Immortal Sage
Proper Battlepower Analysis
「まっ、待て、クラウディア!!!」
近衛師団が全滅する中、一人残された近衛師団長アルフレッド殿下は腰を抜かした状態で、酷薄な微笑を浮かべながら【魔力矢乱舞(マジックアローズ)】の矢を顕現させるホリーに懇願する様な声をあげる。
「私は『教育して差し上げますわ』と申し上げておりますわ。中途半端では、アル兄様が本当の危機感を知る機会を無くしてしまいますので、心苦しいですがお覚悟を」
自身の実力を疑われた事が余程腹に据えかねたのか、容赦無いホリーの攻撃に、陛下達はホリーを止める事すら出来ずに呆然と事態を見守っている。
ほんの少し前……
「クラウディア、精鋭揃いの近衛師団第一中隊が相手だ。本当に謝らなくて良いのか?」
自身が鍛え上げて来た近衛師団、その中でも最精鋭揃いの中隊を召集したアルフレッド殿下はドヤ顔でホリーを見下しながら余裕の発言をしていた。
たぶん、この時点でアルフレッド殿下のホリーの魔法に対する認識は、重装備で盾を構える近衛師団に通用する威力では無いといった物だったんだろう。
「実戦では、『始め』の合図などありませんのよ?」
ため息を吐きながら、呆れた声で答えるホリーが魔力の矢を数百本顕現させる。
王族を護る『最後の砦』、『最強の盾』といった役割を自認して訓練を積んで来た近衛師団だけあって、ホリーの魔法に対し即座に反応をみせた……
が、盾の上から叩き付けられる【魔力矢乱舞(マジックアローズ)】の衝撃は彼等に恐怖を刻み込んでいく。
身体強化で自身の身体能力のみならず、盾の強度を上げながら【魔力矢乱舞(マジックアローズ)】を防ぎ続ける近衛師団員達は、自身の魔力が尽きるのが先か、噂に聞く魔導師団長の魔力が尽きるのが先か、と考えていた。
「これは、あくまでも演習ですので純粋な魔力だけで矢を構成してますが、その程度の防壁で炎や雷撃を付与した矢を防ぎ切る事が出来るのですか?」
互角の攻防と思っていた近衛師団員の背中に冷たい汗が流れる。
魔力の矢を叩き付け続ける魔導師団長は、自身が手加減しながら演習として近衛師団員を鍛え上げてると公言しているのだから、この先を考えると絶望感が押し寄せるのも仕方の無い事であろう。
「前衛は全力で盾を強化、後衛は障壁を展開して前衛を援護しろ!」
中隊長の指示は適切な物ではあった……
この場合、相手が悪過ぎたとしか表現の仕様が無いだろう。
「心の準備はよろしいですね?」
ホリーが放つ魔力の矢に雷撃が付与され、全ての矢に注ぎ込まれる魔力量が劇的に上昇した。
「「「「「ギャアアアアッッッ!!!!!」」」」」
「「「「「グワアァァァッッッ!!!!!」」」」」
「「「「「ヒイイィィッ!!!!!」」」」」
王家の誇る近衛師団の精鋭とは思えない悲鳴と絶叫が響き渡り、数瞬でアルフレッド殿下を残して立っている者が皆無の状態になった。
陛下達の表情は引きつり、シズカ達はドン引きの表情で演習場を眺めている。
「ウォルフ君」
冷静に状況を見守っていたエリー様は、ホリーがアルフレッド殿下に危害を加える事が無いようにと、俺に対処を促した。
「うっ、うわああああああっっっっ!!!」
ホリーが放った魔力の矢がアルフレッド殿下を襲い、殿下の姿は土煙の中に消える。
「ぶっ、無事であったか……」
土煙が薄まり、アルフレッド殿下の姿を確認した陛下達は安緒のため息を吐く。
「ウォルフ様の配慮に感謝してくださいね?」
流石に、ホリーは俺が障壁を展開してアルフレッド殿下を護った事に気が付いている……
と、言うよりも、俺が障壁を展開する事を前提にした阿吽の呼吸だったという表現の方が正しいかな?
眼を見開いたまま、無言でコクコクと頷くアルフレッド殿下が、ホリーが語る戦力分析に口を挟む事は今後は無くなるだろうな……
再び、会議室に戻り話し合いが再開される。
「通常戦力の軍を相手にするなら、近衛師団があの様な無様を晒す事は無いでしょう。しかし、ウォルフ君達が相手にしているエルフの一派は、人外としか表現の仕様が無い戦闘力を保持しています」
エリー様の戦力分析に疑念を挟む人間は既にいない。
口を挟まないというよりも、その先の発言を待っているという状態だ。
「ウォルフ君は、ラスガカーン帝国軍に関しては、どの様な対処を考えているの?」
エリー様はいきなり結論を口にする事は無く、最大戦力になるであろう俺達に意見を求めて来る。
敵国の軍とはいえ、一般人でしかないラスガカーン帝国軍を相手にどの様な対処をするのか……
俺達の人間性を確めているんだろう。
「軍で一番厄介なのは『戦死者』じゃなく『負傷者』が大量に発生する状態でしょう」
具体的な作戦については言及せず、俺が考える対ラスガカーン帝国軍の方向性だけを答えた。
深い説明無しでも父上や兄さん達、エリー様は、俺の意図を理解してくれるだろう。