「そういえば、この街で木造建築って見ないよね。あんまりメジャーじゃないのかな?」

「そりゃそうだろう。木で作った家なんか危ないからな」

「どうして木の家が危ないの?」

「いや、普通に考えてありえないだろ。いつ誰に【着火】で火事を起こされるかわかったもんじゃないんだから」

ああ、なるほど。

この世界では生活魔法というものが存在している。

そして、その生活魔法の中にはいつでも自在に火を出すことのできる【着火】という呪文があり、それを洗礼式を終えた子ども以上の年齢の人なら誰でも使えるのだ。

こんな壁に囲まれた街の中だと、木造建築が多かったら火災で大変なことになるのか。

そう考えるとレンガ式の家の方が多少安全面で優秀なのかもしれない。

「家といえばさ、あんまり窓がないよね。この街の建物って」

「そうだな。窓なんて別にいらないだろ? どうせ【照明】で明かりをつけるんだしな」

「なんでも生活魔法が関係してくるんだね」

「ああ、主の加護のおかげだな」

主の加護か……。

魔法陣を用いた命名で使えるようになる生活魔法が本当に神様に関係しているんだろうか。

だが、これほど生活に密接に関係している魔法は確かに恩恵が大きい。

俺の知る常識が魔法が存在することによってこの世界ではずれた考えになるということもあるのだろう。

しかし、そうは言っても窓くらいもう少しあってもいいんではないだろうか。

牢屋じゃないんだから、開放的な建物があればそれだけで目新しいものができるかもしれない。

「って、そうか。窓だ! ガラスの食器よりも窓ガラスを作ったほうが需要があるかもしれないな」

街を見ながら父と話していたら、ふとひらめいた。

ガラスの食器はきれいではあるが、父の意見では「割れやすくて使いづらい」という面がある。

あまり庶民向けの商品とは言えないのかもしれない。

その点、窓ガラスならどうだろうか。

呪文化してしまえばレンガのように大量に生産できるし、建物が存在する限り、需要自体はどこにでもあるのではないかと思う。

窓をつける文化があまりないのかもしれないが、作ってみても面白いかもしれない。

そんなことを考えながら、俺ははじめての街を見学して回ったのだった。

※ ※ ※

「あなた、アルス、おかえりなさい」

数日ほど街を見て回り、行商人との売買で得たお金で実家で必要なものをいろいろと買い込んで、ようやく村へと帰ってきた。

今回のお出かけで、森の土地は正式に俺のものとなった。

といってもすぐに一人で隠れ家に引っ越して生活するというわけでもない。

隠れ家として建てた建物の近くには大量の倒木が放置されたままだ。

森を切り開くときに、根っこごと木を倒して開拓していった。

その時の木がそのまま何か所かにまとめて置いてあるのだが、そのまま地面に置いてあるだけだったのだ。

というわけで、木の枝を落とすためのナタや畑で取れたハツカなどを運ぶための荷車など、主に俺が使うための道具を街で購入してきたのだった。

思ったよりも必要なものというのは多かった。

再び、所持金がそこをつきかけたが、それも今回限りだろう。

なんといっても、これからは使役獣の販売益が入ってくるのだから。

とりあえず、俺の使役獣はヴァルキリーという名称で以前見た行商人の騎竜と同じような値段で取引することにした。

騎竜のことを行商人は「財産」だと表現していたことを思い出す。

それは街で調べた限り、どうやら本当のことのようだった。

行商人が何年も地道に自分の足で稼いで、ようやく買えるかどうかという値段。

使役獣を持っているかどうかで商人としての信頼度も変わってくるようで、一種のパラメーターにもなる存在。

そんな使役獣だが買えば無限に使えるというわけでもない。

生き物であるため常に食事が必要で、体力に限りもあり、当然寿命も存在する。

言ってしまえば、使役獣というのは乗用車に似たものなのかもしれない。

普通の人ならこの車の生産を卵一つごとに魔力を吸収させて孵化させることになる。

だが、俺は【魔力注入】で短期間に複数の卵を孵化させることもできるうえ、使役獣であるヴァルキリー自体が卵を孵すことにも成功している。

いわば、高価な車を大量生産して販売することができ、その権利を正式に貴族からも認められたのだ。

笑いが止まらなくなりそうだ。

これからガッポリと儲けてやろう。

あまりにも表情が緩みすぎていたからか、母親は帰ってきた俺を見てどうしたのかと心配するのだった。