Immortal Sage

[てんかんじょうじょう]/(n) metamagic formation/

「じゃあ、クラウディア始めてみて」

定期連絡で訪れたエリー様の下で、ホリーと俺は新しい転移魔法陣の実験をする事になった。

ホリーが構築した魔法陣を付与した魔石を四つ用意して、部屋の四隅にそれぞれを配置する。

「では、行きますわ!」

ホリーが魔力を込めた魔石から魔法陣が浮かび上がり、魔法陣内に置いてあった装飾品の兜が光に包まれる。

光と共に姿を消した装飾品の兜が、部屋の対角線上に配置されていた魔石から浮かび上がった魔法陣の中央部分にその姿を現す。

「転移は成功ね……」

エリー様が転移させた装飾品の兜を手に取り、物質変化をしていないか、型に変化は無いか、温度は……

問題になりそうな事象が無いかを確かめる。

「叔母様、どうでしょうか?」

「……クラウディア、やはりあなたは私の誇りですよ!」

問題などあり得ないと云わんばかりにドヤ顔を極めたホリーにエリー様が満面の笑みを向ける。

「この魔法は人類史に残る……いいえ、この世界全体の歴史に残る物だけに、この偉業を公開出来ないのが残念でなりませんが、私はあなたの才能と努力を称賛せずにはいられません!」

興奮気味にホリーを称賛するエリー様だが、その言葉の通り、転移魔法については公開するつもりは無い。

一般でも転移が可能になるという事は、物流や人の移動時間に革命を与えるだけでは無く、犯罪や戦争の形態を一変させてしまう事が火を見るよりも明らかだからだ。

その危険性は俺達もエリー様も熟知している。

条件さえ整えれば厳重な警備を敷いた王城の中、それも国王陛下の寝室にさえも一瞬で転移する事が出来る。

それは、要人の暗殺や誘拐、スパイ行為や破壊工作の難度を全く無視する事が可能って事を意味している。

そして、どんなに厳重な情報統制を行おうとも、こういった革新技術の漏洩は避けられない事を、国家の中枢に関わる家に産まれ育った俺達は嫌ってほど知っている。

国内の人間にこの情報が漏洩するだけでも厄介極まり無いのに、国外の人間、更には犯罪者に漏洩してしまえば世界全体の危機にも成り得るほどの危険性をこの魔法は含んでいる。

そして、その危険性を俺達よりも熟知しているエリー様は、国内転移魔法の構築理論について、これ以上の詮索をする事は無いだろう。

知ってしまえば、何処で情報を漏洩させてしまうか分からない危険性を持つ事になるが、詳細を知らなければその危険性は僅かではあるが小さくなる。

此処まで、俺だけのユニーク魔法だった転移魔法の使い手が、俺とホリーの二人になったってだけだ。

本来、転移に関する魔法はグラディアス様や【調停者】である古代竜グラノスの様に、【神】とその眷属とされる者が使う術だ。

この世界の根幹に関わる者のみが【空間】、更に上の【次空】や【時空】に関わる権限を有すると言い換えても良いだろう……

俺は、グラディアス様や古代竜グラノスと直接関わり、この世界の脅威を排除する事を依頼されている。

そのための手段の一つとして、俺以外にも最低限の能力(ちから)を持たせる事は赦されるだろう。

……赦されるよな?

赦され無いなら、既にグラディアス様かグラノスが干渉している筈だし大丈夫だろう。

うん、そう思っておこう!

「なら、直接聞きに行けば良いんじゃない?」

エリー様にも、この魔法陣の詳細については教えないって事を確認した時に、理由を説明する過程でグラディアス様やグラノスについて話をすると、エリー様は『何を言ってるの?』という表情で呆れた声を出した。

「グラノスの所か……」

「あそこにも、魔法陣を付与した魔石を置いておく方が良いかもしれませんわ」

露骨に嫌そうな顔をした俺を諭す様に、ホリーがグラノスの所に行く事を促す。

『どうせ知ってるだろうから、放っておいても大丈夫だろ』と俺が言うのを見越して、行った方が良いと言ってるんだよな?

「手順を踏むって事は大事よ、ウォルフ君」

エリー様が仰る通り、こんな重要な魔法については手順を踏んでいる事が重要なのは俺にも分かる……

それは分かるんだけど……

「グラノスの事だから、偉そうに『許可してやる』なんて言い出しそうで嫌なんだよな」

「その『許可』が必要なのよ」

心底、呆れ切った表情でエリー様が俺に言う。

「人間に赦された領域を越えてしまってるんだから、ちゃんと『許可』を貰って来なさい」

あっ、エリー様の表情がマジになってる……

これは、反論したら怒られるパターンだ。

『いいから来い!!』

突然、俺達三人は強制的に転移させられた。

『貴様は幻想種である我よりも、そこにいるエリー様とやらの方が怖いとでも言うのか!?』

古代竜グラノスの領域に転移させられた俺達の前で、憤慨した様子のグラノスが吼えるが……

「何を当たり前な事を言ってるんだ……?」

俺は、思わず本音で答えてしまった……