Immortal Sage
Sexual roots
「━━━という結論になりましたので、当面はクランの強化を中心に準備を進めて行きますわよ」
始めるまでに時間はかかったが、ホリーがエリー様を含めて出した結論について説明をした。
先程までの模擬戦で、自身に足りないものを自覚したタケル達に異存は無く、マークとホリーがバチバチと視線を交わしている光景に呆れている。
「この二人はガチになりそうですよね……」
「訓練で終わってくれるの?」
コダマとカガミの呟きを聞いたシズカが眉を寄せる。
今回の模擬戦を決定付けたのは、その真剣度合いが普段の鍛練に差をつけた事を理解しているのだろう。
気の緩んだ……とまでは言わないが、本番と同じ心境になる程度の真剣さを持たずに鍛練を続けたところで得られるものは少ない。
その差に自分達で気付いていない事実が、マーク達に勝てない理由だと口にするかどうか迷っているみたいだ。
「次は、マークとホリーを中心にグループ分けして模擬戦をやってみるか?」
「連携を重視するなら、慣れた者同士で連携の確度を高めた方が良いんじゃないの?」
シズカの意図を汲んで、俺が模擬戦に緊迫感が生まれる様に提案したが、カガミが反論して来た。
そこで、シズカの我慢は限界に達した。
「いい加減にしなさい!」
カガミ達の顔に緊張感が走る。
「あなた達は実戦で状況に関わらず相方を選ぶ自由があるとでも思ってるの? その緊張感の無さがマークさん達との差を生んでいるのが本当に分かってないの!?」
「私達も真剣に鍛練を……」
「あれは嫌、これが良い、なんて我が儘言って甘えている真剣ってなんなの!?」
シズカが指摘した『緊張感の無さ』を否定しようとしたコダマの発言は最後まで聞く事も無く更に否定される。
実戦形式の模擬戦をいくら繰り返しても、気持ちが実戦に即して無ければ全く意味が無いとシズカが指摘しているのに、その言い訳は論外だろう。
「鍛練で大怪我をしてしまったら意味が無いからって、安全に手を抜いた鍛練をするなら、更に意味は無いな」
シズカに怒られて意気消沈している四人にマークがアドバイスをしていると、
「マークさんは、ウォルフ殿を援護するために鍛練しているのですか?」
と、シズカがマークの心根について質問した。
「何を馬鹿な事を……俺はウォルフとは別の存在だ。ウォルフは俺よりも強いだろうが、俺はウォルフが持っていないものを持っている。時と場合に依っては、ウォルフが俺の援護をする事もあるだろうよ!」
自らに課した鍛練は、スヴェイン門下でも有数のマークならではの答えだ。
俺やホリーも鍛練に妥協をしないが、その質と量でマークに勝っているとは思えない。
そして、シズカが求めた答えに限り無く近い答えだろう。
「あなた達は、私を超えようと鍛練をしているの?」
【刀神】のスキルを持つシズカの戦闘力はタケル達にとっては圧倒的な差と感じられるだろう。
そこで、諦めて妥協している事にシズカは苛立ちを覚えている。
「マークさんは、ウォルフ殿に対して羨望も甘えも無く、常に横に並ぼうとしているのよ。ホリーさんはウォルフ殿から魔法に関しては頼りにされて、剣に於いても信頼されている。あなた達にそんな気概は無いの!?」
シズカの剣幕に四人は俯くことしか出来ない。
この四人は年齢からは考えられないレベルの達人ではあるが、身分的な心情もあるとはいえ、最強の刀士である【刀神】シズカを補佐して援護するのが自分達の役割だと思っていたのだろう。
しかし、それは言葉を反せば『シズカの戦闘力に頼っている』とも言える事でもある。
その性根が、マーク達との差を生んだとシズカは四人に伝えたいのだ。
「あなた達の心は既に折れているの。それは、これからの生存率に決定的な差を見せる事になるわ……」
無意識とはいえ、人を頼りにしている人間は土壇場で粘り強さを発揮する事は無い。
シズカが言う様に、マーク達との差は土壇場で決定的な差として出てしまうだろう。
『そうなって欲しく無い』というシズカの気持ちは四人に伝わっていると思う。
「私はそこのド三流(マーク)とは才能が違いますから、一緒にされるのは心外ですわ」
照れ隠しだろうが、ホリーの発言が場の空気を凍らせる。
ホリーは、自身の研鑽に手を抜く事が出来ないって事を俺達は嫌ってほど知っているんだが……
「……ま、まあ、努力でも才能でも個人の性根の問題なんですよ」
良い話をしていたシズカだったが、最後が少し残念な感じになってしまったな……
本当に申し訳ない。
タケル達も呆れた顔は止めてくれ……
「剣や魔法の才能ほどに身体が育てば良かったな、このチンチクリン(ホリー)!」
「ブサイク(マーク)は才能が無いから苦労しますわね?」
ユリア……
今回は止めないから、思う存分にキレて良いぞ……