I Was a Sword When I Reincarnated (WN)
607 Mysterious Sword
シエラはやはり以前からゼライセを知っていたらしい。ただ、ゼライセが自分たちを知っていたことに驚きの声を上げていたことから考えるに、直接的な知り合いではないのだろう。少なくとも、何度も顔を合わせたことがあるような間柄ではないはずだ。
ゼライセの陰謀で、何らかの被害を負ったとか、そういう関係なのかもな。
「ずっと探していたんだが……。よく、あれを発見したな?」
ゼライセを仕留めたことで、シエラに認められたのだろうか? 以前のような棘のある態度は和らぎ、ポツポツと自分たちのことを語ってくれた。まあ、本当に簡単にだけど。
シエラはここ何年も、ゼライセを捜していたらしい。この周辺で暗躍しているという情報はあったらしいが、どうしてもたどり着くことはできなかったそうだ。
ゼライセを発見できなかっただけではなく、奴と繋がりのあったメッサー商会や、その背後のレイドス王国の情報も掴むことができなかったという。
それでもゼライセがこの周辺にいるという確信があったらしく、ずっとこの地域で奴を探し回っていたらしい。
それにしても、俺たちが一番気になっていることについては、やはり自分からは語ってくれそうもないな。
フランもそう思ったのか、再びシエラに対して疑問をぶつけた。
「ゼライセが、シエラのことをロミオって呼んでたのは、なんで?」
「あー……」
「シエラがロミオ? あの、ロミオ?」
「……それは……」
否定せずに口ごもるっていうのは、何か関係あると言っているようなものだぞ?
「俺は――」
『フラン!』
「っ!」
シエラが何かを言おうとした時であった。
水中で魔力が膨れ上がる。そして、深い水の底で、何かが高速で動き出したのが分かった。
明らかに生物ではない。生命力もないし、生物特有の気配を一切感じない。しかし、かなり強大な魔力を纏っていることは間違いなかった。
しかもその反応が現れた場所が、ゼライセが沈んだ場所の真下なのだ。無視することはできなかった。
シエラ――ロミオ? まあ、今はシエラでいいか。シエラも謎の移動物体に気づいているらしい。再び腰の邪剣に手を掛け、駆け出したフランに追従してきた。
移動物体は水中を北へと向かって進んでいく。
全力疾走ではないが、それなりに頑張って走らないと、フランが置いていかれそうになってしまう。
シエラは必死の形相だった。まだ余裕があるフランに比べ、すでに全速力であるようだ。身体能力と空中跳躍の練度ではフランに軍配が上がるのだろう。これ以上速度をあげたら、脱落してしまうかもしれない。
『まずは正体を見極める。俺を水中へ』
「ん!」
フランによって投擲された俺は、一気に謎の移動物体へと近づいた。すでにそこそこの深度なうえ、戦闘の余波で水が濁っているので、湖底までは見通せない。
だが、確かに水を割って突き進む何らかの存在が感じられた。サイズは俺より少し小さいくらいで、形状は細長い。
『ふむ?』
光魔術で複数の光源を作り出す。強い光が周囲を照らし出し、俺は相手の姿をはっきりと捉えることに成功した。
『剣……だと?』
それは、刀身が半ばからへし折れた、一振りの細剣であった。
しかも、見覚えがある。
『疑似狂信剣じゃねーかっ!』
先程、俺がゼライセを斬った時にあった硬い感触。もしかして、本当に疑似狂信剣だったのか?
だが、疑似狂信剣であれば、ひとりでに動く可能性はなくはない。なにせ、インテリジェンス・ウェポンのようなものだ。
しかし、大元であるファナティクスが破壊された今、まさか稼働している疑似狂信剣が存在しているとは思わなかった。そして、それがゼライセの手に渡っているのも想像の外だ。
いや、本当に疑似狂信剣か? あの破損が俺の斬撃によるものだとするならば、共食いが発動していないのがおかしい。
何がどうなっているんだ?
『とりあえず動きを封じよう』
俺は念動を使って、未だに魚雷のように突き進む疑似狂信剣を捕獲しようとした。だが、失敗に終わる。
『今、確実に避けたよな』
明らかに、俺の念動を回避した。
その後、数度にわたって念動や、軽い攻撃魔術を放ってみるが、全てが空ぶってしまう。
その動きはなんというか、非常に生物的だ。
機械的なプログラミングによる、予め決められた回避行動ではない。明らかにこちらの攻撃を見て、その場でどう動くか考えている者の動きであった。
あの剣が俺と同種――つまりインテリジェンス・ウェポンである可能性が非常に強まったと言えよう。
名称:なし
攻撃力:442 保有魔力:4680 耐久値:1000
魔力伝導率・B+
スキル:悪意感知、亜空間潜行、悪魔知識、悪魔祓い、石加工、石食い、石細工、詠唱短縮、鋭敏嗅覚、鋭敏味覚、隠密、解体、回復魔術、解剖、火炎耐性、火炎魔術、格闘術、鍛冶、風魔術、感知妨害、鑑定妨害――
鑑定できたのはここまでだ。鑑定妨害などの効果で、全ては見れないようだ。
『とんでもないな!』
性能は俺の圧勝だが、あのスキルの数はなんだ? あの様子では、まだ大量にスキルを所持しているだろう。やはりこの剣はおかしい!
『――』
『逃がすか!』
疑似狂信剣がさらに速度を上げた。しかも、ドンドン浮上していく。
多分、抵抗がある水中よりも、速度が出せる空中を逃走することを選んだのだろう。
水上では、フランとウルシが全速力で走っていた。すでにシエラはちぎられている。
『フラン! ウルシ! 逃がすな!』
「ん!」
「オン!」
俺の指示に即座に反応したフランたちが、一斉に動き出す。フランは雷鳴魔術を、ウルシが闇魔術を放ち、撃ち落とそうとした。
全方位から魔術が迫る。
だが、その攻撃は当たらなかった。剣をすり抜けたのだ。
『あれは……ゼライセと同じスキルか!』