I Woke Up Piloting the Strongest Starship, so I Became a Space Mercenary
# 156 Go to Restalias
「行ってらっしゃいませ。こちらの管理はお任せください」
「うぅ……酒ぇ……うちも行きたいぃ……」
「お姉ちゃん……あの、ちゃんとお仕事はさせておきますから」
三者三様の見送りの言葉をかけられながら俺達は第二偵察艦隊の旗艦、レスタリアスへと向かった。
メイとティーナ、ウィスカの三人しか残っていない船に荒くれ者の傭兵を招き入れることに若干の不安を感じ……いやあの三人なら大丈夫か。そもそもメイと生身でやりあえる人間などそう存在しないだろうし、ティーナとウィスカはああ見えて俺より腕力あるしな。何の問題もねぇわ。むしろ生身での強さを考えるとミミの次に俺が貧弱だったわ。
そんな益体もない事を考えながらクリシュナを宇宙空間に走らせる。周辺の様子はなかなかに壮観だ。帝国航宙軍の船はもちろんのこと、傭兵の船も多数この宙域に停泊しているのだが、やはり傭兵の船というのは一つとして同じものがないのが面白い。
いや、厳密に言えばベースが同じ船であるものはあるのだが、カスタマイズやペイントによって一つ一つの船に個性が出ているのだ。中には元の機体が何なのかわからないくらいカスタマイズされているものもあるし、棘のような意味不明の突起をつけていたり、空でも飛ぶつもりなのかと言いたくなる翼めいたスタビライザーをつけていたりする機体などもある。
中にはベース機からあまり改造されていない機体もある。まぁ、この辺りは個人の趣味だからな……ちなみに俺は必要があれば艦の外観を大きく変えることも厭わない派だ。クリシュナに乗り換える前の愛機は結果的にベース機体の面影が無くなるくらい改造してたな。無駄なスタビライザーとかはつけてなかったけど。
俺の友人にはやたらとスパイク系スタビライザーをつけて世紀末なヒャッハー仕様にしたがるやつとか、やたらとファンシーな外観にしたがる奴とかも居たな。いくら世紀末ヒャッハー仕様と言っても姿勢制御スラスターも含めて火炎放射器かよってレベルの火を噴くようにしてたのはどうかと思う。でもその噴き出す火のせいでどれくらいスラスターを噴かしたのか微妙にわかりにくくなってて実用性がゼロでは無かったのが……いや、今は考えるのをやめておこう。
「あの船かっこいいですね……」
「えぇ……」
「えぇ……」
ミミが目をキラキラさせながら見ている船を確認して俺とエルマが同時にドン引きする。いやだって、無駄なスパイクとかビス風の装飾がてんこ盛りで、艦首にドクロの装飾とか……ミミってそういうの好きだよな。ミミにクリシュナの外観カスタマイズを任せたらあんな感じになるんだろうか。
「私はもっとこう、シュッとしたシャープで瀟洒なデザインのが良いわ」
「内装には拘らないのにか」
「次からは内装にも凝るわよ……」
エルマが所有していた船は確かに外観は綺麗だったよなぁ。内装は本人の謎の拘りで敢えて粗雑な感じで仕上げてたらしいけど。形から入るタイプなんだろうな、エルマは。
ああだこうだと宇宙空間に停泊している傭兵の船について話し合いながら船を走らせること数分でレスタリアスへと到着する。
実はレスタリアスへと向かう途中であらゆる方向からスキャンを受けていた。全船停泊している中、特に損傷しているわけでもない船が旗艦に向かって走っていたら何事かと思うのは当たり前だろう。クリシュナは珍しい船でもあるしな。別にスキャンされて困るようなことはないから放置したけど。
ミミがレスタリアスに着艦許可申請を送り、すぐに許可が降りる。指定された時間より少し早いが、通達は既に回っていたのだろう。すぐにレスタリアスの着艦ハッチへと船を走らせ、オートドッキングプログラムを起動させてスムーズに着艦を行う。またなんか隣で「こんなの邪道よ」という呟きが聞こえたが、無視しておく。相変わらずエルマはマニュアルドッキング至上主義者であるらしい。
「はい到着。さっさと行くか」
「はいっ!」
「……そうね」
ミミは帝国航宙軍の『一番良いメニュー』が楽しみなのか満面の笑みを浮かべていたが、エルマはオートドッキングのせいなのか何なのか微妙にテンションが低かった。そろそろ便利さを認めろよ、お前は。
ジャケットにつけてある銀剣翼突撃勲章を確認し、シートに長短一対の剣ごと固定してあった剣帯を腰に帯びて先頭を歩き始める。銀剣翼突撃勲章を受勲してからというもの、メイに言われてレーザーガンだけでなく剣を帯びるようにと言われているのだ。やたらと目立つから俺としてはちょっと嫌なのだが、銀剣翼突撃勲章を受勲した者は帝国の法的にも慣習的にも騎士爵と同等の扱いを受けるということで、余計なトラブルを避けるためにこうして剣を帯びていた方が良いらしい。
メイの言うことだしエルマも特に何も言わなかったら従っているけど、白刃主義者とかいう怖い貴族連中に因縁つけられて決闘とか申し込まれたりはしないかと内申気が気ではなかったりする。
当然俺には剣の心得なんてものはないので、剣術を嗜んでいる本物の貴族なんかに剣での決闘なんか申し込まれたらズンバラリとされることは確定的に明らかだろう。早いうちにメイから剣のレッスンを受けるべきだろうな……というかこの勲章と剣を置いて出歩けば良いのでは? と思うのだが。
腰の剣の重さを鬱陶しく感じながらクリシュナから降りると、そこには案内役の兵士が待ち構えていた。
「ようこそ、レスタリアスへ。ご案内いたします」
「どうも、よろしくお願いします」
互いに敬礼を交わし、彼の案内に従ってレスタリアスの艦内を歩き始める。
まぁ、ある意味では勝手知ったる他人の家みたいなもんだ。アレイン星系でセレナ少佐の艦隊に宙賊との戦い方を伝授した時によく歩き回っていたからな。
「……皆さん忙しそうですね」
「戦闘の後だからな。後処理とか色々あるんだろうな」
「良いんでしょうか? そんな中で食事会なんて」
「この食事会も戦闘の後処理の一環に含まれているのよ。トップエースにちゃんと報いましたよ、ってポーズが必要なわけ」
「なるほど……」
と、そんな話をしながら暫く歩いて向かった先は上級士官用の食堂であった。この戦艦レスタリアス内でも艦長のセレナ少佐をはじめとした艦の上位者数人専用の食堂であるらしい。
「もっとも、普段はあまり使われていないのですが」
セレナ少佐も他の利用資格を持っている人々もやたらと豪華であるという上級士官用の食堂を使うことは稀であるらしい。食事の時にちょっとしたミーティングなどを兼ねることも多いレスタリアスでは豪華だがあまり人数が入らない上級士官食堂は使い勝手が悪いと。なるほどなぁ。
「だったら最初からつけなきゃいいのに」
「そういうわけにも行かないのよ。セレナ少佐はあまり利用しないみたいだけど、そういうのが好きな帝国貴族もいるから」
「あー、正に貴族貴族してる感じのやつもいるのね」
「そういうこと。そういう人の要求に応えるためにこういう旗艦になるような大型艦には豪華な上級士官食堂が標準搭載されてるわけ。セレナ少佐は上級士官食堂をあまり利用しないかもしれないけど、次の艦長もそうだとは限らないからね」
「なるほどー」
どこから仕入れてきているのかわからないエルマの謎知識にミミと二人で感心しながら上級士官食堂に入り、案内されて席に着く。少し早く来すぎたのか、まだセレナ少佐の姿はなかった。
「なんだか調度品もテーブルも見るからに高そうですね」
「高級レストランみたいだな。ところで俺はこういう席での食事のマナーとか全く自信がないんだが。カトラリーの使い方なんてよく知らんぞ」
なんか外側から使うんだっけ? くらいの知識しか持ち合わせていない。正直、普通に日本で生活しててカトラリーの使い方に熟達するようなことは一般市民には有り得ないからな。俺にとって外食ってのは牛丼とかうどんとかラーメンとかファミレスとかステーキハウスとか、精々回転寿司くらいかだったし。優雅にフレンチとかイタリアンとか食うようなことは無かった。
「別に帝国貴族の正式な会食ってわけじゃあるまいし、そこまでマナーをうるさくは言わないわよ。手掴みで食べるとか、皿を舐めるとか常識外の行動を取らなければ問題ないわ」
「流石にそれはやらんけども」
「ですよね」
ミミも苦笑している。野生児じゃあるまいし。
「傭兵にも色々いるからね。その点ヒロはかなりお上品な部類よ。酒やドラッグやるわけでもなし、博打に金を注ぎ込むわけでもなし、娼館に通い詰めるわけでもなし。一般的な傭兵から見るとお上品過ぎるか、ストイックを気取ってると思われるかのどっちかね」
「別にお上品なつもりもストイックなつもりも無いけどなぁ」
そもそもミミとエルマとメイを取っ替え引っ替えしてる時点でお上品もストイックも何もないと思う。酒は下戸で飲めないだけだし、ドラッグもギャンブルも興味がないだけだしな。
「ヒロ様は今のままが一番良いと思います。素敵です」
「ま、そうね。ヒロが酒とドラッグに溺れて身を持ち崩す姿は見たくないわね」
「心配する必要はないから安心してくれ」
「そう願いたいですね。銀剣翼突撃勲章の英雄にそんな姿を晒されては我々の権威が失墜しますから」
そう言いながらセレナ少佐が食堂に入ってくる。絶妙なタイミングだったけど、外で聞き耳でも立てていたのだろうか? いや、この部屋の会話をモニターしてたのかな。
「どうも、少佐殿。この度はお招きいただき恐悦至極にございます」
席を立ち、胸に手を当てて仰々しくお辞儀をしてみせるとセレナ少佐は苦笑いを浮かべた。俺が席を立つのに合わせてミミとエルマも席を立っている。
「貴方にそのような態度を取られると背中が痒くなりそうです。そんなに仰々しい席にするつもりはないので、気楽にしてください」
「そりゃどうも」
と、セレナ少佐に続いて三人の人物が上級士官食堂に入ってくる。入ってきたうちの一人はセレナ少佐の副官であるロビットソン大尉で、後の二人は初顔であった。
一人はガタイの良い中年の男で、もう一人はセレナ少佐と同じくらいの歳の女性だ。ガタイの良い中年の男の腰には一振りの剣が差されており、彼が帝国貴族であるということが察せられる。
「私はウィルバート・ブロードウェル大佐だ。第一偵察艦隊を率いている」
「セシル・プラント大尉です。ブロードウェル閣下の副官を務めております」
「クリシュナとブラックロータスのオーナー兼キャプテンのヒロです。こちらはサブパイロットのエルマとオペレーターのミミです。どうぞよろしく」
第一偵察艦隊のトップとその副官か。何故この場に、と思わないでも無いが先程の戦闘には第一偵察艦隊も駆けつけたし、そんなに不自然でもないのか。
「立ち話もなんですからまずは席に着いて乾杯をしましょう」
セレナ少佐に促されて全員席に着く。さて、どんな会食になるのやら。