Isekai Nonbiri Nouka
Summer pool
今年の夏を一言で表現するなら、“プール”が相応しいだろう。
きっかけはため池で泳ぐウルザ、ナートに獣人族の男の子たち。
ザブトンが作った水着をしっかり着用しているが、ため池は逆ピラミッド型。
中央付近は深いので危ない。
それに、ため池の水は飲まないが、色々な事に使うのでそこで泳ぐのはちょっと止めてほしい。
なので、ちゃんとしたプールを村の西側に作った。
水源はため池から川に戻す水。
スライムで浄化しているから綺麗だ。
プールの深さは一メートル、長さは十五メートルぐらいで幅は三メートル。
竹を三十センチぐらいに切り分け、ザブトンが作ってくれたロープを通し、レーンを分ける。
これで競争もできるぞ。
「狭い」
……拡張。
深さは問題ないようなので、長さを二十五メートルで四レーン。
これでウルザたちも満足。
ここまでにするのに二日掛かった。
昔の水路作りやため池作りの事を考えると、自身の成長を感じる。
プールが大きくなると、ウルザたちだけでなく他の者もやってきた。
だが、今のプールはウルザたちより小さいアルフレートやティゼルなどの小さい子には深すぎるし、大人たちには浅すぎる。
いや、実際にはウルザやナートにも少し深いのだが、彼女たちは気にせずに遊んでいる。
溺れるなよー。
ともかく、新しくプールを作る。
まずは小さい子用の丸いプールを作成。
深さは三十センチ、幅は直径で三メートルぐらい。
これはすぐに完成。
一人では絶対に入らないように。
監視役を大人たちに持ちまわりで頼んだ。
アルフレート、ティゼルのことを頼んだぞ。
次に深いプール。
深さは両端が二メートルで、真ん中付近が三メートル。
長さは五十メートルで、五レーン。
五日ぐらいで作った。
リザードマンたちが気持ちよく泳いでいる。
あ、なるほど尻尾を使って泳ぐんだな。
知ってたけど、改めて感心する。
……
何か足りないなぁと思って気付いた。
スタート台を設置。
プールにはこれがないとな。
ああ、スタートする時に乗るんだ。
勝負して勝った人が乗る場所じゃないぞ。
わかった。
表彰台も作ろう。
だからそこはスタートをする時に乗るように。
飛び込み台も考えたが、もっと深いプールにしないと危ないかな。
……
これは無しで。
かなりの人数が集まりだした。
ザブトンたちが作り出した水着に着替えては、プールに飛び込んでいる。
いつの間にか、ハイエルフたちが更衣室を作り上げているな。
クロの子供たちも泳ぎだしている。
器用なものだ。
馬、お前もか。
……ん?
あれ?
脱走?
脱走じゃない?
ちゃんと乗り手が……ああ、ハイエルフが乗ってるな。
ちゃんと水を浴びさせてから入るように。
「村長、プールをもう少し広げてもらえませんか?」
プールが混み過ぎてきた。
圧倒的に泳げる場所が足りない。
だが、問題はプールの広さではない。
ちゃんと泳ぐ者と、まったり涼む者が混在することだな。
仕方が無い。
手伝える者は手伝うように。
俺はさらにプールを作った。
十日後。
これまで作ったプールを取り囲むように作られたコース状のプールが完成した。
深さは二メートル、幅も五メートルぐらい。
コース全長は……グネグネ曲がっているからよくわからない。
ただ、五十メートルプールと二十五メートルプールを囲んでいるのでそれなりに長いと思う。
水を流し込み……
あ、魔法で水を出すのね。
お願いします。
水が溜まれば、プールに来ている大人たちにコースに入ってもらい、一定方向に歩いてもらう。
流れを作るのだ。
そして程よく流れができたところで、浮き輪……があれば良いのだが無いので桶や樽を代用品として投入する。
プールに来ている村人たちは俺の行為の意味がわからなかったようだが、ウルザが反応した。
流れるプールの上に浮かぶ桶に乗り、コースを遊覧。
それを見て、次々と……さすがにそれだけが乗ったら沈むぞ。
まったり楽しんでくれ。
これでちゃんと泳ぐ者と、涼む者で住み分けができたかな。
……
流れるプール、大人気。
いや、それは嬉しいけど。
ザブトンの子供たち、俺に気を使わなくて良いんだぞ。
お前たちも流れる……あ、行くのね。
……
五十メートルのプールで、俺はのんびりと……
寂しい。
俺も流れるプールに行く。
プールの周囲には、脱衣所以外にトイレが各所にできており、さらには屋台がいくつか出てそれなりに賑わっている。
屋台をやっているのは鬼人族メイドや文官娘衆たち。
水着にエプロンという格好で、調理していた。
涼しそうだけど、火を扱う時は注意するように。
屋台で作られているのは、カレー、ラーメンっぽいもの、ヤキソバっぽいもの、カキ氷、ジュース。
酒もあるけど、飲んで泳ぐのは危ないから飲んだ者はプールに入っちゃ駄目と決めた。
なのでドワーフたちは全力でプールを楽しんだ後、屋台近くのテーブルで酒と食事を楽しんでいる。
まあ、予想通りだ。
食事の人気の一番はカレー。
美味いのはわかるが、顔についてるぞ。
顔を洗ってからプールに入るように。
ラーメンっぽいもの、ヤキソバっぽいものは、俺の記憶を頼りに再現しようとしたがしきれなかった料理。
スープパスタ、焼きパスタと言った方が近いかもしれないが、不味いワケじゃない。
祭りや武闘会の時の定番料理になるぐらいには広まっている。
ただ、俺の中であれをラーメン、ヤキソバと言い切るのに抵抗があるだけだ。
「村長、醤油ラーメン肉増し、お待たせしました」
村人たちの中ではラーメン、ヤキソバで定着してしまっているが……
気にはしない。
うん、美味い。
プールサイド、水に濡れない位置で涼んでいるのがハクレン、酒スライム、猫。
ちょっと変わった組み合わせだ。
ハクレンは妊婦だからな。
身体を冷やしすぎないように。
酒スライムは……好きなだけ飲め。
猫はその酒スライムの隣で伸びてる。
今度、ガットと相談して鉄の毛ブラシでも作ってやろう。
プールでは、ティアやグランマリアたち天使族が少し変わった楽しみ方をしていた。
まず、プール上空でパタパタとホバリング。
でもって斜めに水面に突入、潜水、浮上してまた水面に。
……
水鳥みたいだなぁ。
潜水時間が時々、長いのが不安にさせてくれる。
プールの底にぶつからないように注意してほしい。
え?
目標になる物が欲しい?
じゃあ、布製ボールをどうぞ。
ルーは浅いプールでアルフレートやティゼルの面倒を見ながらまったり。
お母さんしてるなぁ。
俺もお父さんしたいのだが?
あ、はい。
ジュースを貰ってきます。
しばらくすると、各自は仕事の合間にプールで遊び、風呂に入った後は家でまったりと食事をするのが定番になった。
冷やした麦酒が大人気。
ドワーフたちから、来年の大麦の作付けを増やすように要求された。
こんな感じの夏だった。
そろそろ秋なので、プールを閉鎖するのが少し寂しい。
文官娘衆たちと相談し、プール閉鎖イベントを行うことにした。
イベントと言っても、村全体でやる普通のバーベキューだ。
こういったイベントは気持ちを切り替えるのを助ける効果があるらしい。
「涼しくしてくれたプールに感謝して」
また来年。
バーベキューは美味かった。
まあ、閉鎖と言ってもため池から川へ戻る水を利用しているのでプールには水は入り続け、流れ出続けるからため池二号として活用はされる。
リザードマンたちがため池二号の管理を名目に、楽しんでいたりする。
見ないふり。
「ウルザは駄目だぞ」
「ぶー!」