遊園地デートというまさかの事態に多少混乱していたが、改めてシロさんの力によって作られた遊園地に目を向けてみると、流石というべきかこれがなかなかにすさまじい。

 大型テーマパークと言っていい規模な上、アトラクションの数もとても一日で回り切れるとは思えないほどにある。

 なぜそんなことを知っているかというと、現在俺の手元にはアリスが作った遊園地のパンフレットがあるからだ。

 園内の地図にアトラクションごとに数字が割り振られており、簡単な説明も加えられているので非常に分かりやすい……やっぱアイツ、地球出身なんじゃない?

 まぁ、ともかくアリスが係員を務める遊園地の入り口で……なぜか有料の入園チケットを購入して、シロさんと一緒に園内に入る。

 なんだか、やたらと見覚えがある……おおよそ、遊園地には相応しくない不気味な猫の着ぐるみが、風船を両手に持って迎えてくれたが、これを華麗にスルーしてシロさんに話しかける。

「えっと、シロさん。まずはどこから行きます?」

「そうですね。では、ジェットコースターに行きましょう。自信作です」

「……了解です」

 あれ? なんだろう? なんかいま、不思議と嫌な予感がしたけど……気のせいかな? 気のせいだと、いいなぁ。

 あと、着ぐるみ着た馬鹿は大人しくしてろ。アピールしてくるな……あっ、種類増やしやがった。いや、待てネズミの着ぐるみはやめろ、いろいろな意味で……。

「まぁ、ともかくジェットコースターのところに行きましょう。あっちですね」

「待ってください、快人さん」

「はい?」

「大変な事態が発生しています」

「……大変な事態? いったいなにが……」

 歩き出そうとしたタイミングで、シロさんがなにやら深刻そう……いや、表情も声も変化はないけど、なんとなく深刻そうだ。

「……『私の両手が空いています』」

「……うん?」

「私と快人さんは恋人同士になりました。つまり、ラブラブということです」

「は、はぁ、ツッコミどころはありますが……つまるところ、シロさんの要求は?」

「私の両手が空いています」

「……」

「私の両手が空いています」

 さすがの俺も、もうシロさんがなにを言いたいか……なにを求めているかはわかる。ついでに、ソレを俺の方から言わせたいのだというのも……。

 正直恥ずかしいが、しかし言わないと待つのは恒例の無限ループである。

「え、えっと、シロさん……手を繋ぎませんか?」

「ふむ、快人さんがどうしてもと言うのであれば、やぶさかではありません」

「どうしてもシロさんと手を繋ぎたいです」

「なるほど、そこまで求められたのなら、恋人である私が応じないわけにもいきませんね。さぁ、どちらでも好きな手を取ってください」

 なんだろうこの敗北感は? 俺は一度溜息を吐いてから、シロさんの綺麗な右手を握った。

 というか、なんかシロさんのこの感じ、相変わらず表情や声に変化はないが……覚えがあるぞ。

「……シロさん、もしかしなくても、はしゃいでます?」

「はい。とても、はしゃいでいます」

 六王祭の時にガッツリ実感はしたが、はしゃいでいるシロさんは本当にいろいろと厄介だ。

「はしゃがないはずがありません。愛しい貴方とのデートなのですからね」

「うぐっ……」

 そう言われてしまうと、なにも言えなくなってしまう。単純な話ではあるが、シロさんがそこまで喜んでくれているのなら……多少の苦労や厄介事など、大した問題じゃないと思えてくる。

 まぁ、仕方ない。ここはしっかり腹をくくろう。俺はもうシロさんの恋人なんだから、可愛い彼女の要望には全力で応えないと。

 俺の記憶を読み取ったのだから当然ともいえるが、完璧に再現されたジェットコースターにシロさんと並んで乗る。

 このジェットコースターはかなり巨大みたいで、さらに神域は空の上にあるので、想像以上に高い。

「……ちょっと、緊張してきましたね。これだけの高さなら、相当のスピードになるんじゃ……」

「高さがスピードと関係あるのですか? 魔力で加速するように作ったので、あまり関係ないと思いますが……」

「……え?」

 首をかしげるシロさんを見て、俺の頭には恐ろしい想像が過る。まさかとは思うけど、シロさん俺の記憶から形だけ再現して、あとは適当に作ったんじゃ……。

「その通りです」

「ちょっと待ってください、シロさん。俺の聞き間違いじゃなければ、さっき……『魔力で加速する』って言いましたよね?」

「言いました」

「……正直に言ってください。これ、滅茶苦茶早いんじゃ……」

 背中を冷たい汗が流れていくのを感じる。魔力で加速するジェットコースター、シロさんは割と適当に作った。そして、今日のシロさんはとてもはしゃいでいる……まともなスピードで走るとは思えない。

「安心してください。ちゃんと、人族が耐えれる速度に調整しています」

「あっ、そうなんですね。よかった」

「はい。ちゃんと、人族である『リリア・アルベルトを基準に』耐えられる速度にしました」

「それ参考にしちゃダメな人ぉぉぉぉ!?」

 なんでよりにもよってリリアさん!? リリアさんを基準にした速度とか、一般的な人間はミンチになる未来しか見えないんだけど!?

「そうなのですか? では、少し調整しましょう」

「お願いします! もう頂上きちゃうんで、急いで!」

「終わりました」

「さすがシロさん! 仕事が早い! ありがとうございます!」

「かなり速度を落として、『音の10倍程度』まで遅くしました」

「降ろしてぇぇぇぇぇぇ!?」

 俺の叫び声も空しく……俺とシロさんの乗っているジェットコースターは、頂上に着くと同時に――音を遥か後方に置き去りにした。