If you train Lv1 Magic Arrow to Lv999 - exiled aristocratic students, train without giving up hope to reach the strongest
I couldn't be alone, but I'm not alone.
「マジックアロー……」
「グボェ!」
俺の放ったマジックアローが一体のリザードマンを吹き飛ばした。
視線を移すと騎士たちがリザードマンたちと戦っている。複数人でリザードマンを囲み剣を振るっていた。
騎士たちは決してリザードマンたちと一対一にはならなかった。それは戦場に着くまで隊長が何度も繰り返した鉄則だった。
「……初日から耳タコだっての……」
下っ端の兵士がぼそりと言っていた。
確かに見ていると、尋常ではないほどにリザードマンは強い。……本物を見たのが初めてなのだが、あんなに強いものなのだろうか?
やたらと素早く力もある。
リザードマンの一撃をもらった騎士――完全武装の男性がぽーんと何メートルも吹っ飛ぶのだ。衝撃がすごいのかすぐには立ち上がれずにふらついている。
疑問に答えてくれたのはフィルブスだった。
「忘れたのか? カーライルが言っていただろ、あいつらの裏に紋章師ってのがいてな、タトゥーを彫られたリザードマンは強個体になっているんだよ」
……そうだった。そんな話だった。
そして、リザードマンたちを見ると、身体のあちこちにいろいろな文様の入ったタトゥーを彫り込んでいた。
「まともにやったら王国の騎士でも相手にならん強さだよ」
「そうですか」
俺は視界の端に新たなリザードマンを捉えた。
「マジックアロー……」
白い矢がリザードマンの胸を打ち抜き一撃で絶命させる。
「……お前には関係ない話みたいだな……」
うんざりした顔でフィルブスが言う。
確かに、どうやら俺の少しばかり強力なマジックアローだといずれにせよ一撃のようだ。
だが、俺は違和感を感じていた。
何というか……いつものマジックアローに比べて発射時のキレが悪い感じがするのだが。実は狙いも外していることが多い。
気のせいだろうか。
一帯のリザードマンたちを蹴散らし、俺たちの隊は再び前進を開始した。
そのとき、騎士たちのぼやきが聞こえた。
「……なんか前の奴らより強くないか?」
「俺も思った。前よりも進軍できてない気がする」
「何かさ、入れ墨の数が前の連中より多くないか?」
……それはどういう意味なのだろうか。
しばらく歩いていると隊長の大声が響いた。
「ここで昼休憩を取る! 食事はとれるうちにとっておけ! あと当番の兵士は周囲の警戒を怠らないように!」
どうやら休憩に入るらしい。
「あっちで休んできますよ」
俺はフィルブスにそう伝えると、あまり人がいなさそうな場所へと移動した。
ひとりになりたかったからだ。
アレンジアと再会した夜からずっと俺の心はざわついていた。あの瞬間の感情を俺はまだ消化しきれていない。
心が均衡を失っている。
誰かと笑顔で話をする気にはなれなかった。
なのに――
ざしり。
誰かの足音が聞こえた。
支給されたパンをかじっていた俺はついっと視線を動かす。
「あの、アルベルトさん……よければ一緒に食べませんか……?」
そこにはローラが立っていた。
「……」
俺は即座に返事ができなかった。
ひとりになりたい。
だが、ローラにその言葉をぶつけるのは気が引けた。
ローラがおずおずと話を続ける。
「……あの、その……迷惑だとは思うんです、その、アルベルトさん、ひとりになりたいのかなー……って感じだし……」
ローラはそこで声のトーンを上げた。
「でも! だからこそ! 話を聞きたいというか! 悩んでいるなら話して欲しいというか! その、友達として心配なんです!」
あまりにも必死な様子のローラだった。
そんな顔を見て俺は――
「はは、ははははは!」
笑ってしまった。
俺のことを真剣に考えてくれているローラの態度がおかしかった。
俺のことを。
俺ごときのことを。
何の価値もない俺のような人間を。
近寄るなと壁を張っても乗り越えてきてくれて、それでもあなたが心配なんだよと言ってくれる――
そんな人間が俺の近くにはいるのだ。
こんなに愉快で、幸せなことはない。
俺はひとりにはなれなかったけど。
俺はひとりじゃないんだ。
「ははははははははははは!」
「もう! 何がおかしいんですか、アルベルトさん!」
「ごめんごめん。ローラが深刻そうにするから、おかしくてね」
「だって! すごく心配してるんですから! アルベルトさん元気がなさそうで……!」
そうか、心配してくれていたのか。
心配を掛けていたのか……。
「ローラ」
「はい?」
「ありがとう、心配してくれて」
俺は俺の隣を手でさした。
「一緒に食べよう」
「はい!」
ローラは嬉しそうに顔をしわくちゃにしてうなずいた。
それから俺たちは他愛もない話をした。特に取り立てた内容はない。学院のこと、魔術のこと。いつもの食堂で話すことと同じだ。
それはローラの気遣いなのだろう。
俺が何に落ち込んでいるのか、ローラは気になっているはずだ。
だが、そこには踏み込まない。
踏み込まずに俺の気を紛らわせるためだけに他愛のない会話を振っている。
だからこそ、俺は思ったのだ。
ローラには話しておきたいと。
人に話せば――この胸の重しが少しは楽になるのかもしれない。
ちょうどいい頃合いだとも思った。
ローラは自分の出自を俺に話してくれたのに、俺は俺のことを秘密にしたまま。このアンフェアは正すべきだ。
「ローラ」
「はい?」
俺の改まった呼びかけにローラがきょとんとした顔で首をひねる。
「……聞いて欲しいんだ。俺の話を」
その言葉だけで聡(さと)いローラはすべてを察した。
「はい! もちろんです!」
しばしの静寂。
ローラは待つ。俺が口を開くのを。
俺は言葉が腹の底から浮き上がるのを待った。ローラに伝えるべき言葉を。ずっと俺が封印していた過去を。
やがてそれはゆっくりと俺の口からこぼれた。
まるで重い扉を押し開けるように。
「……ローラ……俺はね、一〇年前にも学院に在籍していて――落第を恐れて逃げ出した生徒なんだ」