収納に仕舞っちゃえば魔力が遮断されて水竜は弱体化するだろうし、それでいいよね?
『とりあえずビーコンを設置して、甲板に戻ろう』
「ん」
ビーコンを部屋に設定していると、急に船体が大きく揺れた。船体がミシリと音を立てている。
しかも、一回だけではなく、揺れは断続的に続いていた。
「……地震?」
『いや、ここ船の中だから。甲板に急ごう。何かあった事は確かだ』
「ん!」
俺たちは甲板へと急いだ。この大型船がここまで揺れるとなると、余程の事態である。水竜が暴れたりとかね。フランが船内を駆けあがっている間も船体を襲う凄まじい振動は続いている。
そして、甲板に辿りついた俺たちの眼に飛び込んできたものは、想定を超えた事態であった。
『な、何だありゃ!』
「大きなタコの足?」
『いや、クラーケンの触手だ!』
「なるほど」
なんと、水竜に太く長い触手が無数に巻付き、その体を締め付けていたのだ。どうやら、クラーケンが水竜を襲っているらしい。
『しかも、アルギエバ号のマストが1本折れてるぞ』
「フラン! 不味い事態になった!」
「モルドレッド、一体何があった?」
「実はな――」
モルドレッドは当初の予定通り、スアレスに命令させて水竜を動きを止めようとしたらしい。だが、スアレスがここでやらかしやがったのだ。なんと、水竜に向かって好きに暴れろと命令したらしい。
その後モルドレッドがどれだけ痛めつけても、自暴自棄になったスアレスが命令を撤回することはなかった。水竜が解放されたら危険だから、本当に捕虜のまま生かしておいてやるつもりだったのに。
だが、事態はそれで終わりではなかったらしい。水竜の放ったウォーターブレスがアルギエバ号を掠め、マストと甲板に被害を与えた直後、水竜を巨大な触手が襲い始めたのだ。
「それがクラーケン?」
「ああ。ある意味助かったとも言えるが……。どうやら、予定通りにはいかないらしい。魔導装置の破壊は少し待て」
「わかった」
まあ、この状態で水竜を弱体化させても、あまり意味はないよな。どうやらクラーケンが複数いるらしく、それでも水竜が何とかやり合えているのは魔導装置による防御強化のおかげだ。もしその効果が切れたら?
あっと言う間にクラーケンに食われてしまうだろう。1対1では水竜の方が強いが、3対1では勝負にならない。すでにクラーケンが有利な状況だしな。
そして、水竜が倒されたら? 次はアルギエバ号だ。
(倒せない?)
『いや、倒せるとは思うが……』
攻撃力や敏捷力に関しては水竜の方が強いが、生命力や再生力はクラーケンが上だ。カンナカムイと黒雷の合わせ技なら倒せる自信はある。
だが、ここで力尽きては今後が心配だった。何せこの海域はクラーケンの巣と呼ばれる場所なのだ。クラーケンがさらに現れないとも限らない。
「このまま放置しておいて、潰し合っている間に逃げる方がいいだろう」
「わかった。じゃあ、アルギエバ号に戻る?」
「ああ、頼めるか? こちらの人間はすでに甲板に揃っている」
用意が良いね。冒険者は全員いる。船員の数がちょっと減っているが、そこは仕方がない。さすがに白兵戦を仕掛けておいて、全員が無事に帰れるわけがないからな。残念ではあるが。
俺はディメンジョン・ゲートをアルギエバ号の甲板に開いた。水竜の魔石や素材、魔導装置は本当にもったいないが、ここは安全重視だ。
「さらに足止めをしておこう」
「何をする?」
「あれほどの魔獣に大した効果はないだろうが、枷程度にはなるだろう」
モルドレッドはそう言って、懐から取り出したポーションを一気に飲み干す。鑑定してみたが、数分間、魔力と溶鉄魔術の威力を爆発的に高める魔法薬らしい。
「これで1年分の稼ぎがパーだ」
「そんなに高いの?」
「副作用もなく、効果も凄まじく高い一級品だからな」
ランクB冒険者の1年分って、ドンだけだよ? 多分、300万ゴルドは下らないだろう。だが、確かにそれだけの価値はあるかもしれない。それだけ効果が高かったのだ。
ポーションを飲み干したモルドレッドの魔力が5倍ほどに膨れ上がった。そして、その状態でモルドレッドが溶鉄魔術を発動する。
「ウルカヌス・オーダー!」
この船に備え付けられていた直径10メートル近い超大型の碇。2本の巨大碇が瞬間的に姿を変え、混ざり合って一本のグネグネと動く大蛇と化した。あれだけ巨大な碇をあっさりと操った制御力は、ポーションのおかげだろうか。
そのまま金属の大蛇はモルドレッドの意のままに姿を変え、水竜とクラーケンたちに襲いかかる。モルドレッドは鋼鉄の縄でクラーケンたちを縛り上げ、動きを封じるつもりらしい。
ニシキヘビの様な太い金属の縄が、水竜とクラーケンたちにまとめてグルグルと巻付き、強力な戒めと化す。巨大な魔獣たちであっても、抵抗が出来ない程の強度があるらしい。
「ふぅ……。限界まで強化は施したが、あの魔獣たちにかかってはそう長くはもたないだろう。さっさと逃げるぞ」
「ん」
こうして、最後にフランとモルドレッドが、痛めつけられて意識のないスアレスを抱えてゲートを潜り、なんとか脱出に成功する。水竜艦を振り返ると、怪獣大決戦の全貌を見ることが出来た。
「すごい」
『あれに巻き込まれたら、船なんかひとたまりもないだろうな』
モルドレッドの魔術のおかげで、水竜たちはこちらを追う様な余裕がない。少しは距離が稼げるか?
「あれ」
『また増えたか!』
離れつつある水竜艦の船尾に取りつく、新たなクラーケンの姿が見えた。どうも騒ぎを聞きつけて集まって来ているらしい。
ジェロームが全速でこの海域を離れるため、大声で船員たちに指示し始める。
(ねえ、師匠。あれ見て)
『なんだ――って、おいおいおいおい! やべーぞ!』
フランが指差す方を何気なく見てみると、悪夢の様な光景が目に入って来てしまった。
『フラン! 皆に警告しろ!』
「ん。おっきいのが来た!」
「大きいのって――えええええ?」
「なんだとぉぉ?」
「まじか?」
「まじだよ!」
「げぇぇ!」
あの姿を忘れる訳がない。
赤みがかった茶褐色の皮膚。牙が並んだイソギンチャクの様なグロテスクな頭部。海の厄介者、ミドガルズオルムだった。
『くっそ! 次から次へと!』