Isekai de Slow Life wo (Ganbou)

5-28 (Provisional) Wang Du Yi Martial Arts Games Individual Battle - Action Begins -

闘技場内をエミリーと共に駈けているとエミリーの周囲に黄緑色の光る何かが見えて独り言を呟いていた。

「ええ、そう。一度戻るから。……ちょっとね。まあ用事自体はすぐに終わると思うわ。ええ、よろしくね」

エミリーが会話を終えると黄緑色の光が薄くなり消えていった。

「なあ、今のって」

「精霊魔法よ。『小風のささやき(リトルウィスパー)』と言って、風の精霊の力を借りて遠くの人にまで声を届けるの」

「なるほど。ギルドカードの機能を使わなくても話せるのは便利だな」

「ええ、重宝しているわ」

「ってことはさっきの黄緑色の光が、風の精霊ってことか」

「そうだけど……ちょっと待って、貴方見えるの?」

「え、ああ。独り言が終わったら薄くなって消えていったろ?」

「そうだけど……いえ、そうか……。そうよね……」

エミリーは勝手に納得し、考え始めてしまった。

え、何?

見えたらまずいの?

というか、普通は見えるものじゃないとかなのか?

実は才能があったり……?

と言っても、精霊魔法の使い方なんて知らないんだけどさ。

「精霊って、あんな感じなんだな。なんていうか綺麗な光だよな」

色はついているが、優しくて美しい色をしていた。

人型などではないので、実体はないのかもしれないな。

「貴方には話したわよね。最近……というかこの世界から精霊の数が少なくなっているって」

「ああ、確か『槌精の使徒(ドワフル)』戦の時に言っていたな」

精霊が減っているせいで、『槌精の使徒』のスキルの加護が足りてないとかなんとか言っていた気がする。

「精霊魔術師になるには大前提として精霊が見えないとなれないの」

「そうなのか? じゃあ俺もなれたりして」

「それは難しいわね……」

「ええー……どうして?」

「本来精霊は、どこにでもいるような存在だったの。見える人からしたら、下級精霊なんかは否応にも視界に入るほどね」

「え、俺『槌精の使徒』と、エミリーの周りでしか精霊を見たことが無いぞ」

「そう。今は街中に精霊の気配がないのよ。私や『槌精の使徒』は精霊と契約しているから精霊が近くに存在しているわけね。……でも今は、見える精霊が圧倒的に少なくなっているのよ。もともと波長の合う精霊に出会わなければ精霊と契約は出来ない。上級精霊なんて……今じゃ何処にいるのかもわからないわ……」

そういってエミリーが手の平を上に向けると、赤、黄緑、土色、青、白の五色の光がエミリーの手の周りをくるくると戯れるように回っていた。

そうか……。『風のささやき』とか便利そうだし羨ましかったんだけどな……。

「ちょっと待った。契約しているんなら本来の力を発揮できたんじゃないのか?」

「契約精霊だけで使える魔法もあるけど、精霊魔法は周囲の精霊の力も借りて効果が上がるのよ」

「じゃあさっきのはどうして普通に使えたんだ?」

「程度の差ね。『小風のささやき』くらいなら契約精霊だけでも使えるのよ」

なるほどなあ。

本来強い精霊魔法なんかだと、周囲にいる同じ属性の精霊の力も借りて使えていたといった感じだろう。

そして、減っている今大きな魔法は使えない、効果が薄いといった現状なのか。

「……精霊はエルフにとっては大事な友人なの。だから、私は調査の為にも隼人と旅をしているって訳」

「んーなら今回みたいに長期滞在するときはじれったくならないか?」

「切迫しているわけでもないのよ。というか、国でも同じように研究が進められているってわかったし、独自に調べるのにも限界があるのよ。結果は教えてもらってるけど、待つだけの日々も当然あるから。それに部屋で情報をまとめる時間も必要だしね」

「それで、初めは研究のためだけのつもりだったけど隼人と一緒に行動していくうちに気になり始めて、いつの間にか好意を抱き、今に至ると」

「……そうよ」

「はは、いいねえ。青春だねえ」

「精霊減少の原因に魔王が関係ありそうだし、利害が一致してたのよ!」

「照れるなよ。いいじゃねえか」

自然な流れといえば流れだろうな。

それに隼人はいい男だ。

一緒にいたら好きになる事間違い無しだろう。

「まあどっちもがんばれよ。恋も研究も」

「……当然でしょ」

綺麗なエルフの娘っ子が照れるのは可愛いねえ。

俺が言うのもなんだが、誰かの言葉を代弁して言おう。

隼人、爆発しろ!

闘技場を出ると周囲を伺い、人通りの少ない薄暗い路地に入った。

大人しくエミリーは着いてきているな、よしよし。

「……ちょっと、館に戻るんじゃないの?」

「ああ、まあな」

「じゃあ何でこんな路地裏に……」

「そりゃ、人目についたら困るからな……」

これから行なう事を誰かに見られても困るしな。

「……変なことしたら、大声上げるからね」

「あー……多分上げると思うわ」

「え、きゃあああああああ!!」

エミリーの肩を掴み、後方へと体重をかけさせる。

そして傍から見れば空気椅子のような体勢になってもらう。

「な、なに? 体が浮いて……」

「空間魔法な。ちょっと待ってな落ちないように固定するから」

形状的に腰かけと背もたれになるように『不可視の牢獄(インビジブルジェイル)』を発動するが、このままでは万が一に落ちてしまうので落ちないように周囲を固めていく。

さながら見えない個室を作りあげた。

「下は見ないようにな。多分くらっとくるぞ」

「下……ひっ!」

下から見られないように一気に上がったからな。

まあ悪いけど、時間はあまりないので付き合ってもらおうか。

「ね、ねえ。もしかしてだけどこのまま館に向かうつもりかしら?」

「エミリーは本当に勘が鋭いな」

にこりと微笑む。

だって、しょうがないんだ。

急いでるからさ。

「大丈夫死にはしないから!」

「そういう問題じゃ、キャアアアアアアアアア!!!!」

基本的に『不可視の牢獄』の移動には『空間座標指定(エリアポインティング)』を併用する。

今回のように真っ直ぐ上昇するだけなどなら簡単なのだが、目的地に進むとなると曲がり角なんかも含めて面倒な上に人通りもあるし厄介だ。

渋滞中、空中を進めたら……と何度思ったことか。

直角三角形でいう斜めのように一度高く上がってから斜めに進んでしまえば簡単だね! という結論の元、人通りの少ない路地を選びひとっ飛びさせていただいた。

「お、到着だぞ」

「早すぎるでしょ!」

「時間はあるに越した事は無いからな」

正直、いくら合っても足りないかもしれないしな。

さて、次の準備を進めねば。

「はぁ……変な浮遊感が気持ち悪い……」

「まあジェットコースターみたいなもんだしな」

「はぁ、はぁ……なによそれ……」

「あー……」

異世界あるある。

たまに元の世界の常識で話してしまうことがある。

なまじ言葉が伝わるからこそ起きる弊害だな。

「……お早いおつきですな」

「フリード……お水一杯ちょうだい……」

「エミリー様? いかがなされましたか?」

「あっはっは……。ごめん」

顔色悪いなー……。

うん、ごめんまじで。

本当にゴメン。

「はぁ……フリード、お水用意しておいて……。私は霊薬を取りに行って来るから……」

「あ、俺が出しとくよ。それと、やっぱりわかってるよな……」

「あの場で私だけを呼んだんだから分かるわよ……」

「今更だけど、いいのか?」

「いいわよ。次の時に返してくれればね。でも、しばらく調べるものが無くなっちゃったわね……」

「ああ、ならあのすんごい奴をもう一つやるよ」

アレも相当貴重な物らしいしな。

水に薄めてアレでアレな薬なので、是非調べて欲しい。

「……そのすんごいって言ってた薬、安全なの?」

「……使った事はあるから多分大丈夫なやつ」

一応ヤーシスがお祝いにくれたものだし、奴に悪意がなければ安全なはずだ。

安全な……はずだよな?

「名前……聞いてもいい?」

「見た方が早いだろう」

魔法空間から既に薄めてある例のお薬を二本取り出す。

『-アルティメットナイト-  詳細不明 究極の夜を貴方に……(薄味)』

相変わらず詳細不明なのな。

薄めてるのに薄味にしかならないし……。

うん、怖いので安全なのか調べてくださいお願いします!

「ア……アルティメットナイトじゃない……。うわあ……現物初めて見た……。本当に存在したのね……」

「そこまで珍しいのか?」

「当たり前じゃない! 絶倫皇の遺産、死者すらたち上がる妙薬、世界に数本しかないのよ! 貴重度で言えば霊薬より遥かに上よ……」

まじかっ!

そういえばヤーシスも殺してでも奪い取りたい奴がいるとかいないとか言ってたな……。

……売ったらいくらになるのだろう。

「ちなみにこれでも薄めてあるからな」

「あ、薄味ってそういうことなのね」

エミリーも鑑定使えるんだな。

そういえば料理もだが鑑定スキルも上がってないんだよな……。

「エミリーって鑑定のレベルいくつ?」

「3よ。4からは特別なアイテムが必要なの。でもまあ貴重だし、3でも困らないからね」

「あ、そうなんだ」

じゃあこっちは問題なしか。

料理スキル……。

「それよりこれ……本当に貰っていいの?」

「ああ、元々約束だったし、無理を聞いてもらうんだ。二本とも持っていってくれ」

それに原液はまだあるしな……。

用法容量を守って使いましょうね。

「そう。ならいただくわね。隼人にお願いしたら……実体験もできるかしら」

隼人……ガンバレ!!

次の日の倦怠感はとんでもないけど、もぬけの殻の賢者タイムが半日くらい続くけど……ガンバレッ!!

「あ、そうそう霊薬だったわね。ちょっと待ってて」

「了解。そうだフリード。聞きたいことと頼みたい事があるんだけど」

「私にですか?」

「……あんた、なりふり構わないわね」

「まあ、シロのためだし、元々そういう性格だからな」

エミリーはそれを聞くと微笑んだ後、軽く嘆息すると自室へと向かっていくのだった。

「それで、私に聞きたいこととは?」

「あー……なんていうか、フリードって戦闘する人?」

「この館を任されておりますので、それなりではありますが……」

「じゃあスキルをさ、持ってるか聞きたいんだよね」

「ほう……何のスキルですか?」

体格的にそれっぽいしな。

もしかしたら……ではあるのだが。

それに無いならないで俺がもう少し頑張ればいいだけだ。

「あのさ、『重騎士の咆哮(ヘビィハウリング)』使える?」

「重戦士のスキルですか……。ええ、使えますよ」

「おお、それじゃ頼みたい事があるんだけど……」

こんな事、普通頼めないよな。

しかも、友達の執事になんて……。

でも、遠慮なく行こう。

「俺のためにその体を貸してくれ」

「え……わ、危な!」

後ろを振り向くとエミリーがいて、持っていた霊薬を落しそうになっていた。

聞かれた!? というか、本当に危ないよ!

霊薬落しかけてるじゃん!

「あ、あなた……ソッチもいけるの? は、隼人は渡さないわよ!」

「そういうことなのですか!? お客様……例えお客様でも流石にそれは……。『重騎士の咆哮』で獣のようにと言う事なのでしょうか……?」

「ちょっとまってー! この空気はいけない。この空気だけはいけない!」

うん、今のは俺が悪い。

悪いんだけど、ちょっとまって!

ソッチってアッチだよな?

違う違う違う。俺は男の硬い筋肉よりもやわらかいパイが好きだ!!

「はい速攻、勘違いを正します。まじで時間が無いので……」

「あ、そう。勘違い……勘違いよね。貴方が、うん、男好きなわけないものね」

「はいそうです。私、女の子が大好きです」

「そうでしたか……性に多感な方とお聞きしていましたので……」

「誰が言ったんだ……でもそうだね。だけど多感でもノーマルだからね。変態でもノーマルだからね」

「安心しました……」

安心してください!

「それでは私の身体を貸して欲しいとは……?」

「あー……あのさ……エミリーも出来ればなんだが……」

「なに? 私も?」

先ほど思いついたから上手くいくかは別として、エミリーもいれば効率は更に上がるはず。

当然エロイ意味で身体を貸して欲しいわけではない。

俺一人だと……正直間に合う気がしないのだ。

とりあえず、頼むだけ頼んで駄目なら別の手を考えるしかないな。

よし、

「ちょっと今から一狩りいかないか?」

「はい?」「はあ?」

まあなんだ。

ちょっとこれから行う行動に、必要不可欠なスキルがあるのだ。

どうせやるなら完全に、後顧の憂いなく今まで通りでなくちゃな。

それに多分……覚えるならば、次あたりだと思うんだよね。