フラウに案内され、森にあると言う建築物を訪れる。

それは木々に囲まれひっそりとあった。

蔦に覆われた石造りの建物。

それでいて周囲を外壁が囲んでいる。

確かに城塞だ。

外壁を飛び越え中に。

「グルゥ?」

壁を越えたすぐ向こうでは、魔物達がうろついていた。

どうやらここは魔物達の巣になっているようだ。

最初は俺を威嚇していたが、一歩前に出れば蜘蛛の子を散らすように逃げて行く。

野生の勘と言う奴だろう、敵わないと悟ったらしい。

「どう? ここを拠点にできれば調査もはかどるでしょ」

「今のところは良さそうに見える。問題は中だな」

建物の入り口は施錠され、びくともしない。

針金を取り出す。

「開けられそう?」

「たぶん……開いた」

さすがは超万能キースキル。

さっそく扉を開く。

「ふーん、中は思ったよりシンプルね」

「きゅう」

フラウとパン太がエントランスを観察する。

建物の中はがらんとしていて、物が一切なかった。

少なくとも遺跡ではない。

比較的最近に作られた、そんな印象を受ける。

扉を開けて各部屋を見てみるが、やはり物などは一切ない。

「見てきたわよ」

「どうだった」

「危険な物も生き物も見当たらなかったわ」

ひとまず安全は確認できたので、俺達は浜辺へと戻ることにした。

「ここが我らの拠点か! さすがトール殿、感激で泣きそうだ! 副リーダー、このことを調査日誌に記載しておけ! トール殿の手柄だとな!」

「承知いたしました」

「ふふん、やっぱり勇者であるトール殿はなすことがちが――ひぃっ!? 木が揺れた! 魔物じゃないのか!?」

「ルブエ様、恐れながらあれは風で揺れただけです」

「そうか、少し取り乱してしまった」

現在も物資の搬入が団員によって行われている。

数日で立派な拠点になることだろう。

「トール殿、少しお話しが」

珍しくルブエから声をかけられる。

真剣な顔から、任務に関してのことだと思われる。

「実は漫遊旅団に、レベルアップのお手伝いをしていただきたいと考えているのです。なにぶん、ここは高レベル帯、我らだけで過ごすにはいささか厳しい環境かと」

「俺も同じことを考えていた。明日からさっそく始めるとしよう」

「感謝いたします」

握手をすると、ルブエは興奮したように鼻息を荒くする。

すぐに副リーダーの元へと戻っていった。

「トール殿と握手をしたぞ! これで子供ができたな!」

「ルブエ様、はっきり申し上げますと、握手で身ごもることはありません。そもそもその発想はどこから来たのでしょうか。甚だ疑問です」

副リーダーは眼鏡を中指で上げながら注意をした。

「またレベルが上がった。これで300だぞ」

「さすがですルブエ様」

翌日、漫遊旅団のサポートのもと、調査団のレベルアップが開始された。

やることは簡単で、俺やカエデ、フラウ、ロー助が魔物を弱らせ、最後は団員がとどめを刺す、それだけだ。

さらに経験値倍加・全体スキルがあるおかげで、彼らの成長スピードは桁外れに早かった。

「えいっ!」

モニカが細剣で敵を斬る。

か弱いお嬢様かと思いきや、戦わせてみればこれがなかなかできる子だったのだ。

元々のレベルも120と高めで、大陸では全体的にレベルが高い傾向にあるようだった。

ちなみに現在のレベルは320。

速度特化の剣士タイプらしい。

「一日で300台なんて、まるで夢を見ているみたいデース。死の森は高レベル帯で、とても恐ろしい所と聞いていたのデース」

「死の森?」

「ここは帰らずの森として有名な場所デース」

大陸では、このような高レベル帯が複数存在するそうだ。

まぁ、島でもあったので、今さら驚くようなことではないが。

ただ、出現する魔物のレベルが尋常じゃない、というだけ。

「モニカの国では、300台は強い方なのか」

「中の上くらいデス。上にはごく少数ですが700台や800台の方もいるのデース」

「800……そっか、800か」

「?」

ここでも俺は強すぎるんだな。

もう本気で戦える日はこないかもしれない。

戦士として、本気で戦えないのはちょっとした悩みだ。

まさかこんなことで頭を痛める日が来るとは。

大きな浴槽。

立ち昇る湯気。

「はぁ」

俺は湯に浸かり、至福の息を吐く。

拠点には風呂があったのだ。

どうやら地下から水をくみ上げているらしく、この建物には水道が通っていた。

おまけに部屋数もかなりのもので、調査団と船員達が生活するだけの場所を、余裕で確保できていた。

沖に停泊中のルオリク号は、少数の船員によって管理維持されている。

一ヶ月ほどこちらに滞在したあと、一度報告の為に、ラストリアへと帰還するらしい。

足りない物資や人材の補給とかあるそうだ。

「ぱくぱく」

「しゃ」

「ちゅぴ」

「くら~」

眷獣が各々風呂を楽しんでいる。

サメ子は湯船をチャプチャプ泳ぎ、熱くなったら外に出て水の張ってある桶に飛び込む。

ロー助は楽しむと言うよりは、水に慣れる訓練をしているらしく、風呂に潜って顔をだすを繰り返していた。

チュピ美は湯には興味がなく、桶にある水で水浴びをしている。

クラたんは……ふわふわ空中を漂っているだけだ。

こうしてみると、ウチも賑やかになったものだ。

すっかり大所帯。

「ご、ごしゅじんさま」

「カエデ!?」

バスタオルを巻いたカエデが浴室に入ってくる。

恥ずかしいのか顔が真っ赤だ。

「ふふん、フラウもいるわよ」

「きゅう!」

遅れてフラウとパン太が入室。

一人と一匹は、かけ湯もせず浴槽に飛び込んだ。

「おせ、おせなかをおながしいたします」

「そうだな、たのむ」

恥ずかしがるカエデを見ると、こちらまで恥ずかしくなる。

白い肩や胸元から視線を逸らしつつ、風呂用の椅子に座る。

石鹸で泡立てたタオルで、カエデは背中を擦り始めた。

「気持ち良いですか。ご主人様」

「ちょうどいい」

「ふふ、喜んでもらえて嬉しいです」

カエデの機嫌の良い声に、俺も気分が良くなる。

ふにっ、やけに柔らかい物が当たる。

「カエデ、当たって、いるんだが」

「へ?」

「その、おっ、おっ」

「お?」

ほら、また当たった。

まさかわざと当てているのか。

ばしゃばしゃ風呂で泳いでいたフラウが、何かに気が付いたらしい。

「カエデ、胸が主様に当たってるわよ」

「えぇっ!?」

カエデは「ひゃぁああああっ!」と、顔を真っ赤にして風呂場から出て行ってしまった。

「カエデってチャンスを棒に振るタイプよね」

「きゅう~」

フラウとパン太はタオルを頭に乗せて、呆れた様子だった。

ぱきっ。

あれ?

この音??

ぱきぱきぱき。

不意に聞き覚えのある音が、俺の中から響いた。

《報告:魔力貯蓄のLvが上限に達しましたので百倍となって支払われます》

《報告:スキル効果UPの効果によって支払いが十倍となりました》

《報告:スキル経験値貯蓄のLvが上限に達しましたので百倍となって支払われます》

《報告:スキル効果UPの効果によって支払いが十倍となりました》

《報告:魔力貯蓄・スキル経験値貯蓄が破損しました。修復にしばらくかかります》

《報告:スキルのLv限界値が破壊されました。新たな限界値が設定されます》

Lv 3300

名前 トール・エイバン

年齢 25歳

性別 男

種族 龍人

ジョブ 

戦士

竜騎士

テイムマスター

模倣師

グランドシーフ

コピー・勇者

スキル 

ダメージ軽減【Lv200】 

肉体強化【Lv200】 

経験値貯蓄【修復中】  

魔力貯蓄【修復中】

スキル経験値貯蓄【修復中】

ジョブ貯蓄【Lv180】

スキル貯蓄【Lv175】

スキル効果UP【Lv200】

経験値倍加・全体【Lv200】

魔力貸借【Lv200】

スキル経験値倍加・全体【Lv200】

竜眼【Lv200】

使役メガブースト【Lv200】

ジョブコピー【Lv200】

超万能キー【Lv-】

権限

Lv5ダンジョン×1 使用中

はぁぁ。

またかよ。