Isekai Reicarnation?... No I wasn't!
7 Stories "Oh, I gotta get some cat food"
「『散炎弾』!」
気炎がカラスへ向けて手を掲げると、腕に刻まれた模様が脈打ち、炎の散弾が放たれる。
あらかじめ術式を腕に刻みこむ事によって、札を媒介とせず、詠唱すらも短縮して術が行使できるのだ。ただし、高度な霊力操作が必要なため、この技を使用できる術師はそう多くない。
「くそがっ!」
高速で飛来する炎の散弾は、1つ1つがグレネード弾に匹敵するほどの威力を持つ。しかし、カラスは擦りもせずにその全てを躱した。
「爆鬼(ばっき)!」
「グルァ!」
だが、躱す先を予測していた爆鬼(ばっき)に回り込まれ、カラスは至近距離で爆炎を浴びせられる。
戦闘を見守っていた術師達は戦いの終結を感じ取るが、対峙している気炎の目には別の光景が映っていた。
「やるじゃねぇか」
爆炎を潜り抜け、無傷のカラスは飛翔する。至近距離の爆炎すらも、霊力を叩きつける事で弾いたのだ。
「でもなぁ、それは効率悪過ぎだろ」
気炎はふたたび散炎弾を放つ。より広範囲に、より速度を上げて。
カラスは避けきれず、霊力をぶつける事で着弾を防ぐ。そして、待ち構えていた爆鬼(ばっき)がふたたび広範囲の爆炎を放つ。
「このままでは、ジリ貧ですね」
「いや、気炎様はそれを狙っておる」
まだ式神術の使えない術師へ、ベテラン術師は説明する。
霊力糸による接続があれば、術師からの霊力供給で長時間の行動が可能だ。しかし、接続のない式神は内包している霊力を使い切ると、術が解けてしまうのである。
偵察用の式神は比較的燃費が良い。だが、あれほどの爆炎を防ぐために 霊力を使い続ければ、長くは持たない。
「気炎様も、それを理解してああいった攻め方をしておられるのだ。慎重に戦えば、あれほど霊力を消費せずとも十分に倒せる。じゃが、あのカラスが他に奥の手を持っておるとも限らん。じゃからこそ、短時間で奴の霊力をそぎ落とすつもりなのじゃろうな」
ベテラン術師は気炎の判断力に感服する。
あのカラスが、何らかの策を弄するための時間稼ぎとして送られてきた可能性もある。それを考慮すれば、気炎の選択した短期決戦は最善とも言えるためだ。
「がっはっは!クソカラス、お前マジで最高だぜ!」
しかし、ただ暴れたいがためにその選択をしたということは、本人以外誰も知らないーーー
ーーー結界内で吹き荒れる爆炎と爆音。その全てを、カラスは躱し、防ぎ、打ち消した。
終わってみれば、術師達の予想を大きく裏切り、2時間にも及ぶ長期戦となっていた。
「バカな……」
「気炎、様……」
目撃者全ての心に刻まれた歴史的一戦。それを制したのはーーー
◇
「ーーーカラス、やっと帰ってきたか」
家の縁側で待っていると、白いカラスが帰ってきた。寒かった。
急に接続が切れたから、何かあったのかと思った。他のカラスとかに虐められてるのかとも思ったが、怪我はしてないらしい。余計な心配だったな。
「このカラス、どうやれば消えるんだ?」
「ふむ、そのやり方は儂も知らんな。だが、放っておけば内包している霊力が切れて元の紙に戻るはずだ」
「なるほど。それじゃあ、居間で適当に休んでてくれ」
カラスはこくりと頷き、パタパタと居間まで歩いていった。
「さてと、すっかり日も暮れたし。晩飯にして俺たちも休むか。あ、キャットフード買ってこなきゃ」
「まてまて、儂はそんなものいらんぞ。普通にお主が食べる物で構わん」
「何言ってんだよ。人と同じもの食べてると体に悪いんだぞ、特にネギ類」
「いや、儂は全然平気……」
「ちょっと買ってくるわ、留守番よろしく」
「いや、儂は……」
今日も平穏な日常が過ぎていった。
◇
「すごい……本当にすごい」
水上潤叶(みずかみ・うるか)は、今見た光景を思い返しながら、興奮をあらわにしていた。
「まさか、火野山くんのところの気炎さんと爆鬼を倒すなんて。あの白いカラスは一体……」
寺院で行われた、白いカラスと気炎の一戦。偶然にも、式神の目を通してその一戦を目撃していたのである。
寺院に張られた結界は、外部へ音と映像を漏らさない作りとなっていた。しかし、水上クラスの術師ともなれば、その中を覗き見ることなど容易なのだ。
「あのカラスが帰っていった方向……もしかして、結城くん!?」
白いカラスの一戦を目撃する前、式神を通して目があった青年を思い出す。
「あの時は偶然目があったのかと思ったけど。もしかして、本当に見えていた?」
そういえば、始業式に出られなかったのは凶悪犯を捕まえたためだと聞いた。だとすれば、少なくとも普通の一般人、というわけではないはず。
水上はそう考え、決断する。
「もしも本当に気炎さんを倒せるほどの陰陽術師だとしたら、猫神様を見つけ出す術も知っているかもしれない。うん、明日結城くんに聞いてみよう」
結城幸助(ゆうき・こうすけ)の平穏な日常は、徐々に崩れつつあった。